【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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EX2.ねじれた過去

 エーテルフォトニクス社の会議室。

 そこで私は、情報部からアビドス自治区内の探索報告を受けていた。

 

「はー、新たな厄ネタかぁ……」

 

 アビドス自治区は広大だ。その自治区内を支配していたアビドス高校は、かつてトリニティやゲヘナと並ぶほどの権威を誇っていた。しかし、自治区内の砂漠化や砂漠横断鉄道の開発失敗、セイント・ネフティスの撤退等を経て、アビドス高校の権威は失墜。アビドス生徒会が握っていた、自治区内の地理情報は散逸してしまった。

 

 そこで、私は情報部に指示を出して、アビドス自治区内を探らせ、どこに何があるか、そしてその土地や建物の権利は誰が持っているかを調べさせていた。

 そして今回、上がってきた情報が、特急の厄ネタであった。

 

「『生徒会の谷』。大昔のアビドス生徒会が建てた展示館、ねぇ」

 

 アビドスの住人には割と知られていた土地らしいが、その『生徒会の谷』なる展示館の奥地に、とんでもない代物が眠っていた。

 それは、列車砲だ。

 

 列車砲とは、線路の上を走らせる特大の自走式砲台である。第二次世界大戦にドイツが開発した列車砲ドーラが有名だろうか。

 

『生徒会の谷』が作られたのは、何百年も前。つまり、この列車砲も大昔の遺物ということだろうか。

 キヴォトスには古代文明のロボットとかがいるので、数百年前に列車砲があってもおかしくない。そう思ったのだが……。

 

「発見した資料によると、建造は二年前らしいです。こちらの写真を見てください」

 

 情報部を取りまとめている経営企画本部のノノミ本部長が手元の端末を操作し、会議室の大型モニターに列車砲の拡大画像を表示させる。

 列車砲の側面装甲。そこには、アビドス高校のエンブレムと、ゲヘナ学園のエンブレムが刻まれていた。

 

「ゲヘナ……? なんでアビドスの兵器にゲヘナのエンブレムが……?」

 

 そんな私の疑問を受けて、ノノミ本部長がモニターに次の資料を映し出す。

 

「二年前のゲヘナには、暴君『雷帝』と呼ばれる生徒が所属していました。天才的な政治手腕でゲヘナを支配し、様々な兵器を開発したそうです」

 

 へえ、そんな人物がいたんだ。二年前か。そこまで昔のことではない。

 現在三年生の生徒なら、一年生の頃になるわけだが……。この場に居るホシノ副社長も、アビドス高校の三年生だ。

 

「ホシノ副社長、何か知っている?」

 

「……うへぇ、初耳だねぇ。二年前なら、私もすでにアビドス生徒会の役員だったんだけど……列車砲なんて今日初めて聞いたよ」

 

 アビドス生徒会に知られずにゲヘナが建造した?

 うーん、さすがにそれはないよなぁ。

 

「ホシノ副社長より上の役員が、副社長に黙って作らせたとかは?」

 

 私がそう言うと、ホシノ副社長は目を細めてこちらをじっと見てくる。

 

「当時の生徒会は二人しかいなくて……ユメ先輩っていう生徒会長が私の上にいたよ。でも、こんな兵器を作らせるような人ではなかったかな」

 

「その人に連絡して、話は聞けないかな?」

 

「……ユメ先輩は二年前に亡くなっているから、無理かな」

 

 うおっと、まさかの故人。

 真相は闇の中か。画面に映っている資料によると、『雷帝』なる人物もゲヘナを卒業後、キヴォトスの外に出たとあるし。キヴォトスの外というと、地球に出ているのかな……? ちょっとその方法知りたいんですけど。

 

「二年前に建造ってことは、この列車砲、今も動くの?」

 

 営業部のセリカ部長が、モニターを見ながらそんな疑問をこぼす。

 すると、ノノミ本部長がすかさず答えた。

 

「内部の調査はしていないので不明です。ただ、『雷帝』の技術力を考えますと、二年間メンテナンスされずに放置されていたとしても、おそらく動きます……」

 

「稼働する兵器って、危なくない? 解体した方がいいんじゃないの?」

 

