【呪術廻戦✕ワンパンマン】ハゲの代わりに呪われた人達がやって来た   作:サクラン

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初の10点評価でバカみたいに伸びてお気に入り登録200人突破+ランキング21位ありがとうございます!

話のタイミングとしてはベストだけどタイトルでそれ伝えられないの悲しい…

それではお楽しみ下さい。


第二十四話 S級特訓会―拾―

 遂に始まった“無限のサトル”と“戦慄のタツマキ”によるヒーローの頂上決戦。開戦の意味で放った初手の攻撃の時点で別次元であることを十分に理解させられた。

 

「えんぐ…」

 

「詠唱と掌印込みな事を加味してもやべえな。元の出力が高い事もあるが…」

 

 ユウジはその威力にあんぐりと口を開け、戻って来たメグミも呪術的な観点から凄まじさに驚いていた。

 

「初っ端から詠唱込みは初じゃねえの?」

 

「いつもより見る人多いから気合入れてるんじゃない?」

 

「サトルが考えそうな事だな…」

 

 なお、S級ヒーローも戻って来てクロビカリやタンクトップマスター、プリズナーと言った体躯に恵まれたヒーロー達も同じ部屋に集まっている為、わりと大所帯でギュウギュウ詰めになっていた。

 

「にしてもサトルの奴は何やってんだ?()()()()()()()()()()()

 

「カッコつけたいんじゃないですか?盛り上げ意識してそうですし」

 

「タツマキに腕捩じ切られても知らねえぞ…」

 

(拡張…?)

 

 アトミック侍とユウタは何か意味深な会話をしていたが、ユウジはその意味が理解できなかった。サトル言っていたの術式の拡張と何か関係があるのかとも思ったが、後で聞いてみようと思い画面に集中した。

 

 

 

 

 

 ズドゴォン!! ドガァン!! バギィ!! ズドドド!! ズズン!! ガガガガ!! バゴォン!!

 

(…本当に見せる事意識してんのか?)

 

 ―常に土煙が舞い上がり轟音が響く映像にゾンビマンは心配になった。

 

 

 

 

 

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 一方主戦場。その中心は嵐が吹き荒れているような様相となっていた。

 

「━━━━━」

 

 タツマキが指を振るうと空間が輝いてサトルに向かって弾丸が飛んだ。その速さは見た目通り光の如し。見た目はメルヘンチックだが食らえば身体が消滅しかねない。

 

「よっと!」

 

 サトルは拳を握り締めて一瞬で姿を消して弾丸を躱すと、タツマキの背後に回り込んだ。

 

「“赫”!!」

 

 ドパパパァン!!

 

 サトルはそのまま赫を放つが、タツマキのバリアに阻まれた事で無為に終わる。

 

「フンッ!!」

 

 バギャア!!

 

 タツマキがサトルのいる場所に向かって掌を握り締めるとガラスが一気に割れるような音が響き、一瞬()()()()()()()()()()()()

 

「!」

 

 だがやはり躱していたのか、サトルはその場所にいなかった。そしてタツマキがふと周囲を見渡すと大量の蒼い球体―術式を順転させた“蒼”が浮かんでいた。

 

「位相 波羅蜜 光の柱」

 

 そしてタツマキの頭上、太陽を背にしたサトルが詠唱を唱え、自分の周囲に大量の“赫”を作り出す。

 

「術式反転―“赫”!!」

 

 そして“赫”をタツマキに―正確にはタツマキの周囲を囲っている“蒼”に向かって飛ばす。

 “茈”は“蒼”と“赫”を衝突させる事で生まれる。自身の側で作り出さなければならないという事はない。“蒼”に周囲を囲まれた状態で頭上からは“赫”が降り注ぐ。身動きが封じられ、全ての攻撃を迎撃しなければ“茈”が炸裂する。下手しなくても死ぬ状況だが―

 

 

 

 

 

「━━━━━ッ!!」

 

 ドガアアアアア!!

 

 

 

 

 

 ―タツマキはこの程度では崩れない。タツマキは自身の周囲を竜巻のように巡る力場を作り出すと、“蒼”を消滅させつつ頭上のサトルに向かって竜巻を飛ばす。

 意趣返しとも言える範囲攻撃。サトルは糸の隙間を縫うように“蒼”による引き寄せる反応を利用して超高速で駆け抜けて躱す。

 

「━━━━━ッ!!」

 

 更に指の先に極限まで圧縮した“赫”を作り出して一瞬で指を振り抜き、衝撃波を飛ばす。その動きは“旋風鉄斬拳”と瓜二つだった。

 

 ガギィン!!

 

 しかしやはりタツマキのバリアに阻まれ、タツマキ本人はもちろんバリアも無傷だった。

 

「……………」

 

「ハハッ、硬った!」

 

 タツマキはどこか不機嫌そうに、サトルは心底楽しそうな笑顔で互いの姿を視認する。

 

 

 

 

 

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「ええ!?先生武術も行けんの!?」

 

 どうにか観戦していたユウジはサトルがしれっと武術を使った事に驚いた。今まで術式を利用した中〜遠距離攻撃がほとんどだった為、接近戦ができるイメージがなかった。

 

「サトルは基本なんでもできるぞ。そこに術式も活かして底上げしとるからあんな動きができるんじゃ」

 

 驚いているユウジにシルバーファングが補足する。

 そう、サトルは細かい部分で術式を補助に使っている。移動面では“蒼”を細かく設置して引き寄せる力を活かす事でフラッシュをも凌駕する速さを手に入れ、接近戦の打撃は“流水岩砕拳”と“旋風鉄斬拳”を使い分けており、受け流す際には“蒼”の引き寄せる力を、攻撃を叩き込む際には“赫”の反発する力を活かして威力を底上げしている。

 

「にしても、タツマキ先輩のバリアも硬いですね。あれだけ攻撃叩き込んで傷一つつかないなんて」

 

