キャラ崩壊警報!

投稿主は実生活でサンマを釣ったことも、ゲームでのサンマ取りもやったことがありません!


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巡洋どうでしょう ~サンマ漁にて~ 【艦隊これくしょん×水曜どうでしょう】

 ここは太平洋に浮かぶ小さな島。四方見渡しても広がるのは水平線。地図では日本の近海でも、ここが地球上最後の孤島のように感じる。現在この島にいるのは四人の女子。急遽下ったサンマ漁の任務で彼女たちはこの絶海の孤島に来ていた。サンマを捕るという本来の任務とはかけ離れたもので、本営からのメッセージにも「参加は自由」と記載されていた。しかし、そんな遠征に我こそはと立ち上がる者達がいた。月潟艦隊遠征隊第一班の班長天龍、副班長青葉、最近加入した鈴谷、そして艦隊のアイドル那珂。サンマ漁という建前で無人島で優雅に遊ぼうと考えていた鈴谷が立候補した遠征。それがそのまま提督に通ったことで、胸が踊って舞い上がって、何なら水着まで持ってきて遊ぶ気しかなかった鈴谷。内容を聞いて何となく今後の展開の想像がついていた天龍。何か楽しそうだから記録ついでに同行を決めた青葉。そして今回も三人に良いように丸め込まれホイホイ着いてきてしまった那珂。その四人はこの島であるドラマを繰り広げる。

 

日が暮れた無人島。聞こえるのはさざ波が浜辺を撫でる音と、遠くに響く野生動物の鳴き声。無人島と呼ばれるようになったのはつい最近のこと。この間まで島民は普通に生活をしていた。しかし昨今深海棲艦の発見に伴って島には避難指示が発令され、本土へ避難という強制退去となってしまったようだ。そのため生活の跡が目新しいまま、薄い埃を纏って残っている。それは現在四人が仮の基地として拝借している小高い丘に立っていた小さなコテージも例外ではない。綺麗なログハウスで、かつては富裕層の別荘らしかった。昼間にこの小屋に着いた時は、天窓から差し込む陽光が屋内を優しく照らし、思わず四人とも感嘆の声を上げていた。しかしその喜びもすぐに絶望に変わることとなる。彼女らの提督が所有者から得た情報で、コテージには発電機があり、それから電気を得ているということを聞き、それは勿論四人の耳にも入っていた。そして発電機を起動しに外から戻ってきた天龍から発せられた言葉は全員を震撼させ、どん底へ沈ませる。

 

「……発電機さぁ。壊れてて、無理だわ」

 

 

夕日は沈み、室内は闇で覆われた。夕食は日没前にカップ麺で済ませた。食べ飽きる程に慣れた味でも、普段と違う場所や環境で食べると不思議と美味しく感じてしまう。屋内にいながらちょっとしたキャンプ気分で四人の機嫌も若干良くなった。

夕食後は二階寝室へ移動した。布団が剥がされ、板が剥き出しになったベッドに四人は横たわっていた。誰一人活発な者はいない。文明人が電気を失うと、これほどまでに元気と行動力を喪失してしまうものだろうか。ちなみに肝心のサンマは一匹も捕れていない。そもそも魚影を探すソナーもなく、釣竿だけでは分が悪すぎると那珂は意見するも、それでも海面に糸を垂らし続けること五時間。釣果はあったがサンマはゼロ。釣ったところで捌ける者もいないため、釣果は全てリリース。不毛な疲労を纏って小屋に入ると、上がったテンションは天龍の発言によりガックリ降下。さらに寝室のベッドは布団がなくて一層降下。疲れた身体に浴びせられるラッシュに四人は憔悴しきっていた。そしてある人物には更なる不幸が降りかかっていた。

 

「那珂ちゃん寝てるの」

「・・・・・・いや」

 

鈴谷が不意に尋ねると、那珂は少しトーンが低い声で答えた。

 

「お腹が痛い・・・・・・」

「那珂ちゃんお腹が痛いの?」

「うん、でももう・・・・・・怖くてトイレなんていけないよね」

「もう行けないね」

 

