【呪術廻戦✕ワンパンマン】ハゲの代わりに呪われた人達がやって来た   作:サクラン

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ドーモ、お久しぶりです。

本誌が大盛り上がりな中投稿ペースが終わってますが失踪はしませんのでご安心を(どこが安心できるのか)。

それではお楽しみ下さい。


第三十四話 成長

 “ヒーローなんてクソだ”。

 

「クソッ」

 

 周囲で起こっていた火災の気配や人々の叫び声が遮断され、代わりに手同士を繋ぎ合わせて作られた領域の中で、ナナミは悪態を吐き捨てる。

 

「今はただ、君達に感謝を」

 

 そして目の前の掌の上では、この状況を作り出した元凶の怪人がいけしゃあしゃあと自分達に感謝を述べている。今すぐにでも叩き潰してやりたい所だが、それは至難の業だ。何故なら―

 

 

 

 

 

(領域は自身の術式を結界に付与し展開する。私の至れなかった呪術戦の極致。奴の術式の発動条件は恐らく、“原型の掌で相手の肉体に触れること”。それが必中になるという事は―文字通り掌の上

 

 

 

 

 

 ―そう、この状況が最早詰み同然なのだ。

 領域に対抗する術もあるにはあるが…それも大半が時間稼ぎにしかならない上、ナナミはそもそも習得していない。それはユウジも同様だ。いくら黒閃を経て大幅にレベルが上がったとしても、そう言った特殊技能が急に身に付くわけもない。

 本当の意味で領域の対抗手段と言えるのは、同じように領域を展開し返すか、さらなる高等技術を使って身を守る事のみ。後は強引なものだとそもそも領域を展開する隙を与えない、だろう。

 そして既に展開されてしまっている今―ナナミ達に為す術はほとんどない。

 

(ユウジ君がいるという事は領域を維持できない程のダメージを与えられれば逃げられる…とは言え必中の術式が発動する前にそれを行うのは到底…)

 

 一つ優位な要素としては真人にダメージが与えられるユウジがいることだ。領域を維持するのも相応のリソースを割かねばならない為、もし大きなダメージを受けてしまえば領域は維持できずに崩壊する。

 しかしそれは並大抵の事ではない。自分達に身を守る術がない以上、真人が必中の術式を発動してしまえば自分達は無防備にそれを食らってしまう。術式を発動する暇も与えずに攻撃を加え続けるというのは今の状況では不可能に近い。状況が最悪である事に変わりはなかった。

 

「………ハァ」

 

 ナナミは真人にも、側にいるユウジにも聞こえない程の小さな声でため息をついた。面倒や呆れから来るものではなく、ある種の諦観からなるため息だった。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 “ヒーローなんてクソだ”。自分で名乗っておいてなんだが、ナナミがこの考えを覆した事は一度もない。

 

(そうだ、クソだ。クソでしかない。自分が、仲間が他人の為に生命を賭ける事を時に強制しなきゃならないから。しかもそれを―勝手に美談にされるのだから。―だから辞めた。というより逃げた)

 

 今から5年前―まだヒーローなんて職業は存在せず、その前身とも言える呪術師が社会の平穏を陰ながら守っていた頃。ナナミはとある金融機関に就職し、何の意味も生きがいもなく、ただただ金の為に働いていた。呪霊や怪人などと戦い続け、いつ死ぬかも分からない呪術師として戦う意味など見出だせなかった。

 

 そんな時、いつも破天荒で何かやらかせなければ生きていけないのではないかと思う程に問題児であり―そして自他共に“最強”として認める一人の先輩が、後の“ヒーロー”という職業を生み出す上でのきっかけとも言える、重大な事件を巻き起こしたのだ。

 そして瞬く間に功績を挙げ続け、“最強のヒーロー”として称えられるまでそう時間は掛からず、TVでもよく見掛けるようになったが―ナナミとしては理解できなかった。

 ナナミから見ればその先輩は他人ではなく自らの為に力を振るい続け、根本的に他者との間に僅かながら距離を開けていると。そんな彼が足手まといとなる弱者を守り、救うヒーローという道を選んだのは、はっきり言ってかなり驚いた。

