【呪術廻戦✕ワンパンマン】ハゲの代わりに呪われた人達がやって来た   作:サクラン

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一瞬また消えたかと思ってガチで肝冷えた…面倒くさがらず保存するのって大事ね。

今回マジで長いです。少々お付き合い下さい。

それではお楽しみください。


第十話 ぷりぷりプリズナー

 今にも雨が降りそうな曇り空の下、ユウジはS級ヒーローの到着に着に―素直に喜ぶ事ができなかった。否、身体から立ち昇る呪力を見るに間違いなく強いのだろうがこの状況には困惑するなという方が無理だ。

 そして当の本人―ぷりぷりプリズナーは、丁寧にユウジ達を抱きかかえたまま、深海王を睨んでいた。

 

「A級13位スティンガーちゃん、A級23位イナズマックスちゃん、B級19位ワードバトラートゲちゃん、C級342位ユウジちゃん…皆気になっていた男子達だ…パンダちゃんとマキちゃんも、タイプでこそなかったが良い子達だった…皆を酷い目に遭わせたアナタは、許せん」

 

 ユウジは自分を知っている事に無意識の寒気を覚えた。

 

「効いたわ…少しね。新しい兵隊さんね。アナタは楽しませてくれるかしら?」

 

「強い気配をビンビン感じる…!!良い!!」

 

 深海王はプリズナーに殴られた箇所を再生しながら笑みを浮かべ、プリズナーも深海王が相当な強者である事を悟り、口元に笑みが浮かんでいる。

 

「ジェノスちゃんに抜かれ、最下位になってしまったが…俺はS級ヒーローだ。きっちりお仕置きしてやる。あっちにトゲちゃん達を寝かせてある。ユウジちゃん達は離れてろ」

 

 プリズナーはユウジやパンダ達を下ろし離れるように促す。戦力にならない故に仕方ない事ではあるが、一人で深海王とやり合うつもりのようだ。ユウジは少し不安に感じてしまう。

 

「…勝てる?」

 

「! …アナタ達が応援してくれれば、絶対勝てるさ」

 

 プリズナーはユウジの問い掛けに対し、ニコリと笑い掛ける事で答える。ユウジはプリズナーの表情を見てひとまずここは任せる事に決めた。

 

「最期のお話は終わり?」

 

「ああ、もう十分だ。後はアナタに勝つだけだ!取り敢えず、まずは半分程度の力で様子を見ようか!!」

 

 そう言うとプリズナーは身体に力と呪力を迸らせる。当然力を入れてしまったら服は伸びてしまい、囚人服の上に着込んでいたハートマークが入れられたセーターは筋肉の膨張に耐え切れず破れてしまった。

 それを見たプリズナーは少し唖然とした後―

 

 

 

 

 

「だあああああああああ!!彼氏の手編みセーターが破けたあああああ!!??」

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアナタは絶対に許さあああああん!!!」

 

 

 

 

 

 ―急に叫びだし、10∶0でプリズナー自身が悪いにも関わらず、深海王に対してブチ切れていた。

 

「…なあ、あの人本当に大丈夫?」

 

「S級は全員あんな感じだから大丈夫だ」

 

(それは大丈夫ではないんじゃね?)

 

 パンダの答えにユウジはヒーロー協会のトップは全員あんな感じなのかと別の意味で心配になった。

 

「…美味しそうなお肉、上物ねえ」

 

 深海王はプリズナーの妄言を聞き流し、その肉体を見て舌なめずりをする。そして―

 

 

 

 

 

「ちょっと本気出しちゃう」

 

 ドゴン!!

 

 

 

 

 

 ―目にも止まらぬ速さでプリズナーの顔面を殴り飛ばした。スティンガーやマキといった何人ものヒーローを沈めて来た一撃。いくらS級ヒーローのプリズナーと言えどもその一撃をまともに食らったとなればユウジ達も思わず身構える。

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 バゴン!!

 

「え?あらまぁ…」

 

 

 

 

 

 だがプリズナーはすぐに返す拳で深海王の顔面に拳を叩き込んだ。まさか即座に反撃を食らうとは思っていなかったのか、顔面を文字通り歪ませて感心したような声を上げる。

 

「オオ!!」

 

 ドゴォ!!

