【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在   作:Leni

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EX6.雷霆統べし憤怒の星辰

 世界を滅ぼす敵、『セトの憤怒』との戦いが始まる。

 だが、その前に一つ確認すべきことがあった。

 

「クロコ、あいつはどんな動きをする?」

 

 別の世界で『セトの憤怒』と戦ったことのあるらしいクロコに、私は助言を求めた。

 

「ん、雷をとにかくいっぱい落としてくる」

 

 その助言に、周りのみんなが嫌そうな顔をする。

 

「銃弾を受けた経験はいくらでもあるけど、雷はちょっと慣れないなー」

 

 列車砲の上から投げ捨てたショットガンを回収していたホシノが、苦笑しながらそんなことを言った。

 あー、なるほど。キヴォトスだと雷はただの自然現象でしかなく、敵が使ってくることはまずないのか。

 

 私はアークスの任務とか、アークスとの模擬戦とかで、雷撃は受け慣れているけどね。なんなら、テクニックを使えるクラスに就けば、自分で雷撃を放つことすらできるようになる。

 

「"私も雷を盾で防ぐ機会は、今日までなかったね……"」

 

 先生が、戦闘参加メンバー一人ひとりに浮遊する盾を飛ばしながら、悩ましい顔でそうコメントした。

 実際のところ、キヴォトス人は銃弾を受けても痛いだけで済むけれど、雷撃への耐性はどうなっているんだろうね。

 

 さて、そんな事前の作戦タイムも、長くは取れないようだ。

 空の上から『セトの憤怒』がゆっくりと降りてきて、周囲に雷をばら撒き始める。

 私は、武器パレットから長銃(アサルトライフル)の『ユニオンライフル』を取り出す。そして、挨拶代わりの一撃を撃ち込むため、特殊弾のマガジンを長銃に込めた。

 

 みんなもそれを合図として、各々の武器を構えた。

 

「"戦闘開始!"」

 

 先生の号令と共に、私は特殊弾《ウィークバレット》を『セトの憤怒』に叩き込んだ。

 光の巨人である『セトの憤怒』の胸部に輝くクリスタルに弱点が付与され、赤いマーカーが浮かび上がってくる。

 

「"みんな、まずはあの赤くなった部分を積極的に狙って!"」

 

 先生が瞬時に《ウィークバレット》の特性を把握し、全員に指示を出した。

 先生には以前《ウィークバレット》を見せたことがあったはずだから、これがどんな代物か覚えていてくれたのだろう。

 

 そこから、皆の銃撃が『セトの憤怒』を襲った。

 一発、二発、三発。着実に銃弾が命中して、マーカー部に攻撃が命中したとき特有の快音を立てていく。

 

 だが、敵はそれでひるむこともなく、反撃に雷撃を飛ばしてくる。

 もし受けたのが、ただの地球人なら即死してしまいそうな、まばゆい(いかずち)。しかし、先生の盾により、それは簡単に散らされた。

 

「"うん、雷は私が防ぐよ。シロコ……ううん、クロコ。あいつに弱点となる部位はある?"」

 

「ん、分からない……とにかくしぶといし、撃ってもひるまないから、どこが弱点かは……」

 

「"分かった。それなら基本的には、リクが付けるマーカーを狙うことにしようか"」

 

 そうして、『セトの憤怒』との激しい戦いが始まった。

 

 なるほど、世界を滅ぼすレイドボスという座に相応しい存在だ。何十発と銃弾を浴びてもなお、平然と宙に浮いて雷をまき散らし続けている。

 でも、巨大なレイドボスがしぶといのは、アークスの任務(クエスト)ではいつものことなんだよね。

 十発で足りないなら百発。百発で足りないなら千発の銃弾を撃ち込んでやればいい。

 

 そんな気持ちで、私達は『セトの憤怒』へと攻撃を続けた。

 もちろん、相手も黙って撃たれるだけの木偶の坊ではない。

 

 空から降る落雷に、身体の中心部から放つ雷撃。浮遊する雷球なんて攻撃もあり、大半は先生の盾に防がれる。が、その攻撃の一部は、生徒達に直撃することもあった。

 やはり雷撃による痛みに慣れていないのだろう。感電して倒れてしまう生徒が、幾人も出た。

 

