【呪術廻戦✕ワンパンマン】ハゲの代わりに呪われた人達がやって来た 作:サクラン
もう投稿頻度に関しての信頼は地に落ちてると思いますがこれからものんびり投稿していきたいと思いますので気が向いたら見て行って下さい。
それではお楽しみ下さい。
“人間怪人”ことガロウの名がヒーロー達の間に広がるまでそう時間は掛からなかった。怪人を名乗る人間という存在を知ったヒーロー達の反応は様々だった。
ある者は手柄を上げるチャンスだと勇み、ある者はその今までに類を見ない存在に眉を顰め、そしてある者は―
「…ガロウ…」
―
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「え?アトミック侍さんの所に?」
「そうじゃ、ワシはちょいと数日野暮用ができてな。おヌシの面倒を見ることができんのじゃよ」
事件の収束から数日が経ち、ユウジがいつも通り道場を訪れると、バングからしばらく面倒を見ることができないと言われた。
今道場に門弟として所属しているのはユウジとチャランコの二人だけだが、バングはS級4位ヒーローかつ武術界の重鎮。ヒーロー活動だけでなく武術界の大会にも審判などとして時折呼び声が掛かることがある。野暮用と言うからにはどちらとも違う可能性があるが、人間である以上詮索して欲しくないことの一つや二つぐらいあるだろうと、ユウジは自分を納得させた。苦々しい敗北の後ということもあり、できることなら鍛え直して欲しかったが、こればかりは仕方ない。麓に迎えが来るとのことらしいので、今は手荷物をまとめている所だった。
「─失礼します」
「お」
「!」
そうして準備をしていると道場の扉が開き、西洋風の鎧を着込んだ一人の青年が顔を覗かせた。
「遠路遥々ご苦労。わざわざすまんな」
「いえ、人数も我々の方が余裕がありますし、この程度は負担しますよ」
バングに菓子折りを渡しつつ会話するのはA級2位ヒーロー、イアイアン。アトミック侍の一番弟子であり強者がひしめくA級ヒーローの中でNo.2の座に就いている猛者である。特別親しいというわけではないが、ユウジも特訓会で面識のできたヒーローだった。
「どもっす。しばらくお世話になんます」
「ああ、短い間だがよろしく頼むよ」
ユウジが軽く挨拶すると、イアイアンは爽やかに笑いながら答える。彼もユウジが宿儺の器だと言うことは知っているが、それだけで邪険にするほど腐ってはいない。むしろ若いながら多くのものを背負っていると同情したぐらいだ。ヒーローとして、力になれることがあるなら力を貸してやりたいとも思っている。
「それじゃあ、よろしく頼むよ」
「はい、しばしお借りします」
そしてユウジが荷物をまとめ、バングはイアイアンに手を振りながら見送る。それにユウジもついて行こうとするが、その前にバングの方に振り返って一言。
「バング爺ちゃん」
「!」
「言って来る。また色々教えてね」
「…ああ、行って来い」
そうしてユウジの姿がかなり小さくなり、その背を見ながらバングはポツリと呟いた。
「…おヌシとも、こんな風に話したかった」
消え入るように呟いたその言葉は、誰の耳にも入ることはなかった。
「ゼー…、ハー…おはようございます、バング先生。ユウジの奴がヒーローと何処かに出掛けてたみたいですけど…?」
少しすると、莫大な量の階段を上ってきたチャランコが息を切らしながらやって来た。それを確認したバングは、重々しく口を開く。
「…うむ、よく来たチャランコ。今日の練習は…実戦練習と行くぞ」
「…は?実戦ってどういう…」
「早く準備しろ」
「は、はい…」
その言葉と表情からは、強い覚悟が感じられた。
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─G市山奥─
ここは人があまり寄り付かず、アトミック侍達が修練場として利用している山奥である。そこでは二人のS級ヒーローが目にも留まらない速さで剣を交えていた。
「━━━━━━━━━━ッ!!」
片方は眠たげな瞳に冷徹な光を宿して戦うS級15位ヒーロー、“異能のユウタ”。
1年前に呪詛師が引き起こした未曾有の呪術テロ、“百鬼夜行”後にB級ヒーローとして登録された後、僅か3ヶ月でS級ヒーローに昇格した異例の経歴を持つヒーローである。そしてその相手を務めるのは─
「フン!!」
ガギィン!!!
─S級5位ヒーロー、“アトミック侍”である。
ユウタの膨大な呪力量から放たれる斬撃を当然のように受け止め、お返しと言わんばかりに複数の斬撃を放つ。
「ッ!!」
ユウタは地面を容易く斬り裂きながら向かって来る斬撃を受け止めず、身体を捻りながら躱して同じように斬撃を放つ。アトミック侍との戦いにおいて、攻撃の手を止めるのは自殺行為である。何故なら─
「━━━━━━━━━━ッ!!」
「くっ!」
─受けに回ったらそのまま火力と手数で押し潰されるからだ。
武器を使った白兵戦においては“閃光のフラッシュ”と並んで双璧を成し、ヒーロー協会においても間違いなく最強戦力の内の一角に数えられる人物である。戦い方はかなりピーキーだが、それを補って余りある強さがある。
「ッ━━━━━!!」
しかしユウタもされるがままでは終わらない。斬撃を躱し、あるいは刀で逸らしながら、木々を足場にしてアトミック侍へ接近する。
中距離からの削り合いは呪力特性や刀捌きで勝るアトミック侍の方が有利なのだから、そのままダラダラと戦ってもジリ貧で追い詰められるだけだ。なら呪力使用後のインターバルの隙を突けるよう接近戦を仕掛けるユウタの判断は何も間違っていない。
「━━━━━━━━━━ッ!!」
ゾバンッ!!
問題は、その隙を突くのが難し過ぎるということだが。
アトミック侍はユウタが接近するのを見るや否や地面を斬り裂き、砂塵を巻き上げる。
「━━━━━」
ユウタはそれを払うような真似はせず、目を瞑って防御する。しかしそれは一瞬でもアトミック侍の姿を見失ってしまうということ。
事実既にユウタの側面に回り込んだアトミック侍は刀を振るおうと─
「━━━━━ッ!!」
ガギィン!!
