【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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51.私が手にしたエピローグ

『アトラ・ハシースの箱舟』を破壊し、地上に戻ってから数日後。

 私は各地のエーテル通信施設のメンテナンスをするため、方々と連絡を取っていた。

 

 なにせ、事件の間は全ての施設を最大出力でずっとぶん回していたのだ。装置に不具合がないか、確かめてやる必要があった。

 そして、一日の仕事が終わり、アビドス自治区にある『エーテルフォトニクス社』の本社でスマホをいじりながら身体を休めていると、不意にホシノとシロコが社長室に訪ねてきた。

 

「社長ー。クロコちゃんが出奔(しゅっぽん)しちゃったんだけどー」

 

 あー、クロコちゃんね。クロコちゃんとは、ホシノ達がシロコ*テラーにつけたあだ名である。黒いドレスを着ているシロコだから、クロコである。

 安直なネーミングなうえに、本人の髪色はシロコと同じ銀髪のまま。黒いドレスから着替えれば、彼女の黒要素は残らなくなってしまう。でも、シロコ*テラーは素直にクロコというあだ名を受け入れていた。

 

「んー、自分探しの旅にでも出ちゃった?」

 

 私が社長用のデスクの席に座りながらそう返すと、ホシノはデスクに乗り出すようにして言った。

 

「なんかねー。同じ存在が一つの世界に同時に存在するとまずいかもしれないから、どうにかする方法を探しに行くとかなんとか?」

 

「なんじゃそりゃ。私の出身宇宙だと、時間遡行(そこう)して並行世界の未来からやってきた人が、平然と過ごしていたよ」

 

 守護輝士(ガーディアン)の別の時間軸の姿である、ダークファルス【仮面(ペルソナ)】のことだ。

 

「でも、よそはよそ、うちはうちっていうし……」

 

 ……ホシノはロリおじさんだけじゃなくて、おかーちゃん属性も兼ね備えているのか。あざといなぁ。

 

「ん、ホシノ先輩は心配しすぎ」

 

 一方、シロコは平気そうな顔をしてそんなことを言った。

 まあ、そうだよね。同一人物が同時に存在することによるパラドックスが起きるなら、とっくの前に起きているよ。

 

「でもさー、クロコちゃん、無一文だろうからお腹減っちゃうだろうしさぁ」

 

 ホシノがそう返すが、そこは大丈夫。

 

「クロコの身分証は先生が発行していたし、私も『エーテルフォトニクス社』の社員としてクロコの口座を作って、準備金を振り込んであるから無一文じゃないよ」

 

「うへ、先生と社長、そんなことしてたの?」

 

「お金に余裕があるから出かけたのかも?」

 

 ホシノとシロコがそれぞれそんなことを言うが、実際のところ、クロコには時間が必要だと思うよ。なにせ、クロコがやってきた並行世界のキヴォトスはめちゃくちゃになっているはずで、その一方、こっちの世界は平和を維持しているんだ。確認したいことはいろいろあるだろうね。

 

「でも、心配だなー」

 

 ホシノがまだそんなことを言っているが、そんなホシノにシロコが言う。

 

「ん……大丈夫。クロコには、私のエグを渡してある。いざなったら、社長にその座標を追ってもらう」

 

 うん? ちょっと待ってよ。

 

「シロコに渡した試作型エグには通信機能の類は積んでいないから、座標の特定とか無理だよ?」

 

「えっ……」

 

 シロコが、ショックを受けたように固まる。まあ、でもさ。

 

「可愛い子には旅をさせよと言うじゃん。しばらくは、好きに行動させてあげなよ」

 

 クロコはクロノススクールのカメラエグのせいで、キヴォトス中に顔が割れている。

 だけど、敵の正体が死んだ安藤先生というショッキングな事実もあってか、悪いのは全部『色彩』ということで世論は落ち着いた。だから、クロコに対してはむしろ同情的な意見の方が多いみたいなので、彼女が世間からつまはじきになることもないだろう。

 

 だからね。このまま見守ってあげようよ。

 私がそんなことを言うと、ホシノはしぶしぶと引き下がって、シロコと一緒に社長室を出ていった。

 