勿論トイレの電気も点かない。幸いにも水は手動で流れたが、暗所閉所が苦手な人には厳しい世界となっていた。

 

「だからもう、こう静かーにちょっと、こうお腹をおさえてね・・・・・・。静まるのを待ってる」

「そうだったんだ」

「絶対行けないよトイレなんて。怖くて開けたドア閉められないでしょ」

「そうだね。最悪の状況だね。急に静かになっちゃったからさ。お腹痛かったんだ」

「皆の士気を下げてもいけないでしょ。密かに私は闘ってたんだよ」

「那珂ちゃんそーゆーとこあるよね。いきなり黙っちゃってさ、こっちは何事かと思うわけよ。やっぱり身体に異変があったんだね。ちょっと待ってて、薬探してくるから」

「オレも持ってるよ、正露丸」

 

話を聞き付けた天龍が鞄を漁る。同時に鈴谷が救急箱から発見する。

 

「あっ、食あたり、水あたり、下痢に止瀉薬」

「いや、止瀉薬じゃなくていいかな。正露丸もらおうかな」

「はい、あたしの正露丸飲んで!」

「いやオレの飲んで!オレの!」

 

何故か張り合う二人。それを見て二人の優しさに少しの感動を覚えた。張り合ってはいるものの、二人はとても楽しそうである。

 

「じゃあ一個ずつもらうよ」

「いや、そっちが一個ならあたしのは二個飲んで!」

 

二人を見て「いやいやいや」と那珂は苦笑いを浮かべる。

 

「いや、オレの二個飲んでくれ!」

「いーや、あたしのを一個多く飲んでもらうよ」

「あんたら薬屋じゃないんだから」

 

那珂が受け取ったのは天龍の方。しかしその所業に鈴谷は納得がいかない。

 

「あ、あ、あたしのも飲んでよ!」

「分かったってゆってるでしょ」

 

強引に差し出す鈴谷の正露丸も受け取り、結局天龍から二つ、鈴谷から一つ貰った。

 

「・・・・・・天龍さんの二つ飲んだなぁ」

 

不服そうな鈴谷を他所に、那珂は薬を口に含み、水で流し込んだ。

 

「よーし、頑張ってね那珂ちゃん。人工呼吸とかしようか?」

「いらないっつの」

 

鈴谷の冗談にも冷静に返し、那珂はベッドに横になってカメラに背を向けた。だがすぐに鈴谷が大声を上げた。

 

「ヤバい那珂ちゃん!ライト壊れた!」

 

鈴谷は懐中電灯のスイッチを連打するが、灯りが点くことはなかった。

 

「・・・・・・お腹痛いってゆってるでしょ」

 

顔だけをこちらに覗かせて静かな声で那珂は答えた。その声はどこか不満げであった。

 

「変な前触れじゃなきゃいいけど」

 

と、鈴谷が点かない懐中電灯を鞄へしまいつつ、呟いた。しかしこの電気の無い状況で光源を失うことは避けたい。それが僅かなものであっても。鈴谷は覚悟を決め、ある提案をする。

 

「那珂ちゃん、船行かない?電池取りに」

 

船というのは彼女らが普段任務における移動手段に用いている、クルーザーである。それには長時間の乗船や滞在を想定し、数日分の食料などの非常用物資が積まれている。その中には勿論電池だって含まれている。そもそも懐中電灯もそれの一つであるのだが、懐中電灯は使用頻度が多いこともあって普段目のつきやすいところに置かれていたのだ。

 

「何でよ。お腹痛いってゆってるでしょ」

「着いてきてよ。船でもできるでしょ」

「・・・・・・出来るかもしれないけど、動きたくないんだよね」

 

那珂は少しだけ悩んだ末、このまま休むことを選んだ。その選択をのちに後悔することになるということを、この時は誰も知るよしは無い。

那珂に断られ、落胆している鈴谷に声がかかる。

 

「よければ一緒に行きましょうか。SDカード取りに行きたいので」

 

