【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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50.神の奇跡は箱舟に

 具現武装の力に目覚めた先生。

 エーテル地球で観測された事例からすると、武器を具現化するケースが多めだ。だけど、ここで生徒を守るための盾を呼び出すとか、なんとも先生らしいことだね。

 

「さて、先生が新しい力を見せたんだから、私も新しい力を見せないとね」

 

 シロコ*テラーは、今も必死になって盾を破壊しようと、銃撃を続けている。だが、盾はビクともしない。

 だから、私は守りを先生に任せて、攻勢に出ることにした。

 

 ……エデン条約の調印式が終わったころ。オラクル船団と通信が確立して以降の話だ。

 私はアークスのシエラから、現在アークスが導入を検討しているという新技術を特別に受け渡されていた。

 

 それは戦いを続けることによって、体内に少しずつ蓄積したフォトンの力を一気に解き放つ、最大最強の技。

 解式フォトンアーツと呼ばれる新しい必殺技。レンジャーである私が使うそれには、まず大砲が必要だ。

 

 だから私は、武器パレットから大砲を選び、大剣と入れ替える。

 そして、先生の盾に守られながら、私は悠々と『ユニオンランチャー』を構え――そのまま宙に跳び上がった。

 空中から、私は持てる限りのフォトンを込めて、技を繰り出す。

 

「《プロミネンスアサイル 》――!」

 

 大砲から、フォトンの砲弾が連続して撃ち出される。その数、十四発。

 その青白い砲弾はホーミングして全てシロコ*テラーへと命中する。そして、最後に最大のフォトンを込めて、十五発目の砲弾を撃ち出した。そのフォトンの砲弾は、真っ直ぐにシロコ*テラーへと突き進み、命中と共に大爆発を起こす。

 

 あまりもの衝撃に、その場から吹き飛ぶシロコ*テラー。大人のカードの力で無敵を誇っていたシロコ*テラーだが、解式フォトンアーツの火力には抗いきれなかったのか、今度こそ彼女は完全に倒れた。

 

 そして、とうとう相手は『プレナパテス』とアロナだけとなる。

 その『プレナパテス』は、倒れたシロコ*テラーをかばうように、前へと歩み出てくる。

 

「そっか。そんな風になっても、最後は生徒を助けるんだね」

 

 シロコ*テラーの前で壁となって立つ『プレナパテス』に、私は大砲の砲口を向けた。

 

 そこから、私は安藤先生の盾に守られながら、『プレナパテス』との戦いを始めた。

 

 端から徐々に朽ちていく大人のカードを使い、最後の抵抗を試みる『プレナパテス』。

 だが、もうほとんど結末は見えていた。先生の盾に守られた私は、このままプレナパテスの守りを撃ち破るだろう

 蝋燭が燃え尽きる前の、最後の灯火だ。見ていられないほどの痛ましさがそこにあった。

 

「先……生……」

 

『プレナパテス』の後ろから、そんなシロコ*テラーのかすれた声が聞こえる。

 その最中にも、私は大砲で『プレナパテス』を撃ち続ける。

 すると、不意に『プレナパテス』の頭上に、黒い穴が空いた。

 

「あれは……」

 

「"『色彩』……?"」

 

 ああ、そうか。あれが異次元からの侵略者。『色彩』か。

 黒い穴から、色づいた波動がこちらに向けて放たれるが……空間に満ちたエーテルがその伝播を防ぐ。

 

『色彩』は、『プレナパテス』の不利を悟ったのだろうか。代わりの依代を得ようと、何度も何度も安藤先生に向けて波動を放ち続けた。

 だが、それらは全てエーテルと、先生の具現化した盾に防がれ続ける。

 すると、今度は『色彩』が、私の砲撃を受け続ける『プレナパテス』に波動を放った。

 

『プレナパテス』は、死体だ。それを動かしているのは、『色彩』の力なのだろう。

『色彩』の力で、『プレナパテス』は……別時間軸の安藤先生は、大人のカードを掲げ続けている。

 

 正直、見ていられないほど痛ましい光景だ。

 

 すでに死んだ者を助けるには……アークスの力は、フォトンの力は役に立たない。

 セイア生徒会長は地上で言っていた。破滅の未来からキヴォトスを守るのは私だと。

 でも、私は……『色彩』を倒して世界を救えたとしても、あの先生に救いの手を差し伸べることはできない。

 

「"大丈夫だよ、リク"」

 

 そんな声が、私の背後から聞こえた。

 反射的に私が振り返ると、先生は大人のカードをしまい、『シッテムの箱』を取りだしていた。

 その『シッテムの箱』には、『エーテルフォトニクス社』製の特製タブレットカバーが取り付けられていた。エーテル通信機能がないタブレットにその機能を後付けするカバーだ。

 

「"……我々は望む、七つの嘆きを"」

 

 その宣言と共に、空間に満ちていたエーテルがタブレットに集まり始める。

 

「"……我々は覚えている、ジェリコの古則を"」

 

 集まったエーテルは、タブレットを中心に青い影を形作っていく。

 エーテルを使って、今度は何をしようというんだ、先生は……?

