キヴォトスに生きる   作:山葉

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『シャーレの』以降の小話。本編と違って結構雑に書いてる。





日常回等の本編外のストーリー
日常回1:早瀬ユウカの花嫁修業


 

1、早瀬ユウカの花嫁修行

 

 今日は午後の仕事が忙しくなるらしい。ので、午前中に夕食の材料を買い出かけていたら、道中、午後から当番のユウカとばったり会った。

 

「あれ、ユウカじゃん。今日は少し早いな」

 

「午前中に予定していた仕事が予想より早く終わったので。そういう中野さんはお買い物ですか?」

 

「ああ。聞いていると思うが、午後から忙しくなるらしいからな。今のうちにと思って」

 

 そうですか、と言って何やら考え込むユウカ。

 

「あの、中野さん」

 

「ん?」

 

「私に、料理を教えてくれませんか?」

 

 すぐには頷かずに中野は少し考える。それは別に構わないのだが、別に料理が上手いわけでもない。技術的にも、知識面でも、粗雑な男料理の域を出ない。まあ、最近はちょっとそういう本を読んだりしてるけど。それこそ、作るだけならその本を読めばいいのだが……そういえば彼女、調味料の分量表記で苦戦するんだったか。それはつまり、知識とか技術とかの前に、考え方の問題だろうな。それなら、自分の出番かもしれない。

 

 そして、なにより、これは面白そうな予感がする。

 

「ははーん、つまり花嫁修業ですか」

 

「なっ、またそうやって揶揄って!」

 

「いやいや、そんなんじゃないさ。でも兄を頼ってきたのは嬉しいなあ」

 

「誰が兄ですか!」

 

「冗談だ冗談。それより、早いとこスーパーに行こうか」

 

 素直な反応をするユウカを揶揄いながら食材を購入した。

 

 そして夕時。

 

「さて、ユウカ。料理を教えると言っても、レシピ自体は本なりネットのサイトを見れば事足りる。別に高級店のようなクオリティを求めるわけではないからな。それはわかっているはずだ。それでもこうして頼ってきた理由を俺なりに考えたが、調味料の分量表記、『少々』とか『適量』でつまづいているんだろう?」

 

「……鋭いですね」

 

「あとは水は何度で熱すればいいのだのレシピは三温糖なのに白砂糖しかなくて化学反応が不安だの何度で何分煮詰めるってあるのに測ったら温度が低くてその場合は何分で煮――」

 

「ぐぅっ!」

 

「そんな腹パン喰らったみたいな顔せんでも」

 

「ぜ、ぜんぶ、その通りです!」

 

 なんだか、サクラコの苦心顔を思い出すなあ。

 

「でもどうしてそこまでわかるんですか⁉」

 

「いやだって、『悲しみも怒りも、全て因数分解してやるわ!』なんて馬鹿っぽいこと言うから想像がついて」

 

 もともと赤くなっていた顔がさらに赤くなる。

 

「ど、どうしてそれも!」

 

「あ、いや……先生から」

 

 まあ、ただのゲーム知識だが。

 

「そ、そう。先生が……」

 

 先生。南無。

 

「まあそれはさておき、そんな細かいことは気にしなくていい」

 

「ですが、そのせいで味がおかしくなってしまったら……」

 

「そういうところを気にしすぎるあたり、まだまだ子どもだな」

 

 わかりやすくむっとして何か言おうとしたユウカを抑える。

 

「大丈夫大丈夫。仮に厳密に量が決められた上でちょっと多くなろうが少なくなろうが人の舌じゃその差はわからんかもしれんし、わかったところで気にしない」

 

「それでいいんですか」

 

「いい。そもそも味覚は感覚だし、人の感覚は得てしてアバウトなんだから厳密にしすぎても仕方ない。好みの問題もあるからな。要するに、『適量』とか書かれてたらその時々で好きなように調整しろってことだ。温度も気にするのは揚げ物の時ぐらいでいい。あとは気にするな」

 

 ユウカは納得のいかなそうな表情をする。

 