 

 更にプリズナーは深海王の胴体に拳を叩き込み、吹き飛ばした。吹き飛ばされた深海王は道路に大の字で倒れるがすぐに起き上がり、殴られた箇所を再生させる。

 

「効いたわ。少しね」

 

「こっちも効いた。少しな」

 

 結果として未だに深海王は無傷、プリズナーも鼻から血を吹き出して特に気に掛けていないように見える。だが―

 

「あれって…」

 

「ああ、プリズナーさんの方は言う程余裕はねえな。あの魚野郎と違って回復するわけじゃねえからな」

 

 ―少し離れた場所から見守っている三人はプリズナーの方が劣勢である事を見抜いていた。その強さを疑うわけでも、信頼していないわけでもないが、こればかりは人間と怪人の差である為どうしようもない。

 

(中々強いパンチだ…数発程度なら問題ないがずっと食らうと分からないな…だが俺は負けるわけには行かない!これ以上、他の男子をこいつに壊されない為にも!)

 

 そしてそれは戦っているプリズナー自身もよく理解している。このままでは厳しいと感じたプリズナーは、状況を打開すべく全力を出す事を決めた。

 

「仕方ない。“変身”するか…」

 

 プリズナーは呟くと、少し前屈みになって俯く。そして―

 

 

 

 

 

「覚悟しな!変☆身!!」

 

「ぷりぷりプリズナー!!エンジェル☆スタイル!!」

 

 

 

 

 

 ―一気に全身をのけ反らせ、呪力を解放すると同時に筋肉を一気に膨張させる。囚人服は膨張の勢いに耐えられず、弾け飛んだ。

 そう、つまり全裸である

 

「…あれどう見ても天使じゃないよね?」

 

「…まあ、本人は真剣にやってるだろうし…」

 

 離れて見ていたユウジとパンダは引き気味のリアクションだった。当然だろう。誰が好き好んでオカマの全裸を見たいというのか。

 一方プリズナーは恥じらうどころかむしろ見せつける勢いでポーズを取っている。

 

「醜いわね…」

 

 深海王はプリズナーの姿を見ても引いたり忌避する様子はないが辛辣な感想を漏らす。プリズナーには申し訳ないがこればかりは深海王と同じ意見だった。

 

「まだだ!アナタは強い。だからこそ俺も本気でイクぞ!!」

 

 プリズナーはビシリと深海王を指さすと、またもやポーズを決める。

 

「“慄える愛(ラブ・バイヴ)”!!起動(オン)!!」

 

 そしてプリズナーが何かの名前を叫ぶと―

 

 

 

 

 

 ヴヴヴヴヴ…

 

(((全裸でめっちゃ震え始めたー!!)))

 

 

 

 

 

 ―全身が超振動で小刻みに震え始めた。絵面が凄まじいインパクトだが、これがプリズナーの術式である事は、先の発言からも察する事ができた。

 

「これが俺の術式!“慄える愛(ラブ・バイヴ)”!身体を超振動させる事ができる!あくまで術式対象は俺のみにしか適応されないがな!!」

 

 そしてプリズナーは自らの術式について説明する。常に振動している為か発する言葉まで小刻みに震えている。

 

「面白い大道芸ね。で、それでどうしようと言うのかしら?」

 

 深海王はプリズナーを挑発するように問いただす。確かに振動するだけ、と聞くと大した事はできないように思える。

 

「それは今から見せてやる!今の言葉が遺言になるかもしれんがな!!」

 

 プリズナーはそう言い放つと空中へ飛び出す。両腕を広げると同時に解放された呪力はまるで天使の翼のような形にも見えた。

 

「イクぞ!!バイブレーション☆ダーク☆エンジェル☆ラァァッシュ!!」

 

 ズドドドドド!!!

 

 超振動と相手を確実に仕留めるように全力の呪力を込めた拳の連撃が深海王の身体を穿つ。超振動によって爆発的に強化された拳の連撃は地面を砕くに留まらず微塵にしていた。

 

「オオッ!!」

 

 ドッゴオオオオオン!!