 変わらずユウジの隣で見ていたミズキはタツマキのバリアの硬さに驚いていた。サトルと同格とされていると聞いていたが、ここまで来てサトルの攻撃はタツマキに一切届いていない。

 

「あーそこは…」

 

「サトルのつまらん遊び心の所為だ。本当ならこんな事にはならん」

 

 ミズキの発言にクロビカリが少し気まずげに相槌を打ち、フラッシュは呆れた表情でため息を吐く。

 

「え?どういう事です?」

 

 ミズキはどこか呆れた様子のS級ヒーロー達に疑問を抱く。ミズキだけでなくサトルについてあまり知らないヒーロー達は似た表情になっていた。

 

「タツマキのバリアは特別製だからな。ちょっとした工夫を加えなきゃ絶対に突破できねえ。当然サトルはできるんだが…あのバカは…」

 

 アトミック侍は呆れた様子で額に手を当てる。他のS級もどこか呆れたような表情だった。

 

「先生が攻撃躱すのと何か関係あるの?」

 

「タツマキはサトルの無下限を容易く突破するからの。無下限の防御はほとんど意味を成さんのじゃよ」

 

 ユウジは修行で何度か手合わせした際に彼の術式―“無下限呪術”によってただの攻撃は全く当たらなかった事を思い出す。彼は無下限を利用したバリアをほぼ常に纏っており、特殊な方法を用いない限りは絶対に突破できない。

 

「タツマキの堪忍袋の尾がどれだけ持つかじゃが…あの様子を見るにそう長くは持ちそうにないのう」

 

 

 

 

 

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 バギン!!

 

 タツマキが腕を振るうと、また景色が一瞬歪むと同時にガラスが割れるような音が響く。サトルは“蒼”のよる瞬間移動で空中に逃れるが、タツマキはしっかりと目で捉えていた。

 

「“蒼”、“赫”!!」

 

 サトルは“蒼”と“赫”を同時に作り出し、タツマキの前後を挟み込む。通常の呪力と反転術式を行使するのはかなり難易度が高いが、普段からニュートラルな無下限と反転術式を行使しているサトルにとっては容易い。

 

「━━━━━ッ!!」

 

 グシャッ!!

 

 しかしタツマキはそれらを一瞥する事もなく拳を握り締めて消滅させる。そして更に力場を操作して横に竜巻を作り出し、サトルに向かって薙ぎ払う。

 

「っと」

 

 ドンッ!

 

「!」

 

 サトルは当然回避しようとするが、タツマキが作り出した見えない壁に阻まれる。

 

(流石に潮時かな)

 

 壁を破る事こと、迫り来る攻撃を躱すのが不可能であることを悟ったサトルは今まで使っていなかった技術を解禁する事を決めた。

 指を上げると最大出力の“赫”が大量に顕現する。

 

 

 

 

 

「涅槃 波羅蜜多 天の星光」

 

 

 

 

 

 そして呪詞を詠唱すると一つの“赫”に他の“赫”が吸収され、更に輝きを増していく。輝きが最高潮に達すると、サトルはその“赫”を細かく分割し―

 

 

 

 

 

「―“赫耀”」

 

 バギャア!! ガガガガン!!

 

 

 

 

 

 ―指を振るった先に飛ばすと“赫”―否、“赫耀”は激しく光を放ちながらタツマキに向かった。

 

「━━━━━ッ!!」

 

 タツマキは光の弾丸を飛ばして迎撃するが、全てを落とし切る事はできず、数個がバリアに直撃した。

 

「……………」

 

 そのバリアには大きな亀裂が入っており、サトルの攻撃が効果があった事を示すものだった。

 

「どしたの真顔になって。急に効き目があったもんだからビビった?」

 

「フン。追い詰められて必死こいてる奴に言われたくないわよ。届いてないじゃない」

 

 互いに上から目線で煽り合うが、先程まで不機嫌そうな表情をしていたタツマキもどこか楽しそうな表情に変わっていた。

 

「そりゃあ届いたらか弱いタツマキは痛い痛いになっちゃうからね。僕なりの優しさだよ」

 

「さっきまで遊んでたのを見逃してあげてたのは誰の慈悲だと思ってんの?そういうとこに気付けないから人望ないのよ」

 

「タツマキに言われたくはないかな。僕は後輩達にモテモテだから」

 

 一通り煽り終えると二人は呪力を滾らせる。戦いは第2ラウンドへ移行しようとしていた。

 

 

 

 

 

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「いや、後輩にもモテてないだろ」

 

「メグミ、ツッコむとこそこじゃない」

 

 サトルの発言にメグミはツッコミを入れるが、そのズレた内容にユウジは思わず更にツッコミを入れる。

 

「でもなんで急に攻撃が効いたんだろ?今までヒビすら入らなかったのに」

 

 ユウジは改めて今のサトルの攻撃に疑問を抱く。今までサトルがどれだけ攻撃しても効かなかったのにも関わらず、先程の攻撃はバリアに大きな亀裂が入る程のダメージを与えた。

 単純に威力が上がった、とも考えられるがそれとは何か違うような気がしていた。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()だよ」

 

「「!」」

 

 

 

 

 

 ユウジの疑問に対して答えを提示したのはツクモだった。確信を持った物言いに、S級ヒーロー達も興味深げな表情になる。

 

「よく気付いたな、知っていたのか?」

 

「自惚れじゃなければ、私の術式があの攻撃のモデルになっているからね。理屈としてもかなり近い筈だ」

 

「そういや魔虎羅も一撃で破壊してたな。あれも術式が絡んでんのか?」

 

「まあね。細かくは言えないが概念を無視する事ができるとは言っておこう」

 

 ツクモの発言に他のヒーロー達はざわつく。ほとんどの術式には効果を発揮する対象が決められている。メグミならば影、トウドウならば呪力のあるモノ、というようにカバー範囲の差こそあれど元の規格を超えた干渉はできず、精々拡張術式で僅かに汎用性を上げられる程度だ。