「!」
─する前に、ユウタはアトミック侍の方に向かって刀を振り下ろし、アトミック侍に防御を強要させた。
「へぇ、よく見抜いたな」
「目だと追いきれないので」
アトミック侍は挑発的に笑い。ユウタは半ば呆れたように呟いた。そこで一段落ついた二人は、一息ついて刀を納める。
「呪力の練りは悪くねぇ。後は解放するタイミングと単純な剣術方面だな。次は“リカ”ありでやるぞ」
「分かりました」
近くの水源で休憩と水分補給をしながら二人は会話を交わす。その内容は今日からここに来る客人についてのことだった。
「そう言えば今日からユウジ君が来るそうですけど、よく受け入れましたね。何か教えたいことでも?」
濡れタオルで身体の汗を拭いつつ、ユウタはアトミック侍に質問を投げかける。自らの師の数少ない認めた相手であるバングからの頼みということもあるのだろうが、それにしたって今回のユウジを一時とは言え受け入れた師の行動は少々意外だった。
宿儺の器という興味深い対象ではあるが、言ってしまえばそれだけだ。剣を扱うわけでもないのに受け入れたその理由が気になった。
「んー?まぁ単純に気になったってのが大きいな。バングが認めたんだ。間違っても軟弱者ってのはねぇだろうし…最近
「あー…なるほど」
つい最近起きた痛々しい事件のことは二人の耳にも入っている。怪人災害など今時珍しくもないものだが、流石にレベル“鬼”以上の災害は滅多に起きない。
しかも件の怪人は闇雲に暴れるだけでなく集団的な行動を取ってきたという。年々怪人災害が激しくなって行くことも相まって、二人はきな臭さを感じ取っていた。
そしてその件では人を異形の怪人に変貌させる術式を扱う怪人がいたようで、ユウジはナナミ、ゾンビマンと共に戦ったらしい。その顛末も聞き及んでいる為に精神的なダメージを心配していた。
「大丈夫でしょうか…?」
「キチィことだが立場的に慣れなきゃ潰れるだけだろ。甘やかしたって何かが変わるわけでもねぇんだからな。お前も、そこんとこはしっかり伝えとけ」
「うーん…分かりました」
半ば釈然としない表情を浮かべながらも、ユウタは渋々頷く。直視するのは中々厳しい現実だが、そこから目を背けてはならないというのもまた事実。自分からは何が言えるだろうかと、ユウタは頭を回していた。
「─師匠、ユウタ」
「イアイが戻ったみたいよ」
そうしていると森の奥から二人の人影が現れた。一人は無精髭を蓄えた武士然とした男。もう一人は頬に赤い化粧をしてロングスカートを履いた乙女─のような男性。
彼らもまた、アトミック侍の弟子として名を馳せたA級上位ヒーロー。
「カマさん。ドリルさん」
「ん、もうそんな時間か。それじゃあ一旦出迎えるぞ」
「「「了解」」」
報告を聞いたアトミック侍は三人を引き連れて山の麓へ降りて行った。
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「すっげえ山奥なんすね」
「修練場も兼ねてるからな。近隣の方々に迷惑を掛けるわけには行かない」
一方でイアイアンとユウジは山の麓に車を止めて入口に到着していた。山の入口であることを示す石階段の前には四人の人影も見える。
「師匠達ももう待っているようだ。挨拶しよう」
「うっす」
そうしてイアイアンの案内に従って着いて行く。ある程度の距離にまで近付くと、アトミック侍の方から話を切り出した。
「シルバーファングから話は聞いている。しばらくは俺達でお前の身を預かる。流派が違う故に教えられることは少ないが…まあ、俺の弟子達から見て学ぶと良い」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ユウジが挨拶と共に手を差し出すと、アトミック侍はそれを跳ね除けた。
「おっと、握手はせんぞ。俺は強者しか認めねえ。お前がつい最近潜り抜けた死線は並大抵のもんじゃねえし、今のお前を見ても弱いわけじゃねえのは分かるが…“
「…了解っす」
その厳しい物言いにユウジは物申すことはなく、少し目を細めて相槌を打った。ユウジ自身も強くなったとは言え流石にS級ヒーローと肩を並べられたとは思ってなかった。少々厳しい洗練だったが、ある種当然とも思った。
「んじゃ、軽く道を覚えると良い。ユウタ、頼んだぞ」
「あっ了解しました」
そう言ってアトミック侍はユウジをユウタに預けると、イアイアン達三人を引き連れて山を登っていった。すると当然その場にはユウタとユウジだけが残される。
「ふー…ゴメンね。ちょっと気難しい人だから…」
「良いっすよ。この間のこと知ってるなら当然の物言いっすから」
ユウタの気遣いにユウジは自嘲するようにしつつも陰りなく笑う。その様子を見たユウタは少し悲しげに目を細めつつ、思った。
(…前よりずっと
以前本部で会ったユウジは良くも悪くもヒーローの割には年相応の少年らしい表情をしていた。しかし今は以前とは違う─現実を知り、覚悟を決め直したヒーローらしい表情になった。それは確かに成長の証なのだろうが…ユウタとしては少し複雑だった。
「ユウジ君は…もっと、強くなりたいんだよね?」
「! まあそっすね。自分が役に立たないって思い知ったばかりなので」
ユウタからの質問にユウジは表情を真剣なものにして答える。遠くを見つめながらも何処か感情が抜け落ちたように感じさせるその顔を見たユウタは心を痛めながらも言葉を続ける。
「それは…何のために?」
そして次は理由を問う。何気なく問うたものだがこの答えによってはユウタはユウジを鍛えるつもりは全く無かった。恐らくこの答えを聞けばアトミック侍もユウジを鍛えることは無いだろうが、もし鍛えるようならば例え刃を向けることになってでも止めるつもりだ。
別に強くなることが悪いとは言わない。が、ヒーローとして…逸れてはいけない標がある。そこを外れてしまったらいつか必ず人を傷つけてしまう。例え“宿儺の器”であっても、それだけは選んではいけない。
ユウタはユウジの答えを待つ。そしてユウジは口を開くと─
「みんなを、守る為」
─答えを、ハッキリとした口調で返した。
「理不尽な死に方なんて、今の世界にはいくらでも溢れてる」
『事件・事故・病気…君の知らない人間が日々死んでいくのは当たり前のことだ。』
