【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
ヘイロー破壊爆弾の光は、ノノミのヘイローをかき消した。
ノノミが外傷を負った様子は見えない。だが、その脅威は確実に彼女の身を蝕んだのだ。
ホシノの手から離れて、列車砲の装甲に倒れるノノミ。
一方、ホシノは……先生がとっさに飛ばしたであろうエーテルの盾に守られていた。
その盾はやがて消え、解放されたホシノは、ふらりと身体をゆらして、倒れたノノミにすがりつくように
そんなホシノに向けて、列車砲から砂地に落ちたハイランダーのスオウは、ホシノに先ほど撃たれた右肩を押さえながら立ち上がった。
「お前だ。お前のせいで十六夜ノノミは死んだ」
ノノミを爆破したのはスオウだ。だというのにスオウは、まるでその死の責任がホシノにあるかのように言い放った。
こいつ……!
だが、その言葉はホシノの胸中を確かにえぐったのだろう。
ノノミを腕に抱え上げながら、ホシノがつぶやくように言う
「私のせいだ……」
「"違う!"」
「……私が、殺した」
安藤先生が、鉄道式高出力フォトン粒子砲の車中から飛び出しながら、否定の言葉を叫ぶ。
だが、その声はホシノに届かず。
「私が、私が……私が。私が。私が。私が。私が。私が――」
目を見開いて、ヘイローが消えたノノミを抱え、
「――また、殺した」
ホシノがノノミの身体を抱きながら天を仰いで
突如としてホシノの足元から赤い光が漏れ出し、大量にあふれて光の柱が彼女を包んだ。
その光の奔流は衝撃をともなっており、鉄道式高出力フォトン粒子砲の車中が大きく揺れた。
ホシノに抱えられていたノノミの身体は、吹き飛ばされ宙を舞う。それを見て、とっさにライドロイドを操作したアヤネが、ノノミの身体をキャッチした。
一方で、赤い光に包まれたホシノは、明らかに尋常ではない姿に変わっていった。
頭上のヘイローの色は白と黒の間を点滅するように行き来し、身体と服は赤黒く染まる。目は怪しく輝き、最早人とは言えない、人型の怪物と化していっているように見えた。
あわててフォトン粒子砲の車中より出て、衝撃に揺れる列車砲の上で変貌していくホシノを眺める私。
先に車中から出ていた先生はというと、ホシノではなくアヤネと彼女に抱えられるノノミを見つめていた。
そうだ、ホシノが訳の分からないことになっているが、とりあえず今はノノミが無事かどうかだ。
私は、ノノミをキャッチしたままライドロイドで宙に浮くアヤネの方を見て、声をかける。
「ノノミの容態は!?」
「……脈はあります!」
その言葉に、ホッと息を吐く私と先生。
そして、アヤネはライドロイドを地面に下ろし、急いで脱いだ制服のブレザーを砂地に敷いて、その上にノノミを寝かせた。
「怪我は見当たらないですが……意識を失っているようです」
ノノミの容態を確認しながら、アヤネが言う。
気絶しているだけか……。よかった、ヘイロー破壊爆弾なんてなかったんだ。
よくよく考えたら、あのノノミを襲った光は、私がアリウスの面々からエーテル通信塔で喰らったヘイロー破壊爆弾の爆発とは、全く違うものだったよ。
ノノミが腹に受けたあの光は、相手にショックを与えて気絶させる兵器か何かだったのだろう。ヘイローは、眠るか気絶するかだけでも頭上から消えるものらしいからね。
ノノミの命に別状がないというならば、次はホシノだ。
ホシノの方を再び見ると、彼女は赤い光をまき散らしながら、その身を赤黒く変えていく。
「あれは、何がどうなっているのか……」
私がそうつぶやくと、腕の中に『シッテムの箱』のタブレット端末を抱えた先生が、列車砲の上のホシノを見上げながら答える。
「"『神秘』が反転した"」
『神秘』? 確か、キヴォトス人が持つ不思議パワーの源だとかいう……。
「"今のホシノは、『
「『恐怖』……クロコ、シロコ*テラーと何か関係あります?」
「"うん、あのシロコも、『色彩』によって反転した存在だよ"」
「でも、今回どこにも『色彩』なんていないですよね?」
「"ああ。おそらく……ゲマトリアの仕業だね"」
先生は、『シッテムの箱』をギュッとにぎりながら、ホシノをじっと見続けている。
そして彼は、小声で『シッテムの箱』に向けて何かを話すと、ハッとしたような表情になった。
「"まだ反転は完遂していない"」
ホシノの白と黒に行き来するヘイローを見上げて、先生が言う。
「"今ならまだ、『シッテムの箱』に触れさせることで、ホシノを救えるかもしれない"」
「何がどうなってそうなるのか分からないですが……、とにかく先生をホシノのもとに連れていけばいいんですね?」
「"うん、ホシノのヘイローの色が点滅しているよね。あれが完全に黒く染まる前に、『ウトナピシュティムの本船』の力でもとに戻す"」
『ウトナピシュティムの本船』って……あの宇宙戦艦のこと?