 

 そして全身で拳を振りかぶると、バネのように勢いを付けて深海王を殴り飛ばした。殴り飛ばされた深海王の四肢はあらぬ方向へ折れ曲がり、全身に拳の痕が目立っていた。間違いなく死んでいるだろうが、地面を塵にする連打を受けてなおまだ身体の形を残しているだけ大したものだろう。

 三人はこれまで引き気味にプリズナーの戦闘を見守っていたが、勝負を決めたその攻撃だけは視線を釘付けにされた。

 

(これが、サトル先生と同じ…“S級ヒーロー”…!!)

 

 そう、どれだけ気色悪くとも、どれだけ人間と思えない精神性であっても、人類を守るヒーロー協会の頂点に立つヒーローの内の一人である事に変わりはない。しかもランキングの評価を信じるならこれより強いヒーローが18人もいると言うのだから末恐ろしい。

 

 

 

 

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「フー…さて!怪人も無事やっつけた事だし!急いで怪我した皆を病院へ運ぼう!」

 

 連打で少し上がった息を整えたプリズナーは術式を切り、笑顔でユウジ達の方に向き直る。振り返った拍子にプリズナーのブツが目に入り少し気分を悪くし、思わず顔を背けそうになるがグッと堪えて向き合う。

 

「すっげえなプリズナーさん、これがS級ヒーローか…」

 

 ユウジは未だに先程の攻撃の凄まじさが頭から離れない。自身は動ける方だと自負しているが、流石にこれに勝てるとは思えない。サトルも凄まじかったが、あれは術式が別次元の領域である為に圧倒されっぱなしでイマイチスケールが掴めなかった。

 

「良いんだぞ、好きになっても」

 

「それはマジで勘弁して下さい」

 

 プリズナーからの意味深な誘い発言に対してはユウジは全力で拒否する。別にヒーローをやっている以上悪人ではないし、囚人と言えども流石に一般人を襲う事はないのだろうが、億が一があり得るかもしれない故にそこは断っておく。

 

「まあ何はともあれ、さっさと病院行くか。()()()()()()()()

 

 パンダが言った通り、灰色の空からはかなりの勢いで雨が降り始めている。今寝ている者達の身体が冷えてしまうのは好ましくない。

 

「よし!それじゃあイクか!!」

 

 プリズナーの言葉を合図に、皆が怪我人を背負って病院へ向かう。

 

 

 

 

 

「待ちなさい」

 

「「「「!?」」」」

 

 

 

 

 

 その前に、身体が底冷えする程恐ろしく低い声が後ろから響く。全員が後ろを振り返ると、死んだ筈の深海王の死体がビクビクと痙攣していた。

 

「流石に…私も死ぬかと思ったけど…この雨のお陰で元気出できたわ…!」

 

 折れ曲がっていた関節はボキゴキと音を鳴らして再生し、身体にいくつも刻まれていた拳の痕は身体が膨張していく勢いに呑み込まれて消えた。

 そして身体が完全に回復しきっても、膨張は止まらずどんどん巨大化していく。顔も白面である事以外は比較的人に近かったが、完全に怪魚のような顔となり、最終的に20メートル近い体躯となった。

 

「そうか…!海出身の怪人だから―」

 

「―水気を含めば全力が出せるってわけか…!」

 

 ユウジとイナズマックスは深海王が蘇った理屈を見抜く。正確に言えば死んでいたわけではないのだろうが、あのまま放置していれば遅かれ早かれ死んでいただろう。だが雨によって回復力が底上げされ、あの状態からでも回復できたというわけだ。

 

「さて、それじゃあ第二ラウンドと行きましょうか…!」

 

 深海王が動き出すと、それと同時にユウジ達三人は駆け出して距離を取る。援護しようにも更に強大化した深海王には攻撃が通らない。せめて足手まといにならないよう距離を取るしかない。

 深海王は逃げたユウジ達を見てその眼光を恐ろしいものに変化させる。

 

「一匹もぉおおおおおおおおお逃さなぁあああああああああい!!!」

 

 そして吼えると、一気にユウジ達を追うべく駆け出す。

 