 

 しかし驚いただけで、その道を歩もうとは思わなかった。TVで報道されるのはヒーローの華々しい活躍がほとんどだが、全ての災害がそう簡単に丸く収められるわけではない。その裏では救い切れなかった被害者が必ず存在し、その被害者から理不尽な物言いをされる事だってあるだろう。救い切れなかった自分自身に苛立ちだって感じるだろうし、逆にクソ以下の人間であっても守らなければならない時だってあるかもしれない。

 

『もうあの人一人で良くないですか?』

 

「………」

 

 ナナミはもう疲れたのだ。そんな終わりのない修羅の道を歩き続けるのは。だからそんな生きがいなんて不確かなものに振り回される事のない、金の為だけに働くように決めたのだ。それさえ考えていれば、余計な事に目を奪われる事だってないから。

 それでも現実では成果を挙げ、次々と仕事が舞い込んで来る。寝る時間も少なくなり、目の隈が気にならなくなってきた頃、ナナミは一つのパン屋に寄った。別に専門の物しか食べないだとか、そういうわけではない。ただ最寄りのコンビニで好きだったパンが売られなくなったから、近い場所にあった店を選んだというだけの話。

 

「好きなんですか?カスクート」

 

「え?」

 

「え?」

 

 その程度の思いだったので、当然店員の女性から話しかけられるなど思っていなかった。仕事以外の世間話をする事はかなり久し振りだったので、思わず意味もなく聞き返してしまった。

 

「ええ、まぁ…近くのコンビニで売られなくなってしまったので」

 

「あら、そうなんですね」

 

 ナナミが素っ気なく返事をしても、店員の女性は穏やかに笑いながら言った。

 

「美味しいでしょ、コンビニのものより」

 

「…そりゃあ、パン屋ですから」

 

「うわ辛口」

 

 手厳しい返事を言いながら会計を済ませ、商品を入れた袋を受け取る。そして挨拶をする事もなく店の出口へ向かう。

 

「また来てくださいねー」

 

 にこやかに挨拶をする女性からは人の良さが感じられた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「に゛ー…」

 

 女性の肩には異形の怪物が乗っていた。しかし女性がそれに気付いた様子はない。

 

(蠅頭…放っておいても問題ないでしょう。下手に祓ってヘンテコ霊媒師と思われていても面倒だ…)

 

 ヒーローという職業が広まり、人数も増えて来たがそれでも全ての怪人にすぐ対象できる程の数はいない。特にヒーローだけしか見えない呪霊タイプの怪人となれば尚更だ。幸いにも蠅頭レベルであれば精々疲れが溜まりやすいと言った程度の被害しか齎さないので、祓除しなかったからと言って死んだりする事はないだろう。

 

「……………」

 

 あんな善人であっても誰かに呪われているという事実に僅かに心を痛めるが、それも仕方のない事だとすぐに飲み込む。どんな善人であれ、完璧超人であれ、どこかの誰かが嫉妬の感情を抱いたりするものだ。彼女が恨まれたり妬まれたりしているのか、あるいは劣情を向けられているのかは分からないが、どっちにしろ自分には関係ない。

 一々反応していてはキリがないのだ。そんな事はこの世の何処にでもいくらでもある。そう言ったモノに対処する為にヒーローというものが今はいるのだ。自分がどうこうする必要はない。

 

「……………」

 

 そしてまた毎日を過ごす。やりがいも生きがいもなく、ただただ金の為に生きる毎日。仕事も後ろ暗いものではないが、清廉潔白とも言い切れないもの。誰かからお礼を言われることなどなく、あったとしてもそれは仕事上の評価だった。

 そしてまた、あのパン屋を訪れた。

 

「大丈夫ですか?ちゃんと寝れてます?」

 

 同じ店員がナナミの顔を見て心配する。身だしなみには気を遣っていたが、睡眠時間は削られる一方であった為、自然と表情に現れてしまったのだろう。ナナミは特に答える事はなく、女性に肩に相変わらず居座る蠅頭に少し目を向けながら言った。