「百聞は一見に如かず。とりあえずはじめるぞ。俺は指示だけ出す」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 今回作るのは肉じゃが。作れる女はモテるで有名な家庭料理の代名詞。

 

 材料は牛小間400g。じゃがいも6個。にんじん1本。玉ねぎ1個。あとは人によっては白滝を入れるが、今回はインゲンを1袋使う。煮汁は水400㎖、醤油、酒、砂糖、みりん各大さじ4とほんだし大さじ1を混ぜる。

 

 まずはじゃがいもとにんじんを大きめに乱切りにする。乱切りはテキトーでいいんだ。そんな形状に拘るな。んで、玉ねぎはくし切りで、インゲンは半分にすればいい。

 

 鍋に油――はテキトーでいい。これも気にするな。そしたら肉を入れて炒める。色がおおまか変わったら野菜を全部入れて、軽く炒める。軽くは軽くだ。どうせこのあと煮るんだから。結果的に火が中まで通れば同じことだ。

 

 そしたら煮汁を投入し、沸騰して出てきた灰汁を取り除き、アルミホイルを落とし蓋代わりにする。このまま10分ぐらい様子を見る。途中、焦げ付かないように混ぜたらまた10分。煮汁がなくなっていることが確認出来たら完成だ。心配なら、竹串で芋やにんじんを刺して火が通ってるか試してみな。

 

 中野は肉じゃがを小皿に取り分け、試食する。

 

「うん。ちゃんと美味しくできてる」

 

 ユウカも勧められて食す。

 

「ほんとだ、美味しい!」

 

「あ、落とし蓋をしたまま10分ぐらい蒸らした方がいいんだっけな。忘れてた」

 

「いえ、それでも、自分で言うのも何ですが、私が作ったとは思えないほど美味しいです。中野さん、ありがとうございます!」

 

「いや、俺は特別なことはしてない。ただ覚えていたレシピ通りに指示しただけで、実際に作ったのはユウカだ。それに、美味しいのは、君が先生を想って作ったからだろう?」

 

 ユウカはまた揶揄われていると思って中野を振り返ったが、彼が純粋に嬉しそうに、そして微笑ましそうに穏やかな表情をするものだから、何も言えなくなってしまった。

 

「けど、これでわかったはずだ。多少はルーズになってもいいってことがね」

 

「はい、料理はそういうもの、なんですね」

 

「ま、料理だけじゃないさ。人生においても当てはまることは多いよ。今日は多くのことを学んだな」

 

 そう言って中野はユウカの頭を撫でた。娘の成長を見たような気分になって、ついやってしまった。娘いたことないけど。

 

「っと、すまん。……さ、温かい内に先生に食べてもらうか」

 

 別に嫌だったわけじゃないけど、とユウカは内心で溢し、そう考えたことが何だか恥ずかしくて頭を振った。

 

 そして肝心の先生には大変好評で、すぐにおかわりのコールをした。のだが、中野がすぐに「愛妻料理」だの「渤海より深い愛」*1だの言って揶揄うから、食卓はとても賑やかだった。

 

 ユウカも、先生も、そして中野も、こうしたひと時がいつまでも続けばいいなと、そう願った。

*1
元ネタは北条政子の演説。「この恩は、海よりもまだ深く」はものによっては「渤海」と記されることがある。意味は「深海」




閑話改め日常回です。(2023/10/13)

 中野は気分が高揚したり、すごく心が凪いでいたり、人を揶揄うときは口調が軽くなったり穏やかになります。普段は硬い言い方をしますが。

あとこれは言っときますが、ユウカは先生一筋です。それは揺らぎません! これはあくまで親愛だ!

 本編次話の更新は遅れます。すでに6000字分はできていますが、それでもまだまだ書かないといけないほど長くって分割投稿します。そんで、なるべくまとめて出したいので、そのせいで遅れます。


閑話のネタは他にも、

コンビニ店員ソラと中野おじいちゃん
中野とはじめる家庭菜園

を考えているので、どっかで出せればと。
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