 だが、ここでアヤネが大活躍をする。

 エーテルフォトニクス社から遠隔操作で薬品を空輸して、それを使って皆を回復させていったのだ。

 エーテルフォトニクス社の薬品は、アークス製の回復剤をキヴォトスの材料で再現した物だ。

 速効性が高く、中には広範囲を一度に治療する物まである。それにより、誰も先生から撤退指示を受けることなく、戦いは続いていた。

 

 やがて、『セトの憤怒』は、その動きを変える。

 攻撃を受け続けることを嫌がったのか、高度を高く取り、周囲に雷の嵐とも言える雷撃の遮蔽膜を作り始めたのだ。

 

「こしゃくな……!」

 

 思わず私はうなる。

 距離を取って安全地帯に逃げ込もうってか? 初期のモンハンのワールドツアーじゃないんだからさ!

 だが、こちらの武器は遠距離攻撃が可能な銃だ。狙撃するように銃弾を撃ち込んで、『セトの憤怒』に少しずつ攻撃を加えていく。

 まあ、銃の種類の関係上、全員の銃弾が届くというわけでもなく……。

 

「うへー、この距離じゃ、おじさん役立たずだよー」

 

 ハンドガンとショットガンが武器のホシノは、上空にいる『セトの憤怒』に有効打を与えられずにいた。

 ショットガンって弾の到達距離は長いけど、相手に痛打を与えられる有効射程自体はそこまでは長くないからね。

 

 このままじゃ、とても撃退までいかないぞ……? ライドロイドに乗って、空で戦うか?

 なんて思っていたときのこと。先生が、彼の近くにいたウタハ部長とヒビキに、なにやら新たな指示を出し始めた。

 

 激しい雷鳴のせいで、どんな指示が出たか聞こえなかったが……二人の行動を見て、私は即座に指示の内容を理解した。

 二人はその場から走り出し、後方で放置されていた鉄道式高出力フォトン粒子砲に乗りこんだのだ。それを見て、私の近くにいたコトリが「あー、私を置いて何をー!」と叫んでいる。

 

 それからすぐに、鉄道式高出力フォトン粒子砲の砲塔が動く。『セトの憤怒』に、主砲を撃ち込もうというのだろう。

 わずかなチャージ時間。そしてすぐに、光が天を貫いた。

 

 フォトン粒子の奔流が、『セトの憤怒』に直撃。雷の遮蔽膜を吹き飛ばし、『セトの憤怒』を構成していた光の身体を大きく欠けさせた。

 さらに『セトの憤怒』は、後方へと吹き飛ばされる。そこで、前衛を担っていたホシノを始めとする生徒達が、それに追いすがろうとした。

 

 だが、そこへ割り込むように、大きな声が周囲に響いた。

 

「待て!」

 

 その声を発したのは……ハイランダー鉄道学園のスオウだ。

 

「シェマタの主砲を撃ち込む。危険だから近づくな!」

 

 列車砲のかたわらに立ち、頭を右手で押さえてどこかふらつきながら、スオウが言う。

 おお、すっかり彼女の存在を忘れていたが、そういえば列車砲から落下してから、みんなスルーしていたな。

 ここに来て、スオウは私達の味方をしてくれるらしい。

 

 そして、スオウは列車砲の横で、なにやら通信機に向かって指示を出し始める。すると、停車していた列車砲が動き出した。

 先ほどの高出力フォトン粒子砲と同じように、列車砲の砲塔が『セトの憤怒』の方を向いていく。

 

「撃て!」

 

 スオウが通信器越しに号令をかけた瞬間、強烈な熱波と共に、列車砲シェマタの主砲から光の帯が噴き出た。

 これが列車砲シェマタのプラズマ砲か!