「俺がいくら頑張って助けても、その人が満足の行く死に方ができるかは、分からない」
「……………」
「それでも、何が何だか分からないまま死んで行くことが正しいなんて、絶対に思わない」
ユウジはそこで僅かに落としていた顔を上げ、空を仰いだ。
「だから俺は戦って守り続ける。その人が正しい死に方ができるように。心の底から“生きてて良かった”って言えるように」
その強い意志を感じさせる言葉に、ユウタは小さな笑みを浮かべた。これなら、道を違えることも無いだろう。
「そっか…じゃあその気持ち、忘れないでね。君の“優しさ”でしか救えない人もいるかもしれないから」
ただ、ユウジが以前見せた表情とそこから来る優しさは彼にしか出せない色だった。ヒーローとして活動する内にそれが消えてしまわないよう、ヒーローの先達として言葉を掛ける。
「…はい!」
ユウタからの言葉にユウジは元気良く言葉を返した。その表情は、S級会議の際に見た表情とそっくりだった。
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「…なるほど。あれならまぁ問題ねぇか」
一通り会話を済まして他愛もない雑談に興じているのを影から見守るのはアトミック侍とその弟子三人衆だ。ユウタとユウジの会話の一部始終を覗いていた彼らは少し安堵したように息を吐いた。
「しかし、宿儺を宿して厳しい一件があったにも関わらずああも言い切れるのか…随分芯の通った強者だな」
「そうねぇ…でもまだまだ分からないこともあるでしょうし私達が色々手解きしてあげましょ」
ブシドリルとオカマイタチは素直にユウジの至った答えに感心していた。実力をつけてもそれを使う心が育っていなければ宝の持ち腐れだと考える彼らにとっては“黒閃”を経たとしてもユウジの実力を認める理由にはならない。
だがユウジの言った答えからは十分な覚悟が感じられた。やや青臭さも感じるがその辺りの摺り合わせは彼がこれから経験することで行うことだろう。
「バング曰く身体能力は十分だが領域対策がまだらしい。実力もお前達相手に食い下がることぐらいはできるハズだ。実戦訓練で見て学ばせるぞ」
「師匠、流石にそれは尚早過ぎるのでは…いくら黒閃を経験済みとは言え簡易領域ですらそう簡単に覚えられるものではありません」
アトミック侍の打ち出したこれからの方針にイアイアンは苦言を呈する。しかしそれは尤もな意見だ。上位陣の戦いに喰らいつこうと思うなら領域対策は必須とは言え、あまりに早過ぎる。如何に成長が早いと言っても彼はまだヒーローになって1年も経っていないのだ。
「そりゃその通りだが、アイツの立場を考えるなら嫌でも成長させなきゃなんねぇだろ。お前らも任務を共にする可能性だってあるんだ、その時に背中を預けられた方が良いだろ」
「むっ…」
「それは確かに…」
アトミック侍から返された言葉にイアイアン達は言葉を詰まらせる。確かに宿儺の器であるユウジには危険度の高い任務が回されて来るだろう。それこそ領域を使ってくる怪人であろうとも容赦なく任されることは想像に難くない。
上の人間としては宿儺を全て取り込んでから死のうが道半ばで命を落とそうがどちらでも良いと考えているだろう。前者が成功すれば何処にあるかも分からない宿儺の指が巻き起こす災害に頭を悩ませることが無くなるし、後者となったとしても取り込んだ指の数だけ宿儺の力を確実に削げる。
それが悪いことであるとは言わないし、むしろ救われる人間が多いということも理解しているが…気の良い少年一人を犠牲にしていることに変わりはない。
「まあ軽く揉んでやれ。俺はボンブに連絡を取る」
「は…ボンブ氏にですか?」
脈絡もなく突然出て来たバングと並んで語られる武術界の重鎮にイアイアンは困惑するが、アトミック侍は当然と言った様子で言い放つ。
「拳で戦うならアイツの方が適任だろ」
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「どうだった?」
「ん〜S級ヒーローが二人もいるから厳しいかなぁ〜。寝首をかくってのも難しそう」
G市と隣町の境目で、二人の異形が話し合う。片や身体のあちこちにツギハギの痕が目立つ青年に、片や雲の塊のようなものが不規則に形を変えながら少女らしき顔が見られる。
彼らは怪人。名を真人と空廻。つい先日起こした失態を取り返すべく宿儺の器であるユウジを怪人協会に献上しなければならないのだが、状況の悪さに顔を顰めていた。
「もう時間もあまりないし…一か八かでも仕掛ける?」
「いや〜キツイでしょ〜…どっちか一人だけならなんとかなるかもだけど二人は逃げるのすら無理だと思うよ。片やバカみたいな呪力量に、片や白兵戦最強格だもん。側近の三人も弱くはないし」
真人が仕掛けることを提案するも空廻がそれを否定する。今襲っても勝つどころか逃げることすら一苦労だ。異能のユウタもアトミック侍も片手間に戦える相手ではない。ナメて掛かればむしろ自分達がやられかねない。
「どうにか片方を切り離すか…少なくともS級を一人に絞って数の有利が取れる状態じゃないと」
「んーどうしたもんか…君の術式でどうにか誘い出せない?」
「無理。ゾンビマンから術式の情報も共有されてるだろうし、まともにやり合っちゃくれないと思うよ」
「じゃあどうすんだよぉ〜…」
真人はお手上げと言った様子で嘆く。ギョロギョロとの間で結んだ縛りによって漏湖や花御の手も借りられない。しかしそもそも漏湖の説得が無ければ自分達はここにいないので泣き言は言ってられない。
「どう動くかは分からないけど、利用できそうなものがないってわけじゃないよ」
「んー?」
空廻が何処からともなく取り出したのは新聞。それも大きく記載された見出しだった。
「S級ヒーローをも倒した“ヒーロー狩り”。火種としては十分でしょ」
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“ヒーロー狩り”の存在は当初はあくまでヒーロー内でしか知られていない変質者と言った印象だった。
