星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
羽根を毟られると言う悲惨な体験をした私は、医療カプセルの中で目を覚ました。不思議な夢を見ていた気分だけど、今となっては具体的に思い出せない。
でも、羽根を毟られるのがこんなに痛いとは思わなかった。それこそ前世で経験した結石並みの痛みだった。男性が経験する最大の痛みだっけ?泡を吹いたのは良い思い出だよ。
今回の件は完全に私が悪い。私は今の地球をあまりにも知らない。前世の記憶が通じると思っていたら、盛大なしっぺ返しを受けた。
私は知らなきゃいけない。今の地球のありのままの姿を。じゃないと、また失敗してしまう。
医療カプセルから出た私をフェルはなにも言わずに抱きしめてくれた。何もかもを許してくれるような優しい包容だったけど、それに甘えてちゃ変われない。
「ごめん、フェル。私が色々と間違ってた。だから、一日だけ時間をちょうだい」
「ティナが間違っているとは思っていませんが、それでティナが納得してくれるなら私はいつまでも待ちますよ」
「ありがとう、フェル」
今は独りになりたい気分だったしね。フィーレ、フィオレにも顔を見せて、ジョンさんと美月さんに無事だってメッセージを送って私は自室へ閉じ籠った。
テーブルに備え付けられている端末を起動して、アリアを呼んだ。
「アリア、地球に関する情報を全て観覧させて。観光地以外で」
これまで地球については観光地くらいしか調べていなかったから。どう考えても親善大使が知らなきゃいけない情報が足りていない。
『警告、全てとなれば地球のおぞましい暗部についても観覧することになります。ティナが知る必要はないと判断します』
やっぱり、アリアは私が地球の暗い部分を知らなくて良いように手を回していたんだね。その気遣いは素直に嬉しい。でも。
「今回の失敗の原因は、私が地球の事をよく知らないから起きたことだよ。ちゃんと勉強しておかないと、また失敗しちゃう」
『今回の事件の責任はティナにありません。地球文明の未成熟さがそもそもの原因です』
「でも私達はお客なんだから、相手に配慮しないといけない。私はそれが足りなかった。今回それを痛感したよ」
『反論、今すぐに地域名フランスに対する報復攻撃を推奨します。むしろ星間文明交流に於いて、ティナは過剰な程配慮しています。寛大な処置に対して勘違いした現地生命体の過失は明白です』
「だから報復はしないって」
『圧倒的武力を背景とした恫喝は、政治外交手段として有効であることが立証されています。それは地球でも同じです』
相変わらずアリアは過激だ。
「そうやって見下してると、足を掬われるよ?」
『……今回ティナが負傷した最大の原因は、私の慢心故に起きた見通しの甘さです』
「ほら、同じだよ。私もアリアも、地球の事をよく知らなかったから起きたんだ。今回の事件だって防ぐ手段は幾らでもあったんだ」
私は前世が地球だという勘違いが、アリアは地球を侮った結果だ。でもアリアは悪くない。
『ティナ、翼に対する攻撃はアードに於いて最大の禁忌の一つです。報復として都市一つ滅ぼしてもアード政府は問題視しないでしょう。にも拘らず、まだ地球人に慈悲を与えるのですか?』
「慈悲を与えるなんて考えていないよ。地球人はアード人にとって大切なパートナーになる。そう確信してるから、頑張れるんだよ。何度も言うけど、落ち度は私にあるから」
『その為に必要な事なのですね』
「駄目かな?」
しばらくアリアは無言だったけど。
『……観覧規制フィルターを全面的に解除します。これがティナのためになると言うなら』
「ありがとう、アリア」
そして半日間私は休まずに気になった情報を調べた。薄れかけている前世の記憶を出来るだけ引っ張り出して、今の情報と照らし合わせる。そして。
「はぁぁ~~~~……」
まるで成長していない。生意気にも超有名な漫画の同じく超有名な台詞を引用してしまいたくなるくらいの散々たる内容だった。
いやもちろん変化したことはたくさんあるし、興味をそそられる進歩もたくさんある。特にドローン技術の発展は見ていてわくわくした。
けど民族、宗教、文化の問題は私が生きていた頃より深刻になってる。環境破壊が加速して住めない土地が増えて、社会混乱から紛争や内戦が世界中で頻発し難民が急増。先進国を含めて貧富の格差もディストピアレベルだ。
更に地下資源の枯渇が間近に迫っていることが知れ渡り、社会不安による地球全体でのモラルの低下も社会問題を加速させている。
正直言って、地球はほとんど“詰み”に等しい状態だよ。資源は枯渇寸前、解決の糸口が見えない諸問題。
一縷の望みをかけた宇宙開発も各国の思惑が複雑に絡んでほとんど機能していなかった。
転機は私がやって来たことから始まったアードとの交流だ。人類史上初めてとなる異星人との交流。しかも相手は地球の抱える問題を解決してしまえるほどに優れた技術を持つ文明だ。各国はこの交流に地球の運命を賭けたんだ。
それなのに私は何をしてきたか。交流と称してあちこちに首を突っ込んで物見遊山してるだけだ。今回の事件だって相手の内情を一切考えない行動の結果だ。
「うぁああっ……完全に子供じゃん……」
頭を抱えてしまった。地球へ戻ってこられたことにはしゃぎ過ぎてた。改めて思い返してみれば、外交とか以前に社会人として論外な行動の数々。
そして最大の失敗は、ジョンさん達を見て合衆国や日本で受け入れてもらえて、数十年で地球全体のモラルが劇的に改善したと盛大に勘違いしていた事。
実際には私が生きていた頃より深刻な問題をたくさん抱えていることを、完全に理解していなかった。
もちろん人助けを止めるつもりは毛頭無いけど、今回みたいなやり方は火に油を盛大に注いだだけだ。そしてその結果、明らかにフランスを国際的に不利な立場にしてしまった。
……そして、今なら分かる。間違いなく私が知らない所でばっちゃんが動いてくれていることを。じゃなきゃとっくに大問題に発展してる筈だから。
つまり、ばっちゃんにずっと私のやらかしの尻拭いをさせてしまっていることだ。それも現在進行形で。
私は直ぐに部屋を飛び出してブリッジへ飛び込んだ。
「ん~?ヤッホー、ティナちゃん。調子はどうかな?」
ブリッジにはばっちゃんだけが居て、いつもと変わらない笑顔を浮かべてる。
「ばっちゃん……いや、里長。いままでたくさんの迷惑を掛けてしまって……たくさんの尻拭いをさせてしまってごめんなさい」
そんなばっちゃんに私は深々と頭を下げて謝った。正直やらかしの規模なんかを考えると、今更かと呆れられても仕方がない。
「ティナちゃん」
「里長……あ痛っ!!」
名前を呼ばれて恐る恐る顔を上げたら、ばっちゃんにデコピンされた。意外と痛かった……。
そしてばっちゃんは私を抱きしめて、何度か頭をポンポンと叩いて……。
「ん☆それじゃ、合衆国へいこっか☆フランスの問題は何とかしたからさ」
「ばっちゃん……ごめんなさい」
「ティナちゃん、謝るのは無しだよ。好きでやってることなんだからね☆」
「でも迷惑を……」
「政治外交は私のお仕事。ただ、これからはもう少し警戒心を持ってくれたら、私も色々楽になる。だから謝るんじゃなくて?☆」
「……ありがとう。これからも、お願いします」
「ん、お願いされました☆」
ばっちゃんも言いたいことがある筈なのに……敵わないな。今一度、自分の行動を見つめ直そう。ハリソンさん達にも謝らないと。