 シェマタの一撃は宙を切り裂くように走り、的中。『セトの憤怒』は、フォトン粒子砲に続いて大打撃を受けた。奴の身体を構成していたパーツが、バラバラに砕け散る。

 そして、巨人の上半身の形を維持していた青白い光が霧散し……まるでそこに何もいなかったかのように、消えてなくなった。

 

「ん、私達の勝ち」

 

 銃を下ろしたクロコが、皆に勝利を知らせるようにそう宣言した。

 すると、固唾を飲んで列車砲の動きを見守っていた戦闘部隊の生徒達が、わっと歓声を上げる。

 

 こうして、世界を滅ぼす災厄は……何者も滅ぼすことなく、夕闇の下に消滅した。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 その後の話をしよう。

『セトの憤怒』を退治し終えた私達は、列車砲を囲むように展開した。『セトの憤怒』は私達とハイランダーにとって共通の敵だったが、ハイランダーが列車砲の奪取を狙っていることには変わりはないからだ。

 

 しかし、ハイランダーの面々はあっさりと投降し、列車砲を素直に受け渡してきた。どうやら、このまま対立しても一方的に負けるだけだと、スオウは判断したらしい。

 

 そのハイランダーのスオウだが……先生によると、ゲマトリアの『地下生活者』なる人物に精神の操作を受けていた可能性が高いとのこと。列車砲に乗りこんでいたハイランダーの生徒達は、それを聞いてすぐさまスオウを拘束。そして、後ろからやってきた戦闘車両に乗せられて、スオウは病院送りとなった。

 

 ちなみに列車砲に乗りこんでいたハイランダーの生徒曰く、ヘイロー破壊爆弾なんてものはなく、私達を脅しつけるためにスオウがついた嘘であるとのこと。ノノミに使った光の爆弾の正体は、ヘイロー持ちを一瞬で気絶させる謎の新兵器らしい。ノノミ自身も、その安全性を事前に知らされたうえで、人質とされていたようだ。

 

 謎の新兵器をスオウがどこから手に入れたのかは不明。先生によるとゲマトリアの可能性が高いらしい。

 まあ、頑丈なキヴォトス人が一瞬で気絶するとか、それはそれで危険だ。一般に出回っていないことを祈るしかないね。

 

 なお、スオウは病院で精神の汚染が認められて、そのまましばらくの入院となったようだ。

 そもそも、ハイランダー鉄道学園による列車砲の奪取もスオウが決めたことらしく、スオウを欠いたハイランダー側は正式に列車砲からの撤退を表明した。なので、残った列車砲は、再びエーテルフォトニクス社とセイント・ネフティス&私募ファンドの奪い合いになる……ことはなかった。

 

 スオウが指摘した通り、列車砲シェマタは砂漠横断鉄道の権利書には、存在が示されていない代物だ。

 なので、誰かが所有権を主張できるわけでもなく、そこへやってきたゲヘナ学園の生徒会組織『万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)』と風紀委員会が、またたく間に列車砲を解体・爆破してしまった。

 なんでも、ゲヘナの暴君であった『雷帝』の遺産は、ゲヘナにとって優先的に破壊すべき対象らしい。

 

 ちなみに、ホシノ曰く、ゲヘナ側はちゃんとアビドス生徒会に仁義を通してくれたらしい。それにより、ゲヘナ学園のアビドス自治区侵入も特に問題視はされずに、列車砲のスムーズな解体へと繋がったようだった。

 

 こうして、砂漠横断鉄道の権利からは『雷帝』の遺産という、特大のおまけ要素が欠けることとなった。

 それが判明した時点で、私募ファンドは砂漠横断鉄道の権利取得から撤退を表明。

 砂漠横断鉄道の権利は、こちらが簡単に確保できるようになった……と思われた。が、しかし。ネフティスは撤退せず、砂漠横断鉄道の権利取得に意欲的だった。

 

「どうする?」

 

「うへー、どうしよっか」

 

 そんなやりとりをするくらいには、私とホシノは、その後の対応に困ってしまった。

 もともと、エーテルフォトニクス社が砂漠横断鉄道の権利にこだわったのは、事前に『生徒会の谷』で発見していた列車砲が、よその勢力に流れないようにするためだ。

 ならば、今なら私達も撤退していいのだけど……。

 

「ホシノ副社長は、前生徒会長のユメ先輩って人が残した契約、放棄していいの?」

 

 私はホシノの真意を測るかのように、そんな質問をした。

 実はこのホシノ、副社長の立場を使って、エーテルフォトニクス社の情報部にこっそり頼み事をしていたらしいのだ。

 それは、アビドス生徒会前生徒会長の梔子(くちなし)ユメが亡くなる前に持っていた、一冊のメモ帳を探し出してほしいという捜索依頼。ホシノはそこに何か、ホシノへの大切なメッセージが書かれていると思っているらしい。遺言かな?