 しかし術式対象の概念に囚われないという事はあらゆる事象、あらゆる対象に等しく影響を及ぼす事ができるということ。魔虎羅の戦闘を見るに物理型の術式なのは間違いなさそうだが、これがもしタツマキやサトルのような大規模攻撃が可能な術式だったなら神にも等しい芸当ができるだろう。

 

「私としてはタツマキちゃんが気になるかな。あれは私やサトル君のように圧倒的な出力で概念を突破しているわけじゃない」

 

 ツクモの視線は嵐を巻き起こしているタツマキに移る。その圧倒的な実力も驚くには驚いたが、サトルと並ぶとされている時点で隔絶した実力なのは予想が付いていた。

 しかし目を引いたのはその技術。サトルの無下限をどのように突破するのかは興味があったがこんな方法で突破しているとは思わなかった。

 

「何をどういう発想であの方法に行き着いたんだい?少し興味があるね」

 

「んん…2年半ぐらい前に遡るかのう?」

 

 

 

 

 

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 2年半前、S級ヒーローの数も増えてS級特訓会が始まった。近い力量を持ったヒーロー同士での戦いでタツマキは当然サトルと戦う事になった。

 

『“赫”』

 

『ぐっ…!』

 

 その戦いではタツマキはサトルにかなり食い下がったものの、劣勢に立たされる事が多かった。

 理由としては、やはり術式が無下限によって阻まれる事。危険物を自動的に拒む不可侵はタツマキの術式さえ阻んだのだ。タツマキの強みである超高出力と範囲攻撃が通用せず、どうしても後手に回ってしまう。唯一攻撃が通用する領域勝負でも完全に互角である為押し切る事ができず、互角以上に持ち込む事はできなかった。

 

 結果は負けたわけではなかったが、タツマキの方が劣勢に回る事が多かった。

 サトルと勝負が成立する時点で十分規格外と言えるのだが、タツマキはそれを良しとしなかった。それはヒーローとしての矜持もあるが、それ以上に―

 

 

 

 

 

『でもタツマキ僕の無下限破れないじゃ〜んww』

 

 

 

 

 

 ―サトルのアホ面を引っ叩けないのが一番腹が立つ。

 その怒りのままにタツマキは無下限を破る方法を模索した。サトルの無下限の性質も調べ続けてそれでも行き詰まった時に彼女の脳裏に過ったのは、一人のヒーローの姿だった。

 

 

 

 

 

『いざという時に誰かが助けてくれると思ってはいけない』

 

 

 

 

 

 それはタツマキにとってのヒーローという概念の原点にして頂点。自身の生き方の指針にもなっている恩人。

 彼の術式は次元に干渉するもの。タツマキも彼が戦う姿を見た回数は少ないが、その姿は印象深く刻まれている。その次元に干渉する事からタツマキは考えた。

 

 

 

 

 

 “空間に干渉する事が可能なのではないのか”と。

 

 

 

 

 

 彼のように次元は不可能でも、空間であればまだスケールとして捉えやすい。

 しかもサトルの無下限はあくまで“物理的に不可侵な領域を作り出している”のであって、“空間そのもの”を操作しているのではない。

 確信。タツマキは空間を掌握する事こそがサトルを上回る上での必須条件として考えた。他にも不可侵を突破する技術もあるにはあったのだが、そちらはフィジカルの強さが必要となる。タツマキには難しい事だった。

 

 タツマキには生まれながらに強制された“縛り”―“天与呪縛”が架せられていた。

 それは“本来得た筈の恵体とフィジカル”。タツマキはこれらと引き換えに莫大な呪力量と出力、圧倒的な呪術センスが与えられた。歳を重ねるごとに、あるいは鍛えて得る筈だったフィジカルをタツマキは得ることができず、身体の成長が一定の年齢時点で止まっている。

 それでも呪力量と出力に物を言わせて強引に得る事はできるのだが、やはり身体が追い付いてない為に身体を動かす事は得意ではなく、サトルに優位を取れる程ではなかった。

 

 そこからタツマキは地道に自身の術式と向き合い続けたが、彼女のセンスを持ってしても拡張は難しかった。なにせ“空間への干渉”という前代未聞の試みだったのだ。前駆者などいる筈もなく自分一人で探って行くしかない。

 そして努力し続けて約一年、かなり感覚は掴めてきたのだが、モノにするあと一歩が届かない。その間にも特訓会には参加し続けており、手合わせが終わってサトルに煽られていた。

 普段なら軽く噛みつく程度で終わったのだが、その時は術式拡張の為に若干寝不足気味であった事もあり、かなり機嫌が悪かった。そしてそこに煽りによる苛立ちが加わった事でタツマキは限界を迎え、サトルに向かってビンタを放った。

 無下限を突破する為の技法も使っていない、呪力と術式を発動させただけのビンタ。当然それはサトルの不可侵に阻まれ止められる。

 

 

 

 

 

 ―()()()()

 

 

 

 

 

 戦いの最中でないとは言え、本気の呪力と術式を発動させたビンタ。

 

 虚弱気味なタツマキと言えども、本気で呪力を籠めればS級上位相当の身体能力となる。

 

 激情によるものか、単に神の気まぐれか。

 

 タツマキの術式は、()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 サトルの頬を捉えると同時に、黒い火花が微笑んだ。

 

 

 

 

 

 バヂイ゙ィィィン!!!

 

「ばべふっ!?」

 

 

 

 

 

 無下限を破られる事はもちろん、まさか黒閃までも発生させると思っていなかったサトルは間抜けな声を出しながら吹き飛ばされた。

 

「今のは…」

 

 何より驚いていたのはタツマキ自身。今起こった現象に実感がないのか、感触を確かめるかのように掌を開閉させていた。

 

「…と、とんでもないドッキリ仕込んで来たねタツマキ。何今の?」

 

 そして吹き飛ばされたサトルは反転術式で身体を治癒しながら起き上がり、驚きが冷めていないのか珍しく素直に質問する。

 

「……………」

 

「いや、ちょっと答えて欲しいんだけどっ!?

