星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
使節団が太陽系を離れた頃、アード上層部、特にパトラウス政務局長は多忙を極めていた。地球からの使節団受け入れは確定事項であり、既に使節団が地球を離れてアードへ向かっている可能性が非常に高い。この状況下でまさかのセレスティナ女王による謁見発言である。
これにより当初予定されていた交流センターではなくハロン神殿へ使節団を迎え入れることが確定となり、各方面との調整とスケジュールの再構成に奔走する羽目となったのである。
アードにおいてセレスティナ女王の言葉は絶対である。これが地球ならば調整したり、或いは変更することで対応するだろう。今回は見送りなどという結論も出せる。
しかし、アードでは彼女が地球人に会いたいと言えば、謁見は確定となるし異論や反論を唱える者も存在しない。過程は二の次三の次、女王の要望を完遂することが至上となるのである。
普段のセレスティナ女王ならば、この様な発言は極力避けるのだ。彼女は自身の言葉の影響力の強さを正しく理解しているのだから。しかし、今回に限って珍しく彼女は自制心を失ってしまう。
地球に興味を抱いていることはもちろん、使節団との謁見となれば合法的に可愛い姪であるティナと会えるからだ。セレスティナ女王は一度だけティナと会ったことはあるのだが、当時ティナは幼子であり更に眠っていたのでティナは一切覚えていない。
セレスティナ女王が自分の欲求を前面に出すなど非常に珍しいことだ。
パトラウスを困らせる要因は他にもあり、今回の使節団受け入れは秘密裏に行うつもりであった。しかし、セレスティナ女王の発言は瞬く間にアード全域へ広まってしまう。これは妹であるティアンナが姉の意思を完遂せんと一気に広めたためである。
セレスティナ女王の意思、これだけでアード人は歓迎ムード一色となる。民の反応はパトラウスとしても悪くはないのだが、本格的な交流が始まる前に熱狂されても制御が難しく、結果民を抑えるために労力を費やす結果となる。
「宇宙への忌避感はいったい何処へ行ったのか……」
ただただ頭を抱えるしかないパトラウスは、姉に事の次第を記したメッセージを送った。
このメッセージはハイパースペースを航行中の銀河一美少女ティリスちゃん号へと数日遅れで届き、珍しくティリスが頭を抱えることになった。
「ティアンナちゃん、やらかしたなぁ……流石ティナちゃんのお母さんだ」
「お母さんが何かしたの?」
「んー……取り敢えずジョンさん達を呼んでくれるかな?難しい話になるよ」
「わかった、ジョンさん達を連れてくるね」
ティリスは空き部屋にジョン、朝霧の二人を招いた。ジャッキーは、地球から旅路のために積み込まれた数多の生鮮食品を使った料理を振る舞うために調理中で不参加となった。この男、料理の腕前も三ツ星並みである。
「ティリス殿、どうされた?」
ティリスの正体を知るジョンはふざけた雰囲気を引っ込めたティリスを前にして、少しばかり緊張しながら尋ねた。
空き部屋に放置されているテーブルに腰かけて、ティリスは珍しく悩ましげに口を開いた。
「ちょっと滞在中の予定を変更する必要が出てきたんだよねぇ」
「なんでしょうか?ティリスさん。なにか問題がありましたか?」
「問題と言えば問題かなぁ。パトラウスとの会見場所が変更された」
「予定では交流センターなる場所でしたな?」
「うん。で、新しい場所としてハロン神殿へ君達を招くことになったんだ」
ティリスの言葉にジョンは首をかしげるが、朝霧は顔を強張らせた。
「ハロン神殿……まさか!」
「そうだよ、朝ギリー。畏れ多くも女王陛下が君達に関心を寄せていらっしゃる。急で悪いんだけど、パトラウスと会ったらそのまま女王陛下と謁見することになったからそのつもりで」
「ミスター朝霧、どうかな?」
「アードを統べる女王の存在については地球側も承知していますし、謁見の可能性も議論されました。しかし、相手は遥かに格上の文明であり更に言えばアードにおける女王の立場は極めて特別なものであると聞いています。そうですね?」
「まぁね、アードでセレスティナ女王陛下は絶対不可侵の存在。謁見についても交流を深めてからって考えてたんだけど」
「ええ、今回の訪問はあくまでもティリスさんの縁を頼りにパトラウス政務局長との会見と、信書の手交が目的とされていました。女王陛下との謁見は大変光栄なことですが、ご満足頂ける進物の用意がありません」
謁見の可能性も考えられていたが、急な決定ゆえに時間が足りず保留にされた経緯がある。
「確かにスケジュールに無い行事になるな……ティリス殿、女王陛下はどの様なお方かな?」
「優しくて聡明なお方だよ」
「ふむ、ならば進物が用意できなかったことを誠心誠意謝罪しつつ次回改めて献上するしかないだろうな……」
「事はそう簡単なものではありません、ケラー室長」
「ミスター朝霧?」
この辺りは君主制が存在しない合衆国人であるジョンには今一ピンと来なかったが、千五百年を越えて続く皇室を戴く日本人である朝霧には問題点が見えていた。
「厄介なのは、女王陛下ご自身ではなく周囲なのです。女王陛下が許されたとしても、周囲が不敬と見れば関係悪化は避けられません。下手をすれば開戦もありえます。歴史にも事例はいくつもありますから」
「……なるほど。ティリス殿、どうだろうか?」
「うーん……女王陛下は地球の食べ物を絶賛されたみたいだね」
「ならばそこを打開策にしよう。確か高級食品セットがあったね?」
「あれは政務局長宛の進物ですよ?」
「この際仕方がない。女王陛下にはそちらを献上しよう。手ぶらで会うわけにはいかないからね」
「あはは、そうだね☆パトラウスには私から事情を説明してあげるよ☆」
悲報 パトラウス政務局長、地球の高級食品を食べ損なう未来が確定。
「ではティリスさん、謁見の作法を可能な限り教えていただきたい。拙いことは承知していますが、あちらの作法に則る姿勢を示すことは大切なことですから」
「そうだね。それと、翻訳を使わずに挨拶だけはしたい。アード語の挨拶を教えてほしい」
「んふふっ☆いーよ、ティリスちゃんにお任せ☆」
こうしてアードの騒動とは違い使節団ではティリスの存在によって、この重大な変更をなんとか乗り越える準備を行うことが出来たのである。