 セリカ部長が続けて、ノノミ本部長に尋ねる。

 

「そうしたいところですけど……『生徒会の谷』の土地や建造物の権利が、エーテルフォトニクス社にはないんです。もちろん、アビドス生徒会も権利は持っていません」

 

「『生徒会の谷』に踏みこむには、どこかから権利を買い取る必要があるってことね?」

 

「それが……現在『生徒会の谷』をどこの誰が所持しているか、判明していないんですよ」

 

 そう来たかー。アビドス自治区って、権利の所在があやふやな土地結構あるんだよねぇ……。しかし、動く兵器が放置されているとか、不良やヘルメット団が勝手に持ち出したら危ないなぁ。

 と、そんな感想を頭に浮かべていると、ノノミ本部長がさらにモニターへ別の資料を映した。

 

「ちなみに、ミレニアムのエンジニア部の方々に列車砲の画像を見てもらったところ、列車砲の射程は長大で、『生徒会の谷』からアビドス自治区全域に砲撃が届く可能性が高いそうです」

 

 私もエンジニア部だけど、列車砲の話、初耳だぞ!?

 

 しかし、自治区全域が射程か……。アビドス自治区ってめちゃくちゃ広いんだけどな。それこそ、地図と方位磁石なしで迷うと遭難してしまうくらいに。実際、キヴォトスに来てすぐの頃の安藤先生が、遭難しかけていた。

 

「というわけで、列車砲への直接の対処は現状、不可能ですね。『生徒会の谷』の権利者を急いで探す必要があります」

 

 ノノミ本部長はそう話を締めた。

 権利者探しは、引き続き情報部に頑張ってもらうしかないか。私も私で、何か列車砲への対策を練らないとね。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 列車砲の発見報告があってからしばらくのこと。

 放課後のエーテルフォトニクス社に、複数名の来客があった。

 

 やってきたのは、キヴォトス内の鉄道事業を一手に引き受けているハイランダー鉄道学園の生徒。それと、投資家の集団である私募ファンドの面々。押収品競売組合やゼラチングミ商事、タヌキダイスキ工業など集団で構成された、債権者団体だ。

 

 彼らがエーテルフォトニクス社にやってきた理由はというと……。

 

「我が社の頭越しに、アビドス生徒会へ渡りを付けたらしいですね」

 

 私はお客様という名の敵団体、私募ファンドをにらみつけて言った。

 すると、私募ファンドの代表を名乗っていた、メタボ腹のロボット男性が、「いえいえ」と反論を始めた。

 

「今回の話は、エーテルフォトニクス社と関わりのない、アビドス生徒会の話ですからな」

 

「そのアビドス生徒会のバックには、エーテルフォトニクス社がいると言っているんですよ」

 

 ロボット男性の言葉に、私も即座に反論を述べる。

 そんな言葉のやりとりを着席したままのホシノ副社長と、私募ファンドの他のメンバー、そしてハイランダーの生徒が見守っている。

 

 さて、なぜこんな状況になっているかというと……今日の昼頃に、アビドス高校の面々とハイランダーの生徒達が、揉めたらしいのだ。

 原因は、アビドス自治区内へのハイランダー鉄道学園の侵入。

 アビドス内での勝手な行動は許さない、とホシノ達が抗議をしにいったところ、ハイランダーの生徒達がホシノ達へ攻撃をして、抗争になりかけたとか。

 その場はたまたまアビドスへ来ていた安藤先生により収められたが、その後、私募ファンドの面々がアビドス高校にやってきて、砂漠横断鉄道の権利を主張したのだとか。

 

 砂漠横断鉄道の権利。確かに、そんなものが解体されたカイザーグループの債権にあった。

 それを獲得したのは、セイント・ネフティスだったはず。というか、あえてエーテルフォトニクス社はそれに手を出さずに、ネフティスに獲らせた。裏でネフティスの買収を進めるため、ネフティスに資金を吐き出させようとしたのだ。

 

 そして、ネフティスはハイランダー鉄道学園と提携している。

 なので、彼らが砂漠横断鉄道の開発をするためにアビドス内に進出することは、問題はないのだ。つまり、ハイランダーに抗議をしようとしたことは、アビドスの面々の勇み足だったと言える。