 

「"ゲマトリアから……黒服から聞いていたんだ。キヴォトスの外では、エーテルを使って神様を呼び出したって"」

 

 ……ああ、もしや。先生がキヴォトス中から集まったエーテルを使って、やろうとしていることは。

 

「"人事を尽くして天命を待つって言うよね。リクが人事を尽くしてくれたから……天命に頼ることができる"」

 

 エーテルが形作る青い影。それは、以前アーデムが生贄になって呼び出した幻創造神『デウス・ヒューナス』に似た形をしていて……。

 人型を取ったその青い影は、『プレナパテス』の頭上にある黒い穴に向けて、ゆっくりと手をかざした。

 

『――『色彩』よ、去るがよい』

 

 影が発したその声と共に、黒い穴は消え去った。

 それと同時に私は、知らぬうちに感じていたプレッシャーから一気に解放されたような、そんな感覚を覚えた。

 

 エーテルが形作った神の力に、『色彩』が消されたのか。おそらく、かつて守護輝士(ガーディアン)とアークスシップをエーテル地球からオラクル船団の宇宙に追放したときと同じような、退去の力を使ったのだ。

 そして、『色彩』がこの空間から失われると共に、『プレナパテス』が手にしていた朽ちた大人のカードがぼんやりと輝き……粉々になって散った。

 

 大人のカードを失った『プレナパテス』は、その場に膝を突いた。もはや、彼に抵抗する力は残されていない。

 それを受けて、私は大砲の構えを解いた。『色彩』は完全にいなくなった。だからここにいる『プレナパテス』は、もう『色彩の嚮導者(きょうどうしゃ)』ではない。

 その『プレナパテス』へ、先生の『シッテムの箱』から離れた青い影がゆっくりと近づいていく。そして、『プレナパテス』のもとへと辿り付いた青い影は、おごそかな声で彼に語りかける。

 

『そなたは十分に責務を果たした。祝福の地で安らかに眠るがよい』

 

 青い影がそう言うと、青い影を構成していたエーテルが、『プレナパテス』に吸い込まれていく。

 エーテルは次元を超える粒子。エーテルが作り出した神は、『プレナパテス』……別の時間軸の先生を天国へ連れていってくれようとしているのだろうか。

 

 ああ……アークスの力は、フォトンの力は彼を助けることはできなかったが……最後に残ったエーテルの力は、彼の助けになってくれたんだ。

 そして、『プレナパテス』の姿は、徐々に薄くなっていく。この場を去ろうとしているのだ。

 だが、その彼は最後に、こちらへ……安藤先生へ向けて、銃弾で穿たれた『シッテムの箱』を掲げてきた。

 その行為になんの意味があるのか。しかし、どうやら先生はそれを理解したようで、先生も自身の『シッテムの箱』を掲げて応えた。

 

「"受け取ったよ。あなたの生徒達のことは、私に任せて"」

 

 先生のその言葉に、私は黒いセーラー服の白髪少女のことを思い出す。白髪のアロナは、いつの間にか姿を消していて……。そうか、あのアロナは、先生の『シッテムの箱』の中へ収まったのか。

 そして、『プレナパテス』の姿が完全に消えようとしているそのとき。『プレナパテス』と一体化して姿を消していた青い影の言葉が、今度は私に向けて放たれた。

 

『よくぞ彼の者を助けた、異世界の神秘(フォトン)を持つ者よ』

 

「あ、はい」

 

 突然話しかけられて、こんな言葉しか応答できなかった私。

 

『そなたの使命は終わった。あるべき世界への帰還を望むか?』

 

 この神様、私をキヴォトスへ連れてきたときと同じように、今度はキヴォトスから帰してくれようとしているのか。

 ここに来てやってきた帰還のチャンス。しかし、私はその機会を手放すことを選んだ。

 

「まだエンジニア部のみんなとの開発がいろいろ半ばだし……保留でいいですか?」

 

『では、箱舟の世界でもうしばらく羽を休めるがいい、遠き地球からの旅人よ』

 

 地球からの旅人、か。

 もしかしたら神様には、私が別の地球からの転生者だって、バレているのかな。

 思わず吹き出してしまいそうになりながら、私は『プレナパテス』が完全に消え去るのを見守るのであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