協会本部に集めたA級上位ヒーロー三人と裏社会の住民達を血祭りに上げたというのは衝撃的だったが、その後すぐにヒーロー狩りの討伐にS級4位ヒーロー“シルバーファング”が名乗りを上げたことが大きかった。高齢とは言えS級上位に名を連ねる彼に掛かればすぐに討伐されるだろうという諦観にも似た空気がヒーロー間で流れていたからだ。
しかし先日起こった事件─ヒーロー狩りがS級ヒーロー、“タンクトップマスター”を撃破したという事実によって、その認識は一気に改められることとなった。
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「ご無事で何よりです。マスター」
所変わってヒーロー協会提携病院。その病室の一室にはS級ヒーロー三人とA級ヒーローが四人集っているという中々の珍事が起こっていた。
ヒーロー狩りによってタンクトップマスターとその舎弟数十人、そしてC級1位ヒーローの無免ライダーが撃破されたという記事を見たユウタはすぐに見舞いに行こうと進言し、その圧に折れたアトミック侍が弟子達と共にいたユウジを引き連れてやって来たというわけである。
「わざわざ足労掛けてすまないな、ユウタ。─そしてお前まで来るのは少々意外だったぞ、アトミック侍」
ユウタから見舞いの果物を受け取りつつ、タンクトップマスターはアトミック侍に視線を向ける。その表情からは単純な困惑と驚きが見て取れた。
だがそれも当然。S級ヒーローは皆多少なりとも人格にクセを持つものだがアトミック侍も例に漏れず中々クセがある。自らの実力に絶対の自信があり、自身の認めた強者でなければ進んで会話しようとしない。彼が積極的に話す相手は師としてのライバルであるシルバーファングと好敵手である閃光のフラッシュぐらいのものだ。
タンクトップマスターも同じS級ヒーローである以上蔑ろにされることはないが、流石に肩を並べられたとは思っていないし、事実順位にも大きく差がある。そんな彼がユウタからの進言ありきとは言えわざわざ足を運んで来たのは少々意外に感じた。
「まあ、この世話焼きな弟子の付き添いも兼ねてだ。それに俺は人情派ヒーローなんでね。何度も顔をつき合わせた同僚に何の情も湧かねえことも無いだろう?」
「…そうだな。無粋な発言だった」
アトミック侍がからかうように笑いながら言葉を返すと、タンクトップマスターも笑いながら謝罪する。自身の立場を弁えるというのは必要だが、それを言うなら二人の立場は“
「それに…俺としては今回の件、只事じゃないと踏んでいるんでな…」
「「…?」」
そうして笑い合っているとアトミック侍が表情を真剣なものに変えてポツリと呟く。その雰囲気の変わりようにタンクトップマスターとユウタは少し困惑していると、アトミック侍から一つの質問が投げかけられた。
「タンクトップマスター、教えてくれ。お前の負けた相手─“ヒーロー狩り”、ガロウについてだ」
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「久し振りナナミン。大丈夫?」
所変わって別の病室。そこには包帯を巻いたナナミを心配するユウジの姿があった。見舞いの菓子折りを差し出すとナナミは申し訳なさそうに受け取った。
「ええ、命に別状はないのでご安心を。…今回は私の落ち度ですし」
ナナミは視線を落とし、自らを戒めるように呟く。極端に落ち込んでいるというわけではないようだが、頼り甲斐のある先達がここまでやられているというのはユウジにとっては衝撃だった。
「聞いたよー?なんでも集会に招いた内の一人に全員まとめてボコされたんだって?シッチのおっちゃんも苦渋の決断だったろうにまさかこんなことになるなんて思わなかっただろうねぇ」
そしてもう一人、見舞い人の声が掛けられる。ユウジより先に先客として訪れていたサトルの声だった。
その内容は集会、及びならず者達を戦力として頼ることを提案したシッチに同情を寄せたものだった。上層部に対する嫌悪感を隠しもしないサトルにとっては「良い気味だ」とでも言いそうな案件だが、今回は被害が被害である上にシッチはサトルから見ても数少ない信頼のおける人物だ。彼が追い出されるようなことになればただでさえ少ないまともな人物が更に消えてしまう為、庇える範囲で守ってやるつもりだった。
「他にも腕の立ちそうな者もちらほら見られましたが…想像していた以上の腕前でした。“ブツの件”と関係があるかは分かりませんが、一筋縄ではいかない存在が動いていると考えていた方が良いかと」
「身の程を弁えた動きで結構だけど、鬱陶しいことこの上ないね。“ヒーロー狩り”もマスターでさえ相性込みとは言えやられる程の実力と考えると…そりゃバングお爺ちゃんが名を挙げるわけだ」
「そうですね。立ち会って感じましたが単純な肉弾戦を得意とするヒーローで彼に勝つのは難しいかと。優位が取れるとしたらそれこそ…ファングさんやクロビカリ君でなければ安心し切れないでしょうね」
「ねーねー、俺もちらっと耳に挟んだんだけど“ヒーロー狩り”ってどんな奴なの?いやまあナナミンやタンクトップマスターさんがやられるって時点でめちゃくちゃヤバいってのは分かるんだけど」
サトルとナナミが小難しい話をしていて入らない方が良いかと思っていたユウジは合間を計って話に入り込んだできることは少ないかもしれないがヒーロー狩りはC級からS級まで階級を選ばず無差別に仕掛けているという話だ。ならば自分だって無関係ではないし、対処法があるのなら知っておくに越したことはない。
「…体格としてはそこまで巨体ではありません。それこそユウジ君と遜色ない程度には」
「え?でもそれでマスターに勝てんの?」
ナナミからヒーロー狩りの容姿を聞いたユウジは耳を疑った。
肉弾戦、引いては単純な肉体強度という点においてはクロビカリという隔絶したトップがいるとは言え、タンクトップマスターやぷりぷりプリズナーが弱いわけではない。むしろ彼らも生半可な刃物であれば通さないどころか圧し折ってしまう。他のヒーローの比較しても常識外のものであるからこそ“S級ヒーロー”たり得るのだ。
ユウジは真人達との戦闘を経て爆発的に実力を向上させたがS級ヒーローに届くとは微塵も思えない。むしろ多少なりとも縮まってきたからこそ彼らの異常性がよく分かった。