 

 砂漠横断鉄道の権利がネフティスと私募ファンドの面々にあるならば、工事を進めていいはずだった。

 しかし、勧めて良いはずの工事が、ハイランダーの上層部によって差し止められた。

 一つ、問題が起きたのだ。それは……。

 

「こちらが、問題の書類だ」

 

 私募ファンド代表者との軽い応酬を終え、本題へと入る。そこで、ハイランダーの生徒から早速とばかりに提示された物。それは、一枚の契約書だ。

 なんでも、先日、ハイランダー鉄道学園の倉庫から発見されたばかりの契約書だという。

 その契約書の最後の段には、アビドスの前生徒会長、梔子(くちなし)ユメの署名が入っていた。

 

 契約書に書かれている内容は、以下のようなものだ。

 

 売主「セイント・ネフティス」と買主「アビドス生徒会」は……

 砂漠横断鉄道の施設使用権を100万円で売り渡し……

 乙は契約金の一部として1万円を即座に支払うことを約束する。

 本契約の締結後、2年以内に残金を全て支払い……

 乙が本契約に基づく支払いの遅延をした場合、

 乙は甲に対して遅延損害金を……

 

 つまりだ。ネフティスは、砂漠横断鉄道の権利をアビドス生徒会に売り払っていたのだ。

 しかし今回、ネフティスはカイザーグループの債権として、砂漠横断鉄道の権利を買い取った。

 権利にねじれが起きているのだ。

 

「この契約は、アビドス生徒会からの支払いがなされていないため、無効としたいところなのですが……」

 

 私募ファンドの代表者が、そう述べてくるが、即座にホシノ副社長が反論する。

 

「契約書に書かれた二年はまだ過ぎていないよ。アビドス生徒会は、その一〇〇万円を即座に支払う用意がある」

 

「そうなりますよねぇ……ハイランダーも、こんな契約書、しまったままにしてくれればよいものを……」

 

 私募ファンドの代表者が、ため息をつくように答えた。

 しかし、ハイランダーの朝霧(あさぎり)スオウと名乗った黒い眼帯姿の女子生徒は、首を横に振る。

 

「ハイランダーとしては、権利関連があやふやなままで工事を進めたくない。今朝から開始しようとした工事は、我々、監理室の方で止めるよう指示している」

 

 カイザーグループからネフティスが買い取った砂漠横断鉄道の権利。

 ネフティスからアビドス生徒会が買い取ったが未払いの砂漠横断鉄道の権利。

 権利が重複してしまっている。この状態では、ハイランダーは砂漠横断鉄道の工事を開始できないと言っているわけだ。

 

 砂漠横断鉄道。エーテルフォトニクス社はかつてこれを不要と判断して、カイザーグループの債権を買い取らなかった。

 では、アビドス生徒会が買い取ったが、未だ支払いを行っていない権利も放棄するのか?

 

 その答えは……。

 

「エーテルフォトニクス社は、アビドス生徒会の支払いを認める。一〇〇万円、今すぐにでも支払ってもらって構わない」

 

 答えは、放棄しない、だ。

 

「ぐぬぬぬ、なぜ、今さらになってエーテルフォトニクス社が、砂漠横断鉄道に手を出してくるのだ……!」

 

 なぜかって?

 そりゃあ……砂漠横断鉄道の権利の及ぶ範囲に、『生徒会の谷』が含まれているからだよ。

 列車砲を他の集団に獲らせるわけにはいかないね!

 

 そして……ホシノ副社長はその場でネフティスに一〇〇万円を振り込み、ここに権利のねじれが成立した。

 

 だが、ねじれたまま放置しているわけにはいかない。

 ゆえに、第三者であるハイランダー鉄道学園を仲裁者として、二日後にエーテルフォトニクス社、アビドス生徒会、セイント・ネフティス、私募ファンドが集まって、権利の落としどころを話し合う場を作ることになった。

 

 まったく、列車砲なんて厄ネタがなければ、砂漠横断鉄道なんて放置でよかったんだけどなぁ。

 

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