あの船は『色彩』を撃退した後、連邦生徒会の手によってアビドス砂漠に封印されたはずだが……。
「先生、もしかして『ウトナピシュティムの本船』を遠隔で動かしてます?」
「"必要だからね"」
そりゃまた、始末書で済めばいいけど……。
いや、罰則があろうとなかろうと、何かの力を借りるだけでホシノを助けられるなら、助けるべきか。
それにしてもあの船、アークスの技術も使って封印してあるんだけどなぁ……。『シッテムの箱』があればその封印も意味がないということか。
「"今のホシノは、『神秘』と『恐怖』が重なり合っている状況らしい。堕ちかけて、それに抗っている。そこで、『ウトナピシュティムの本船』の多次元解釈システムで、『神秘』側に傾ける"」
「……二つの状態が重なり合っているから、並行世界を操る力で、片方を選択してやるってこと?」
「"そういうことみたいだね"」
なるほど。多次元解釈システムなら、それくらいできてもおかしくはない。
よし、そうなれば、全力でホシノに近づこう。作戦名、『シュレディンガーのおじさん』!
私はアイテムパックから
安藤先生も、エーテル具現化能力でいくつも盾を取りだして、足を前に踏み出す。
すると、それに反応したのか、赤黒い姿に変わったホシノが、手の中のハンドガンを構え、こちらに銃弾を撃ち込んできた。
いや、それははたして銃弾と言えるのか。飛んできたのは赤く輝く光弾で、それを先生の浮遊する盾が斜めに弾く。
相手の武器はハンドガンだというのに、まるで機関銃のように光弾が連続して飛んでくる。
しかし、それでも私と先生は着実に前へと進んでいった。
さらに、援護するようにライドロイドに乗ったシロコとセリカがホシノの周囲を飛んで、注意を引きつけようとしてくれる。
まるで周囲を飛び交う羽虫を払いのけるかのように、ホシノは腕を振って光弾をライドロイドに向けて飛ばす。だが、シロコとセリカは、機体を見事に操ってひらりひらりと回避していく。
さらに、そこへノノミを介抱していたアヤネの大声が届く。
「ホシノ先輩! ノノミ先輩は無事です! 生きています!」
そんなアヤネの必死の叫びは……ホシノの耳には届いていないのか、ホシノは光弾をまき散らす行為を止めようともしなかった。
だが、それでも私と先生は列車砲の上に乗るホシノに近づいていっている。
やがて、あとは列車砲に飛び乗るだけというところまで着たところで……突如、空が割れた。
夕闇に支配されかけていた空に浮かぶ雲が割け、雷をともなって何か巨大な物体が空の上から降ってくる。
天から降臨したその物体は……宙に浮く金色と白の二色の石材でできたパーツと、そのパーツから吹き出す青白い光の身体で構成された、謎の物体としか言いようのない存在だ。
頭、胴、両腕と、かろうじて人の形を模した存在であることは分かるが、下半身はない。言わば、上半身のみで宙に浮いた、光の巨人とたとえられそうな『何か』であった。
「今度はなんなの!?」
ライドロイドを操るセリカが叫ぶように言うが、本当になんなんだ一体。次から次へと訳が分からないぞ!
と、一瞬呆けてしまったところに、光の巨人が両腕を開くように動く。
すると、巨人の頭上から雷がほとばしり、空を飛ぶセリカとシロコに雷撃が飛んでいった。
「!?」
だが、そこへ先生の浮遊する盾がインターセプト。雷撃は具現化されたエーテルの盾にぶつかり、散っていった。
「"あれは後回しにして、ホシノを救おう"」
と、先生が私の背後で言った。
うん、そうだね。いきなり変なやつに乱入されたけど、大事なのはホシノの方だ。
私はその場で跳躍し、列車砲の上に飛び乗った。
それと同時にホシノから光の弾が飛んでくるが、先生が飛ばしたエーテルの盾によって防がれる。
私はホシノに肉薄し、手に持った大剣の刃で怪我をさせないように、剣の腹を叩きつけた。
だが、その剣の一撃は、ハンドガンを持たない方の手を無造作に払うことで、ホシノに軽々と防がれた。
攻撃を弾かれた私は、即座に剣をアイテムパックの中にしまい、無手になる。そして、そのまま私はホシノに向けて組みついた。
熱っ、ホシノの身体、あっつ!
でも、耐えられないほどではない! アークスは、フォトンの力で溶岩に浸かっても生きていられるくらいだからね!
