ウマ娘Prequel「跳べ、ウラヌス!~ウマ娘オリンピック物語~」   作:空見ハル

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#3-6

 ナセロへ

 

 お手紙ありがとう。いつももらってばかりで悪いから、今回は私から近況報告をするわね。

 ピネロロを出てからもう半年。欧州転戦の成果はそちらにも届いているらしいけど、何だか恥ずかしいわね。でも、まだまだ。世界一のウマ娘には、まだほど遠いわ。

 

 私は今、日本にいる。トレーナーに連れられて、習志野の陸軍騎兵学校にいる。もうすっかり日本陸軍のウマ娘になって、毎日白色の演習服やカーキ色の軍服に身を包んでトレーニングに励んでいるわ。

 最初騎兵学校に来たときは驚いた。その、良い意味ではないけれど。でも、今はすっかりここの生活にも慣れたわ。

 起床は6時。最近はピネロロにいた時と同じように朝練をするときもあるけれど、トレーナーが許してくれるだけ。最近は、同室のセンパイと起きるのが日課ね。

 最初来た時、ベッドも小さくて体が折れそうになっていたけれど……。

 

「おはよう、センパイ」

「おはよう。ふふ、今日もすっきりと良い目覚めだね」

 

 最近、トレーナーが大きいサイズのベッドを買ってくれて(もちろんセンパイにも)、すっかり目覚めは良くなったわ。

 そうそう、同室のセンパイにはよく世話を焼いてもらっている。少し、ナセロを思い出す。いつも起きると、嬉しそうに私の髪を結ってくれるわ。

 

「やっぱりウラヌスは、ポニーテールが似合うよ」

「そう? じゃあそうしようかな。邪魔にならないし」

「うんうん」

 

 朝食は食堂で。日本食が多く出て最初は慣れなかったけど、今はすっかり慣れたわ。最近知ったのだけれど、習志野のニンジンはすごい美味しいの。

 たまに本格的なイタリアの食事が恋しくなるけれど、そういう時は皆で東京まで行って食事をすることにしたわ。

 

「今度、また神保町の喫茶店に行きたいわね」

「いいね! 喫茶店! 最近流行っているみたいだし、皆で行こう! トレーナーさんも一緒に」

「トレーナーもかぁ……」

「どうしたの?」

「いや、あそこの看板娘、ウマ娘なの。だから、トレーナー、騎兵学校に連れて帰ったりしちゃわないかな」

「はは、そんな人さらいみたいな。騎兵学校までわざわざ連れて帰ってきたのなんて、ウラヌスだけだよ」

「そ、そっか」

 

 食事が終わったら座学。最初は日本語が分からず、戸惑っていたけれど、最近はもう日常会話ならすんなりできるようになったわ。ピネロロに来た時もそうだったけど、こういうのを覚えるのは得意なのかもしれない。でも、やっぱりトレーナーやセンパイが、時間があるときに日本語を教えてくれたのが大きいわ。

 

「いいかウラヌス。“いとをかし”は、昔の“かわいい”とか“趣がある”って意味なんだ」

「へえ、いとをかし……幽玄な響きね。それなら、トレーナーにも、言うべきかしら?」

「お、オレのどこが“いとをかし”なんだ?」

「その、袖のほつれ加減が……」

「うわ、本当だ。……というか、貶してないか、それ」

「誠に“わびさび”の極みね」

「……トレーナーさん、ウラヌス、そんな言葉、いつ使うんだい?」

 

 まあ、どれだけちゃんと覚えられているかわからないけど。それでも、最近は街の人とも話せるようになったわ。

 それに、トレーニング。私のトレーナーは、少しでもダメなら鞭を飛ばすような鬼教官だけど、それでも、その腕は一流ね。

 トレーニングも最近は楽しいわ! 厳しいトレーナーの下だから、やりがいがあるもの。

 

「ウラヌス、跳べぇ!」

「……っ!」

「おいウラヌス! 踏み切りが違う! いいか、ウラヌス。足の使い方というのはな、こうやって……」

「きゃっ! どこ触ってんのよ!」

「ぎゃぁ!!」

「と、トレーナーさん、大丈夫かい?」

「ぐ……そ、そうだ、その蹴りの感じだ……」

 

 そういえば、ナセロ、トレーナー契約おめでとう。良いトレーナーに巡り合えてよかったわね。

 私のトレーナーは……そうね。

 抜けているところはあるし、不真面目だし、よく怒られているし、デリカシーもない。

 でも、一度言ったことは裏切らない、とても強い人よ。バ術の腕も一流で、頼りにもなる。

 

「おーいウラヌスー! 東京に行こうかー」

 

 それに、ほかにも頼りになる仲間がいる。

 同室で、いつも気にかけてくれる、一番のライバルのセンパイ。

 

「お、いいね。行こうか」

 

 イマムラにソンネボーイ。

 

「良いね。ソンネ、私たちも行こうか」

「うん、トレーナーが良いなら」

 

 それに、タケダ、髭のおじいさんの知り合いもできたわ。

 もう何も不安はない。だから、今後は心配の手紙も不要!

 あなたは居場所を見つけたみたいだし、私にも新しい居場所ができたわ。私はこれから、しばらくピネロロのことは忘れる。

 今度は、直接会いましょう。ライバルとして。

 

 オリンピックで!

 

 ウラヌスより




※史実解説『跳べ、ウラヌス!史実紀行』の第三話はこちら
(第三話読後の閲覧がおすすめです)

#3「ロス五輪前夜~名だたるライバルたち~」
https://note.com/hal_sorami/n/nafff6c634494
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