【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
「先生、遅いわね……」
砂漠横断鉄道の話し合い当日。ハイランダーから指定されたアビドス内にある会館に、私はアビドス生徒会のメンバーであるホシノ、ノノミ、シロコ、アヤネ、セリカの五人を連れてやってきた。
しかし、開始時間ギリギリになっても、出席予定の安藤先生が未だに来ていない。
先ほどから私達を代表して、セリカが先生に連絡を取ろうとしているのだが……応答なしだ。
彼女が言うには、朝の挨拶としてモモトークのメッセージを送ったときには、返信があったらしいのだが。うーん、困ったね。
「時間だ。始めさせていただく。着席してくれ」
と、ここで司会進行役であるハイランダー鉄道学園の朝霧スオウが、着席を促してきた。
先生抜きでの話し合いか。シャーレ顧問という立場から援護してもらうことを期待していたのだけれど……仕方ない。このメンバーでいくか。
私達は素直に、用意されていたパイプ椅子に着席した。
椅子の前には、折りたたみ式の横長テーブルがあり、向かい側には同じようにパイプ椅子に座った私募ファンドの主要メンバーが横並びになっている。私募ファンドと同じく、カイザーグループの砂漠横断鉄道の債権を買い取ったセイント・ネフティスからは、社の幹部が一名、リモートで参加している。
立体映像に映るネフティス幹部は、ロボット姿の男性だ。ノノミとネフティスの幹部であった十六夜家の元執事から聞いた、ネフティスの創業者一族のメンバーの容姿に該当する者ではない。
『ネフティスからの参加者は、古参の役員ですね。十六夜家の関係者ではありませんが』
耳に仕込んだイヤホンから、十六夜家の元執事である経営戦略室室長の声が届く。
実はこの会議場には、エーテルフォトニクス社の記録用機器を持ち込んである。土地の権利にまつわる重要な話し合いだ。記録は大事。その機器を通して、エーテルフォトニクス社の本社にいる面々に、監視をお願いしてある。
経営戦略室の室長だけでなく、各部門の部門長達の他、万が一の時のためにミレニアムサイエンススクールのハッカー集団ヴェリタスの副部長、
チヒロ先輩には、ホワイトハッカーとして、エーテルフォトニクス社のセキュリティ部門の助言をしてもらっているんだよね。彼女は我が社にやっているように、いくつかの企業や団体から頼まれて、セキュリティ強化の指導をしているらしい。うちから支払っている金額はそれなりに大きいので、儲かっていそうだよね。
さて、そんなわけで、ネフティスはリモート参加だが、こうして砂漠横断鉄道の権利に関わるメンバーが、一堂に会したわけだ。
ハイランダーのスオウが司会を務め、話し合いが始まる。
まずは、前提条件の再確認。
ネフティスと私募ファンドは、先日、解体されたカイザーグループの債権である砂漠横断鉄道の権利を購入した。
アビドス生徒会は、二年前、ネフティスと砂漠横断鉄道の売買契約を交わし、二日前、支払いを終えて正式に権利を購入した。
砂漠横断鉄道の権利が重複している。
で、この状況で、どこが正式に砂漠横断鉄道の権利を持つか。裁判で争ってもいいのだが、その前段階として、落としどころがないか穏便に話し合うことが、本日の趣旨だ。
まあ、穏便とは言うが、実際のところは……。
「カイザーグループの債権を購入するためにあなた方が使った費用も、エーテルフォトニクス社が負担しても構いませんよ。もちろん、そうなると権利はうちが貰いますが」
圧倒的資金力を背景にして、強気に出るエーテルフォトニクス社と……。
「そもそも、アビドス生徒会の契約書は本物なんですかねぇ。鉄道をたったの一〇〇万円で購入するというものですよ? ちょっと現実味がねえ」
アビドス生徒会の権利を無効にしようと、口先で乗り切ろうとするセイント・ネフティスの対決となった。
当然、話し合いは平行線をたどる。
うちがどれだけお金を出すと言っても、引かない相手側。うーん、これはもしかすると、相手側も列車砲の存在を知っているパターンかもしれないね。