「アナタの相手は、この俺だ!!」

 

 だが、深海王の前に“慄える愛(ラブ・バイヴ)”を起動したプリズナーが立ち塞がった。深海王は行く手を阻むプリズナーを排除すべく更に巨大化した拳を振りかぶり、プリズナーもその威圧感に気圧される事もなく小刻みに震える拳を振りかぶる。

 

「バイブレーション☆ダーク☆エンジェル☆ラァァッシュ!!!」

 

「私に楯突くアナタも、死になさい!!」

 

 地面を塵に変える拳と、プリズナーの身体すら覆う程の拳が激突する。今回押し勝ったのは―

 

 

 

 

 

 バゴォ!!

 

「グッ…!」

 

 

 

 

 

 ―深海王の拳だった。プリズナーの連打で威力はかなり軽減できたものの、回復力の差で深海王が押し切ったのだ。

 

(力が更に上がってる…!連打の速さも前とは…!?)

 

 プリズナーが瞬きをした瞬間、深海王が目の前から姿を消していた。どこに行ったのかと周囲を見渡すと―

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 ボギュ!!

 

「ガハァ…!?」

 

 

 

 

 

 ―いつの間にか迫っていた深海王が側面から拳を叩き込む。防御が間に合わず食らってしまったプリズナーはあえなく吹き飛ばされてビルに激突し、そのまま崩れたビルの下敷きとなってしまった。

 

「…さて、それじゃあ歩を進めようじゃないの…」

 

 

 

 

 

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 プリズナーは戦闘不能になったと判断した深海王は、街を見渡してユウジ達を探す。まだそこまで遠くに行ってない為に追い付くのは時間の問題だ。

 

「どうしよう…!プリズナーさんが…!」

 

「更に強くなってやがるな…バケモンめ」

 

 事実ユウジ達は無人となったビルに隠れて戦況を伺っていた。念の為に負傷したマキやスティンガー達も同じ様に寝かせてある。

 

「協会からの報告見るに他のS級でJ市に来れる奴はいないみたいだな」

 

 パンダはゴリラの手で器用に携帯端末を操作して協会とやり取りをしていた。それによるとどうやら援軍は期待できないらしい。

 

「うーむ、だが戦わないと市民を狙うかもしれねえからな。逃げるっていう選択肢はないぜ」

 

 とは言っても、三人は逃げる気は全くなかった。ヒーローである以上、プリズナーに任せて逃げ帰るなどど情けない真似はしない。

 

「だな。相当気張る必要がありそうだが…あれ?どこ行った?」

 

「「?」」

 

 パンダが外を見ると道路にいた筈の深海王が姿を消している。あの巨体でありながら移動する音が全く聞こえないという事は考えられない。呪力の残穢はどこかに移動した感じではないが―

 

 

 

 

 

「見ぃつけたぁ」

 

「「「!?」」」

 

 

 

 

 

 ―次の瞬間、深海王の魚顔が窓いっぱいに写った。出来の悪いビデオの映像のような現象に三人は目を見開いた。

 

「「「くぁwせdrftgyふじこlp!?」」」

 

 三人は同時に奇声を発し、反射で各々の攻撃をガラス越しに叩き込んだ。だが、更に巨大化した深海王に三人の攻撃が通用する筈もなかった。

 

「彼はもう死んだわよ。アナタ達は彼程楽しめないでしょうけど、せめて良い声で鳴いてくれるかし―」

 

 バゴォン!!

 

 喋っていた深海王の横っ面が、漆黒の翼のような形をした呪力と共に超振動する剛腕によって歪んだ。そう、そこにいたのは吹き飛ばされた筈の―

 

 

 

 

 

「プリズナーさん!」

 

「ハァッ…ハァッ…すまないな三人共、怖い思いをさせた…俺はまだ戦えるから…そこで見ていてくれ…」

 

 

 

 

 

 ―プリズナーだった。だが身体のあちこちに血が滲み、息も荒い為明らかに全開ではない。深海王にもダメージこそ与えられたが、やはり倒すには至っていない。今のプリズナーでは間違いなく分が悪い。

 

「プリズナーさん、やっぱり俺達が…」

 