声の主は青葉で、利害の一致した二人はまだ生きている懐中電灯一つを手に、いざ日の落ちた屋外へと出る。外は月が出ているが上弦で、さらに弓のように細い弧を描いているため明かりは思いの外少ない。鈴谷は青葉の腕を掴んで並んでいた。しかしいつまでたっても進むことはない。鈴谷は青葉を怪訝そうに窺うと、同じく青葉も顔だけをこちらに向けていた。

 

「・・・・・・先に行ってくださいよ」

「は?」

「当たり前でしょう。私がカメラ持ってるんですから。誰か映ってないと」

「怖くて行けないよ」

「私だって怖いですよ」

「行けよ弱虫!」

 

鈴谷は自分が前に出たくないがあまり、ついに暴言を吐いてしまった。

 

「は?じゃああんた一人で行きなさいよ」

 

と、当然青葉は厳しく吐き捨てて冷静に踵を返すが、

 

「・・・・・・行こ一緒に」

 

という鈴谷のか弱い声と共に裾を摘ままれ、嘆息の後にもう一度踵を返した。

停泊させたクルーザーに到着し、無事鈴谷は持てる限りの電池と、青葉はカメラ用のSDカードを入手した。帰りは来た道を戻るだけだが、自然と二人の足は速くなっていた。それは捜索が終わって船室から出ようとした時に、誰もいない筈の室内から物音が聞こえたからだ。きっとそれは波や風の所為だと二人は分かっていた。そう信じていた。

二人とも早足であったため、コテージにはすぐに着いた。急いで中に入ろうとするが、ドアが開かない。どうやら鍵を閉められたようである。犯人は二人のどちらか。那珂にはそんな余裕はないので、残りは一人。

 

「え!?ちょっと、天龍さん!子供みたいなことしないでって!」

「開けてくださいよ!何してんですか!」

 

二人とも声を荒げてドアを叩いた。するとすぐにがちゃと解錠の音が鳴り、ドアが開けられる。そこには眉間に皺を寄せた天龍が立っていた。

 

「何してるって、お前らこそ何してんだよ。ダメだよ、もう鍵かけなきゃ危ないから」

 

天龍を押し退け、二人はそそくさと二階へと上がっていく。

那珂が寝込んでから二時間が経過し、日没から時間も経って島はすっかり仄かな月明かりで包まれている。各々暇を潰して時間と戦っていると、那珂が身体を起こした。そしてベッドに腰掛けたまま下腹部を抑えて、苦虫を噛み潰したような苦悶の表情を浮かべていた。

 

「・・・・・・どうしたの」

 

と、鈴谷が尋ねると、那珂から返ってきた答えは、

 

「うん●がしたい・・・・・・」

 

華の十代、嫁入り前の、それも今やアイドルとしても名を馳せ始めた少女の、まさかの発言であった。

 

「行ってきなよ」

「怖くて行けない・・・・・・」

「行っといでよ。行っといで」

 

再三に及ぶ鈴谷の進言に那珂は首を振るばかりだ。たまらず鈴谷も声が大きくなって、

 

「子どもじゃないんだから行けよ」

 

鈴谷の言葉に那珂も強く反論する。

 

「覗いてみなよ、じゃあ。あんな怖いトイレないよ」

 

那珂は重い腰を上げて鈴谷と青葉を連れてトイレへ向かう。

トイレに有りがちな男女の赤青の標識の扉を開けると、プンと鼻をつく匂いと共に闇が溢れる。

 

「奥にあるから、ほら。いける?アレ」

 

広目の室内の奥にぽつんと佇む白い小さな影。電気のスイッチを何度押しても明かりが点くことはない。

 

「行けるよ。ねぇ、青葉ちゃん」

「行けますよ」

 

鈴谷と青葉は顔を見合せて答えた。那珂は二人を交互に見ると、とても言いづらそうに「じゃあさ」と口火を切った。

 

「・・・・・・悪いけど、ここにいてもらってもいい?」

 

普段なら、何故他人の排泄を眺めなければならないのかと文句の一つも言うところだが、二人とも那珂が今後何十年語り継がれる覚悟を決めていることを察して、

 