列車砲はゲヘナの暴君『雷帝』の遺産だ。
そのネームバリューは大きく、列車砲本体の価値だけでなく、天才である『雷帝』が注ぎ込んだ技術も獲得できると考えると……列車砲の評価額は五〇〇億円を下らないという。
列車砲みたいな巨大兵器が五〇〇億円とか安くないか、と思うのだけれど、実のところキヴォトスにおける兵器の値段は著しく低い。
なにせ、ヘルメット団みたいなチンピラ集団が、地球だと数億円もする戦車をホイホイ乗り回しているくらいだからね。
まあそれでも五〇〇億円は一企業からすると大した値段だ。そんな五〇〇億円兵器が手元に転がってくるとなると、ちょっとやそっとの札束ビンタでは彼らもなびかないよね。
うーん、どうするかな。
「……平行線だな。しばし、休憩としよう。双方、少し頭を冷やすといい」
と、ハイランダーのスオウが、そのように宣言して、休憩時間に入った。
私は一つ息を吐いて、パイプ椅子を引き、その場で立ち上がった。
アビドス生徒会の面々も立ち上がり、私の周囲に集まってくる。
「結局、先生は来なかったわね」
セリカがそんなことを小声で話すと、耳のイヤホンからチヒロ先輩の声が響く。
『話し合いの最中だから、言えなかったんだけど……ネットニュースの速報によると、先生が大規模なテロに巻き込まれたって』
「……は?」
イヤホンを耳に仕込んでいるのは、私だけじゃない。アビドス生徒会のメンバー全員が仕込んでいる。つまり、今のチヒロ先輩の言葉は、みんなに聞こえていたということで……。
セリカが即座に反応を示して声を上げる。
「ちょっと、どういうこと!?」
『シャーレビルが爆破されて、ビル一棟が丸ごと倒壊だって。爆破の瞬間の映像もあったけど、ビルの爆破解体みたいに、一階の根元から縦に潰れている』
「先生は無事なの!?」
『病院に搬送されたけど、命に別状はないらしいよ』
チヒロ先輩の言葉に、ほっと息を吐いて安心する一同。
爆破テロか。縦にビルが潰れたってことは、いつもの高層階にあるオフィスに先生が居た場合、瓦礫に上下からサンドイッチ状態になったはずだけど……。
幸いにして、先生はエーテル具現化能力に目覚めている。
彼の能力は盾を作り出すものであるが、爆破の瞬間に都合よく能力は発動していなかったかもしれない。しかしそれでも、エーテル具現化能力に目覚めた時点で、先生はフォトン使いのアークスと同等の頑強さを身につけているのだ。
具体的に言うと、今の先生は不意打ちで銃撃されても死なない。
なので、瓦礫に潰され生き埋めになったとしても、呼吸が続く限り死ぬ状況まではいかないはずだ。
問題は、重症か軽傷かであるが……。
と、そんなことを考えた時のこと。
ふと、私達に近づく者がいた。黒い眼帯を右目に付けた、金髪の少女。ハイランダー鉄道学園のスオウだ。
「少し、いいだろうか。十六夜ノノミと話があるのだが」
と、私達の前に立ったスオウは、そんなことを言ってきた。
「えっと……」
名前を呼ばれたノノミは、周囲をうかがうように視線を動かす。
「いいよ、ノノミちゃん。行ってきて」
ホシノがノノミにそう言い、ノノミは「それじゃあ……」と言ってスオウの前に立つ。
すると、スオウは部屋の角に目を向け、言う。
「あまり周りに聞かれたくない話がある。向こうで話そう」
と、ノノミをともなって部屋の角の方に移動していった。
ふーむ、なんだろうか。
「あー、ノノミちゃんはちょっとハイランダーと関わりがあるんだよ」
ホシノが不思議そうにノノミの方を見る面々に、そんなことを言った。
「ハイランダーとの関わり……実家、ネフティス関連かな?」
そう私が言うと、ホシノはうなずいて答える。
「まあ、いろいろあるんだよー。詳しくは私の方からは言えないけれど」
なるほどね。ネフティスは、ハイランダー鉄道学園と提携しているらしいから、それ関連の話かな。
私は何やら小声で話し込むノノミとスオウの方を見ながら、そんなことを思った。
って、おや、スオウがノノミに肩を組んだぞ。仲良しさんか!