「私相手に本気を出していたわけではなかったので全て把握したわけではありませんが…彼は高度な武術を扱っていました」
「武術って言うと…バング爺ちゃんの“流水岩砕拳”みたいな?」
「ええ、こちらの一撃を的確に回避、防御し僅かな隙であってもこちらの急所に確実に撃ち込んで来る。それは自らの力を以って周囲を力任せに破壊する怪人というよりも…“ヒーローの倒し方を知っている超人”と言った印象でした」
「フィジカルタイプのヒーローって多い…というかほとんどがそれだからそりゃやられるわけだ。マスターも術式は自己バフだからねぇ。相性が悪過ぎるよね」
サトルはいつもと変わらず─しかし“ヒーロー狩り”を確かな脅威として認識するように呟く。
ヒーロー協会に所属しているヒーローの戦い方は自身の肉体強度にモノを言わせた肉弾戦が多い─つまり対人戦の心得を得ているヒーロー狩りとは相性が悪い。しかもタンクトップマスターが負ける程度には地力が高いとなればほとんどのヒーローの手に余る。
「んー…となると俺でも無理だなぁ」
「ですね。遭遇した場合には即逃げ、あるいは防御を固めて時間を稼ぐのが賢明でしょう。A級ではアマイマスクさん以外は荷が重いでしょうから」
ユウジが弱音を吐くとナナミはそれを咎めることなく賛同する。ヒーローである以上、逃げるというのは褒められた行いではないが、自身と相手の実力差を見誤り、蛮勇のまま戦うのも愚かな行為だ。守るべきものがいない時は逃げるのもまた手だ。どれ程の弱者であっても、救えるものは必ずあるのだから。
「名前とか特徴って分かってんの?」
「もう手配書も刷られて配布されてますよ。しっかり把握しておかないと見た目は街中にもいそうな青年ですから」
そう言ってナナミから一枚のビラ─手配書が渡される。危険度は“S級”、S級ヒーローをも撃破したことから当然ではあるがその事実に改めて息を呑んだ。
「…ん?」
しかしユウジはその人物の顔を見て何か引っ掛かるものを覚えた。逆立った銀髪、鋭い三白眼、威圧感はあるが整った顔立ち。何処かで見たことがある気がすると。
「…何か?」
「いやーなんか見たことある気がしたんだけどー…」
「あり得るんじゃない?世間って意外と狭いからね」
ユウジが首を傾げながら頭を捻っているとサトルは否定するようなことは言わず貧乏揺すりをしながらアイスを舐める。S級ヒーローとは思えない行儀の悪さだ。
「“ガロウ”…名前はピンと来ないけどー…なんなんだろ」
ユウジは手配書とにらめっこしながら思い出そうとするが、やはり名前は知らないが見覚えはあるという奇妙な感覚が抜け切らない。頭の出来に関しては良い方ではないという自覚があるので、すれ違っただけの人間の顔ということはないだろう。
「まぁ良いか。後で考えよ」
頭を捻っていても結果は出ないと結論づけ、手配書をポケットにしまい込む。
「ナナミン、サトル先生。ありがとう、気を付けてね」
「ええ、ユウジ君も気を付けて」
「僕の心配いるー?」
ナナミはユウジの身を案じ、サトルは言葉こそ反発だがその声色はなんだか嬉しそうだ。ユウジとしてももう少し話しても良かったが今日の見間違い人は彼らだけではない。
少し離れた病室の扉を開く。そこにいるのは同僚や先輩というよりは─
「チャランコー。大丈夫?」
「…ああ、めちゃくちゃ痛いけどな」
─友人だ。彼は現状ヒーロー狩りの出した被害の中では唯一の一般人。新聞の記事によるとタンクトップマスター達がやられた場所で不運にも側にいたとのこと。しかしS級ヒーローすら倒してしまう程の相手に大ケガで済んでいるのは彼の実力を考えると不幸中の幸いと言えるだろう。
「記事見たよ。ヒーロー狩りとかち合うなんて運がなかったなぁ」
「いや本当だよ。しかもバカみたいにつえーし…S級ヒーローすら倒すなんておっかねぇよなぁ。お前も気を付けろよ」
見舞いのリンゴに齧りつきながらチャランコは呟く。その表情は疲れているだけで特に何も感じていないように見える。
が、ユウジはチャランコが何か抱えていたのを見抜いていた。タンクトップマスターや無免ライダーが特にチャランコに言及しなかったということはチャランコがヒーロー狩りと遭遇したのはタンクトップマスター達が倒された後。S級ヒーローの戦闘となればすぐに逃げるのが普通である。にも関わらず逃げなかったということは自分から挑みかかった可能性が高い。ヒーロー狩りが闇雲に民間人に襲い掛かるタイプでないのはこれまでの被害から考えても分かるのでその可能性が濃厚である。
チャランコ曰く、ユウジが出て行った後バングからいきなり「実戦稽古だ」と言って有無を言わさずボコボコにされたのだと言う。
関わった期間は短いが、バングがそう言った横暴を行うタイプでないことは分かっている。そんな手段を取るということは…何かやむを得ない事情があるということ。そしてこのタイミングで人間怪人討伐への名乗り出…もはやほとんど答えのようなものだろう。
「ああ、それはもちろん。俺もヒーローな以上、他人事とは言えねぇしな」
とは言え、それを表立ってチャランコに言うことはしない。彼から詳細を話そうとしないのなら彼の中で何か思うことがあるのだろうしそこは自分が踏み込んで良いものじゃない。
ただ、友達である以上側にいて欲しい時は一緒にいるし、騒ぎたい時は何も考えずにバカ騒ぎすれば良い。そういうものだ。だから─
「バング爺ちゃんとも一回会って話聞かねえとなぁ。場合によっては一回殴る必要があるし…」
「え???」
─
「…え? 何お前、どしたの??」
チャランコは自分の耳を疑った。このヒーロー兼友人は何を言っているのだろうか。つい先日起こった大きな事件に関わったということはチャランコも知っているが、それによって精神を病んでしまったのだろうか。流石に死ぬ気ではないと思いたいがあまりにも脈絡が無さ過ぎて困惑した。
「んー? いや、別に絶対殴るってわけじゃねぇよ?」
「いやそこがおかしいんだって!!」
どうやら聞き間違いではなかったらしいが、それはそれで問題である。そもそも何故殴るという発想に至ったのか。自分のことを気遣ってくれてるのかもしれないが、そこなら別に気にしてない。この怪我は間違いなく自分の弱さ故のものだし、それによってバングを恨むなどお門違いというものだ。