 それを確認し終えた後、私はデスクの引き出しにしまっておいたスマホを取り出す。そして、モモトークの画面を開き、ある人物へメッセージを送った。

 

 ▲MomoTalk

 

という感じでホシノが心配していてさ

 

クロコ

先輩は心配しすぎ

一人旅くらい余裕

 

ま、そう言いなさんな

おかーさんはいつでも娘が心配なのさ

 

クロコ

ホシノ先輩はお母さんじゃない

 

クロコ

……大事な先輩ではあるけど

 

ふふふ、そうだね

 

とりあえずしばらくはスマホの存在は

隠しておくけどいいの?

 

クロコ

教えたら位置を追ってきそうだから

絶対に教えないで

 

了解

まあ用事があったらいつでも呼んでね

 

 

 それからしばらくの間、クロコがキヴォトスを平和に観光している自撮り画像が、モモトークで送られて来るようになった。

 まったく、本当に自分探しの旅をしている感じじゃないか。

 

 でもまあ、今の彼女にはそれくらいの平和な日々を送るのが、精神的な休息にちょうど良いんだろうね。

 私は神様に言われた羽休めがなかなかできずに、忙しい日々を送っているけどね!

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 さて、あの事件の後日談を一つ。

 

 地上に無事戻った『ウトナピシュティムの本船』だが、これの扱いに連邦生徒会のリン代行は改めて頭を悩ませた。

 多次元解釈システムの演算装置を積んだ空を飛ぶ頑丈な船。搭載火力は全く存在しないが、兵装を後から取り付けさえしてしまえば、制空権をにぎる戦略兵器に変わってしまう。そんな物騒な代物、連邦生徒会には不要だ。

 

 自在に高空を飛ぶ目的に使いたいならば、今ならエンジニア部の発明品であるミレニアムスペースシップが存在する。だから、今のキヴォトスには『ウトナピシュティムの本船』はなくても構わない。

 

 しかし、だからといって、解体するわけにもいかない。

 いつどの勢力が、新たに『アトラ・ハシースの箱舟』を持ち出してくるか分かったものではないのだ。『プレナパテス』が作り上げたのと同じように、アリスやケイがいなくても箱舟を新造できるかもしれない。ゲマトリアとかやりそうだよね。

 

 で、いざそのときになって、対抗兵器である本船はすでに解体されて存在しません、となったら困ってしまう。

 

 なので、『ウトナピシュティムの本船』は厳重な封印措置をしたうえで、保存することが決まった。もともとこの本船は、サンクトゥムタワーか『シッテムの箱』がなければ動かないのだが……それでもカイザーコーポレーションが先生に無理やり言うことを聞かせて、動かそうとするかもしれない。

 なので、アークスの技術も使ってガッチリと封印を固めることにした。

 

「"でも、カイザーはこのまま黙ってはいないよね"」

 

 と、シャーレビルで集まって、シャーレ部員同士で今後の話し合いをしていたときに、先生がそう発言した。

 

 そうだねぇ。カイザーグループは『色彩』の対策をしようとしていた連邦生徒会にクーデターを起こした事実が、キヴォトス中に広まってしまっている。だからか、商売がにっちもさっちもいかなくなっているようだ。そうなると、もしかしたら一発逆転を狙って『ウトナピシュティムの本船』を取り戻そうとしてくるかもしれない。

 本船は、カイザーPMCが発掘した遺物でもあるしね。所有権は自分達にあるとか言って、封印作業の場所へカイザーPMCを差し向けてくる可能性は割と高い。

 となると、どうすればいいか。答えは明白。

 

「潰すか、カイザーコーポレーション」

 

 ぼそりと私がそうつぶやくと、すぐさまシャーレ部員達が反応した。

 

「出入りですか」

 

「カイザー潰すゾ!」

 

「リン代行も、D.U.の復旧が終わったら、正式に潰すって言ってた」

 

 部員達が口々にそう話し、一気に場が押せ押せムードになる。うーん、自分で言い出してなんだけど、みんな血の気が多いなぁ。

 そんなとき、先生が不意に立ち上がる。そして、部員達の注目が集まる中、先生は言った。

 

