【完結】銃で撃たれても痛いだけで済む神秘的存在 作:Leni
「連邦捜査部シャーレだ! 連邦生徒会の権限により、強制捜査を行なう!」
銃を構えながら突入したのは、先日の防衛戦からさらに増えた援軍メンバー。突入先は、闇市『ブラックマーケット』に建てられた銀行だ。
真っ昼間の強制捜査に、訪れていた客達は目を白黒させている。まあ、闇市にある銀行だからね。客も何かしら後ろ暗いところがあるだろう。
しかしだ。私達は警察じゃない。客達が犯罪に関わっていようが、そちらに構っている暇はないのだ。
トリニティ、ゲヘナ、ミレニアムの三大校から援軍に来たメンバーは、今、完全にこの銀行を取り囲んでいる。
そして、先生を中心にして、アビドス高校のメンバーと各組織の幹部達が、店内を突き進みカウンターに向かっていった。
先頭に立つのは、前回のアビドス防衛戦には居なかった人物。
その名は――
「ひいっ!
カウンターの銀行員が言った通りの人物で、なんでもゲヘナ最強の名が高い生徒らしい。
その風紀委員長ヒナは、眉をひそめた表情で銀行員に言う。
「誰が風紀委員だと言った?」
「へ?」
「私達はシャーレ。連邦捜査部シャーレ。つまり……連邦生徒会による捜査だと思いなさい」
「ひえっ!」
学園都市キヴォトスにおいて、連邦生徒会の名は絶対だ。闇市にある銀行なんて、連邦生徒会が持つ権限からしたら、吹けば飛ぶような矮小な存在だ。
後ろ暗い取引を続けてきたのなら、なおのこと怖いだろうね。
「私達の要求は、カイザーローン及びカイザーコーポレーションが関わった記録全ての提出よ」
「えっ!? カイザーですか……?」
ヒナ委員長の要求に、ロボット頭の銀行員は困惑する。
すると、横からアビドス高校の眼鏡サポーター、
「アビドス高等学校がカイザーローンに渡していた借金の返済金が、テロ組織に流れていた疑いがあります」
「な、なるほど……」
「ちなみに道中でマーケットガードは蹴散らしてきたから、時間を稼げば応援が来るとは思わないで。キリキリ動け」
そう言って追加で銀行員を脅したのは、アビドスの
ああ、銀行員が目を回しそうになっているな。ここは私からフォローを入れておこう。
「なにも私達は、この銀行やブラックマーケットそのものを潰しにきたわけじゃないんですよ。あくまで、カイザーローンの不正に対する捜査をしたいだけです。安心して作業を行なってください」
「は、はいー!」
そうしてカウンター内の銀行員達が慌ただしく動き始め、援軍メンバーの幾人かがカウンター内に入って彼らを監視し始める。
まあ、彼らがカイザーローンやカイザーコーポレーションを庇って書類を闇に葬る心配はないだろう。別にこの銀行の親玉はカイザーコーポレーションじゃないから。彼らにとっては単なる取引先の一つでしかない。
カイザーコーポレーションもメインバンクは別にあって、この銀行は後ろ暗い金の資金洗浄に使っているだけだろうと安藤先生が言っていたしね。
やがて書類がカウンターに詰まれていき、新しい書類もドンドン印刷されていった。
銀行側も業務で使っているコンピュータを押収されたくないみたいだね。関連資料は全部ここで吐き出すつもりのようだ。
そんなことをしている間に、銀行内に展開していた援軍メンバーのうち、ゲヘナ所属の子が風紀委員長のヒナの下へと小走りでやってきた。
「委員長。『便利屋68』がこちらをうかがっています」
「ああ、そう。偶然居合わせたのかな。手を出してこないなら、無視してよろしい」
「いいんですか?」
「いいの。今の私達は風紀委員会ではなく、連邦捜査部」
「了解しました」
ふーむ、話から察するに、ゲヘナの風紀取り締まり対象でも居たのかな? ブラックマーケットの銀行にいるくらいだから、問題児なんだろうね。
「うーん、なぜ私はこの場にいるのでしょう……?」
カウンターに積まれる資料を仕分けながら、言うのは、トリニティ生の
彼女はブラックマーケット内でマーケットガードに追われているところをシャーレが保護した。そして、資料を精査できる真面目な生徒が一人でも多く欲しいので、トリニティの正義実現委員会のメンバーが彼女をシャーレに引き込んだ。
手際はよいので、仲間に入れたことは正解だったのだろう。今日一日は、マーケットガードから助けた見返りに、シャーレの臨時メンバーとして頑張っていただくのが正実の方針らしい。