「いいですけど、ここで照らしてていいんですか」

 

と、那珂に協力することを決めた。

 

「これぐらい照らしてくれた方がいいかなぁ。鈴谷ちゃんもごめんね」

「いいよ。どうせあたし寝れねえし」

「鈴谷ちゃんだってそろそろしたいでしょ」

「・・・・・・もういいよ。こんなとこでするくらいならあたし、漏らすから」

「自暴自棄にならないでよ。嫁入り前でしょ」

 

鈴谷はこんなトイレでするくらいなら女としてのプライドを捨てるつもりのようだ。勿論本気ではないだろう。

 

「大変だね、頑張ってね」

 

鈴谷のその言葉を背に受け、那珂はいよいよトイレに入る。しかし、

 

「ちょっと、閉めてよ」

 

と、鈴谷が半開きのドアを閉めようとすると、那珂は反対に引っ張って止める。思わず鈴谷も声を大にして言った。

 

「閉めてよ完全に!」

「これぐらい開けていいでしょ」

 

鈴谷たちはてっきりライトは那珂が持ち込むものだと思っていた。しかし那珂は照らしてもらうつもりだったようだ。その方が誰かがいてくれるという安心感があるからだろうか。だが、それは同時にこの上ない羞恥を晒すことに他ならない。

カメラを那珂が映らない位置に固定した青葉は、興味本意で鈴谷と並んで那珂の様子を窺う。

 

「ちょっと那珂ちゃん、下ろすのやめてくださいよ!」

「仕方ないでしょ!」

「閉めてから下ろしてくださいよ」

「無理だって!」

「ヤですよ、私のところから全部見えてんですよ」

「そんな照らさなくていいでしょ、青葉ちゃん」

「鈴谷ちゃんやめてよ、ずらさないで!」

「だってこっから丸見えなんだもん」

「別に見てて欲しいとは言ってないよ」

 

便座に那珂がセットされるまで多少の口論になりつつ、無事下着まで下ろした那珂は便座にセットされる。当然カメラには映ってはいないので、映像は半開きドアの隙間を照らすライトという一種の恐怖映像を彷彿とさせる絵面だ。しかしここで那珂はか細い声で言った。

 

「・・・・・・ちょっと暗くて怖いかな。青葉ちゃん、もうちょっと上から出来る?」

「え・・・・・・、こうですか?」

 

 躊躇するも、那珂の要望通りに青葉はライトの位置を上へ。するとどうだろう。斜め上から目映く照らされるその様は。

 

「那珂ちゃんさぁ・・・。スポットライト浴びてるみたいになってるよ」

 

 鈴谷の言う通り。那珂は便器に跨がって照らされている。特に青葉の視点からは”ありとあらゆる何か”が見えてしまっているのだろう。青葉は顔を、目を、斜め後方にいる鈴谷へ向けた。

那珂が脚光を浴びて一分程経過した。

 

「・・・・・・ダメだ、出ないよ」

「そりゃ見られてるもん、こんなに」

「無理だよ、見られてたら絶対できないよ」

「でも恥ずかしいとか言ってらんないでしょ」

「勿論、だっ・・・・・・」

「息んでた今・・・・・・」

 

時折那珂の力む呻き声が小さく聞こえた。大きな嘆息の後、那珂は嘆いた。

 

「鈴谷ちゃん、もう最悪だよ・・・・・・。今回の遠征は、最悪だ・・・・・・。まさか見守られながら、トイレしなきゃいけないとは・・・・・・。くっくくくくっく・・・・・・」

 

自身が余りにも哀れで仕方無いのか、力む呻き声は笑い声のように変質している。

 

「出せっ!那珂ちゃん、出せって!」

 

という鈴谷の応援を受ける那珂。ふとこの状況の異様さに気付いたのか、

 

「キミたちさぁ、明かりだけ照らしてくれればいいんだよ。カメラは止めていいからね。・・・・・・んぇっ」

 

と、力むついでに言ったが、二人がその場を動くことはない。青葉からは切ない声が漏れている。

 