 

 タツマキは先程の感覚を頼りにサトルを術式で小突くと、サトルは何かに頭を殴られたようなリアクションを取った。無下限は解除されていない。

 

「んん…!」

 

 そして少し力を入れると、超常エネルギーが()()()()()()()()()、弾丸を形どった。

 

「あの、いい加減になにか言って―「続きやりましょ、早く」

 

 若干恐る恐る聞いて来たサトルの言葉を遮り、タツマキは戦いの続きを促した。

 その後少しだけ続きとして再開した時には打って変わってタツマキがサトルを翻弄し続けた。無下限による防御は意味を成さず、“蒼”や“赫”による攻撃も空間ごと叩き潰された。

 

 タツマキは一度の成功体験と黒閃を経た事により、空間、世界そのものを術式対象とする術を完全に自らのモノとしたのだ。

 

 その後は見る見る内に術式を発展させ、戦いの中で張るバリアも術式対象を拡張したことで空間そのものを固定。同じように空間や世界に干渉する術でなければ絶対に破れないバリアとなった。

 大規模攻撃や細かなコントロールの操作感もコツを掴み、今や詠唱や掌印さえなくとも術式対象を拡張することができるようになった。

 

 そこからの勝負はタツマキが勝ち続け、サトルが対抗できる術を確立させて勝率は五分五分になった。

 しかし互いが齎した成長は大きく、タツマキは空間さえも我が物とし、サトルはあらゆる障害を根こそぎ薙ぎ倒す力を得た。

 

 

 

 

 

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「…とまあ、こんな感じで二人は“最強のヒーロー”として二大巨頭になったのじゃよ」

 

 シルバーファングが話終えると、ヒーロー達は皆遠い表情となっていた。“空間、世界そのものを術式対象にする”、“空間、世界という概念にすら囚われない攻撃を再現する”というスケールの違い過ぎる戦いを聞かされれば無理もないだろう。

 

「気になったんだけどその二つの力がぶつかったらどうなんの?聞いた感じだと概念に囚われない攻撃の方が強い気がするけど…」

 

 そんな中ユウジがふと疑問に思った事を口にする。二人は互角でこそあるようだが、攻撃の相性としてはイマイチピンと来ない。

 

「どっちにも特攻作用があると思うよ。サトル君の攻撃もあくまで術式の概念を突破した結果空間や世界そのものにまで影響を及ぼすようになったわけだからね。後は互いの出力次第さ」

 

「んー…なんとなく理解できた…かな」

 

 ツクモの説明にユウジは頭から煙が出そうになりながらもどうにか噛み砕く。呪術は奥深いものだとは思っていたが、個々の術式などによっては本当になんでもできそうな程に幅が広い。

 

「ま、互いにギアも上がっただろうし、ここからだね」

 

 そしてツクモの視線はまた画面に戻る。その映像には対峙する二人の“最強”が映し出されていた。

 

 

 

 

 

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「“蒼”!」

 

「!」

 

 数瞬タツマキと睨み合ったサトルは“蒼”を大量に展開し、高速で駆ける。

 タツマキ本人に攻撃は届かないが、それによる高速移動や目眩ましが通用しないわけではない。下手なことをされる前にタツマキは“蒼”を消滅させる。

 

 

 

 

 

「涅槃 暁 無我の境地」

 

 

 

 

 

 ―前にフリーになったサトルが呪詞の詠唱を完了させる。するとサトルの頭上に顕現した巨大な“蒼”が他の“蒼”を吸収する。

 

 

 

 

 

「―“深蒼”」

 

 ゴオオオオオ…!!

 

 

 

 

 

 そしてできた“蒼”―“深蒼”を分割することなくタツマキに向かって放つと、空間が吸い込まれるような轟音が響き、タツマキに向かう。

 

「んん…!!」

 

 バリアごと吸い込もうとする力に強引に耐え続け、タツマキは手を翳して握り潰すような仕草を取る。

 

 ゴギギギギギ…!!

 

 すると何とも形容し難い音が響き、“深蒼”は潰れた果実のように変形して消滅した。

 

「涅槃 波羅蜜多 天の星光」

 

「━━━━━ッ!!」

 

 “深蒼”が消滅すると同時にタツマキの背後からサトルの詠唱が響くが、タツマキは動揺することなく力場を操作し、巨大な嵐の壁を作り出した。

 

「―“赫耀”」

 

 ズガアアアン!!

 

 そしてサトルの“赫耀”が放たれ、タツマキの嵐の壁と激突すると一気に炸裂し、壁を吹き飛ばして消滅した。

 そしてその先には―

 

 

 

 

 

「―“茈”」

 

「―“龍の息吹”」

 

 

 

 

 

 ―奇しくも同じ事を考えていたのか、互いに同じ奥義を放った。どちらも詠唱はなかった為に初撃と同じく僅かに拮抗した後に消滅した。

 

「僕としてはもうちょいやりたいけど…」

 

「そろそろ大詰めと行きましょうか」

 

 互いに奥義を放ち、一息付いた二人は勝負を片付けるへまく終わらせる事を決める。

 

 

 

 

 

 そしてサトルは中指と人差し指を結び、タツマキは左手を翳して掌印を結ぶ。

 

 

 

 

 

「「領域展開―」」

 

 

 

 

 

 掌印を結んだ両者から膨大な呪力の気配が溢れ出し、巨大な結界を生成する。完全に結界が閉じ切ってそこに広がったのは―

 

 

 

 

 

「“無量空処”」

 

「“轟嵐神域”」

 

 

 

 

 

 ―無限を内包した銀河と緑光を放つ轟雷を伴った嵐の中心が顕現した。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「何も見えねぇ!!」