『『ウトナピシュティムの本船』を襲っていた敵兵器、沈黙しました! やりましたね、先生』

 

 そんなリン船長の声が、通信越しに聞こえる。

 どうやら、『アトラ・ハシースの箱舟』を操作する者が誰もいなくなって、敵兵器への指令も止まったようだ。

 

「さて、それじゃあ凱旋しますかね」

 

 私がそう言うと、タブレットと大人のカードをしまって具現武装を解いた先生が、困ったように周囲を見回す。

 そこには、未だ気絶し続ける戦闘部隊のみんなの姿があった。

 

「あはは。大丈夫。なけなしの回復薬が、一つだけ残っているから」

 

 私はアイテムパックから最後の一つの範囲復活薬『ムーンアトマイザー』を取り出すと、倒れている全員が範囲に入るようにして使用した。

 すると、みんな意識が戻って、ヨロヨロと身を起こし始めた。

 

「……勝ったの?」

 

 真っ先に立ち上がったシロコが、周囲に『プレナパテス』の姿がないことを確認してからそう言った。

 

「うん、辛勝だけど、なんとか勝ったよー」

 

 私がそう言うと、立ち上がったみんなが、その場で喜びをあらわにし始めた。

 

『皆さん。もう時間に追われてはいませんが、箱舟の自爆シーケンスを起動したいので、『ウトナピシュティムの本船』に帰還してください』

 

 リン船長の通信を聞き、みんなはあわてて地面に転がっていた自分の銃を拾い始めた。

 そして、そんな中で先生は、部屋の奥へと一人歩いていった。

 その先にいるのは……『プレナパテス』が去ったことによって、箱舟に一人残されたシロコ*テラーだ。

 

 力なく倒れるシロコ*テラーの前で先生は屈むと、そのままお姫様抱っこで抱え上げた。

 

「ん、連れていくの?」

 

 こちらの世界のシロコが、先生に尋ねる。

 

「"さすがに、自爆に巻き込むわけにはいかないよ"」

 

 まあ、そうだね。私達の目的は『色彩』の撃退だ。シロコ*テラーを殺さなくてもそれが叶うなら、それに越したことはないのだ。

 だから、私はシロコ*テラーが落とした銃を先生の代わりに持って、みんなと一緒に『ナラム・シンの玉座』を後にした。

 途中でライドロイドの回収を忘れないようにしないとね。みんなも、忘れ物はないようにねー。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

『アトラ・ハシースの箱舟』は、オペレーター達が流し込んだ自爆シーケンスで、跡形もなく消し飛んだ。

 そして今、私達は悠々と『ウトナピシュティムの本船』に乗って地上へと帰還していた。

 

 その最中、本船にある広い部屋の一つにて。

 そこでアビドス生の五人と私、そして先生は、目覚めたシロコ*テラーと向かい合っていた。

 

「"あちらの『私』から、最後にメッセージを受け取ったんだ"」

 

 先生はタブレット端末を取りだして、その画面をシロコ*テラーへと見せた。

 そこには、シロコへ向けたメッセージが書かれていた。

 

 こうなったのはシロコのせいじゃない。自分を責めないで。世界が苦しみであふれているのは大人の責任で、子どもが抱えるものじゃない。

 そんな旨の、先生らしい優しいメッセージが。

 

 ああ、そうか……。

『色彩』で反転したシロコ*テラーは、自らに世界を滅ぼす者としての責任を負わせていたが……生徒(こども)が一人で抱えるのは間違っていると、彼女を(さと)したのか。

『色彩の嚮導者(きょうどうしゃ)』となった先生は、そんなシロコ*テラーを助けてあげることはできなかった。でも、最後の瞬間、あの先生は『色彩』から解放されていて、こんなメッセージを残してあげられたんだね。

 

「ああ……」

 

 そのメッセージを見たシロコ*テラーは――

 

「あああああああ……!」

 

 ――その場にひざまづいて、慟哭をあげた。

 そんな彼女を見守るアビドスの五人。

 ホシノがシロコ*テラーの背を優しく撫でてやり、そうして叫びを止めたシロコ*テラーに、アビドスの五人が明るく話しかける。

 

 今後はどうしようか、だとか。アビドスの六人目の生徒にしよう、だとか。一緒に空飛ぶバイクで営業をしよう、だとか。名前がシロコと被るから愛称を考えないと、だとか。久しぶりに柴関ラーメンを食べたくないか、だとか。

 そんな優しい五人の言葉に、シロコ*テラーは涙を流しながら、じっと耳をかたむけていた。

 




次回、エピローグです。
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