「・・・・・・もう痛々しくて」

「那珂ちゃん、この間全国放送のテレビで特集されたんだよ。いい歌歌うし、踊りも上手いし」

 

鈴谷が那珂はどれ程の存在なのかを再確認すると、ライトの奥から失笑が聞こえた。

 

「やめてよ、出ないでしょ」

「あたしたちはいつでも見てるよ」

「見なくていいんだよ。いてくれってゆってるんだから。・・・・・・え゛ぁ゛っ」

 

一際強い力みの直後であった。

 

「出た!」

 

と、那珂が報告した。その声は嬉々としている。

 

「出たって言わなくていい・・・・・・」

 

鈴谷が呟いた。それからアイドルとしてどころか、少女として危ない音が二人の耳に微かに入る。それが止むと、

 

「終わった?」

 

と鈴谷が尋ねる。すると間髪入れず、

 

「ちょっと立つよ?」

 

と、那珂が答えたので、思わず「え?」という声が鈴谷から漏れた。

 

「おしり拭くから」

「大丈夫だよ映ってないから」

 

見守る鈴谷の横で、啜り泣きが聞こえた。那珂を照らす光線が小刻みに揺れている。

 

「もう赤裸々過ぎて・・・・・・。もう気の毒で気の毒で・・・・・・」

「泣かないでよ青葉ちゃん!那珂ちゃんだって頑張ってるじゃん!泣くなよ!照らしてあげなよ、照らしてあげなって」

 

鈴谷は青葉のライトを持つ手を掴み、一緒に那珂を照らす。

 

「よしっ、ちょっとおしっこもするから」

「ついでだからね。しときなよ」

「…………あれ、これって流れるの?」

「確か非常用に手動で流せるレバーがあるはずだよ。ね、青葉ちゃん」

「……えぇ、タンク横の下の方に」

「……流れた!」

「流れた?やったね那珂ちゃん」

 

那珂の今日一番の明るい表情は、ライトに照らされ、その光度をより一層増して輝いている。生まれてからの十数年、夜は必ず電気を点けて用を足していた彼女らにとって、この逆行した文明にはとても馴染めない。三人は扉を閉めて寝室へ戻った。

 

「天龍さん寝てたの?」

 

トイレでドラマが一つ繰り広げられていた間、彼女はこの暗闇の中で一人寝ていたようで、「あぁ」と淡白な返事をした。

 

「もうあたしなんて一睡もできないよ」

「オレはどちらかというと順応してきたけど。まだ寝袋敷いてない」

 

鈴谷も自分の寝床に腰掛け、天龍と語り合っている。天龍が起き上がると鈴谷は驚いていた。

 

「マジ?板のままで寝てんの?」

「おう、意外と寝れるもんだぞ」

「へぇー、あたしはもうダメ、全然ダメ」

 

天龍はこれまで過酷な遠征ばかりしてきた。危険を伴うのは当然のこと、それ以外では寝食で辛い思いも数多くしてきたのだ。それは那珂や青葉も同様である。しかしその中でも天龍の適応力は高い。まだ川内がこの班に所属していた頃から群を抜いて優れていた。誰もが文句を垂れてしまう状況でも文句を言いつつ順応し、いつしか誰より馴染んでしまう。それがこの班長であり、また遠征隊の総隊長である天龍なのだ。川内の実力が遠征任務では余りあるとされ、追撃専門の部隊に異動し、その代わりにこちらに入隊した鈴谷は、当然このような過酷な現場には慣れていない。むしろこれまで文明の下でしか生活していなかった彼女にとって、このような逆行した文明(もしくは文明を無視した環境)には適応できていなかった。それを見た遠征での先輩である那珂は、

 

「・・・・・・やっぱり鈴谷ちゃんは順応出来てないんだね。そういうことでは、この遠征班において全然ダメダメだよ」

 

と、いつも練度が低いからと若手扱いされている仕返しをした。その言葉を聞いた鈴谷の顔はいつもの可愛くも蠱惑的な笑みを浮かべるではなく、深い深い海底のような冷たい表情に変わる。

