便利屋JK   作:フライドレッグ

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観光案内 その5

 

 

 

 探知機の調子が思わしくない。中断した場所から調査を再開したが、先日までかすかにあった反応すらなくなってしまった。

 

「どういうことですの! このポンコツ! なんのために盗み出してきたと思ってるんですか!」

 

 沈黙してしまった探知機とは対照的に、レイはすっかり元気を取り戻した。キビキビと歩き、行く先々で探知機を振ったり宥めたりして反応を見ている。

 先日までとは比べ物にならない速度で動いているのに、調査はさっぱり進展しなかった。

 

「教会に行くのはどう?」

 

 午前の調査がすべて空振りに終わり、すこし遅めの昼食を摂っている最中、私は彼女に提案した。というのも、調査の進みが悪いことを定時連絡で所長に相談したところ、教会に頼ることをすすめられたためだ。

 最初からレイの保護を放棄した教会が助けになってくれるかは疑問だったが、異邦人である『盗人ユライ』の居場所を教会が把握していないはずがないという所長の言葉は納得がいくものだった。

 彼女は3つ目のステーキ皿を脇にどかしてから答えた。

 

「いいですわね。確かに人の集まる場所のほうが見つかるかもしれませんし」

「……レイは大丈夫なの? その、そういう場所に入っても」

「? 特に問題ありませんけど?」

 

 不思議そうに首をかしげるレイに、私は気になっていたことを思い切って聞いてみた。

 

「こっちの伝承で吸血鬼は教会や十字架、銀やニンニク、太陽の光が苦手だって言われてる。だから教会に入るのも駄目なのかと思ったんだけど」

「あら、そうでしたのね。でもそれは単なるおとぎ話ですわ。気にする必要はなくてよ」

 

 どうも自分は余計な気を回していたらしい。だが待てよ。それなら彼女はなぜ日の光に苦しんでいたのだろうか。

 

「それならなんで日なたでぜえぜえ言ってたの?」

「そ、それは……」

 

 彼女は血色の悪い顔を耳まで真っ赤に染めて言いづらそうに口をもごもごとさせていたが、やがて観念したように蚊の鳴くような声で呟いた。

 

「コートが暑かったから…」

 

 ただ単純に強がっていたらしい。

 

 

 

×××

 

 

 

 教会はこれまで調査してきた貧困街の外れに位置している。

 建物はところどころ細かい部分の塗装が剥がれていたりしたが、それでもちゃんとした建物の形を残しているだけこの地域の中では立派だと言える部類だった。花壇に花が植えられており、きちんと手入れもされている。地べたに座り込む物乞いや怪しげな露店商も教会の周りだけは避けているようだった。

 礼拝の時間は終わったのか、あるいは今日は行われない日だったのか、外から見た限りだと内部に人が集まっているようには見えない。

 

 本当は自分自身が1番ここに来るのが嫌だった。とはいえ、さすがに隔離地区内の教会なら姉のことを知っている人もいないだろう。

 覚悟を決めて開かれた門を叩いた。通路を掃除していたシスターの1人がこちらに気付く。

 

 徐々に近づいてくる姿は私に懐かしさとともに複雑な感情を思い起こさせた。平均よりも低い身長に童顔、胸の前に結って垂らした長い黒髪。彼女も私を見て驚いたようだったが、すぐに破顔した。

 

「ひさしぶり、元気そうね」

「お姉ちゃん……」

 

 半年ぶりに再会した姉は少し痩せたようだった。髪にもいくらか艶がないように見える。だが、その声は変わらずに私の耳朶を心地よく震わせた。

 彼女は私の後ろにいるレイに気付き、首を傾げた。

 

「そちらは華ちゃんのお友達? いつもうちの妹がお世話になっています」

「い、いえ。こちらこそ、ですわ」

「教会に来たということは、祈りを捧げに来たのでしょう? 立ち話もなんですし中にどうぞ」

 

 ぽやっとした声で私たちを促すと、先に建物へと入っていく。私はそれをぼんやりと見つめていた。姉との突然の再会に思考が追いついていなかった。

 

「あれが華のお姉様ですの?」

「……うん」

 

 昨日の問答でなにかしら察したのか、レイは姉のことについて深く追及してこなかった。私はレイに促されてようやく、教会へと足を踏み入れた。

 

 

 

×××

 

 

 

「アルバイト関係の人だったの。ごめんなさいね。早とちりしちゃったみたいで」

 

 姉の淹れてくれたお茶を飲みながら話をしている。レイは初対面の相手ということもあってか、姉に対してやや気後れしているようだ。

 

「い、いえ。その……友達というのもあながち間違いではないですし……」

 

 レイがちらちらと私のほうを見ながら答える。かすかに顔が赤くなっていた。

 

「あら、そうなの? そういえばお茶請けもあるんだったわ。ちょっと待っててね」

 

