星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
紳士淑女の皆様、ごきげんよう!異星人対策室主任のジャッキー=ニシムラ(マスターランク)だ!
アード使節団の一員として遠い銀河の果てまで旅をしたのだが、それは素晴らしい経験だったと胸を張って言える。私だって元は統合宇宙開発局の一員、ケラー室長やミスター朝霧ほどでは無いにせよ宇宙への魅力に取り憑かれた一人なのだ。巨大な惑星や、どこまでも広がる星の海に年甲斐もなく興奮してしまい、いろんな所をビンビンに!
……失礼、興奮のあまり淑女の前で下品な話をしてしまった。気を付けねば。
更に辿り着いた惑星アードは、我々地球人からは想像も出来ないファンタジーとSFが融合したかのような世界であった。もちろんアード内部にも問題を抱えているが、地球人からすれば理想郷とも言える星だ。
アード人は皆が善性の塊であり、地球で言う性善説が当たり前の世界だ。他者を疑うことはせず、手を差し伸べることに躊躇がない。いや、手を差し伸べる行為そのものが一般常識と言えるような社会だ。地球では先ず無理だな。
さて、使節団の任務を終えたその日に発生した痛ましい事件は世界に衝撃を与えた。起こるべくして起きた事件。それが私の素直な感想なのだが、同時にティナ嬢以外のアード人であったとしても同じ事件が発生していたことを私は確信する。
事件の翌日、ホワイトハウスで開かれた緊急会議に私は室長の補佐役として参加していた。ケラー室長は今回の痛ましい事件の再発防止を誓い、また同時にティナ嬢とゆっくり話し合い彼女を諭すことも誓っていた。国益ではなく、彼女の身を案じての事だろう。実に室長らしい決断だ。
私が感心していると、何故か大統領が私を見た。
「ジャッキー=ニシムラ、君の意見も聞きたいのだが、どうかな?」
おや、補佐役に過ぎない私に意見を求めてくるか。ふむ。
「君の発言の内容がどうあれ、ケラー室長に不利益は与えない。誓おう」
ならば。
「では、端的に申し上げます。皆様は一つ、思い違いをされています。今回の事件、例えティナ嬢で無くとも同種の事件が何れ発生した可能性が極めて高いのです」
私の発言に参加者達が目を見開いた。ティナ嬢の無知と警戒心の無さばかりが注目されているが、それは大きな間違いだ。
「その根拠は?」
「同じく端的にお答えします。それはすなわち、地球人とアード人の価値観が根本的に違うのです」
前提を先に述べて、私はアードで見たアード人の価値観を説明した。
ティナ嬢に限った話ではないのだ。アード人は等しく善性の塊、悪く言えば度を越えたお人好しの種族なのだ。事件の詳細は読ませて貰ったが、仮にティナ嬢以外のアード人があの場に居たとして、ほぼ間違いなく子供に救いの手を差し伸べただろう。
それが周りにどんな影響を与えるか。アード人はそこを深く考えない。善を成す。手を差し伸べることがなによりも優先されるのだ。
弱者救済などの善行は、地球ならば称賛されて称えられる。だが、アードでは称えられない。“それが当たり前”の社会なのだから。
例えば地球ならば善意によってなされたとは言え、それによって周りに迷惑を与えることは当然ながら非難される。偽善者呼ばわりもされるだろう。
だが、アードでは善行こそが最優先の行動であり周囲への影響は無視される。いや、周囲が許容する社会だ。
地球なら先ずあり得ないが、アード人の底知れぬ善性と優れた科学力、魔法の存在がこのような社会の実現を促したのだろう。大半の迷惑は直ぐにリカバリーされるしな。
逆に善を無視した者は罪に問われる。そんな法の存在を聞いて私は耳を疑ったものだ。
「なんと言うことだ。ティナ嬢だけでは無いのか!」
「むしろ他のアード人は彼女ほど地球社会を理解していません。彼女以上に善意による行動を行うでしょう」
その場合その地域の事情等は一切無視される。ん?一人では手に負えなくなったら?その時は直ぐに仲間を呼ぶだろう。人助けが出来ると知ればアード人達は嬉々として集まるさ。それがアード人なのだから。
しかも、彼らの善意は弱者救済にのみ向けられるのだ。
「……まるで神だな」
「そうですな、その認識は必ずしも間違いではありませんよ」
祈る必要もなく、お布施も必要ない。助けを乞えば直ぐに笑顔で手を差し伸べてくれて見返りも求めないのだ。まさに神だな。
或いは宗教界が距離を置くのは、アード人の本質に気付いているからかもしれないな。少なくとも信者の数は激減するだろうし。あくまでも私個人の見解だが。
「最後に、彼らは全く別の生命体であるリーフ人を救うために少なくとも億単位の犠牲を払うような種族です。その事を念頭に置いてください」
我々地球人からすれば“狂気”とも言える善人達だ。言っただろう、根本的に価値観が違うのだと。
「アード側には地球の現状を可能な限り伝えましたし、アリアが収集した情報もあちらは把握しています。パトラウス政務局長殿は、本格的な交流が開始されても当分はアード人の地球入植を見送ると確約してくれました。今後百年を目処に、双方の融和を図りたいと」
「ひゃっ、百年!?」
ケラー室長の補足に皆様驚いている様子だ。
「驚くことではありますまい。アード人は平均して七百年から八百年生きる長命種族なのですぞ。我々地球人からすれば百年は気の遠くなる年月ですが、アード人からすれば瞬きするような期間です」
要は、百年以内に地球の統一とアード人と付き合えるだけのモラルを身に付けろと言われたようなものだ。随分と気の長い上位者だよ。彼らが初めて接触した異星人であることに感謝せねばな。
「ううむ、難題だな。果たして実現するのにどれだけの労力を要するか」
「地球全体となれば問題は山積みですぞ、大統領閣下。ここはアードとの交流見送りも視野に入れては?」
おっと、それは駄目だ。最悪の悪手だぞ。
「それはお勧めしませんぞ?皆様はケラー室長の報告書をご覧になった筈です。アードのセレスティナ女王陛下が地球との交流を望まれていると。既にアード人にとって地球との交流は確定しているのです。
それを我々が断ればどの様な未来が来るか。いやはや、考えただけで恐ろしいですな」
アード人が善意より優先する唯一の存在がセレスティナ女王なのだ。彼女の意思を無下にしたとなれば、地球は死の星になるな。
「まあ、難しく考える必要はありますまい?アードとの交流で得られる見返りは地球の輝かしい未来を約束してくれます。私もケラー室長のため、粉骨砕身致しますぞ!」
どのみち地球には後が無いのだ。アードに縋る以外に未来は無い。為政者達が早くこの事に気付けば良いのだがな。
まあ、私は最悪ケラー室長ご一家が無事なら地球がどうなろうとどうでも良いのだが。
騒がしくなった会議の様相を眺めつつ、ジャッキー=ニシムラ(申し訳ありませんがメイド服姿です)は肩を竦めるのだった。