 

「・・・・・・那珂。もうあたしらには逆らえないぞ、何があったって」

 

那珂は笑いながら膝から落ちた。

 

「この離島のトイレで、あたしらのライトに照らされながらあんたは何をしたんだよ。あたしらにそんな暴言を吐けるの?このデータは一生残しとくからね」

 

那珂はぐうの音も出なかった。

 

「・・・・・・しかし私は、私は最後の誇りは持ってるよ。だってああしなかったら私はうん●垂らしてたんだもん。私は!しっかりトイレで!したよ。私の照らすライトでする勇気があるの?」

 

だが、那珂も負けじと精一杯の反論をして見せた。それに対して鈴谷は、

 

「ない!誇りだね。最後のプライドだね」

 

と、気持ちがいいほどの断言と共に、那珂が恥をかいてでも守ったものを再確認した。

那珂の誇りの話から離れ、鈴谷の件に戻る。寝袋だけではクッションと呼ぶにはあまりに心許なくて、体が痛いと言う彼女の為に三人は自身らの寝袋を差し出した。それを受け取った鈴谷は寝袋四つでちょっぴり豪華なベッドを作っている。

 

「あー、これマジいいわー」

「キミそれ最後の一枚なんで敷かないで掛けてんの?」

 

嬉々とした表情を浮かべる彼女は寝袋二枚を並べて敷いて、残り一枚はそのまま体に掛けていた。今回携行した寝袋は、側のファスナーを下ろすと寝袋だけでなく布団のように広げることができるものだ。那珂の問いに鈴谷は笑顔のまま答えた。

 

「やっぱ、掛布団も欲しいんだよ」

「我儘言わないでよ、この上掛布団までって・・・・・・」

「でもこれなら寝れそう」

「頑張ってね。こうやって一個ずつ解決してこう」

 

ただ那珂も先の件もあるため、文句を言い続けることもしなかった。ほんの少しの静寂。鈴谷の表情からも笑みは去り、真剣な面持ちとなっていた。

 

「もう二度と来ない。絶対もう二度と来ないから」

「勿論だよ。忘れないで、この経験を」

 

失敗を繰り返さないのは大切なことである。その為には何故そうなってしまったのか、原因を知り、それを二度しないこと。別な手段を取り、失敗しないという確証を得ること。ただこのような失敗は遠征にはよくあることだ。かれこれ日本だけでなく海外まで遠征に行った天龍らには、この程度のことで涙を流したりはしない。しかし鈴谷にとっては今回の遠征は別だった。鈴谷も遠征が初めてというわけではないが、今回は殆ど遊ぶつもりで引き受けたものだ。誰もいない島で、白い砂浜に透明度の高い海。昼間は浜辺で遊ぶだけ遊んで、夕食はコテージでバーベキュー。夜はベッドルームで女子会でも開いて夜更けまで語り合おう、とか浮わついたことを想像していたため、それとは全く正反対の結果になってしまったことにショックを隠しきれず、気分もずっと沈んだままだった。

 

「頑張ろう、乗り切ろう。あと九時間後にはこの島から出るから。基地に帰ったらすぐに謝罪会見してもらうよ。これだけ迷惑かけたんだから」

「那珂ちゃん。あたし土下座して謝るよ。『みんなを無意味に道連れにして連れ回した挙げ句、なんの成果も得られませんでした』って。弁護士も雇わない」

「鈴谷ちゃん、それだと言われるがままの刑を受けることになるけど。私たちの艦隊独自考案の刑だから何百年とかあるかもしれないけど」

「こ・・・・・・、ここじゃないよね?ここに何百年入れられるわけじゃないよね」

「それ最悪だな、『サンマ漁の刑に処す』って」

 

天龍は失笑しながら言う。その珍妙な刑罰に、つられて一同失笑した。そして那珂は刑期を発表する。

 

「刑期、千匹捕るまで」

「大体素人にできるわけないんだよ漁なんてさあ!」

 