 

 なお領域内はそんな凄まじい状況となっていたが、外から見れば空間に黒い球体が浮かんでいるだけである為、モニタールームのヒーロー達は何も見えない状況となっていた。

 

「“領域展開”。術式、結界術を極めた先に行き着く呪術の極地。自身の生得領域に必中の術式を付与して展開する」

 

「「!」」

 

 状況が把握しきれていないヒーロー達に説明したのはツクモ。呪術について理解の浅い者でも分かるよう、諭すような口調でゆっくりと話す。

 

「付与される術式は生得術式によって千差万別。だが、完成した全ての領域に共通しているのは、環境効果による基礎スペックの向上と―

 

 

 

 

 

 ―領域内で発動する付与された術式は()()()()()()。防御する事はともかく回避する事は僅かな例外を除いて不可能だ」

 

「「!」」

 

 

 

 

 

 ツクモの説明に領域について知らなかったヒーロー達は驚く。ステータスが向上した攻撃が必ず当たるなどほとんど勝ち確と言える。

 

「ツクモ先生!そんなチート呪術にはどうやって対抗すれば良いんですか!」

 

 そんな反則性能に対抗する術を聞いたのはユウジ。ツクモの知識の多さからナチュラルに先生呼びに変わっているが、それは彼のご愛嬌だ。ツクモ自身も特に注意する事なくむしろノリノリで答える。

 

「いくつかあるよ。一つは“逃げる”。ただこれはあまりオススメできない。基本的に結界の内側は招き入れた者を逃さないように強固にできているし、空間のスケールが中と外で違うから結界の“縁”が分からない。どうしようもなくなった時の悪あがきだと思っててくれ」

 

「マジすか…」

 

 ツクモの答えにユウジは落胆する。足の速さには自信があったのだが、どうやら逃げ足でどうこうなるようなものではないらしい。だが他にも方法はあるようなのでそちらに期待した。

 

「もう一つは“呪術で受ける”。これが一番スタンダードかな。領域に付与された術式は“確実に当たる”だけで防御不能なわけじゃない。たまにそういうのもあるけど、極々一部。後ちょっと変則的な方法だと領域対策用の術とかもあるからそれを発動するとかかな」

 

「はい!ツクモ先生!その対策はどうやって学べますか?」

 

「有名なものだと“シン・陰流”、それ以外だと…自流かな?会得するのも難しいからね、使える人に弟子入りするのが一番じゃないかな」

 

「う〜んなるほど…」

 

 ユウジは難しい表情になる。可能性が全くないわけではないが、才能がなければその時点で終わりという点でハードルが高い。受ける方面で極めるのもアリだが、しれっと言った防御不能な極々一部が怖い。この辺りは成長する過程で要相談だろう。

 

「そして最後が今回の二人のパターンー“領域を展開し返す”。相性や呪力量によって変わって来るんだけど、同格同士の戦いだとこうなるのが多いかな。領域がぶつかり合った時、より洗練された領域が勝負を決めるんだ。今回の場合だと―」

 

 ツクモの視線は二人の領域の外殻に向けられ、目を細める。

 

 

 

 

 

「―タツマキちゃんの方が有利かな」

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 領域内においては二人の領域の必中効果が相殺し合い、互角―否、タツマキの領域が僅かにサトルの領域を六割程押し退けていた。

 

 これはタツマキの領域の性質に起因する。領域のコンセプトは“必中必殺”。如何に強力な術式を必中にできるかによって領域の完成度は変わる。上澄みの実力者の領域であれば術式を発動して必中効果が襲い掛かるが、極まった実力者であれば領域に引き込んだ時点で自動的に必中効果が襲い掛かる。

 サトルやタツマキはそのレベルの実力者であり、必中効果の殺意も凄まじい。

 

 タツマキの以前の領域の必中効果は―“自分以外の全ての存在を空間もろとも押し潰す”

 

 空間もろとも押し潰す為、如何なる防御も意味を成さず圧殺する。タツマキの実力に恥じない凄まじい完成度の領域だ。

 ここまで良いとこ尽くしの領域だが、当然大きなデメリットも存在する。

 

 一つは大量の呪力消費

 大規模な結界の構築、必中効果の付与など、領域を構成する上での難易度の高さはもちろん、それら全てが自身にとって都合の良いものとなると、消耗する呪力量も当然馬鹿にならない。基本的に展開できるのは一度きり、できて二回程度だ。

 しかし莫大な呪力量と極まった効率を誇るタツマキにとって消耗は致命的な弱点にはならない。問題はもう一つのデメリット―

 

 

 

 

 

 ―領域展開直後は術式が焼き切れ使用困難となる

 

 

 

 

 

 

 身体に刻まれた生得術式を領域に付与すると、その潜在能力(ポテンシャル)を120%引き出された状態となる。しかしその代償として術式そのものに掛かる負担が大きく、領域終了後に焼き切れてしまう―機械に例えるとオーバーヒートしたような状態になる。これは戦闘を術式に依存していればいる程大きなデメリットとなる。

 タツマキであればバリアによる防御、空間に干渉した攻撃全てが一定時間使用不能になる。これはサトルのような同格以上の相手にはあまりに大き過ぎるデメリットであり、呪力による身体能力の強化でも気休めにしかならない。

 

 術式の焼き切れを克服する方法も()()()()()()()()()、リスクが高い。その為タツマキは一回の領域展開で同格以上の相手にも有利が取れるよう、領域に縛りを架した。

 “必中必殺”をコンセプトとする領域に縛りを架す事は本末転倒にも思えるが、タツマキ程の実力者がすると話が変わる。

 

 そもそも呪術全盛とされた“平安”においては、領域は現代よりもスタンダードな技術とされていた。それは領域を構成する上での“必殺”の部分を省いていた為だ。

 自分と相手にある程度の制限を掛け、あくまで自身が有利を握る事に重きを置いていたが、技術を追及して行くごとに“必殺”の部分にも拘って行き、領域を構築する上でのハードルが上がっていったのだ。