「…もし俺を気遣って殴るってんなら気にしなくて良いぞ。この怪我だって自業自得だし、にべもなくボコボコにされたのだって普段から真面目に稽古してなかったせいだ。…先生の言う通り、才能が欠片も無かったってだけだ」
少し自嘲気味に言葉を呟く。
モテたいという不純な動機で始めたこともそうだが、自分には強くなれるだけの素質がなかった。教えや動きを見る見る内に上達させて行ったユウジとは違い、精々習う前より多少は体力がついた程度だ。弟子が今よりずっと多かった時は先輩の怖さからサボることも多かったし、練習だってついて行くのが精一杯で技を磨くことなどできなかった。
…そうやってなあなあで過ごして来た分のツケが回ってきただけだし、ある種これで良かったとも思っている。ヒーローとしてより多くの人々を守る為に技を磨いている二人に対して、ただいるだけの自分なんて場違いにも程がある。ガロウに向かって行ったのだって情けない自分がつけられる唯一のケジメをつけただけだ。胸を張れるような行為ではない。
「え?別にチャランコを気遣ってのことじゃないけど?」
「違うのかよ!!なんか俺がすっげえバカみてえじゃん!!!」
ユウジが首を傾げながら言った言葉にチャランコは反射的に絶叫した。なんだか内心で悶々としていたのが途轍もなく傲慢に感じて恥ずかしくなってきた。とにかく今は別のことを考えようと、チャランコは気を取り直して言った。
「…じゃあなんで殴る必要があるんだ?何も悪いことしてないだろバング先生は」
チャランコは心底不思議そうに尋ねた。そこを気にしてないのならいよいよ殴る理由が分からない。絶対殴るというわけではないようだが何がそんなに譲れないのだろうか。
「いやだって、ヒーローとしてダメだろ」
チャランコからの問い掛けに、さも当然とでも言いたげに答えた。
「俺もバング爺ちゃんが何も考えずにチャランコをボコしたとは思ってねえよ? いやマジでそれなら殴るだけじゃ済まさねえけど」
「何するつもりだよお前」
しれっと更なる不穏な発言をかましたユウジにチャランコはツッコミを入れるが、ユウジは構わず続ける。
「弱くても不真面目でも、チャランコは生徒で爺ちゃんは師匠だったわけじゃん。なのにいきなりそれをぶん投げてボコすって理不尽にも程があんだろ。ヒーロー狩りのガロウって奴が爺ちゃんの一番弟子だってのはアトミック侍さんから聞いたから何か意図はあるんだと思う。ケジメとかな」
けど、と少し間を空けて─
「それなら尚更、
「…じゃあ、お前がバング先生を殴るのは
「そ、別にチャランコを可哀想と思ったからじゃないよ」
「でも、武術の師匠としてもヒーローとしても、バング先生の方がずっと先輩だろ? 実際ガロウの危険性はヤベーし…」
確かに、ユウジの発言には一定の説得力はあった。だが、そんな悠長なことをしている暇もないのではというのがチャランコの意見だ。ただの軽犯罪などならまだしも相手はS級ヒーローすら打ち倒した人間。災害レベルで表せばレベル“鬼”はくだらないだろう。しかも元弟子というのであれば責任感の強いバングはより重く捉えるだろうし差し違える覚悟でいたとしても何らおかしい話ではない。
「…まあそうかもしれねえよ。そういうので最近痛い目みたばっかだし」
「……………」
僅かに顔を顰めつつ呟いた言葉にチャランコは少し気まず気に視線を落とす。そう、経験が浅いとは言え失うことの辛さや戦いに臨む上での恐怖はユウジだってすでに知っている筈なのだ。もちろん年季でもヒーローとしての経験でもバングに劣っているのは間違いないが、少なくとも何も知らない自分が軽々しく比較して良いものではない。
「でも俺は、自分に嘘はつきたくない」
「!」
続いて聞こえて来た、強い意思を感じさせる声色に顔を上げると、ユウジは迷いのない表情で前を見据えていた。
「自分の弱さとか、現実の理不尽さとかそういうのは一旦置いておいて、俺が成りたいヒーローは─みんなを助けられる、最高のヒーローだから。どんなことがあっても、俺はそこから絶対に逃げない」
本当に大した歳の差はないのか疑いたくなるほど大人びていて─しかし年相応にも思える少年らしい真っ直ぐさを備えた不思議な表情に、チャランコは思わず笑みが漏れた。
「…じゃあ頑張れよ。あ、バング先生と話せたら俺にも話聞かせろよ。殴られたのは俺なんだし、ある程度裁量権があっても良いだろ?」
「ああ、そこは良いよ。むしろ俺からもお願いしたいぐらいだったし」
話も一段落ついた所で、ユウジは思い出したかのようにポンと手を叩いてチャランコに問い掛ける。
「そういやさ、チャランコってガロウのこと知ってたの?」
「ん? 普通に知ってたぞ。道場にいた時はほとんど会話したことなかったけど」
ユウジからの質問を肯定しながらチャランコはガロウの顔を想起する。道場にいた時から誰ともつるむことはなく、挨拶もしなかった為、基本孤立していた。
対する自分はサボりがち+万年最弱のクソ雑魚ナメクジだった為会話どころか挨拶すら返されたことはなかった。先日挑んだ際にもとくにリアクションすることなくボコボコにされた為向こうは自分のことなど覚えていないだろう。
「ん〜…じゃあ特に性格とかも分かんないかぁ…」
「どした?ひょっとしてガロウと知り合いか?」
「いやそういうわけじゃないんだけど…手配書の顔見てるとどっかで見たことあるんだよなぁ…なんだったかな…」
やはりどうしても喉元に引っ掛かるような違和感を振り払えないユウジはダメ元でチャランコに聞いてみるもやはり分からない。これでアテは完全に無くなってしまった。
「おいユウジ。戻るぞ」
「うぇ!?ああはい、分かりました」
そうしてこれからどうするかを少し考えていると病室の扉が開かれ、アトミック侍達が入って来た。戻ることを伝えられたユウジは突然の入室に驚きつつも椅子を元の位置に戻してチャランコに手を振った。
「じゃあチャランコ、お大事にね」
「おう、お前も頑張れよ」
ケガをしてない方の腕で手を振り返し、一人きりになったチャランコは改めてガロウの姿を想起する。
(そう言えばアイツ…無愛想だったけど教えはちゃんと受けてたし意地悪な真似もして来なかったな…)
ボコボコにされたことと人当たりが悪過ぎて忘れていたが、道場内でも問題児だったかと言われると意外とそうとも言い切れなかった。