鈴谷は声を荒げて、やっと気付いた。誰かに向けて言っているようで、恐らくはこの遠征を安請け合いしてしまった自分自身に対してなのだろう。そして彼女を嘲笑するように那珂が追い討ちを仕掛ける。

 

「裁判所で裁判官にそう言うんだね。『絶対捕れないってサンマなんて!』ドンドン、閉廷します。『捕れねえよお!』」

 

全員が声を出して笑い、灯りはなくともムードはすっかり明るくなった。ひとしきり笑った後、ため息で区切った那珂は鈴谷に言う。

 

「それじゃあ頑張って。おやすみ」

「ほんと寝れないんだよぉー」

 

鈴谷が寝る体勢をとったのと同時に、青葉はカメラの録画をここで終了した。

 

それから数時間が経過し、月は随分と傾いた。夜更けの水平線はまだ辛うじて夜を保っている。身体の痛みと冷えで目を覚ました青葉がふと窓に目を向けると、そこには那珂がただじっと外を眺めていた。銀色の非常用ブランケットを羽織った姿はまるで宇宙人のようで、地球人の生活を実地で観察しに来たはいいものの、思った以上に詰まらなくて迎えが来るのをただただ待ちぼうけしているようにも見えた。その姿に思わず失笑した青葉は即座にカメラを回した。そしてそれとほぼ同時に鈴谷も起きて、大きな欠伸と伸びをした。欠伸が聞こえた那珂も振り向いて寝起きの鈴谷に相応しい一言を告げた。

 

「おはよう」

「おはよ、那珂ちゃん。おかげで少し寝れたよ」

「少しっていうか、随分いびきかいて寝てたけど」

「マジでっ?!」

「えぇ、かなり聞こえてましたよ。私は寒くて寝られませんでしたけど」

「なんかゴメン。天龍ちゃんも寒いのかな」

 

三人は天龍の様子を窺う。この部屋の一番壁際のベッド、那珂の反対側のベッドには銀色のシートに小さくくるまった天龍がいた。その姿はまさしく”なんかのサナギ”、もしくはミイラがぴったり当てはまる。

 

「厳しいですよこの姿勢」

「ミイラみたいになってる・・・・・・」

「寒かったんだねぇ」

「すごいくるまってる・・・・・・。寒かったんだね。あたしなんて若干寝汗かいちゃったけど」

「あの人は人の犠牲になって黙って死んでくタイプの人だね」

 

普段オラオラした強めの態度が印象的な天龍だが、誰かの利益の為に自分が不利益を被っても構わないという、年長者かつ隊長としての責任か、それとも彼女の性格か心持ちか、どちらにしても彼女のカリスマには人を引き付ける力がある。どんなに辛い遠征でも、これだけメンバーが同じで、時折衝突はあれどそれが原因で脱退がないのはきっと彼女がいるからだ。それを短期間で察し始めた鈴谷も自分が貰った寝袋を手に取り、

 

「掛けてあげてよ彼女に。今更遅いかもしれないけど」

 

と、傍にいた那珂に渡した。那珂は”なんかのサナギ”にそっと寝袋を掛けてあげた。すると、

 

「死んだ人に掛けてるみたい」

 

と、縁起でもないことを呟き、三人とも失笑した。那珂はゆっくりと青葉に近寄り、すうっと息を吸い込むと真剣な面持ちで語った。

 

「サンマ漁にはそれぞれのドラマがあります。

 寝れない寝れないと言って、他人から寝袋を借りて最後にはゆっくり寝た者。

 寝れないならオレの寝袋を使いな、と言って寝袋を貸し、自分は寒くて寝れず最後に死んでしまった者。

 トイレに怖くて行けないと、見守ってもらいながらした者。

 サンマ漁には色々なドラマがあります。そんな中でみんな必死になってサンマを捕っているのです。

 サンマ漁遠征、朝の五時半。サンマは、・・・・・・一匹も捕れません」

 

語り終えた那珂は満足げな笑みをうっすらと浮かべ、カメラの前を去った。そして鈴谷はこの遠征の感想を端的に、とても分かりやすい一言で締め括った。

 

「最悪だ・・・・・・」

 

 

 


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