組みつく私に、当然、ホシノは抗うようにハンドガンを向けてくる。が……先生の呼び出した大小様々な盾の群れが、四方八方から彼女に襲いかかる。殴りつけるようなシールドバッシュにホシノは気を取られ、私はその隙を突くことで彼女を制圧することに成功した。
組みついた私に押さえつけられたホシノへ、先生が近づいてくる。
そして、先生が手に持った『シッテムの箱』を近づけようとしたところで……ホシノは驚くような膂力で私の拘束を抜け出し、先生へ向けてハンドガンの銃口を向けた。
うおっ、ヤバイ! ……だが、その瞬間。どこからか銃弾が飛来し、ハンドガンに命中。ホシノは、不意の衝撃にハンドガンを取り落とした。
「"アロナ、プラナ、頼む!"」
先生がホシノの胸に『シッテムの箱』を触れさせると、端末の画面が青く輝き、胸から青い光が浸食するように広がっていく。
その青い光は、ホシノから漏れていた赤黒い光を打ち払うように伝播し……ホシノの点滅していたヘイローの色が、白に戻っていった。
赤く染まっていた身体に色が戻っていき、いつものアビドスの制服姿に戻ったホシノ。
私の組み付きから逃れようとしていた怪力も収まり……ホシノの目に理性の光が戻るのであった。
「間に合ってよかった」
息を吐く私達に、遠くから声をかける功労者が一人。
それは、銃を片手に持った並行世界のシロコこと、クロコだ。先ほど、先生を撃とうとしていたホシノのハンドガンを狙撃したのは、彼女のようだった。
「ありがとう、クロコ。助かったよ」
私は組みついていたホシノから離れ、列車砲の上からクロコに声をかける。
「ん、世界の危機だったから、急いだ」
クロコも無表情のままそう答えた。彼女のかたわらにはライドロイドが停められている。私が以前、クロコの足として支給してあげた社用車だ。
まったく、ここぞというときに現れるとか、美味しい役どころを持っていかれたね。ま、役立つ助っ人は大歓迎だけどさ。
しかし、世界の危機だって?
クロコは、銃を手に持ちながら空を見上げるようにして言った。
「次はあれをどうにかしないと」
彼女の視線の先には光の巨人が宙に浮き、雷撃を周囲に振りまいている。
「クロコは、アレが何か知っているの?」
「ん、あれは『セトの
私の問いに、正直に答えてくれたクロコ。
だが、その答えはいまいち理解しづらいものだった。しかし、先生には正確に伝わったようで……。
「"ホシノを倒すために出てきた敵かな?"」
「そう。放っておくと、ホシノ先輩もろとも世界を滅ぼそうとする。私のいた世界もあれに破壊された」
……マジで世界の危機だった!
前も思ったけど、キヴォトスには厄ネタが多すぎる。
「"じゃあ、どうにかしようか"」
と、そこで先生が唐突に、大人のカードを取り出した。
それを見て、私は思わずギョッとしてしまう。
大人のカード。言わば、先生が本気になったときに出す必殺技だ。今回は、このカードで何をしでかそうというのか。
「"『シッテムの箱』の力では、私が取りこぼしなく指揮できる人数はせいぜい六人まで"」
今ではエーテル具現化能力で前線に立つようになった先生だが、それまでは生徒を率いて後方から指揮を執るのが彼の役目だった。
その指揮の上限人数は、六人が限界だったらしい。確かに、何十人という集団の指揮を執るときは、割と大雑把だった気がする。
「"でも、プラナが加わった『シッテムの箱』にアップデートをかければ……"」
先生が大人のカードを掲げると、彼の腕の中にあるタブレット端末が青く輝く。
「"制約は解除された。十人までなら過不足なく指揮が執れるよ"」
先生の周りに、生徒が集まってくる。
理性を取り戻したホシノ。ライドロイドから降りたシロコとセリカ。気絶から回復したらしいノノミと、それを支えるアヤネ。
鉄道式高出力フォトン粒子砲から降りたコトリ、ヒビキ、ウタハ部長。
セトの憤怒を見上げるクロコ。
そして、大人のカードの力で召喚されたのか、突然この場に現れ、驚きに周囲を見回しているチヒロ先輩。
十人の生徒が、ここに集まった。
って、私は!?
「"リク、君には逐一指示を与えなくてもいいよね。遊撃を頼むよ"」
ああ、そういうことね。確かに、私は先生の指揮に従って戦うということをあまりしない。私はアークスの銃手としての手数が多く、先生も私が何をできるかを把握しきっていないだろう。なので、自由にやらせてもらうのが一番だ。
「"そして、私もみんなの盾として、一緒に戦える"」
先生は、エーテルを具現化した盾を複数周囲に浮かべながら、不敵に笑った。
十人の生徒に、先生自身。そして先生の指揮下に収まらず好き勝手攻撃する私を加えて、十二人。このフルメンバーで、セトの憤怒を迎撃する。
しかし、十二人か。その数字に、私は思わず笑ってしまう。
「あはは。やっぱりレイドボス戦は、十二人で挑まないとね……!」
それは偶然か必然か。アークスが強敵を相手にするときに組む選抜メンバーの数と、見事に一致していた。
さあ、いくぞレイドボス。世界を滅ぼそうというのなら、アークスである私が逆に滅ぼしてやる!