「"やろうか"」

 

 その言葉と共に、先生は具現武装を発動して、身体の周囲に盾を浮遊させ始めた。

 すると、室内から歓声があがった。

 

「おおっ、先生やる気!」

 

「盾格好良いー」

 

 才能がもともとあったのか、高濃度のエーテルに晒されたせいか、エーテルの具現化能力の一つである具現武装に目覚めた安藤先生。箱舟の決戦を終えて帰ってきた今も、その能力は消えていなかった。一度目覚めたら、消えるような能力じゃないからね。

 しかもこの盾、なかなかに高性能。複数に分裂してオートで脅威を防ぐ機能付きだ。これにより、先生の指揮官としての能力はさらに高まったと言えるだろう。

 

 さて、先生もこうして乗り気なら、さっそくカイザーコーポレーションを物理的に潰す手続きを連邦生徒会に取ろう。そういうことになって、事務が得意な部員が先生と一緒になって連邦生徒会のリン代行との連絡を始めた。

 一方で、武闘派の部員達は、スマホをいじって仲間を招集しだした。

 

 私も、アビドス生のグループチャットに、「カイザーに積年の恨みをぶつけよう!」と煽るような誘いをかけてみた。

 そして、もう一人。私は、ある人物に電話をかける。

 

「もしもしー」

 

『……なに?』

 

「これからカイザーの本社を潰しに行くんだけどさー。クロコも来る?」

 

『……行く』

 

 よし、強力な助っ人を誘うことに成功したぞ。

 戦場でアビドス生達とクロコが再会してしまうが、同じキヴォトスにいるんだ、そういうこともあるだろう。

 

 というわけで、トントン拍子で話は進み、私達はカイザーコーポレーションの本社前にやってきていた。

 ヴェリタスの調査で、現在この本社に、カイザーグループの総帥であるプレジデントがいることが分かっている。だから、奴を捕まえてさえしまえば、カイザーグループを潰した後に再起を図ることはできなくなる。

『色彩』の対策をしようとしていた連邦生徒会相手にクーデターを起こして、キヴォトスを混乱させた罪で、しっかりと豚箱に入ってもらうよ。

 

「"さあ、みんな、行こう"」

 

 先生のそんな声を聞き、相当な規模まで膨れあがったシャーレ軍が一斉に武器を構える。

 軽く声をかけたエンジニア部も、最新の武装を試したいとか言って、私の横に並んでいる。

 

「いやー、『テクニック再現マシン』を使う機会がこんなに早く訪れるとは、思ってもみませんでした!」

 

「私は、『フォトン式グレネードランチャー』を持ってきた。リクの『ユニオンランチャー』を参考にした自信作」

 

「こっちはフォトンエネルギーで動く『フォトンリアクター付き新型オートマタ』を持ってきたよ。ふふふ、この子はどれだけの火力を発揮してくれるかな」

 

 コトリ、ヒビキ、ウタハ部長がそれぞれそんな物騒な発言をする。まったく、頼もしい仲間達だね。向こうの方では、アビドス生に囲まれたクロコの姿が見えるが、そちらは放っておいていいだろう。

 

 皆が戦闘準備を進める中、私もアイテムパックから『ユニオンランチャー』を取り出す。

 そして、《ロデオドライブ零式》を使って一番槍で駆け出す準備を整えた。空気中から吸収した不思議粒子のフォトンが、体内でどんどんエネルギーに変換されていく感覚を覚える。……さあ、行こうか。

 

「"作戦開始"」

 

 先生の号令と共に、シャーレ軍がカイザーコーポレーション本社に襲いかかる。こうして、キヴォトスでは日常的な、暴力の嵐が吹き荒れて……。

 

 世界は滅亡することなく、騒がしくも平和なまま、今日も存続している。

 だから、この先にはきっと、楽しい未来が待っている。

 

 

 

<完>

 




『銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在』は以上で完結です。
あとがきは2023年11月3日の活動報告に掲載しています。
最後までお読みいただきありがとうございました。もしよければ評価を入れていってくださると嬉しいです。
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