さて、それからしばらくして、銀行内で回収できる資料は全て回収し、私達シャーレ一同は銀行を後にした。
建物の外に出たら、マーケットガードが外の警護に回っていた援軍メンバーとにらみ合っていたが……戦闘は再開せず、私達はすんなりとブラックマーケットを脱出できた。
そして、アビドスの本校舎へと移動し、総員で銀行から受け取った資料の精査を始めた。
「やっぱりカイザーローンからヘルメット団に資金が動いてる!」
「アビドス自治区の土地が、カイザーの系列会社に買い取られているよ!」
「えっ、アビドス高校に無断で、自治区を勝手に取引しているんですか!?」
「いえ、以前の生徒会が、借金のカタに売ったみたい。もう何年も前の記録だよ」
「マジかー。誰か『地籍図』持ってきて! 自治区の土地台帳のやつ!」
「うわ、この校舎周辺以外、全部カイザーの土地になってる……」
「もうこれ、アビドス自治区じゃなくてカイザー自治区になっているんじゃないかしら」
カイザーコーポレーションの不正を調べていたら、何やら余計なことも判明したようだ。
アビドス高校は現在のように衰退する以前はマンモス校の一つに数えられていて、その自治区はとても広い*1。だが、その広い自治区の土地の大半が、カイザーコンストラクションという企業の所有へと変わっていたことが判明したのだ。
土地を売ったのは、昔のアビドス生徒会。
ただし、現在のアビドス生徒会のただ一人のメンバーであり、アビドス廃校対策委員会の一人でもあるロリおじさんこと
だが、この事実について、ゲヘナの風紀委員会やトリニティの正義実現委員会の幹部達は、事前調査で知っていたらしい。
彼女達にとっては、今回の資料は予め調べていた情報を裏付ける、確かなソースでしかなかった。
それよりも幹部達は、カイザーコーポレーションの不正をしめす資料を調べる方が先決と考えているらしい。
まあ、すでに終わった売買の話を掘り下げてもアビドスの不利は、くつがえらないからね。
ただ、アビドスの五名は御通夜なのかってくらい落ち込んでしまった。
「まったく、肝心のアビドス生がそんな調子でどうするの」
そんなアビドスの五人をヒナ委員長が煽りに行った。
「いやー、さすがにこの事実はおじさんでもショックを隠せないよ」
ロリおじさんホシノがそんな泣き言を言うが、ヒナ委員長は気にも留めない。
ヒナ委員長はホシノに向けて、冷たい目で告げる。
「それよりも手を動かして。でも、そうね。頭を使う作業ができないなら、足を動かして噂を確かめてもらおうかな」
「噂?」
「アビドスの砂漠、本来のアビドス本校舎……本館があった場所で、カイザーグループが何かを発掘しようとしているらしいの」
「うへー、なにその噂」
「そもそも砂漠化していっているアビドス自治区を買い叩いて、カイザーグループになんの得があるのか。その理由が、本館にあるかもしれない」
「つまり、本館を探れってことかな?」
「そうね。でも、さすがに今の段階ではシャーレの権限をもってしても、カイザーグループが所有する施設に踏み込めない。ゲヘナの風紀委員会という立場だと、もっとなんにもできない」
「スニークミッションだねー」
「外観の偵察程度にしておきなさい。内部に侵入して捕まったら、さすがに擁護はできないから」
「了解ー。じゃ、先生、行こうか」
話を終えたホシノは、先生を誘って外へと向かおうとする。だが、その行為はヒナ委員長の想定外だったらしい。
「ちょっと、なんで先生を連れていくの!?」
「えー、だって、カイザーの兵隊がいるかもしれないしさぁ。戦闘になるなら先生の指揮がないとー」
「こっちの資料の精査だって、大人の先生が必要!」
「えー、そんなの人海戦術でやりなよー。戦闘部隊には指揮官が必要だよ」
「文官にだって指揮官が要るの!」
なにやらヒナ委員長とホシノが先生を取り合っている。
なんだかなぁ。こっちは資料の確認で忙しいっていうのに何やっているのやら。
「"私は砂漠に向かうよ"」
「ええっ!?」
「やったー。先生、一緒に頑張ろー」
先生の鶴の一声で、その場はまとまった。そうして、アビドス廃校対策委員会の四人と先生は、校外の砂漠へ向かうことになった。
アビドスの残り一人は、ここ本校舎から遠隔でのナビゲートをするようだ。
「"では、行ってくるね"」
