【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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EX4.砂塵に轟く鋼の汽笛

 ひとまずの避難先として、ライドロイドに乗ってエーテルフォトニクス社の社屋に移動した私。安藤先生もどうやら苦手なライドロイドでここまでやってきていたようで、二人で空を走らせて十分もかからずに本社まで辿り着くことができた。

 社屋の中では大会議室に人が詰めており、そこで情報部が指揮を執ってノノミの居場所を探し続けていた。

 

 外部の人員であるヴェリタスのチヒロ先輩も、パソコンをいじりながら周囲に指示を出している。

 

「アビドスは復旧していない地域が多すぎる!」

 

 監視カメラ映像をパソコンの画面にいくつも表示していたチヒロ先輩が、そんなことを叫んだ。

 確かに、アビドスは他の自治区と違い、電気が万全に通っておらず、監視カメラ等から情報を集められない場所が多い。これがミレニアム自治区なら、スオウとノノミの足跡など簡単にトレースできるのだろうが。

 

 と、しばらく後方で見守っていたところ、不意に情報部から報告が上がった。

 

「『生徒会の谷』を監視していた人員から連絡が来ました。列車砲が動き出したそうです」

 

 ……いかにもって状況だとしか言えない!

 

『怪しい!』

 

 大会議室と通信で繋がっているセリカが、映像越しにそんな事を叫んだ。うん、怪しいよね。

 

『行こう、みんな』

 

 と、ホシノが通信越しに言い、アビドス生徒会のメンバーがライドロイドで『生徒会の谷』方面へと進み出した。

 そして、チヒロ先輩も何やらパソコンを操作して、ニヤリと笑った。

 

「列車砲内部と通信、繋がったよ」

 

 その次の瞬間、立体映像がチヒロ先輩の前に浮かび、ハイランダーのスオウの姿が見えた。

 私は前に出て、その映像に対し真っ直ぐ目を向けて言葉を発する。

 

「こちら、エーテルフォトニクス社社長の道上リク。そちらは列車砲内部で間違いないね?」

 

『こちら、ハイランダー鉄道学園監理室所属、朝霧スオウだ。ここは列車砲シェマタ内部で間違いない』

 

 ふーむ。やっぱりスオウがこの事態の元凶なのだろうか。えらく堂々とした態度で映像に映っているが、この状況で列車砲を動かす理由が読めない。

 いぶかしんでいると、私の胸中を知ってか知らでかスオウがさらに言葉を続けた。

 

『列車砲シェマタを現在動かしているのは、我々ハイランダーだ。運行の邪魔になるため、無闇に近づかないでいただきたい』

 

「ハイランダー、ね。個人ではなく学園単位の行動と見てよろしいか」

 

『ああ。列車砲を動かした理由も、ちゃんとあるぞ』

 

「なんだろうね。火事場泥棒かな?」

 

『どうだろうな。理由を説明すると、エーテルフォトニクス社にも原因はある』

 

 はあ?

 

『砂漠横断鉄道の権利を巡る話し合いは、平行線をたどっていた。そこで、話し合いをスムーズにするために、司会進行役として、こちらで邪魔な要素を省いてやることにした』

 

「邪魔な要素って……」

 

『なに、砂漠横断鉄道の敷地内に違法駐車された邪魔物を善意で撤去してやろうと思ってな』

 

「は?」

 

『お前達が権利を巡って一歩も引かなかったのは、この邪魔物が敷地内にあったからだろう。なので、それを撤去すれば話はスムーズに進むと思ったのだ』

 

「いやいやいや、列車砲は、砂漠横断鉄道の資産でしょ? 『生徒会の谷』に設置された、立派な建造物。ハイランダーが勝手に動かせる物ではないでしょう」

 

『いや、列車砲が敷地内に置かれているなど、砂漠横断鉄道関連のどの契約書にも記されていない。この列車砲シェマタは、どこの組織にも所属していない、ただの乗り捨てられた車両、ただの投棄された粗大ゴミと言えるだろう。ゲヘナのエンブレムがあったから、ゲヘナの不良が乗り捨てたのかもしれない』

 

 なんだ、その屁理屈!?

 

『つまり……誰が手にするかは、早い者勝ちということだな』

 

 めちゃくちゃだよ!

 ……いや、落ち着こう。大事なのは列車砲じゃない。それよりもだ。

 

「ちなみに、十六夜ノノミはそっちにいるの?」

 

『ああ、この列車砲を動かすには、彼女の持つネフティスのゴールドカードが必要だった。なので、爆破テロから救った見返りに、善意で列車砲の撤去作業に協力してもらった。今は、列車砲内部で安静にしてもらっているよ』

 

「ノノミを引き渡してもらえる?」

 

『本列車は各駅停車ではなく急行だ。次の停車駅であるハイランダー所有の駅に移動した後に、降車していただく。アビドス自治区の外だがな』

 

 屁理屈ばかり言いよってからに!