……なんて、思った瞬間のこと。
突然、耳をつんざくような爆音が聞こえ、衝撃とともに部屋が大きく揺れた。
何事か、と、焦ってバランスを取ろうとした私は……私はいきなり上から降ってきた瓦礫に押しつぶされた。
◆◇◆◇◆
埋まっている。私は瓦礫に埋まっている。
どうやら私は仰向けに倒れていて。背中を瓦礫に押しつぶされているようだ。
重たい……動けるか?
うん……ちょっと体勢が悪いなぁ。周囲からフォトンを集めて、エネルギーに変換して無理やり動こうとするが……。うぎぎぎぎ……。
「"大丈夫、リク!?"」
と、男の人の声が上から聞こえて、同時に背中の重みが消えてなくなった。
「うおっ、おおお……」
私はおもむろに身を起こし、周囲を見回す。
すると、エーテル具現化能力を発動して盾を身体の周囲に浮かべた安藤先生が、心配そうにこちらを見つめていた。
「あー、先生、助けに来てくれたんだ」
「"うん。どうやらこの会場も爆破されたみたい。リクに怪我はない?"」
「痛みはないかな。他の人達は?」
「"無事だった人で救助を行っているけれど……ノノミがまだ見つかっていない"」
そりゃ大変だ。
瓦礫に埋まっているとなると、下手したら窒息してしまう。
私は急いでアビドス生徒会の他のメンバーと一緒に、瓦礫を避ける作業を開始した。
「ノノミ先輩ー、返事してー!」
セリカが心配そうな声で、呼びかけるが返事は聞こえてこない。会議場はもともと二階建てで、話し合いを行っていたのは一階だ。それが見事に爆破されたようで、天井は全て吹き飛び、空が見えている。
爆破か……先生も爆破テロに巻き込まれたはずだが、それと同一犯か?
いや、犯人捜しよりもノノミを急いで救出しないと。
『ちょっと待って。爆破された瞬間の映像をスローで再生したら、十六夜ノノミ本部長は瓦礫の下敷きにはなっていないみたいだ』
と、そこでチヒロ先輩の声が、耳のイヤホンから聞こえてきた。
「どいうこと?」
私が尋ねると、即座に答えが返ってきた。
『ハイランダーの司会進行をしていた人……朝霧だっけ? 彼女が、爆破の瞬間に、十六夜本部長を確保して、その後降ってくる瓦礫を避けて移動している』
「ハイランダーのあの人が助けてくれた……?」
『そう思いたいけど、その場にいないってことは……もしかしたら爆破の下手人はハイランダーで、彼女はさらわれたのかもしれない』
「んな、めちゃくちゃな……自分ごと建物を爆破するとかある?」
『映像を見る限り、ありえるね』
どうなっているんだ、いったい。思わぬ状況に私が混乱する最中、救助活動を行っていたホシノが叫ぶように言った。
「周囲の地帯を探せば、まだノノミちゃんがいるかもしれない!」
瓦礫の外に飛び出すように走り出すホシノ。
向かう先は、会館の駐車場。ここまで乗ってきたライドロイドを置いてある場所だ。
「ん、探す」
続いてシロコが走り出し、それを追うようにして他のアビドス生徒会メンバーも駐車場へと向かう。
まったく、何が起きているのかね。
とりあえず私は、どうするべきか……。
「"ノノミの捜索はみんなに任せて、私達はこの場の救助を続けよう"」
「おっと、そうですね。こっちも人の命がかかっているんだ」
そうして瓦礫をどける作業を続けることしばらく。
私募ファンドからの参加メンバーは全員無事な姿を確認でき、救助活動は終わった。ハイランダーのスオウと、リモートで参加していたネフティス幹部は、この場にいない。ネフティス幹部はともかく、スオウがいないということは、やはりノノミをさらってどこかに行ったのだろう。
しかし、ハイランダーが凶行に及ぶ理由が分からない……いや、ハイランダーはネフティスと事業提携しているんだったか?
もしかしたら、今回の砂漠横断鉄道の背景に、まだ私が知らない何かがあるのかもしれない。