星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
合衆国より始まった反アード過激派及びそれに便乗した反政府過激派の大規模な粛清劇は世界中に広がった。アード批判が地球滅亡へ直結しかねないと言う危機感を大半の国の為政者達が共有した結果であり、一部の国では地球存続を大義名分にして反対勢力も一網打尽にしてしまおうと言う魂胆もあったが、これにより各国の過激な活動家たちは大半が捕縛されることになる。
捕縛を逃れた活動家達も身を潜めるしかなく、これにより各国から過激な主張は鳴りを潜めた。とは言え、半ば強引なやり方であったことは否めず先進国を中心に思想の自由に反しているとして反発の声が上がったのも事実である。
この世界の流れを最大限に利用した主要国は中華である。彼らはこの流れに乗り、反体制派や不穏分子さえも反アードの名の下に粛清したのである。その弾圧は苛烈を極め、国際社会からは批判も出たが。
「アードとの交流を円滑にするために成した措置である。安全確保が何よりも大切なのは、フランスの失態を見れば一目瞭然。それよりも、アジアでは未だに日本だけしか来訪していない現状は極めて不公平である。速やかな来訪の斡旋を改めて要請する」
この様に主張されては合衆国を含めた諸国も強くは反発できなかった。一応ティリスを通じて母艦に居るティナに伺いは立てられたが。
「観光名所はあるし食べ物も美味しいらしい。だから行ってみたいけど、何か怖いから嫌だなぁ」
ヨーロッパの民族、難民、宗教などの問題に疎いティナであるが前世は日本人だ。中華に対する潜在的な疑念や恐怖心は健在。まして中華の体制が昔と変わっていないことも彼女の危機感を刺激し、結果中華来訪には極めて消極的となる。
何故か中華など極一部の国に対しては、普段の能天気さが嘘のように警戒するティナに首をかしげるティリスだった。
だが、ここ合衆国では政府の追跡から巧妙に逃れている活動家が居た。そう、クサーイモン=ニフーターと彼の一派である。
アリアによる制裁を受けて配信機材の大半をお釈迦にされたが、それ故に配信できずFBIの追跡から逃れられているのだ。合衆国内陸部に広がる荒野を、大型バンで不規則にさ迷うことで追跡を困難にしていた事も要因である。
更にクサーイモン=ニフーターは昔から筋金入りの陰謀論者であり、また無政府主義者でもあった。
それ故に政府の支援などを一切信用せず、若い頃から様々な物資を大量に蓄え、荒野の広い範囲に分散して巧妙に隠していることも捜査を難航させた。つまり、街に立ち寄る回数が極端に少なく目撃情報を得られないのだ。
猜疑心の塊でもある彼は決して他者を信用しない。苦楽を共にする仲間達が病的と評するほどのそれは、今回に限ってはプラスに働いたのである。
「おいおいサイモン!なんだよその骨董品は!?」
そんなある日、隠れ家の一つから物資を回収していた彼らは、旧式の対物ライフルを携えたクサイモ-ンに驚愕することになる。少なくとも彼が武器の類いを隠していることはあっても持ち出すことは無かったからだ。
「ちょっと前に骨董屋のじいさんから仕入れたのさ。弾も少ないが、実用性は充分にある」
この時代、大半の正式な銃は簡易AIと指紋認証プログラムを搭載している。これ等は照準その他の補助を行いつつ、使用者の状態などを管理するためにある。当然犯罪に使われれば、直ぐに使用者を特定できるし、そもそも登録者以外は引き金を引けないように制御されているのだ。
クサーイモンが持ってきた旧式の骨董品の対物ライフルにはそんなものは存在しない。当然補助の恩恵は受けられないが、同時に当局からの追跡網から外れるメリットもあった。
合衆国政府もAI導入と同時に旧式銃の回収、下取りを強化しているが抜け道はいつの時代にも存在する。
「そんなもの、何に使うんだよ?」
「決まってるだろ。宇宙人を仕留めるためさ。フランスでのニュースは見たろ?」
フランスの事件発生から二日が経過しており、フランス政府が火消しに躍起になっているが現場の映像などが個多数の人撮影者の手により無数に拡散されている。インターネット社会の弊害である。
「まさか、殺るつもりか!?」
「おうよ!俺をコケにした奴にちゃんと分からせてやるのさ!俺が口だけじゃないってな!」
発端は逃亡中にリスナーの一人が送ってきた「口だけ達者で逃げ回る臆病者!」と言うメッセージである。
典型的な煽り文句であり、普段のクサーイモン=ニフーターならば鼻で嗤っただろう。
だが政府からの執拗な追跡は確実に彼の精神に負担をかけ、そして追い詰めていたのだ。余裕を失いつつある彼は、実力行使による有言実行を企図したのである。
「だが、どうやってやるんだ?補正もないんだろ?撃てるのか?」
「ああ、そう言えば知らなかったよな。これでも元レンジャーなんだよ」
「なんだって!?」
クサーイモン=ニフーターはかつて合衆国陸軍に属していたことがあり、海外派遣の経験もある。そしてその目で見た紛争地の過酷な現実が、彼を過激な活動家の道へ走らせたのは皮肉なことであった。
「扱いには精通してる。後はよく見える場所があれば充分に狙える。当然、狙うのはあの不気味な翼だ」
アード人は翼が弱点であると広く知られることになった所以である。ただし、それはティナだけであり他のアード人は常に強固な防護魔法を展開しているので、地球上の銃器では突破できないのだが。
それに、今となってはフェルがティナの代わりに防護魔法を展開するようになっている。知る由もないが。
「それに、報復なら心配いらねぇ。見ろよ、宇宙人共はフランスになんの制裁も下してねぇ。これまでもそうだった。つまり、奴等は腰抜けなんだ!」
「確かにフランスに何かしたなんて話は聞かねぇなぁ」
「せいぜい戦闘機で脅したくらいか?」
「ああ、そうだ。仮に失敗してもお咎め無しだ。俺が生きている限り何度でも狙うし、俺に続く戦士達も現れる筈だ。派手な花火を打ち上げて、世界中の奴等の目を覚まさせてやろうぜ!」
クサーイモン=ニフーターは対物ライフルを手に、怪しい笑みを浮かべる。
「情報を集めるぞ。奴は間違いなく合衆国へ来る。その時に、ワシントンで騒ぎを起こすんだ。必ず首を突っ込んでくる。そこを狙うぞ」
「なら、知り合いに声をかける。中東系の拗らせた奴でな、喜んでやってくれるさ」
「ナイスアイディアだ!」
ティナにかつてない危機が迫りつつあった。