 姉はその言葉に頬を緩めると、席を外した。

 

「友達って」

「わ、わたくしはそう思ってますわ。迷惑ですの?」

「別にそういうわけじゃないけど……」

 

 顔を真っ赤に染めながらこちらを見つめる彼女から視線をそらした。あまり正面から見られたくなかった。不思議なことに、調査を再会してから半日しか経っていないのに、彼女が自分にしたことや異邦人だという事実がどうでもよくなってきていた。

 彼女からの視線に耐えられなくなり、咳ばらいをして空気を元に戻す。

 

「それで、探知機はどうですか?」

「これまでにないほど強い反応がありますわ」

 

 彼女もまじめな表情に戻り、探知機をこちらに差し出した。彼女の言う通り針がぶるぶると震えている。

 

「探しているブツがここにあったのは間違いありませんわ。おそらく、盗人はここに何日かいたはず。ここで尻尾を捕まえて追い詰めますわよ」

 

 鼻息荒く、レイは教会のあちこちを物色し始めた。補修された跡の残る壁の前まで来ると、しきりに探知機を確認し始める。

 

「そこ、前に来たひとが直してくれたのよ」

 

 いつの間にか戻ってきていた姉が教えてくれた。彼女は歩き回っていた私達を訝しむこともなく微笑みかける。

 

「なんだか遠くから来たってひとでね。泊まる場所に困っていたから教会で受け入れていたの」

「どんな方でしたの!?」

 

 姉は目をぱちぱちとさせながらしどろもどろに答えた。

 

「え、ええと、どんなって言われると困るんですけど……。ハンサムなひとでしたよ。肌が浅黒くて、耳と尻尾が生えていて。この辺だと目立つ外見だったし、会えばすぐに分かると思いますけど」

「色黒、尻尾、間違いない……」

「あの、その方がなにか?」

 

 私はレイを見る。これ以上の情報を聞き出すにはこちらの事情を話したほうが良いと思った。なにより、身内になら話しても問題ないと思ったのだ。

 彼女は私の言わんとすることを察したのか小さく頷いた。

 

「お姉ちゃん。私たち、実はその人を探しているの。そのひとがレイの求めている物を持っているかもしれなくて」

「求めている物?」

「ガラス瓶型の魔道具ですわ。やっこさんが当家から盗み出しましたの」

「盗まれた……?」

 

 うん、と私は頷いた。

 

「だからその人の居場所か連絡先を教えて欲しい」

 

 姉は私たちの顔をじっと見つめていたが、やがて姿勢を正すとレイに向かって問いかけた。

 

「レイモンドさんは彼に会ってどうするおつもりでしょうか。もし彼がそんな物は知らない、あるいは知っていても返すつもりがないと言った場合は?」

「しらばっくれたとしても盗まれたものを持っているかはこの探知機で分かりますわ。もし返さないおつもりなら……」

 

 そこでレイはなぜか腰に手を当てて堂々と宣言した。

 

「力尽くでも奪い返しますわ」

 

 姉は目を細め、口をキュッと引き結んだ。いままで見たことのない厳しい表情に、私は猛烈に嫌な予感がした。

 

「そういうことでしたらお断りします」

「え?」

「当教会はあなた様のご要望に応えられません。お引き取りください」

「な、な、なぜですの!? わたくしはただ薄汚い盗人にしかるべき制裁を下そうとしているだけですのよ!」

「もしわたくしどもの泊めた客人があなた様の言う通り汚い盗人だったとして、あなた様は私の妹を異邦人同士の争いに巻き込もうとしているのですよ? あなた様が同じ立場だったとしてそんなことが許せますか?」

「それは……」

「お姉ちゃん、それは違うよ。レイは約束してくれたもん。私を傷つけないって」

 

 姉はその言葉を聞いて、目を細めてレイを観察した。

 

「約束? 吸血鬼があなたに約束したのですか?」

 

 どうしてだろう、その時の姉はいつになく真剣な表情だった。

 私は聞き返すこともできずにただ頷いた。姉は軽く息を吐くと、私たち2人に向かって言った。

 

「彼の住んでいる場所を教えても良いですが、いくつか条件があります。まず、なにがあっても争わないこと。話し合いで解決してください。それともうひとつ、ちょっと待っててくださいね」

 

 席を立とうとした姉のもとにひとりのシスターが駆け寄ってきた。

 彼女は紙袋を渡すと「あまりご無理をなさらないでください」と小声で伝え、私たちを一瞥して去っていった。

 姉は彼女に小さく礼を言うと、私たちに向き直った。

 

「会ってすぐにこれを彼に渡してください。いいですか、あなたたちは絶対に中を見ないでくださいね」

 

 私はその言葉にうなずき、安堵した。これでやっと調査が進む。

 

 

 

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