 

「…あなたこそ、疲れが溜まっているように見えますが」

 

「あっ、分かっちゃいました?最近なんだか肩が重くて…眠りも浅いし」

 

 女性は少し疲れたような表情をしながら肩を叩く。十中八九蠅頭の仕業なのだろうが、病などに罹ってない事にナナミは僅かに安堵した。

 

「…そんな状態でお店に立って大丈夫なんですか?」

 

「あー…まあ正直キツいっちゃキツいですけど…やっぱり、私のパンが欲しい人がいるって考えたら、申し訳なくなっちゃうじゃないですか」

 

 女性は少し困ったような笑みを浮かべながらも、しっかりと言葉にして見せる。ナナミも知識としてしか知らないが、パン屋はそう楽な仕事ではないだろう。朝早くから仕込みを行い、最高のパンを提供するべく焼き加減や原材料にも気を遣い、その上で買ってもらえるよう接客までして…ストレスを溜めない方がおかしいレベルだがそれでも嘘をついているように見えないのはこの女性は心からそれを生きがいだと思っているからなのだろう。

 

「…私の仕事はお金持ちの人からお金を預かって、その人をよりお金持ちにする。簡単に言ってしまえばこんなものです」

 

 それに比べて、自分はどうだろうか。ただ金の為だと言って仕事をする毎日。

 

「正直、私がいなくなっても誰も困りません」

 

 職場の人間や今まで頼っていた人間からすれば困るだろうが、それでも大多数の人間は困らないし、興味もないだろう。

 

「パン屋がなくなったら、パンを食べたい人が困りますよね」

 

 この店はそこまで大きい店でもないようだが、それでもこうして続いてる以上はそれなりに客が来て、必要とする人間がいるのだろう。

 

「でも何故かそういう人間のサイクルを外れた私のような人間の方が金払いが良かったりする。冷静に考えるとおかしい話ですよね」

 

 だが、自分はそうじゃない。なのに仕事ができるというだけでかなりの金が入って来る。おかしな話だ。本来なら人々を喜ばせ、社会に貢献した人間に多くの報酬が支払われるべきだ。しかし社会の在り方はそうじゃない。どうすればより金の入る仕事ができるかが重視される。どれだけ人々に貢献しても、金が入らなければ意味がないと一蹴されてしまう。

 

 

 

 

 

「じ、自慢…!!」

 

「違います」

 

 なお女性は話を理解できなかったのか、何故か自分が儲かっているだぞという自慢話に聞こえたらしい。なおそんな薄情な人間だと思われるのはごめんなのでナナミは即座に否定した。

 そしてナナミの視界には変わらず蠅頭が入っている。恐らく放っておいても死にはしない。今の女性がそうであるように、少し健康に不調が起こる程度だろう。

 

「…一歩、前に出ていただけますか?」

 

「? はい…」

 

 ナナミから突然の指示に、女性は困惑しながら一歩前に出る。

 

「━━━━━」

 

 そしてナナミはその手に久し振りに負の力を込め、ゆっくりと横に振るう。

 

 ドチュッ!!

 

「!!」

 

 その延長線上には蠅頭が止まっており、ナナミの手刀によってその身体はバラバラになった。

 

「肩、どうですか?」

 

「え、あ、はい…アレ!?軽い!?」

 

 蠅頭が祓われた事を確認し、女性に調子を尋ねてみると、女性は今まで身体に感じていた動き辛さや重苦しい感じがなくなっている事に気付き、突然の変化に目を白黒させている。

 

「違和感が残るようでしたら病院へ。失礼します」

 

 ナナミは蠅頭による悪影響がなくなった事を確認すると買った商品を手に取り、店の外へ出る。

 

「え、ちょっと待ってくださいよ!」

 

 女性は困惑していたが、ナナミがスタスタと外へ出たのに気付くと慌てて後を追う。何をしたのかは分からないが、ナナミが自分の身体に何かをして、治してくれたのは確実だ。だったら言うべき事は一つしかない。

 

「ありがとー!!また来てくださいねー!!」

 