去り際に、先生は資料を漁る援軍メンバーにそう挨拶をした。
そんな先生に、私は一言述べておく。
「今度は遭難しないようにしてくださいね」
「"助けが必要ならまた呼ぶね"」
んもー、先生はもー。
◆◇◆◇◆
資料を精査している横で、アビドスのアヤネが遠隔で先生達を支援していく。
砂漠を越えた先、アビドス高等学校旧本館があるべき場所には、代わりにカイザーPMCの大規模拠点があった。
PMC。民間軍事会社。つまりカイザーグループが抱える兵隊だ。
そこの偵察を行なおうとしたアビドス生達だったが……内部に侵入したところで発見され、兵隊達と戦闘になった。
だが、そこはさすが先生。見事な指揮で兵隊を退けた。
しかしだ。勝手に施設へ侵入した事実をカイザー側に知られてしまい、その場に居合わせたカイザーコーポレーション理事のロボおじさんからとがめられてしまった。
『ここはカイザーPMCの私有地だ。そこに不法侵入し、その場に居合わせた社員に対し銃撃をする。とんでもないことをしてくれたな?』
もちろん、反論するアビドス生達だったが、ロボおじさんは意にも介さず続ける。
『では……こうしようか』
映像の中のロボおじさんがスマホを取り出し何かの操作をした。すると、突如、この場から遠隔でナビゲートしていたアヤネ近くにあった黒電話のベルが鳴る。
あの黒電話は、アビドス高校へ連絡するための公的なものだ。
その黒電話の受話器を困惑した顔でアヤネが取る。
「はい……えっ、えっ、そんな……!」
アヤネの突然の叫び声に、書類を精査していた皆の手が止まる。
『残念なお知らせだ。君達の学校の信用が落ちてしまったそうだよ』
遠隔地から伝わるロボおじさんの声と、受話器を握りながら呆然とするアヤネ。
いったい何があったのか。援軍メンバーが固唾を飲んで見守る。
震える手で受話器を置いたアヤネが、声を絞り出すように叫んだ。
「カイザーローンから連絡が来ました……。アビドスの信用評価を最低ランクに下げられて……変動金利を三〇〇〇%上昇……来月以降の利子の支払い……九一三〇万円!」
「!?」
『ちょっ、それ本当!?』
カイザーローンのまさかの無法に、援軍メンバーと遠隔地のアビドス生が一斉にざわめく。
アビドス生の慌てふためく様が面白いのか、ロボおじさんは笑いながらさらに告げる。
『九億円の借金に対する保証金も貰おうか。一週間以内にカイザーローンへ三億円を預託したまえ』
まさかの事態に、室内のざわめきが大きくなる。うわー、アビドスって九億円も借金あったんだ……それが毎月九一三〇万円の利息ってことは月利が約一〇%ってこと? そんなのどうやって返すのさ!
周囲の人達も驚愕が強いのか、ざわめきは止まらない。だが、そんな中で、一人よく通る声が室内に響いた。
「カイザー、あせって手を誤ったか」
それは、ゲヘナの風紀委員長ヒナの声。その声に、室内のざわめきは一瞬で収まる。
どういうことかとうかがうように見守る周囲を無視するかのように笑ったヒナ委員長は、その場で立ち上がり、素早く歩き出す。
向かう先は……私のところ?
「この勝負、私達の勝ち」
そう言いながら、私の目の前に立つヒナ委員長。
「空飛ぶバイクの乗り手、道上リクだったね。今すぐ先生達を迎えに行って。勝利条件はそろった。後は、先生とアビドスの生徒達を無事に帰還させれば終わり」
「お、おう……?」
私は困惑しながら、精査中の書類を机の上に置いて立ち上がる。
すると、私は頭一つ分低いヒナ委員長を自然と見下ろすような形になった。
ヒナ委員長は、私を見上げながら口元をわずかに曲げて笑い、告げる。
「連邦捜査部の私達の前で告げた利率、いくらなんでもやりすぎ。今までの段階でも十分証拠はそろっていたけど、ここまで来るとカイザーローン、楽に潰せる」
おおっと、カイザーローンはキヴォトス基準でも違法な闇金でござるかー。
そういえば先生もこの件の最初に闇金がどうこう言っていたわ。でも、カイザーコーポレーションは、れっきとした表の大企業。
相手はPMCを有する物騒な企業だとしても、今ならシャーレの軍勢がアビドスを守っている。そんな状況で、子会社の違法行為を突っつけば……。
「分かった? 分かったなら、早く空を飛んで先生を助けに行く!」
おおっと、委員長に突っつかれたのは私の方だった!
「了解!」
うおー、先生、今助けに向かうぞー!