バングからの教えは悪態を突きつつもちゃんと聞き入れていたし、自分のように鍛錬をサボるようなこともしなかった。積極的に誰かと馴れ合うような真似はしなかったが、逆にイタズラに力を振るうことはなく、暴力によって誰かを脅すことも、従えることもなかった。
総じて道場内においての立ち振る舞いは真面目とも言えるものであり、そんな彼が何故このような真似をしたのか、気にならないと言えば嘘になる。
「…ま、どっちにしろ俺の手に負えることじゃねえわな。しばらく入院生活を満喫させてもらうか」
しかし自分は既にこんな身体だし、ガロウ自身の危険度も最早並大抵のものではない。ヒーロー達が捕まえて、もし顔を合わせる機会があれば少しは話をしてみようかと、チャランコは見舞いの果物を齧りながら思った。
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「ユウジ、以前伝えた俺の知り合いを紹介する件だが…悪いがそれは一旦ナシだ」
「え、良いすけど…なんかあったんすか?」
病院から戻る道中、神妙な面持ちでアトミック侍から告げられたことにユウジはやや面食らったものの、ひとまず納得した。
しかし気になるのはその理由。自分がナナミやチャランコと話している間タンクトップマスターと色々話し合っていたようだがそこで何か知ったのだろうか。
「お前も聞いた“ヒーロー狩り”の件…俺達も本格的に動いた方が良いかもしれん。道場を閉めたことと言い唯一の弟子も追い出し、面倒を見てたお前を間接的に引き離したことと言い…シルバーファングはガロウの追跡に当たって親しかった者との関わりをことごとく絶ってる」
「…確かに、バング爺ちゃんらしくはないっすよね」
そう、ユウジがアトミック侍に預けられてから3日後にタンクトップマスター達がヒーロー狩りの餌食となり、それと同時にシルバーファングがガロウ討伐に名乗りを上げた。そこでチャランコの道場破門も知ることとなり、どういうことかと連絡するも既に連絡すら繋がらない状態という事態になっていたのだ。
普段はイタズラ好きのジジイという側面もあるとは言え、この強引なやり方はあまりにシルバーファングらしくない。そしてチャランコ曰く自分に破門を言い渡した際には「何か迫真掛かった威圧感のようなものを感じた」とのこと。今回の行動は、何かしらの重い覚悟を感じさせる。
「どういう考えがあるにしろ…ガロウ討伐に名乗りを上げた以上自分の手でかつての弟子へケジメをつけに行くのはほぼ確実だろう。そしてそれ程の事をする必要があったということだ。─シルバーファングは負けるかもしれん」
「!?」
突然とんでもないことを言ったアトミック侍にユウジはもちろんユウタやイアイアン達も目を見開く。
「…師匠、ガロウはファングさんに一度負けてるみたいですし、ボンブさんが協力してるなら私達が出る必要はない気が…師弟間での問題なら殊更部外者が首を突っ込むのは無粋ですし」
イアイアンがやや引き気味に、しかし自分の意見を伝える。
ガロウがどれ程の使い手なのかは分からないが、伝え聞いた話によるとシルバーファングに一度敗北している。如何にS級クラスの実力者であっても、シルバーファングはその中でも最上位に近い。同じ技の使い手なら当然その練度が高い方が勝る。なら流水岩砕拳の元祖であるシルバーファングが負ける道理もない。そこに兄弟にして同じく武術界の重鎮、旋風鉄斬拳の開祖であるボンブまで加わるとなれば最早オーバーキルだろう。
「…そうだな。師弟間の問題なら俺も口は出さねえ。そりゃ本人達で決着を着けるべき問題だ。─だが、“ヒーローの問題”となると話は別だ」
「!」
しかしアトミック侍はそれを否定する。それは何も個人的な主観から言っていたのではなく─“ヒーロー”として考えていたから放っておけないのだ。
「相性が良かったとは言え、“
「…確かに…」
ユウジはバングと過ごした日々を思い出す。僅かな期間ではあったが、共に過ごした思い出は間違いなく楽しかったし、その時見せていた表情は戦闘時の鬼気迫るものとは全く違う、何処にでもいるような明る気な老人のそれだった。例えガロウを追い詰めたとしても、手塩に掛けた時間も同様にあった以上、最後に拳が鈍ってしまう可能性はないとは言い切れない。
「一部の強者以外はもう誰が狩られてもおかしくないんだ。犠牲者が増える前にさっさと見つけ出して斬るのが最善だ。師としてのケジメはその後にでもつければ良い」
「とは言っても闇雲に探すんですか?闇雲に走り回っても見つけられるものでもないんじゃ…」
ユウタはひとまずアトミック侍の意見に同調するも、ガロウを探す方法について言及する。自分もアトミック侍もイアイアン達も探索、索敵に適した技術を持っていない。そう言ったことは専ら童帝やゾンビマン、速さ故にフラッシュが時折行うぐらいだ。
「まあそれはそうだ。だから人手を使って人海戦術で探す」
「? 他のヒーローに呼び掛けるってことです?」
「いや、下手に下級ヒーローに呼び掛けたところで狩られて終わりだ。最低限見つけても自衛が可能な奴が必要だ」
「そんな都合の良い相手…ああ、なるほど」
アトミック侍の条件にユウタが一瞬呆れたものの、すぐに納得したような表情に変える。
「そんなツテあるんすか?」
「ヒーローとは別に剣豪の知り合いがいてな。門下生もいるから武術の心得もある。ガロウの探索にはこれ以上ないぐらい適任だ。…とは言え、簡単に首を縦に振る連中でもないから俺から少し話を通してみる」
「この山に向かってたのはその為だったんですね…」
ユウタは納得した表情のまま呟く。タンクトップマスターと話した後何度か連絡を掛けていたが、その話し合いをする為のアポ取りだったというわけだ。
「話し合いにはどれだけ時間が掛かるか分からん。外で待っててくれ」
「「「「「了解「っす」」」」」
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“G市山奥・山頂“”
アトミック侍達が鍛錬場として利用している山の最奥。その頂点にある社の側には4人の男が集まっていた。