 こちらに振り返ることなく帰るナナミの背に自分が出せる限りの大声で、お礼の言葉を贈る。しかしナナミがなんの反応も返さないので、聞こえてないのかと不安になる。

 

「あれ!?聞こえてない!?ありがとー!!また!!来て!!ねー!!」

 

 ならばこれならどうだと言わんばかりに更に声を張り上げてお礼の言葉を贈った。ナナミは最後まで振り返ることも反応を示すことはなかったが、それでも届いたことを願う。

 

「はぁー…優しいのか無愛想なのかよく分かんない人だなー」

 

 ナナミの仏頂面を思い浮かべながら、女性は独りごちる。もう一度、店に来ることを願って。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

(生きがいなどと言うものとは無縁だと思っていた)

 

 ナナミは帰路に着きながら、内心で思う。あの女性から感謝の言葉を贈られた時は、正直悪い気はしなかったと。今の仕事も悪いわけじゃない。ナナミ自身がかなりできるおかげで金払いはちょっとした額になっている。精神的疲労や死ぬ可能性があるヒーロー業よりも総合的に見ればよっぽど快適だろう。

 

『ありがとー!!』

 

(…どうせやるなら、適正のあるものの方が良いでしょう)

 

 それでも、自身に適正が高いのはこちらだろうとナナミは思い、学生時代の先輩へ着信を掛ける。相手が出るのにそう時間は掛からなかった。

 

「もしもし、ナナミです。ご相談が。明日にでも協会の方へ伺い…何笑ってんですか」

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 そうしてヒーロー試験をストレートで合格し、功績を重ねてA級ヒーローとなった。なんて事はない過去の話。しかしナナミにとっては忘れることのない過去だった。

 

(私はともかく、彼だけはどうにか逃さなきゃならない)

 

 ナナミは横に並び立つユウジを見る。自分が死ぬのは最悪構わない。代わりの利く人材がいる。しかしユウジが死ぬのはダメだ。彼の代わりになり得る人材はいないし、個人的な意見としても、死なせたくはない。

 

「ユウジ君、私が一か八か穴を開けるのでそこから―」

 

 そしてナナミは唯一助かる可能性のある策を瞬時に構築し、ユウジに伝える。領域は内→外への力に対しては強い為、破れるかは分からないがまだ発展途上の怪人が初めて展開した領域であれば破壊できる可能性もゼロではない。ナナミはそれをユウジに手早く伝える。時間がないのだ。

 

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 ズダンッ!!

 

「なっ!?」

 

 

 

 

 

 しかしナナミが横を向いた時には、ユウジの姿はなかった。既に真人に向かって拳に呪力を籠めて跳躍していたからだ。ユウジも領域についての意識は頭に入っている。正直領域を展開された時はもうダメかとも思ったが―必中効果がすぐに襲い掛かって来なかったことから、まだチャンスがあるのではないかと考えた。

 真人の領域は初めてにしては十分良くできている。しっかりと相手を閉じ込めるよう強固にできているし、必中効果の必殺部分も問題ない。

 

 しかしサトルやタツマキのように―入った瞬間に必中効果が自動的に襲い掛かるレベルにまでは至っていない。本人が術式を発動して初めて必中効果が襲い掛かるタイプの領域だ。

 真人の結界術のレベルが低いわけではなく、最強二人のレベルがおかしいだけであり、弱点とも言えないものだが―それでも穴があるのならそこを突く。

 ユウジは領域に引き摺り込まれてから僅かな間にそれを把握し、自分達が生き残り―何より真人を殺す為に賭けに出たというわけだ。

 

「ハハッ、馬鹿だね」

 

 しかし真人はその賭けを無謀なものだと一蹴する。確かに今のユウジの呪力強化の恩恵を受けた身体能力は並のものではなく、真人をもってしても真正面の殴り合いは不利を強いられる程のものだ。

 それでも動きが全く見えないという程の差はないし、必中効果にしても―ユウジの攻撃よりも必中効果が襲い掛かる方が速い。だからこそ真人はユウジの行動を無駄なものだと嘲笑う。その行動が無駄なものになったと分かった時の顔を見るのが楽しみだと、術式を発動する。多少耐性があっても一瞬隙はできる。それで終わり―