 ユウジはプリズナーの身体を案じて一旦変わることを提案する。三人では時間稼ぎすらままならないかもしれないが、プリズナーの体力を僅かでも回復させた方が良いのは明白だ。

 

「いや!いい。俺は“S級ヒーロー”だからな。この場の責任は俺が背負う」

 

 だがプリズナーは決して自分が戦う姿勢を変えることはなく、傷だらけのまま深海王に向き合う。

 

「プリズナーさん…」

 

 ユウジには、その傷だらけの背中がなんだかとても格好良く見えた。

 

 

 

 

 

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「頑張るわね。だけど、もう限界でしょう?」

 

「ふっ…この程度、ちょうどいいハンデさ…!」

 

 深海王がプリズナーの健闘を称えつつも嘲笑うと、プリズナーも好戦的な笑みで挑発しつつ、“慄える愛(ラブ・バイヴ)”を起動する。

 

「ハンデ、ね。その減らず口がどれだけ保つかしらね!?」

 

「オオオオオオオオオオ!!」

 

 両者共に吼え、深海王がその巨腕を振るうと、プリズナーはそれを全力で見極めて横に跳ぶ事で躱す。

 ダメージが蓄積し、相手に高い回復力がある以上、連打の打ち合いを続けるのは愚策だ。故にプリズナーは攻撃を可能な限り回避し、それによって生まれた隙に攻撃を叩き込む事にした。

 

「オオッ!!」

 

 ドゴゴン!!

 

 深海王の懐に潜り込む事に成功したプリズナーは深海王の脇腹目掛けて拳を叩き込む。手応えはあるが、やはり萎んでいる時とは比べ物にならない程硬い。

 

「効かないわ、よっ!!」

 

「!」

 

 深海王は懐に入り込んだプリズナーの攻撃を意に介さず反撃の拳を放つ。プリズナーは深海王の拳を跳躍する事で躱すと、そのまま深海王の腕を伝って顔面を捉える。

 

 そして全力の連打を放つ。最も確実なのは全身を粉々にする事だが、今のプリズナーの攻撃力ではそれは不可能だ。故に頭を吹き飛ばす事での勝利を目指す。先程の手応えを考えるとそれも厳しいが、勝ちを諦めるつもりは微塵もない。

 

「器用ね」

 

「!?」

 

 深海王はプリズナーを褒めると、口から液体をプリズナーに向けて吐き出した。

 

(何か仕掛けがあるのか?いや、ここで退いたらチャンスは来ない!!力を貸してくれ!!彼氏達!!)

 

「バイブレーション☆ダーク☆エンジェル☆ラァァッシュ!!!」

 

ズドドドドド!!!

 

「!?」

 

 拳に液体が降り掛かるのにも構わず、とにかく全力で―頭を潰すつもりで連打を放つ。だが―

 

 

 

 

 

 ジュウウウウウ…!!

 

「ウ!?」

 

 

 

 

 

 ―連打を放っている拳から焼けるような音と共に激痛に走る。プリズナーがよく見るとその拳は焼け爛れていた。

 

(強酸液…!)

 

 仕掛けがあると踏んでいた液体は強酸性の溶解液だった。ある程度は拳圧によって消散したようだが、全てを吹き飛ばす事はできなかった。

 

 バシン!!

 

「!」

 

 そして痛みで少し連打の勢いが弱まり、巨大な掌によってプリズナーの腕が掴まれる。

 

「━━━━━━━━━━ッ!!」

 

 ボゴォン!!

 

「ガハッ…!」

 

 すかさずプリズナーの身体を覆い尽くす拳が叩き込まれ、プリズナーは地面に叩き付けられた。潰れる事はなかったが、四肢のいくつかがあり得ない方向へ曲がり、白目を剥いている。

 だが、それでも―

 

 

 

 

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」

 

 

 

 

 

 ―プリズナーはすぐに立ち上がり、拳を構えた。術式とは無関係に足元がおぼつかないが、それでも膝を付くこともなく、深海王に向き合い続ける。

 