全員初老から皺まみれの明らかな老人、一見するとただの老人会の登山と言った情景だが、彼らの佇まいとそれから感じられる威圧感は明らかにただの人間に出せるものじゃない。
「カミカゼから招集とはな」
「珍しいな。以前の会合からまだそう時は経ってないと言うのに」
「世間では“ヒーロー狩り”とか言うのが現れたと聞く。それに対することかもな」
「……まあ、退屈しない会合にはなりそうだ」
彼らは全員が時代を代表する屈指の大剣豪。
“アトミック侍”─カミカゼも加えて“剣聖会”と言われる組織である。ヒーロー登録をしているのはカミカゼのみであるがこの4人もS級ヒーローであるアトミック侍が認める程の実力者達。ヒーローランクに換算すると間違いなく“S級”を冠するに相応しい者達だ。
「もうじき時間だ。カミカゼもユウタやイアイを連れてやって来るだろう」
「ユウタはまた実力を上げたのだろうか…」
「あの呪力量と剣の素質、そう遠くない内にこの会合の席に座ることになるだろう」
「その時の言葉を考えておくのも、悪くないかのう」
「……………」
三人が談笑に興じている中、ハラギリのみが僅かに俯いて何かを考え込んでいた。その内で何を考えているのか、それを読み取ることはできない。
─その時だ。
「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!」
「「「「!?」」」」
─社の裏、森林の奥から思わず耳を塞ぎたくなる程の咆哮が響き渡り、それと同時に身の毛がよだつ程の悍ましい呪力が解放された。
それは世界屈指の実力者である剣聖会の面々であっても冷や汗を流さざるを得ない程のもの。ただの獣や怪人であれば、ここまで警戒する必要はなかった。追い払い、倒すことも容易だろう。
しかし不気味なのは─これ程の呪力を持ちながら、解放する瞬間まで一切の気配も感じられなかったことだ。
4人ともS級クラスの実力者である以上、呪力操作、探知の精度も並大抵のヒーローとは比べ物にならない。が、それでもこの気配の主は全員にそれを一切悟らせることもなかった。
獣めいた咆哮を響かせていながら、呪力操作の精度は達人のそれ。あまりにもミスマッチと言うべきか、力の主が全く想像できず不気味にも程がある。
「ア゛…ウ゛ゥ゛…」
「「「「!!」」」」
唸り声のような呻き声と共に社の裏からのそりと異形が現れる。
一目見えた腕だけで、剣聖会の面々はそれが異常であることをすぐに理解した。
「ウ゛ゥ゛…
何故なら社に掛けた左手は─二つあったのだから。
そうして現れた全貌を見た彼らは更に表情を強張らせた。
全身焼け爛れたようなドス黒い肌。衣類は下半身に纏った黒い装束のみであり、見える肌全てに赤黒い紋様が迸っている。
そして彼らが最も驚くことになったのは─二対の腕と瞳に腹部で絶えず呪詛を吐き流しているもう一つの口だった。
多少知識のあるものであればすぐに合点がつくだろう。何故ならその姿は─
「…まァ、刹那の自由ヲ謳歌させてもラおう。折角…良い玩具が目の前にいルことだしナ」
「「「「!!」」」」
─一つの時代の頂点に立ち、今なお“史上最強の呪詛師”として名を馳せる“両面宿儺”。その全盛期の姿そのものだったのだから。
はい、今回はここまで。本当はもっと幕間を挟むつもりだったけどこの調子じゃいつまで経っても進められないと判断して一気に進めちゃいました。
・シルバーファング(バング)
原作通りガロウの追跡へ。ユウジはボコボコにして追い出すのは無理なのでアトミック侍に押し付けた。
・アトミック侍
バング爺ちゃんの頼みでユウジを預かることに。同格の弟子がいるので原作よりも他人に対して寛容。ガロウをかなり危険視したので剣聖会の面々に交渉。
・ユウタ(乙骨憂太)
アトミック侍に鍛えられてるので剣術が倍増しで鋭くなった。ユウジの成長は嬉しく思いつつもちょっと悲しい。治りが早くなるように入院した人達にちょっびっとずつ反転術式かけてあげた。
・アトミック三弟子
(上層部から見て)問題児二人を預かることになったけど快く受け入れた聖人三人。ランクに差はあるけどユウタとも問題なく付き合えてる。
・チャランコ
原作通り破門からのガロウ相手に撃沈。ユウジと色々話してヒーローの過酷さに内心ビックリしてる。ボコボコにされはしたけどバング爺ちゃんのことは嫌いじゃない。
・真人と空廻
汚名返上するべく暗躍中。ただS級二人+A級上位三人+真人特攻持ち一人を相手にするのは流石に無理過ぎるので今は様子見。
・タンクトップマスター
原作より粘りはしたけれどもガロウ相手に撃沈。その日着てたのが特化型のタンクトップだったらワンチャン勝てたかも。
・ナナミ(七海建人)
ガロウにやられて療養中。サトルが見舞を持って来てくれたけどそれ以上にウザ絡みが鬱陶し過ぎて意味ない。
・サトル(五条悟)
ナナミをおちょくりつつもガロウは警戒してる。シッチに対してかわいそうだなぁと他人事でいつつも数少ないまともな上層部なので庇ってやってる。
・ユウジ(虎杖悠仁)
ヒーローになってからやべー奴としか当たらない。バング爺ちゃんのことは好きだけどチャランコにやったことはガチで許してない。ガロウのことを知ってる…?
・剣聖会の面々
名前を全員ちゃんと言える人0人説()。カミカゼが育てるユウタを見て孫を見守るお爺ちゃんの会みたいになってる。なおハラギリ()。
・全盛期宿儺(?)
なんか出て来た()。一応意識としては宿儺本人?と同じっぽい。ただ知能が四割ぐらいカットされてる。
こんなもんかな。書きたいシーンは間違いなくあるんだけどそこまでどう書き切るかが問題()。
モジュロの面子も出せる人は出す予定。流石に子孫達は出せないけど。すまぬ…そしてモジュロでまこーらの性能が盛られたのでこの小説のまこーらの出勤予定が増えました()
評価、感想もよろしければお願いします。
それでは次回をお楽しみに。
明かされた全貌!殺し合いはどっちが強い?
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五条悟(不意打ち虚式なし、縮小領域アリ)
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宿儺(完全体、十種、術式情報なし)