 

 

 

 

 

 ―しかし真人は見落としていた。自身の必中効果が何に影響するのかを。

 領域の必中効果の発動する相手を選定する、絞り込むというのはかなり高度な結界術を扱わなければならず、ヒーロー協会でもそれを可能とする人物は五指にも満たない。当然真人も初めての領域でそんな芸当ができるわけもなく、領域内にいる自身以外の全てに、必中効果が発動した。

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが意味する事は―

 

 

 

 

 

「おい、誰の魂に触れている?」

 

「!!??」

 

 

 

 

 

 ―彼の王の魂にも触れてしまったことを意味する。

 

「普段であれば八つ裂きにしている所だが…腹の底から小僧を嗤った仲だ。今回ばかりは見逃してやる」

 

 彼の王―宿儺は不機嫌そうな表情で真人を見逃してやると言い放った。「助かった」―内心で真人はそう思ったが、身体は蛇に睨まれた蛙のように動かず、口の中はカラカラに乾いた感覚だった。

 

「分は弁えることだな。痴れ者が」

 

「!!」

 

 そして最後は真人の方に向き直り、威圧感と共に睨み付けた。言った言葉は嘘でこそないが―裏を返せば「二度目はない」という事。真人は魂の格の違いに「勝てない」と、そう感じてしまった。

 それは現実の時間にすると一秒にも満たない僅かな時間だが―今の彼の前で、それは致命的だった。

 

「! しまっ―」

 

「━━━━━━━━━━ッ!!」

 

 バギィ!!

 

 真人が躱す間もなく、ユウジの拳が顔面を捉える。掌から叩き落された真人だが、既の所で意識を切らさず、領域を維持し続ける。

 

(ま、まだだ!領域内なら俺の優位は揺るがない!もう一度術式さえ発動してしまえば俺の勝ちだ!)

 

 呪力も領域を展開した影響でそう多くは残っていない。しかし必中効果で二人を殺す事ぐらいはできる。そうしてまた必中効果を発動させる―

 

 

 

 

 

 カシャア!!

 

「「「!?」」」

 

 

 

 

 

 ―前に、硝子が割れるような音と共に領域が崩壊した。しかし真人自身のダメージの蓄積によって崩壊したわけではない。それを行った者は―

 

 

 

 

 

「間一髪ってとこか」

 

 

 

 

 

 ―ユウジ達と別れ、街中に散らばった改造人間の処理に回っていたゾンビマンだった。全身を血に染めてこそいるが肉体自体の方は無傷という中々奇妙な状態ではあったが、彼の能力からすると納得は行く。それ以上に解せないのは他にある。

 

(どういう事だ!?領域そのものが崩壊する程の攻撃力を持ってたのか!?俺の時は手札を隠して…)

 

 そう、真人が驚いたようにゾンビマンが領域を破壊したことだ。

 別に破るだけなら大して驚きはない。領域は相手を閉じ込める為に内から外への力には強いが、逆に外から内への力には弱い。なぜなら侵入する事にメリットがない。領域の主から見れば新たな獲物が増えただけであり、侵入する側としても自殺同然の為わざわざリソースを割く必要がないのだ。

 そして領域の一部が破壊された程度なら維持する上でなんの問題もなく、呪力を使って修復すればまた元通りだ。

 

 しかし一部どころでなく、領域そのものが崩壊する程の傷が与えられたらその限りではない。

 

 修復が不可能な程に領域が傷つけられればもう一度領域を展開するしか修復する方法はない。だがそれは簡単なことではなく、外側から見た領域の外殻は内側と比べれば脆いとは言え、それを破壊できる程の攻撃範囲を用意するのは簡単ではなく、それをしようと思うならそれこそS級ヒーローの中でも上位に入る程の実力が必要だ。

 そしてゾンビマンはそれ程の攻撃範囲、攻撃力は持ち合わせておらず、単純な“戦闘力”だけで見ればS級ヒーローの中でも最下位である程だ。

 

(考えるのは後だ!領域をもう一度展開することはできない以上、もう後は逃げの一手しかない!空廻に合図を…)

 

「誰が逃がすつったよ」

 

(!? 速―)

 

 ズババン!!