「アナタ、本当にタフね。萎んでる状態とは言え私を追い込んで、この状態の私にさえも軽傷を負わせた事は間違いなく忘れないでしょうね。ま、もう治ったし、アナタも限界でしょうけど」

 

「ハァッ…ハァッ…」

 

 深海王の侮辱とも称賛とも取れる言葉にも、プリズナーは返す余裕はなかった。傍から見ても何故立てているのか不思議に思う程だ。

 そんな当の本人は、少し前の記憶がフラッシュバックしていた。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 それは半年程前の記憶。サトルを主として開催された“S級特訓会”にて、サトルと手合わせしていた時の事だ。

 

「オオオオオ!!」

 

 プリズナーは“慄える愛(ラブ・バイヴ)”を起動し、サトルに向かって連打を放つ。サトルは訓練の名目で無下限の防御は解いている為、今攻撃を食らえば普通にダメージを食らう。

 並のレベル“鬼”ならば容易く粉砕してしまうプリズナーの連打は当然侮れるものではない。それに対し、サトルは―

 

 

 

 

 

「よっと」

 

 

 

 

 

 ―プリズナーの拳が直撃する寸前に腕の側面に手を当てると、軽く後ろに払うように受け流した。そしてその勢いを利用して隙を晒しているプリズナーの胴体に掌打を叩き込んだ。

 

 ズドン!!

 

「ゴホッ…!」

 

 その細腕からは想像できない程の衝撃音が響き渡ると、プリズナーはゴムボールのように吹き飛ばされた。

 

「ゲホッゲホッ…流石だな、サトルちゃん。やはり俺では相手にならないな」

 

 プリズナーは掌打を食らった箇所をさすりながらサトルの技術に感心する。実際サトルは無下限による防御力という大きなハンデを背負った状態でこの強さなのだ。強者蔓延るS級ヒーローの中でタツマキと並んで“最強”と称される程の実力は伊達でもなんでもない。

 だが、勝ったというのにサトルの表情は浮かない。少し困っているような、苛立っているような表情だった。

 

「どうしたんだ?」

 

「いやさープリズナーは強くなってるよ。うん。確実に強くなってる。鍛錬の後は見られるし、実際成長もしてるんだけどさ」

 

 サトルの言葉にプリズナーは眉を顰める。それならば何が気になるのか。六眼によって彼にしか分からない事もあるのだろうが、このようにハッキリとしないサトルは珍しい。

 

「もっとやれると思ってんだよね。こんなチマチマした伸びじゃなくて、もっと爆発的に」

 

「もっと?俺は全力を尽くしてるつもりなんだが…」

 

 サトルの言葉に少しプリズナーはムッとした。確かに自分はサトルには届かないが、手を抜くなどと言う事はしていない。彼氏達を、そして一般男子達を守る為に全力を尽くしてるつもりだった。

 

「…プリズナーは今自分はS級の中でどれぐらいの強さで、自分より強い奴と比較して自分をどう思う?」

 

 サトルはプリズナーの心を読み取ったのかいないのか、質問をプリズナーに投げ掛ける。突然の質問にプリズナーは少し面食らったものの、すぐに自分の認識を口にした。

 

「まさか、最弱に決まってるだろう。サトルちゃんはもちろん、他のS級に対して俺は足元にも及ばない。比べたら平均的成人男性みたいなものだ」

 

 プリズナーは思っている事をそのまま口にした。プリズナーは他のS級に対して敬意を払っている。同じステージに立つ強者だからこそ、他のS級の異常性がよく分かるのだ。

 

「じゃあ、プリズナーはいつかS級の上位層―バングお爺ちゃんやクロビカリ、フラッシュ、アトミックのおっちゃんと並ぶ事ができると思う?」

 

「俺が…?」

 

 サトルのさらなる質問にプリズナーは目を丸くする。今サトルが挙げたのはS級ヒーローの中でもトップ(サトル、タツマキを除く)の戦闘力を持つ者達だ。プリズナーが全力で挑もうとも間違いなく一蹴できる程隔絶した実力差がある。そんな者達と並べるか、と言われると正直そんな事はイメージできなかった。

 

()()()()()()。多分その意識が無意識にプリズナーの成長に蓋をしてる」

 