 

 そしてそう言った縛りを架した領域―相手にとっての害が少なければ少ない程、押し合いに強くなり展開速度も速くなる事は、()S()()()()()()()()()ヒーローから学んでいる。

 そうしてタツマキが試行錯誤と研鑽の末に行き着いた領域は―

 

 

 

 

 

 ―必中効果の発動条件を、()()()()()()()()()()()()()()に絞り、必中効果を空間と結界の固定反応に変更する。

 

 

 

 

 

 領域は結界同士がぶつかった際に中和反応が起こる。タツマキは必中効果をその中和反応が起きた際―つまり()()()()()()()()()()()()()()()に発動する。

 そして必中効果、“空間と結界の固定反応”というのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 これは相手に何の害も齎さない必中効果であり、この条件と必中効果が組み合わさると非常に守備的な領域であり、極端な話相手が棒立ちでも得られる効果は環境効果による基礎スペックの向上のみであり、自分から展開するメリットがほとんどない。

 

 しかし、互いに押し合う領域勝負となると途端に話が変わる。

 “相手に害のない必中効果”、“必中効果の発動条件の限定”によって展開速度と押し合いの強さが凄まじい事になっており、通常の領域と同じ感覚で展開しようとした時にはタツマキの領域展開が完了しているという事もあり得る。同格であるサトルの領域ですら押されている事からも、タツマキの結界術に対する才能の高さが伺える。

 

「自信のわりには劣勢ね。時間は掛けないから安心なさい」

 

「ははっ、何言ってんの。勝負はこっからでしょ」

 

 しかし現在の状況はあくまで領域内で多少優位を守っているだけ。ダメージを負って領域の精度が落ちればその優位は逆転する。

 

「“赫耀”」

 

 サトルは“赫耀”を発動し、タツマキに向かって放つ。

 普段は詠唱と簡易的な掌印が必要だが、領域の潜在能力(ポテンシャル)の解放によってそれらが必要なくなった。

 

「ふん」

 

 ドガァ!!

 

 それはタツマキも同じ。彼女が領域の“必殺”を省いていたのは基本性能が向上した術式だけでも十分に勝てるという事が大きい。

 

「━━━━━」

 

 タツマキは空間ごと圧縮して弾丸を作り出すと、それを力場の嵐に乗せる。嵐の軌道に乗せて推進力を得た弾丸が猛スピードで飛んで来ると同時に超規模の嵐が空間を巻き込みながら迫って来る。

 

「“赫耀” “深蒼”」

 

 サトルは“深蒼”で弾幕を吸収しつつ、“赫耀”で嵐を相殺する。そして“蒼”の超高速移動で“深蒼”を生み出しながらタツマキの周囲を駆け回る。

 

 グオオオオオ…!!

 

 凄まじい吸引反応と空間の軋む音が響き渡るが、タツマキはバリアの出力を高めつつその場に留まる。

 

「“赫耀”」

 

 カシャアン!!

 

 そして眼の前に瞬間移動したサトルが“旋風鉄斬拳”と共に“赫耀”を放ち、遂にタツマキのバリアが割れる。

 

「隙」

 

「あ」

 

 しかしバリアの内部で身を屈めていたタツマキは無傷であり、指先に力を収束させる。

 

 ズドォン!!

 

 そして空間もろともサトルを撃ち抜く。サトルは咄嗟に“赫耀”を使って相殺しようとしたが、一瞬遅れてダメージを食らってしまう。

 

 ズズズズズ…!!

 

 サトルがダメージを食らったことによって領域の精度が落ち、タツマキの領域が更に侵食する。

 

「“赫耀”」

 

 サトルは反転術式で身体を治しつつ、細かく分割した“赫耀”を放つ。タツマキも同じように弾幕を形成してサトルに向けて放つ。

 

「涅槃 波羅蜜多 天の星光」

 

「!」

 

 そして撃ち合いの途中に呪詞を詠唱した。すると“赫耀”の火力が更に向上し、タツマキの弾幕を押し始める。

 

「涅槃 暁 無我の境地」

 

 更にダメ押しとして詠唱を含めた“深蒼”を作り出し、タツマキに向かって投げつけるように放つ。

 “赫”と“蒼”を掛け合わせたら“茈”になるように、“赫耀”と“深蒼”を掛け合わせるとまた別の技に発展する。それが狙いだと考えたタツマキは前方の“深蒼”と“赫耀”を潰すべく力を集中させる。

 

 

 

 

 

 ドパァン!!

 

「グッ…!?」

 

 

 

 

 

 そんなタツマキの背後で空間を揺るがす赤光が弾けた。その攻撃は“赫耀”先程の弾幕勝負の際にタツマキの背後に回り込ませていたもの。後追いのように見えた詠唱はタツマキに探知されるのを防ぐべく下がっていた威力を戻す為のもの。

 ダメージこそ少なかったが、集中を乱された事によって領域が多少押し返される。チャンスと見兼ねたサトルは最大の攻撃を叩き込む。

 

 

 

 

 

「四越 結集 僧祇の瞳 六道の果て」

 

 

 

 

 

 詠唱を開始すると同時に“深蒼”と“赫耀”を顕現させ、その身体からは凄まじい呪力が感じられる。

 その気配を感じ取ったタツマキは防ぐのも躱すのも不可能だと判断し、同じように最大の攻撃を放つ事を決める。

 

 

 

 

 

「八鏡 勾玉 叢雲の剣 天上の高原」

 

 

 

 

 

 詠唱と共に術式の超常エネルギーを螺旋を描きながら圧縮し、掌に収まる程のサイズにまで縮める。

 それは互いの術式を極めた先に行き着く領域とはまた異なる奥義。開戦の際に放ったものとは違う、世界そのものを術式対象とした正真正銘の切り札―

 

 

 

 

 

「「極ノ番―」」

 

 

 

 

 

「―“茈苑”」

 

「―“龍巻”」

 

 

 

 

 

 空間そのものを呑み込んで消滅させる仮想のエネルギーと世界を破壊する大嵐が激突すると、一歩も譲らず拮抗した後―

 

 

 

 

 

 バシュンッ!!