 こうなるとノノミの身の安全は、スオウ達ハイランダーの手の中ということか。

 

 彼女が言うように、ハイランダーが列車砲を完全に確保すれば、ノノミは解放されるだろう。

 しかし、そのときは暴君『雷帝』の破壊兵器がハイランダーの手に渡るということだ。

 ハイランダー鉄道学園は悪の組織というわけではないが……キヴォトスの全域に移動可能な線路を持つ彼女達が、列車砲という長射程兵器を確保する状況に、良い未来が待っているようには見えない。

 

 できれば、アビドス自治区内に居る間に機能を止めてしまいたいものだが……。

 と、そのとき、通信が繋がったままだったホシノから、音声が届く。

 

『違法駐車の車両を勝手に乗り回しているってことは……こっちが勝手に破壊しても文句は言えないよね』

 

 うーん、頭キヴォトスな発想!

 でも、それが正解か。先ほど情報部から上がってきた映像によると、列車砲は後部にハイランダー製の戦闘列車を接続してアビドス郊外目指して走行中らしい。進行速度はあまり速いとはいえない。なにが急行だ。鈍行じゃないか。

 となれば、私がすることは一つ。

 

「"リク"」

 

 先生が、私の横に立って、こちらを見つめてくる。

 

「ええ、先生、行きましょう」

 

 先生に言葉を返して、一つうなずき、私は大会議室を後にする。

 そして、廊下を小走りで移動しながら、後ろに付いてくる先生に向けて言う。

 

「違法駐車の車両を勝手に乗り回しているってことは……こっちが勝手に破壊しても文句は言えないよね!」

 

 ホシノが先ほど言った台詞を復唱するように、私はそんな言葉を叫んだ。

 

 そして、私達はエレベーターに乗りこみ、地下三階へ。

 外に出てライドロイドに乗らなかった私を不思議そうに先生が見てくるが、ライドロイドはもう時代遅れだ。

 こんなこともあろうかと、私は対列車砲として新兵器を用意していたのだ。

 

 エレベーターの扉をくぐると、そこは広大な地下ガレージがあった。

 そして、そこには、エンジニア部のいつもの三人が詰めていた。

 

「動かせる?」

 

 私は彼女達に確認するように問うた。

 

「うん、いけるよ」

 

「ばっちり」

 

「稀に見る傑作と言えるでしょう!」

 

 その答えに私は満足してうなずくと、ガレージに置かれた新兵器を先生に見せびらかすように言った。

 

「列車砲からエーテルフォトニクス社を守るために開発していた、秘密兵器のご開帳だよ」

 

 その名も、鉄道式高出力フォトン粒子砲。

 アークスが開発し、異世界オメガでオメガファルス・アプレンティスなる強敵を倒すために活躍したという、自走式高出力フォトン粒子砲。その設計図をエーテル通信を介して受け取り、エンジニア部の三人に托して線路に乗せられるよう改造した兵器だ。

 

 砂漠を自走し、線路の上に乗り上げてレールの上を走るように作られた、列車砲を破壊するための移動砲台である。

 

「さあ、先生、乗った乗った」

 

「"……かっこいい!"」

 

「でしょー。さあ、時間が無いよ。急いで出発だ」

 

 私は先生とエンジニア部の三人の計五人で鉄道式高出力フォトン粒子砲に乗り込み、操縦席に座りこむ。

 そして、地上に続くガレージの扉を開け、発進レバーを思いっきり動かした。

 

「目標、列車砲シェマタ。フォトンで風穴を開けてやる!」

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 砂漠横断鉄道のレールの上を鉄道式高出力フォトン粒子砲が爆走する。

 列車砲は鈍行だが、こちらは超特急だ。すぐに追いついて、フォトン粒子砲で走行不能に持ち込んでみせるよ。

 と、行けばよかったんだけど……。

 

「列車砲の主砲に熱源反応あり。おそらくプラズマ砲の類が飛んでくるよ」

 

 エンジニア部のヒビキが、操縦席のモニターを見ながらオペレートしてくれる。

 プラズマ砲かー。実弾兵器じゃないんだねぇ。

 

「軌道計算完了しました! このままだと敵主砲がこちらに直撃します!」

 

 コトリもモニターを見ながら、端末を操作している。

 直撃って、そりゃヤバイ。

 

「大丈夫、こちらも主砲を撃って、相殺するよ。主砲発射!」

 

 ウタハ部長が、操縦席に備え付けられたレバーを引く。

 すると、わずかな衝撃とともに、青白い光の奔流が前方斜め上に向けて照射された。

 

「フォトン粒子砲、敵主砲と衝突! 相殺成功だ!」

 

 どうやら、敵主砲のプラズマ砲とやらは、こちらの発射したフォトン粒子砲とぶつかって消滅したようだった。

 

 と、そこでエーテルフォトニクス社のチヒロ先輩から通信が入る。

 