「俺の成長に…蓋?」

 

 サトルはプリズナーに指を差して指摘する。プリズナーは心底分からないと言った様子だ。

 

「プリズナーはS級の中だと珍しく謙虚だからね。実際最弱ってのは間違ってないよ。だけど問題なのは()()()()()()()()()()()()()()()()ってとこ」

 

「プリズナーが目指すのはクロビカリになると思うけど、僕が見た感じ、伸び代や術式含めたら全然届き得ると思ってんだよね。下手すれば越える可能性もあるぐらいだ」

 

 サトルは声色こそ淡白だったが、その内容はプリズナーへの期待と称賛。プリズナー自身がクロビカリには全く敵わないと思っていただけに、サトルの言葉には目を丸くした。

 

「プリズナーと似たタイプでマスターがいるけど、彼自身も今の自分はクロビカリに敵わないって事は自覚してたよ。けど、彼は“いつか必ず着こなしの極地へ行って見せる”って言って、クロビカリどころかタツマキを目標にしてるぐらいだ」

 

 サトルが挙げたヒーローは同じS級でプリズナーと同じ様なパワータイプのヒーローだ。彼もS級の中だと実力は下位に位置するものの、常に弛まぬ努力でクロビカリどころかタツマキを越える事を目標としている。サトルとしてもその本気度には一目置く程だ。

 

「まあ本当にマスターがタツマキを越えられるかは置いといて、クロビカリに届き得る潜在能力(ポテンシャル)はあると思ってる」

 

 そしてそのヒーローに関しては当然プリズナーも知っている。同じタイプのヒーロー同士である為に話す機会も多いが、それ程とは思っていなかった。

 

「つまり…サトルちゃんは俺はまだ甘えてると言いたいんだな?」

 

「厳しい言い方になるけど、そうだね。その謙虚さが駄目とは言わないけど、“一生敵わない”じゃ駄目だ。“今は負けてるけど、いつか必ず並んでやる、越えて見せる”ぐらいの気概じゃないとね。プリズナーも僕と同じ“S級ヒーロー”なんだから、生半可な実力でいてもらっちゃ困る」

 

「僕やタツマキは例外としても、さっき名前を挙げた四人は術式ほぼ関係なしの素の身体能力であそこまで行けるわけだからね。僕自身まだ彼らに届いてない部分もあるし、もっと強くなるつもりさ」

 

 そう言ってサトルは背中を向ける。プリズナーより小さいその背中だが、その背中からは強い覚悟と責任が感じられた。

 

「だから強くなってね。僕に置いて行かれないように」

 

「!」

 

 だが、その次に言った言葉は覚悟や責任よりも―一人ぼっちで寂しがっている子どものようにも思えた。

 それが気の所為だったのかは分からない。少なくともプリズナーはそう感じられたのだ。

 

「分かった。サトルちゃん」

 

「!」

 

 そしてプリズナーにとってのサトルは頼れるヒーローであり―()()()()()()でもある。ならばその男子をいざという時守れるようになるのは当然だ。

 

「俺は必ずサトルちゃんを守れるぐらい強くなって見せる。だから―安心してくれ」

 

 故に誓う。信じてくれるのなら、それに応えるのが筋というもの。プリズナーは乙女だが、それと同時に一人の漢でもある。サトルの想いが如何に重いものでも、それに応えないという選択肢はなかった。

 

「…ハハッ、期待してるよ」

 

 サトルとプリズナーは互いに笑う。その日の事は確実にプリズナーを変えるきっかけとなった事だった。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「ハァッ…だから…負けるわけには…行かないんだ…」

 

 そして、現在に戻る。状況としては自身はボロボロ、援軍も期待できず、敵は実質無傷という絶望的な状況だ。

 

「男子達を守る為にも…()()()と…向き合う為にも…!!」

 

「なーにブツブツ言ってんの。命乞い?」

 

「いいや…約束を…思い出してただけだ…!!

