便利屋JK   作:フライドレッグ

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お化け屋敷 後日談

 

 

「あーっ! めんどくせー!!」

 

 向かいの席で反省文を書いていた先輩が大声をあげた。すっかり普段の調子を取り戻したようだ。

 

(これくらいうるさいほうが先輩らしい。昨日のように落ち込まれてもどう接して良いかわからないし)

 

「反省文くらいで済ませてくれた所長に感謝したほうが良いと思いますけど」

「わかってるけどさー」

 

 先輩は机に突っ伏した。机に向かい始めて30分、いまだ真っ白な原稿用紙がしわだらけになる。

 

「こういうの苦手なんだよねー。柄じゃないっていうか」

 

 あの後、病院に運ばれた私たちは戸隠所長に連絡を取って迎えに来てもらうこととなった。汗を吹き出しながら駆けつけた所長は、巨体を縮こまらせて管理局の局員にしきりに頭を下げていた。病院を出た後、危険な依頼に手を出した先輩は車の中で所長からのお説教を受けることとなった。

 先輩も今回は反省したのだろう、珍しく口答えもせずおとなしく聞いていた。

 

「そういえばさー。昨日の掃除屋、結構有名な人だったらしいよ」

「私たちを助けてくれた人ですか?」

「そうそう」

 

 魔獣を一蹴した女の人を思い出す。当然といえば当然かもしれない。あれだけ腕が立つのだからどこかしらで名が売れていないほうが不自然だ。そういえば彼女に名前を聞き忘れていた。

 

「『大狼』って名前ぐらいは華ちゃんでも聞いたことあるでしょ」

「それって――」

 

 有名どころの話ではない。5年前に都市を襲ったケダモノの群れの首魁、それを討伐したのが大狼だ。侵略戦争に次ぐ都市の危機を退けたとして多くの人間から英雄視されている。一介の便利屋風情がおいそれとお目にかかれる存在ではない。

 

「――なんでそんな有名人があんな怪しい依頼を受けてたんでしょうか」

「多分さ。あたしらとは別口で来てたんだと思うよ。そもそも掃除屋の受けるような依頼じゃなかったしね。管理局から要請があったんじゃないかな。魔獣のいるかもしれない場所を調査してくれ、みたいな。けっこうな数が食べられちゃってたらしいし」

 

 先輩が弄っていた端末を差し出してくる。

 そこには『怪奇! 魔獣の徘徊する恐怖の洋館!!』というおどろおどろしい見出しとともに、私たちの訪れた洋館から複数の人骨が発見されたことなどが書かれていた。

 記事には情報提供者からの詳細な恐怖体験とともに洋館内の写真も載せられている。魔獣とそれを隠匿した者は管理局によって適切に処理されたとも書かれていた。

 

 彼は異形と化した妻に喰わせるために私たちを集めたのだろう。もしかしたらいつか妻が正気に戻るとでも考えていたのかもしれない。

 だが、この街でそんなことを続ければどんな末路にいたるかわかっていたはず。それでも諦められなかったのだ。

 

 暗い気分のまま記事を読み進める私はあることに気づいた。

 

 

「……先輩、この『情報提供者R.K』さんて」

「あ、気付いちゃった? 報道社に知り合いがいてさー。ちょろっとね。ほら、結局今回の報酬もらえなかったじゃん。さすがにただ働きはイヤっしょ」

 

 私は彼女の変わり身の早さに呆れ、感心した。今日の時点で記事が出ているということは、昨日帰ってから今朝出勤するまでに取材を受けたということになる。おそろしく動きが早い。

 

(というか先輩が所長に見せてた殊勝な態度って、どうやってとりっぱぐれを失くすか考えてただけなんじゃ……)

 

 この記事のことは所長には黙っていたほうが良いだろう。これ以上、胃痛の元を作るわけにもいかない。

 

「はい、これ。華ちゃんの分」

 

 考え込む私の前に茶封筒が差し出される。

 

「2人でやったわけだし。今回はあたしの不注意だった分、すこし色をつけておいたから」

「あの、これって私が受け取ってもいいものなんでしょうか」

「んー、良いんじゃない? 所長も報酬はきっちり分けなさいって常日頃から言ってるし。インターンだからって仕事したのに給料貰えないほうがおかしいでしょ」

 

 それに、と先輩が付け加えた。

 

「華ちゃんがいなかったら、あたし、もういなかっただろうし。だからこれは、あたしからの感謝と謝罪の気持ちってことで」

 

 そう言って先輩はいつものようにさっぱりと笑った。

 

 

 

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