『ライドロイド部隊が列車砲に接近したよ。間違って撃ち落とさないように気を付けて。あと、十六夜ノノミの身柄を確保前に、列車砲を撃ち抜くなんてしないように』

 

「了解!」

 

 よし、そうなると、こちらも主砲で列車砲を破壊するよりも、相手に追いついて副砲で側面を撃ち抜く方針で行こうか。

 私は列車の速度を最大まで上げて、レールの上を爆走させる。

 一方、通信越しに繋がるライドロイド部隊のホシノ、シロコ、セリカ、アヤネの四名は、空を飛び回って列車砲と後部の戦闘列車と激しい戦闘を繰り広げていた。

 

 やがて、列車砲にこちらの車両が追いついた。私は上手く列車型高出力フォトン粒子砲を操縦して、列車砲と横のレールで並走を始める。

 

 そして、鉄道式高出力フォトン粒子砲の側面に設置していた副砲で、敵車両の兵装を狙って撃ち抜いていく。

 

「もしかしてピンチじゃない?」

 

「うおー、死ぬー」

 

 追い詰められていく戦闘車両に乗るハイランダー生徒。

 それから数分もしないうちに、戦闘車両の上部に備え付けられた戦闘ロボットを操縦していた緑髪の生徒二人が、白旗を上げて降参の意思を示した。

 すると、ホシノはライドロイドを乗り捨てて、戦闘車両の上に飛び乗り、さらに列車砲へと向けて走り出す。そして、列車砲に飛び乗った瞬間、ショットガンを撃って戦闘車両と列車砲の連結部を破壊した。

 戦闘車両は白旗を上げながら減速して、後方へと置き去りにされていく。

 

 一方でホシノは、列車砲の装甲に乗ったまま内部への侵入口を探し始めた。

 列車砲の上にホシノ。周囲にライドロイド三台。横に鉄道式高出力フォトン粒子砲。もはや、こちらは王手をかける寸前であると言えた。

 

 だが、物事はそう簡単には進まないようで……。

 

「小鳥遊ホシノ、止まれ!」

 

 列車砲のハッチが開き、内部からハイランダーのスオウが出てくる。だが、彼女は一人ではなかった。口をガムテープでふさがれ、後ろ手に縛られたノノミが、スオウにハンドガンの銃口を突きつけられながら出てきたのだ。

 

 対するホシノは、ショットガンを構えながら、列車砲の上で動きを止める。

 

「ここに来て人質かぁ……」

 

 ホシノが苦い顔をして言った。

 人質……。でも、キヴォトス人の頑丈さを思えば、ノノミに少し痛みを我慢してもらうことで救出は可能。

 そう思ったのだが。

 

「これが何か知っているか?」

 

 スオウが、銃口をノノミのこめかみから、首のあたりに移動させる。

 そのノノミの首には何か小さな物体が、まるでネックレスのようにぶら下がっていた。

 

「ヘイロー破壊爆弾というそうだ」

 

 ……は? ヘイロー破壊爆弾?

 確か以前、トリニティでゴタゴタが起きたときに聞いた覚えがある。

 

「"ヘイロー破壊爆弾……。ハイランダーの背後に、ゲマトリアがいる……?"」

 

 私の背後で状況を見守っていた先生が、ポツリとつぶやくように言った。

 ヘイロー破壊爆弾は、ゲマトリアの兵器なのか。でも、ゲマトリアって確か、『色彩』に壊滅させられたんだよね?

 まさか、今さらその名前を聞くことになるとは……。

 

「銃を捨てろ。それと、横のけったいな代物を下がらせろ」

 

 スオウの要求を受け、いつの間にか速度を落としていた列車砲の上から、ショットガンを捨てるホシノ。

 私もそれに合わせて、速度をゆるめていた鉄道式高出力フォトン粒子砲を完全に停車させる。

 

 すると、スオウは大きな声で「発車しろ!」と叫ぶ。

 そして、金属がきしむような音を立てて、列車砲が動き出す。その次の瞬間。

 

 ホシノが不意を突くように前方に走り出し、いつの間にか取りだしていたハンドガンでスオウを撃った。

 発車の揺れと銃弾の衝撃で、スオウは列車の上から振り落とされる。

 

 そして、ホシノがノノミを確保し、その身に抱えた。そして、ノノミの首にぶら下がっていたヘイロー破壊爆弾の紐を引きちぎって列車の下に投げ捨てる。。

 一方、列車砲から落ちていくスオウは、取り落とした銃を持っていた右手と逆の方、左手を天に向けて突き出した。

 

「そうか、それがお前の答えか。十六夜ノノミは、お前のせいで死ぬのだ」

 

 そう言って地に叩きつけられながら、スオウは左手の何かをギュッとにぎりこんだ。

 すると、ノノミの腹部から光がほとばしり……ノノミは身体から力を失ったようにうなだれる。そして……彼女の頭上に輝いていたヘイローが、消え去った。

 

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