 

 だが、戦いを放棄する事はない。どれだけ差があっても、ランキングが違っても、自分は“S級ヒーロー”なのだ。サトルはもちろん、まだ皆には遠く及ばないが、せめて戦うしかない。

 

「そう、じゃあもう死んで良いわね」

 

 深海王は勝負を決めるべく拳を振り上げる。プリズナーも戦えない事はないがもう一度食らえばいよいよ危ない。

 

「よく頑張ったわ。じゃあね」

 

「クッ…!」

 

 そして深海王の拳がプリズナーを貫く。

 

 

 

 

 

 パァン!!

 

 

 

 

 

「?」

 

 深海王は違和感に首を傾げる。あの変態()もろとも叩き潰したつもりだったが、砕いたのは地面だけで肝心の本人がいない。

 それに周囲の景色にも違和感を覚えた。街中である事に変わりはないが、立っている場所が少し違う。違和感を覚える寸前に聞こえた乾いた音も気になる。

 

「!」

 

 深海王が何気なく背後を振り向くと、そこには今までいなかった筈の男が立っていた。プリズナー(変態)程ではないものの中々の体躯を誇り、髪を一点でまとめ上げている独特な髪型だ。

 どこから現れたのか、どうやって近付いた等の疑問点はあるが、身体から感じられる呪力は絶対に自分より弱い。大した脅威にはならないと、深海王は判断した。

 

「あらぁ?また新しい兵隊さんが来たのかしらぁ?もう飽きたのだけど」

 

 深海王は動かない男を叩き潰すべく拳を振り上げる。男は未だに動かない。そしていよいよ拳が直撃すると思った瞬間―

 

 

 

 

 

 パァン!!

 

「!?」

 

 

 

 

 

 ―また乾いた拍手の音が響き渡ると、深海王は周囲の景色が変わったのを感じ取った。そして背後に振り向こうとすると―

 

 

 

 

 

「━━━━━━━━━━ッ!!」

 

 ズドォン!!

 

「!!??」

 

 

 

 

 

 ―男が背後から蹴りを叩き込んで来た。しかも蹴りが直撃すると同時に()()()()のようなものが発生し、深海王は吹き飛ばされた。

 

「━━━━━」

 

 そして男は地面に落ちていた小石を拾い、軽く呪力を込めて自分の側へ投げる。

 

 パパァン!!

 

 今度は素早く二回手を叩くと小石があった場所にプリズナーが現れ、吹き飛ばされた深海王が近くのビルの屋上に瞬間移動した。

 

「大丈夫か?Mr.プリズナー」

 

「! トウドウちゃん!来ていたのか!」

 

 そして男がプリズナーの身を案ずると、プリズナーは男を知っているのか、男の名前を呼んだ。

 そう、この場に来た以上彼も一般人ではない。彼もまたヒーロー、それもA級上位に位置する猛者である。

 

“A級10位 クラッパートウドウ”

 

「当然だ。彼奴はタカダちゃんの晴れ舞台を台無しにした…絶対に許さん

 

 男はプリズナーの隣に並び立ち、青筋を立てて深海王を睨む。その身体から立ち昇る呪力は、凄まじい威圧感を放っていた。




長かった…一万字とか滅多に書かない…


・ユウジ、パンダ、イナズマックス
三人共観戦及び負傷者の護衛。レベル違いの戦いに圧倒されてる。ちなみにパンダはずっとゴリラモードです。

・ぷりぷりプリズナー
ということで彼の強化点はバイブレーション☆エンジェルの先取りと、S級特訓会による地力の強化でした。深海王戦で教わる筈だったダークスタイルも当然会得済み。雨なしの深海王はもちろん、雨降り後の深海王相手でも食い下がれる程度には強い。

・深海王
今見返してもやっぱり強い。一度死にかけたけど雨によって復活。個人的に雨降り後の強さは竜最下位ぐらいだと思ってます。

・トウドウ(東堂葵)
アニメでの出番が待ち遠しい男。実は近くまで来てました。見せ場は次回で。


こんなもんかな。次回は変態とゴリラが大暴れします。

評価、感想もよろしければお願い致します。

それでは次回をお楽しみに。

明かされた全貌!殺し合いはどっちが強い?

  • 五条悟(不意打ち虚式なし、縮小領域アリ)
  • 宿儺(完全体、十種、術式情報なし)
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