 

 

 

 

 

 ―周囲に衝撃を撒き散らして消滅した。領域も含めて文字通り全てをぶつけ合った二人は興奮冷め止まぬ様子で見つめ合い、大きく息を吐く。

 

「名残惜しいけど、終わりにしよっか」

 

「ん、もうそんな時間なのね。また決着着けたげるわ」

 

 二人の“最強”は笑い合い、晴れやかな気分で領域を解いた。

 

 

 

 

 

 “最強”のヒーロー対決 結果―引き分け。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「と、言うわけで皆お疲れ様ー!領域勝負は見せられなくてゴメンねー。こればっかりはどうしようもなくてさ。ま、皆も頑張って領域できるようになってねー」

 

 特訓会の一連の行事が終わり、全員外に集合していた。なお戦闘の余波によってズタボロになっているが、後でどうにかするらしい。

 

「後日で映像をまとめたものが端末に配信される。参加できなかった知り合いのヒーローにも教えてあげてね。今回の特訓会で大なり小なり学んだ事があると思うけど、それをしっかり糧にしてくれると嬉しいよ」

 

 サトルは宣伝しつつも有望なヒーロー達への期待の言葉は忘れない。同格を鍛える事も目的の一つだが、一番は若手を育てる事だ。誰も着いて来れなくては意味がない。

 

「それじゃあ今日の集いはこれにて解散!この後は各自で戻ってねー!!」

 

 そしてサトルの元気な宣言を最後に、S級特訓会は終わりを迎えた。

 

「いやー中々面白かったな!メグミもお疲れ!」

 

「…ああ、疲れた」

 

 ユウジはトップヒーロー達の戦いが見れた事にニコニコしながら帰路に着く。メグミは見るだけでなく一日仕事だったのもあり本当に疲労の後がよく見える。

 

「とにかくもう帰るぞ。日も沈んで来てる」

 

「あ、ちょっと待って!話しておきたい事があるんだ。ファングおじいちゃんー!!」

 

「む?」

 

 ユウジはシルバーファングに何か用があるようで、声を掛けながら駆け寄って行った。

 

(あいつも変わろうとしてるって事か…)

 

 メグミはシルバーファングと熱心に話し込むユウジの姿を見て感慨深げに目を細める。自分もいつまでも同じ場所にいられない。

 

(俺ももうちょい考えてみるか…)

 

 メグミは自身の影に目を下ろす。他のヒーロー達も明るく得るものがあった表情であり、今回の特訓会は見たヒーロー全てにとって為になっただろう。

 

 

 

 

 

 ―()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「うむ、なんとか事故なく終わったか…」

 

 ヒーロー協会会議室。そこには特訓会を終えて帰路に着くヒーロー達の姿をモニター越しに眺めて安堵のため息を吐くシッチの姿があった。

 S級特訓会はS級ヒーローを主軸にしているが、そこに至るまでには当然職員も関わっているし、S級ヒーローを一箇所に留め続ける都合上他の街で怪人災害が起きた場合にはできるだけ迅速に対応できるように普段より気を張っていなければならない。

 しかし目立った災害や訓練中の事故もなく無事に終わったので安堵していた。

 

「今回の件でよりヒーロー達が成長すると良いな」

 

「そうだな。ああ言った若いヒーロー達が成長すると未来が明るいからな」

 

 シッチの横に立っているマサミチはヒーロー達の未来を憂い、シッチもその意見に同意する。市民の安全は当然だが、だからといってヒーロー達の安全を無視して良い事にはならない。

 ヒーローは決して賞賛ばかりが浴びせられるものではない。だがそんな中でも彼らが人を救うだけの機械ではなく、他愛もない話で笑えるような日常を送れることを、ささやかに祈っている。

 

「それでは私は帰らせてもらうよ。契約以上の仕事はしない主義なのでね」

 

「! ああ、ありがとう。サトル君の依頼でわざわざ助かったよ。()()()()君」

 

 そうしていたシッチの背後から、女性の声が掛けられる。シッチが振り向くと銀髪を編み込んで垂らした美女が座っていた。

 彼女の名はメイメイ。烏を操る事のできる“黒烏操術”の使い手であり、その名の通り烏を操る事ができる。視覚の共有も可能であり、電子機器と組み合わせれば視ている景色をモニターに映し出す事もできる。

 ヒーローではないが協会への協力者であり、術式で捜索ができる事から協会としても頼りにする事が多い。今回は他のヒーロー達へ映像を映す為にサトルから協力を要請されたのだ。

 

「フフッ、御三家当主でありS級3位ヒーローからの報酬…考えるだけで期待が膨らむよ」

 

 そして、中々の守銭奴として有名でもある。メイメイは妖艶に笑いながら、扉から退出して行った。

 

「それにしても、何も無かったとしてもヒーロー達を一箇所に集めるというのは中々危ないものですなぁ」

 

「全くだ。“無限のサトル”は身勝手な意見が多過ぎる。強い上に五条家の当主であるとは言え少々目に余る」

 

「……………」

 

 マサミチ達と同じテーブルで口々に話すのは協会の上位職員達。立場こそ最上位であるが、その実態は保身しか頭にない者、金の事しか頭にない者、権力を持っている事から自分が一番偉いと勘違いしている者、ただの考え無しの者など散々だ。

 こう言った者達はヒーロー達のことを蔑ろにする事が多い為、シッチやマサミチのような職員からは白い目で見られている。

 

「……〜……」

 

「? 君、大丈夫か?」

 