 

 アビドス生徒会のホシノ以外のメンバーから聞いたことだが、ホシノは梔子ユメへ強い執着心を持っているらしい。

 だから、その梔子ユメが二年前にネフティスと交わした砂漠横断鉄道の売買契約書も、ホシノにとって大事なものなのかと私は思ったのだ。

 だが、ホシノの返答は、すごくあっさりしたものだった。

 

「うん、いいよー。昔のことにあんまりこだわるのも、よくないよね」

 

 どういう心境の変化があったのか。それとも、執着心なるものはアビドス生達の勘違いだったのか。

 

「アビドス自治区の再生は、今が大事な時期だからね。おじさんにだって、それくらい分かるのさ」

 

 そんな風に茶化しながら、ホシノは簡単に売買契約書の破棄を決めてしまった。

 というわけで、再び行われたネフティスとの砂漠横断鉄道の権利の話し合いでは、エーテルフォトニクス社は相手側に歩み寄る姿勢を見せて、ネフティスに砂漠横断鉄道の権利を譲ることとなった。

 

 まあ、でも、その背後ではネフティスに対するM&Aは、しっかり進んでいるんだけどね。砂漠横断鉄道が利益を上げる前に、買収は進んでいることだろう。

 

「"あくどいことは控えるようにね"」

 

 と、ネフティスとの話し合いの後に、釘を刺すように言ってきたのは安藤先生だ。

 実は彼、現在、エーテルフォトニクス社の本社に泊まり込んでいる。

 

 というのも、例の爆破テロによって、シャーレビルは地下フロアを残して完全に崩壊してしまった。

 なので、ビルの再建が終わるまで、先生は作業を行う場所がないという状況に追い込まれてしまったのだ。

 普段から徹夜が当たり前の仕事漬けの生活をしていたのに、仕事場がないのでは、どうしようもない。なので、私は先生に仮の仕事場を提供することにした。

 

 安藤先生は、我が社の外部顧問だ。ということは、本社内にデスクを持っていることは、なんら不自然ではないよね。本社にデスクを移して最初にやった仕事は、『ウトナピシュティムの本船』の多次元解釈システムを勝手に使ったことの始末書作成だったらしいけどね。

 

 なお、放課後に先生の世話役をするシャーレ当番の風習は、未だに廃れていない。そのため、他校生のシャーレ部員がエーテルフォトニクス社の社屋内をうろつく事態になっているんだよねぇ。あんまりよくない状況と言えるので、シャーレビルの再建は早くしてほしいものだ。

 

 ちなみに、シャーレビルの爆破の件と、アビドスの会館の爆破の件は、同一犯の犯行と見なされてヴァルキューレ警察学校の捜査が進められている。入院中のスオウにも疑いが向けられているが、彼女は会館が爆破される事実を知っていただけで、爆破自体はしていないと主張している。ちなみに、誰から爆破される事実を聞いたかは、全く覚えていないそうだ。

 これが先生の言う、精神の操作ってやつが原因なのかもしれない。おのれゲマトリア。

 

 まあ、犯人捜しは私には関わりのないことなので、今は社長としての仕事を頑張ることにしよう。

 具体的な仕事として、鉄道式高出力フォトン粒子砲の兵器としての危険性を方々から指摘されていて、それに対応することだ。

 

 いやー、エンジニア部の技術力、すっかりキヴォトス中に広まったよね!

 ミレニアムサイエンススクールのユウカからは、なんでミレニアムのための発明じゃなくてアビドスのための発明をするのかと、詰められたけど。知らんがな。

 

 はあ、私もたまにはエンジニア部で思いっきり技術開発して、ストレスを解消したいな。

 私は社長である前に学生なんだよ。なんて、そんなことを副社長のホシノに愚痴ってみたら、笑って返された。

 

「社長も、おじさんみたいに仕事は適度に手を抜いて、青春を謳歌することを覚えないとね」

 

 青春! ああー、私も全力で青春したい!

 私の青春の物語(ブルーアーカイブ)は、どこにあるのやら。

 




後日談のアビドス三章編は以上で完結となります。
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