 

 そのゾンビマンが凄まじい速さで駆けて自身の身体をバラバラにしたことには真人も驚く。明らかに最初に戦った時とは別格の身体能力だ。十中八九“縛り”だろうがだとしても異常の一言に尽きる。

 

 バギィ!! ボギィ!!

 

「!」

 

 すると何かが折れるような音が真人の耳に入る。ゾンビマンの身体を見ると剣を振る腕の関節と踏み込んだのであろう足の関節が砕け、夥しい量の血が流れ僅かに骨まで露出していた。

 

「━━━━━」

 

 しかし一度瞬きをするとその傷は治っている。真人は見間違いかとも思ったが足元には今滴ったであろう血があちこちに付着していた。

 

「くっ…!」

 

 だがどれだけ攻撃力を高めても魂に響かない以上は真人にとってノーダメージなのと同じ。すぐに魂の形を保ち、肉体を再生させる。

 

「これでも死なねえか、アメーバよりしつこいな―まあ何度でも斬り刻むから同じなんだがな

 

ザンッ!!

 

(クソッ!コイツ!俺の呪力が尽きるまでこれを続ける気か!?)

 

 ゾンビマンは驚きつつももう一度真人を斬り刻む。真人はゾンビマンの魂胆に舌打ちをする。普段なら望む所だが領域展開で消費した呪力とこれまでのダメージが洒落にならない。今の状態での我慢比べは危ない橋を渡る事になる。

 

「ユウジ!!ナナミ!!急げ!!」

 

「「!!」」

 

 しかしゾンビマンの本当の狙いは違った。あくまでも自分は引き止め役。トドメは確実に刺すべく彼らに任せる。ナナミとユウジは瞬時にその意図を読み取り、トドメを刺すべく駆け出す。

 

(ここが間違いなく最大のチャンス。逃がすと将来の成長は計り知れない)

 

(一番の脅威は凌いだ!ナナミンもゾンビマンさんもいる!殺せる!!殺す!!!)

 

 二人共鉈と拳に呪力を巡らせて走る。その脅威度と自らの殺意。内心で抱く思いこそ違うが、ここで倒すつもりなのは同じだった。そして二人がもう少しで攻撃範囲に入るという所で―

 

 ドガァ!!!

 

「「「!?」」」

 

 ―何かが空から落ちて来た。予想外の出来事に三人の動きが一瞬鈍る。空となると落ちて来るものは当然限られる。土煙が晴れてその中から出てきたのは―

 

 

 

 

 

「くっ…強い…!」

 

「ガルルルルル…!」

 

「童帝!」

 

 

 

 

 

 ―式神に身体を支えられ、細かい傷を負っている童帝だった。その表情からは劣勢である事が伺える。式神である“雷虎”は主人である童帝の身を守りつつ、空中にいる“何か”に向かって威嚇する。

 

「やってくれたねぇオメェらァ!!」

 

「「「!!」」」

 

 そして空から怒声を浴びせながら降りてきたのは身体が雷雲のように真っ黒に染まった空廻だった。よく見ると怒りに呼応するかのように小規模の雷が放電していた。

 明らかに童帝以外の三人の手には余る相手だ。その頼りの童帝も劣勢である以上この場の主導権は空廻にある。

 

「ウチのかわいい真人をたっぷり可愛がってくれたみたいじゃないか。少しばかりは手傷を負ってるようだが…流石にやられっぱなしで帰るのは癪だねェ…!!」

 

「「「!!」」」

 

 空廻は重傷の真人に目を向けつつ、怒りの垣間見える表情でヒーロー達を睨む。身体から放電される雷がどんどん大きくなっていき、その特大の呪力にヒーロー達はマズい事を予感した。

 

「“天誅”」

 

 そして空廻が指先を空に向け、特大の雷を放つとそれによって凄まじい雷の雨が街中に降り注ぐ。一か八かゾンビマンは迎撃するつもりで飛び上がったが、分かる。

 

(受け切れねぇ…!!)