 そんな中、一人の職員が何かボソボソと話しながらUSBを手にして立ち上がり、部屋から退出しようとする。特訓会が終わって帰る事はおかしい事ではないのだが、少し様子がおかしく見えた事にシッチは引っかかるものを覚えた。

 

「…いえ…特訓会の映像を端末へ送らなければならないので…少し移動しようかと…」

 

 シッチに呼び止められて振り返った男は虚ろな瞳をしており、まるで死体が動いているような雰囲気を纏っていた為シッチは少し狼狽えたが、その職員は情報関係の管理を任されている職員だと気付いた。

 

「そ、そうか。具合が悪そうだが大丈夫か?体調が悪ければ私も手伝う。無理はしないでくれ」

 

「ご心配なく…それでは…」

 

 シッチの言葉を受け取ったのかいないのか、その職員はフラフラした足取りで退出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 何処かの地下室。そこでは一人の男が椅子に座り、パソコンの画面と睨み合っていた。

 

「…こうして発展した技術に触れていると、人類の逞しさを実感するよ。幾度となく変革期を迎え、数多くの生命が淘汰されてきた。そんな中で生き残るだけでなく、こうして進化して来たのだから。いや、進化したからこそ生き残れたのかな?とにかく、人類の可能性は無限大だという事がよく分かる」

 

 その男は周りに誰がいるわけでもないのに一人で話し出す。独り言というには長過ぎるものだが、男は特に恥ずかしがる様子もない。

 

「おい、()()()。いつまでそうしているつもりだ。もう出るぞ」

 

 するとエッジの付いた眼鏡を掛けた男が部屋の外から話し掛ける。どうやらかなりの時間待たされたようであり、言葉の節々から苛立ちが垣間見えた。

 

「ん、すまない。もう少しで…届いたね」

 

 スグルと呼ばれた男はパソコンの画面が変化したのを確認すると、挿し込んでいたUSBを引き抜いて立ち上がる。

 

「さて、行こうか」

 

「何を待っていたんだ?」

 

「いや、今回は交渉相手が相手だからね。ちょっとした前準備をしていた。基本的に交渉は私に任せておいてくれ」

 

 そして男とスグルは外に出る。そこは鬱蒼とした森であり、そこには一つの集団が待っていた。

 

「遅い。待ちくたびれたぞ」

 

 遠目から見れば人のように見えたその集団は、人外の集まりだった。

 単眼で火山のような頭を持った人間―否、怪人は苛立った様子でスグルを睨みつける。

 

「いや、悪いね。少し届け物を待っていたんだ。その分の価値はあったと保障するよ」

 

「御託は良い。さっさと儂らを連れて行け」

 

 

 

 

 

「―“怪人協会”とやらにな」

 

「ああ、それじゃあ行こうか」

 

 

 

 

 

 そして人ならざる者達は歩き出す。月に照らされて伸びたその影を、怪しい軌跡として残しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 多くのヒーロー達の目に焼き付いた“S級特訓会”。その戦いを直に“視ていた”者がヒーロー以外にもう一人存在する。

 

 その者が巣食うのは、一人の人間の心の内。そこは巨大な人骨を基調とし、大量の牛骨を重ねた玉座の上に、その者は座していた。

 

「…ふん」

 

 その者を知る者が見ればすぐにアテが着くだろう。しかしその知る者とは明らかに別の者である事は、普通の人間にはない身体に刻まれた紋様と邪悪な気配から嫌でも理解する事ができる。

 

 

 

 

 

 その者の名は“呪いの王”―両面宿儺。

 呪術全盛の時代において絶対的強者として君臨し、“史上最強の怪人”として名高い怪人である。

 

 

 

 

 

 この者もまた、肉体の持ち主であるユウジの視界を通してS級特訓会をずっと見ていたのである。

 

「どれ程のものかと思ったが…存外、見応えのある余興だったな」

 

 宿儺は不敵に笑いつつ、その目で見た強者達を想起する。

 どう斬り刻むか。その事を考えながら。




はい、今回はここまで。次回はすっくんの批評会です。


・サトル(五条悟)
というわけでタツマキとのしばき合いで空間まで対象とした攻撃が可能に。他にも拳に“赫”を纏わせた徒手空拳など、細かい強化点がモリモリ。ここに書くと長くなり過ぎるので経緯などは後々。

・タツマキ
恩人のお陰で世界を叩くビンタを取得(違う)。天与呪縛のお陰で詠唱、掌印なしで術式対象の拡張が可能なので纏うバリアを破るには最低世界まで術式対象にできなきゃ傷一つ付きません。領域も押し合いクソ強なので押し合いで優位取るのは難しいです。

・ツクモ(九十九由基)
説明役として便利過ぎる。流石東堂の師匠。術式については個人解釈が入ってるのであしからず。やっぱり死ぬには惜し過ぎる人材だった…

・ユウジ(虎杖悠仁)
色々勉強できたと思う。領域展開でエネルギー〇〇アリーナできるようになるかな?

・メイメイ(冥冥)
というわけで術式で映像提供協力。流石にヒーローではないです。この術式便利過ぎない?

・シッチ、マサミチ
まともな職員筆頭。色々と心労が多そう。

・謎の職員
特に伏線というわけじゃない。ただ特訓会のデータを全部持っているみたいです。

・けっくんと愉快な仲間達
けっくんは何か手に入れたみたいです。仲間である天才と一緒に怪人協会に行きます。

・両面宿儺(すっくん)
原作で(色んな意味で)大暴れ中の人。フーガやら謎さっさと明かして(懇願)。見た内容に関しては次回で言及していきますが少なくとも馬鹿VSロリは見てます。


こんなもんかな。補足も多いなあ…

評価、感想もよろしければお願い致します。

それでは次回をお楽しみに。

明かされた全貌!殺し合いはどっちが強い?

  • 五条悟(不意打ち虚式なし、縮小領域アリ)
  • 宿儺(完全体、十種、術式情報なし)
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