 

 今の自分でもこれは受け切れない。剣の扱いに長けたフラッシュ、あるいはアトミック侍ならばある程度相殺する事もできたかもしれないが、自分はそこまで剣術が優れているわけではないし、身体で受けても相殺するのは精々一発が限界だ。雨あられと降り注ぐこの雷の前では意味をなさない。それでもやるしかないと覚悟を決め、雷に向かって剣を振り下ろそうとすると―

 

 

 

 

 

「ガルアアアアアァァァァァ!!!」

 

「!?」

 

 バゴガアアアアアン!!!

 

 

 

 

 

 ―ゾンビマンの真横を金雷が咆哮を上げながら駆け抜け、上空の雷と衝突して炸裂した。全ては相殺しきれず取り零しもあったが、被害はかなり抑えられた。そしてそれを成したのは式神の主。

 

「ハァッ…ハァッ…!」

 

「童帝!!」

 

 童帝は傷もあって息が上がっていたが役割を全うした“雷虎”を回収する。ゾンビマンは地上に着地し童帝の身を案じた。

 

「立てるか?」

 

「ええ…何とか…けど、あともう少し…!」

 

「無茶すんな、助かった」

 

 そして肩を貸しながらナナミ達と合流すると、空廻と真人はそこから姿を消していた。

 

「奴らは?」

 

「攻撃を放つと同時に逃げたようで、申し訳ない」

 

「いや、無理して追った方がヤバかったろ、無事で良かった。ただ奇襲を仕掛けて来る可能性もゼロじゃねぇ。最低限の警戒をしつつ怪我人の救助、火消しに回れ。消防や警察とも連携してこれ以上の被害を出さないよう努めろ」

 

「了解。ユウジ君も行きましょう」

 

「ッ…ああ」

 

 ナナミはゾンビマンからの指示を受けると即座に動き出し、ユウジは逃がした事を悔しげに歯を食い縛っていたが、ナナミに声を掛けられると救助の為に街を駆けて行った。

 

「…こりゃあ、終わった後も気張らにゃならんな」

 

「ええ…」

 

 ゾンビマンは向かったヒーロー達の後ろ姿を見送りつつ、燃える街並みを眺めて呟き、童帝もそれに同調した。不安要素はあるがそれでも今はやるべき事がある為に、二人も事態の鎮圧に動き出した。




はい、今回はここまで。次々回ぐらいで次の章行けたら良いなぁ…


・ユウジ(虎杖悠仁)
真人と因縁できた。レベルも大幅に上がってもうA級とも遜色ないぐらい。早めに強くなれて良かったね♡(なお楽な戦いができるとは言ってない)

・ナナミ(七海建人)
冷めた振りしてて実は熱い漢。ヒーローに対して思う所はありますがやる以上は真剣にやるし最後まで戦います。なおゴジョセンに対してはゴニョゴニョ…と言った所です。

・ゾンビマン
改造人間片付けて援護にまで来る働き者。奥の手発動状態ならS級相応の強さですが時間制限があります。詳しくは後々。

・童帝
あんまり良い所なかったけど普通にMVP。空廻野放しにしてたら間違いなく壊滅してたので。“雷虎”は最後の一撃でダウンしました。

・真人
すっくんからの天罰はなかったですが結局ボコボコでした。これでもユウジいなかったらほぼノーダメなんだからやっぱりイカれてる。

・空廻
今回の参加者の中だとダメージは少ないけど呪力はわりとカツカツだったりする。キレると身体の天気が悪くなる。“天誅”ぶっ放した後は真人担いで逃げました。漏瑚の強さと花御の厄介さを足して2で割った感じ。


こんなもんかな。呪術がもうすぐ終わる事に悲しみがいっぱいですが最後まで見届けたいと思います。

評価、感想もよろしければお願い致します。

それでは次回をお楽しみに。

明かされた全貌!殺し合いはどっちが強い?

  • 五条悟(不意打ち虚式なし、縮小領域アリ)
  • 宿儺(完全体、十種、術式情報なし)
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