星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ティナ達が合衆国首都ワシントンへ来訪し、ハリソン大統領を筆頭とした合衆国首脳陣と会談。政府の方針もあり、各メディアはこぞって来訪を報道した。しかもフランスでの事件以降初めて(正確には日本で一泊したが報道していない)地球へ降り立った場所が合衆国であることも過大に誇張された。
「やはり我が国が安全であると認識された結果でしょう。これも我が国のモラルの高さを現していますな」
「政府の尽力には頭が下がりますよ」
自称アード専門家達は口を揃えて合衆国を称えるようなコメントを次々と発した。だが、これらのメディア攻勢はティナの動向が筒抜けになることも意味しており、身辺警護に大きな責任を持つFBI長官や異星人対策室などは眉を顰めて自省を提案するほどだった。
そして皮肉にも過激な活動家一派の手によって、その懸念は決して間違いではなかったことが証明されることになる。
「サイモン、本当全部置いていくのかよ?」
「ああ、奴等はインターネットを介して何かをするのは分かってるからな。アナログでいく」
クサーイモン=ニフーターは携帯端末を含めた機械類の一切を置いていき、分解された対物ライフルを隠したバッグのみと言う軽装になった。
「けどよ、それだと連絡が」
「心配要らねぇ。夜までに集合地点に戻らなかったら、しくじったと考えてくれ」
「分かった。例のイカれた友人にも連絡を取っている。現地で落ち合う予定だ」
「それは良い、派手にやってくる。デモは良いのか?」
「露骨なアード批判はご法度だが、政府のアードに対する姿勢を批判するのは自由なんだとさ」
「ふんっ、奴等のデモなんて所詮はファッションなんだよ。命を賭けねぇ奴等がどうなろうが知ったことか」
クサーイモン=ニフーターが吐き捨てるのも無理はない。扇動する者は確かに思想を有していることが多い。
だが、煽られた大衆に明確な思想があることは希である。大半は日頃の様々な不満をぶつける場所としているだけ、これが大衆の現実なのだ。
大衆とは無知で無責任な存在である。とある為政者の言葉であるが、決して的はずれではあるまい。
「ワシントンプラザを派手に焼くことになるがなぁ」
「行きつけの店でもあるのか?」
「ふん、あの場所だって政府が黒い陰謀を隠すためのカモフラージュなんだ。燃やした方が世界のためさ。じゃ、後は予定どおりにな」
「ちゃんと合流地点まで来いよ?」
「派手な花火を上げるんだ。ここで死んでも良いんだがな。お前らも気を付けろよ!」
ワシントンプラザ。ワシントン中心部に近い位置にある複合商業施設である。広い敷地内には様々な種類の店舗が軒を連ね、プラザへ行けば必要な物は全て揃うと喧伝されるほどの規模を誇る。
また広大なイベントホールも備えており、各種イベントも積極的に行われている。それ故に政府も国民向けのイベントを頻繁に開催して、民心掌握に努めていた。最近ではアードに関する融和や交流を肯定的に見せるためのイベントが何度も行われているのだ。
そんなワシントンプラザのイベントホールは、普段と違う物々しさに包まれていた。
「政府はアードに対する弱腰外交を直ぐに止めろ!」
「合衆国の誇りを示せ!」
「アードの威圧に屈するなんて情けない!」
「アードと対等な関係を作るように努力せよ!」
「フランスでの恫喝を許すな!」
この日イベントホールに集まったのは、百人を越える抗議集団であった。彼らは反アード主義者達であるが、巧妙に政府批判を交えているので政府としても取り締まることに難儀していた。アード批判はご法度であるが、言論による政府批判は民主主義の原則から取り締まることは出来ない。
更に厄介な案件として参加者が子どもを連れている点である。もちろん子どもは何をしているのか良く理解していない。ただ親について来ただけである。
しかし、子どもが居ると言うだけで当局は強硬手段を取れなくなるのだ。古今東西、子供に危害を加える大人は主義主張善悪に関係無く批判されるものなのだから。
もちろん参加者側はそれを理解した上で子どもを参加させているので、果たしてどちらが酷いのかと言う話になるのだが。
そんなデモ隊に参加すべく、一人の若い男性がイベントホールへ足を踏み入れる。ティナを信奉する彼の登場は、悲劇の始まりでもあった。
「ニフーター氏は参加されないのですか?」
「ああ、サイモンの奴はどうしても外せない別件が出来てな。本人は参加を熱望していたんだが……済まねぇ。アンタに会わせるのはイベントが終わってからになりそうだ」
「それは残念です。ええ、本当に」
ここで双方に認識の相違が発生した。クサーイモン=ニフーターの一派としては過激な活動家である彼が参加すれば十分に混乱を引き起こせると判断していたし、そもそもクサーイモン=ニフーターは別の場所で待機しているのだ。
だが彼は相手に自分の正体を見破られたと勘違いしてしまう。それ故にクサーイモン=ニフーターへ近付かせないのだと。
あの不敬極まる扇動者を始末できると意気込んでいた彼の落胆は酷いものがあった。同時にそれは彼を更に追い詰め、そして近くで叫ぶデモ隊の不愉快な主張が彼の神経を逆撫でしてしまう。
ニフーターの仲間と分かれた狂信者は、周囲の警官達の制止を無視してそのままデモ隊の前へ出る。
ヒートアップしたデモ隊はいつの間にかアード人、ティナへの批判を開始していたのも不味かった。
「皆さん、静粛に。その様な主張をなされてはいけません。フロンティア彗星の事件は皆さんもご存知の筈です。つまり、我々人類はティナさんに命を救われたと言うことです。
また小さな観点から言ってもマンハッタン、アジアの小国、そして日本でも命を救われました」
「あれらは宇宙人の自作自演だ!侵略をし易くするためのな!」
「自作自演で自らの命を賭けるのですか?だとすれば相当な役者さんだ。それほど断言できるのです。ティナさんの為人を充分に理解しているのでしょうな?」
「いや、近寄りたくもない。未知のウイルスを移されちゃたまらないからな!」
「私はマンハッタンであの宇宙人に触られたのよ!?変な菌を移されてないか今でも不安なの!」
この婦人の言葉が、彼の一線を越えた。
「貴女は救われた身でありながら、ティナさん……ティナ様を罵るのですか?」
「何よそれ、気持ち悪い!宇宙人なのよ!どんな雑菌を持っているか分からないじゃない!」
「嗚呼……部外者の罵詈雑言ならば理解が及ばないと諦めも尽きますが、直接慈悲を頂いた身でありながらその態度……度し難い。貴女には罰が必要です。慈悲深いティナ様は貴女を許してくださる。だが、その前に私が罰を与えましょう」
銃声が響いた。狂信者が拳銃を取り出して婦人の足を徐に撃ち抜いたのだ。一瞬の静粛。婦人の悲鳴が響く瞬間、今度は強烈な振動と共に大爆発の爆音が響き渡り、ワシントンプラザ全体に火の手が上がる。
デモ隊や周囲の利用者達はたちまちパニックを起こした群衆となり、警官達は人の波に押されて狂信者へ近寄れず、そして彼は恐ろしく正確な射撃でデモ隊の主要人物を撃ち抜いていく。ただし、決して急所は狙わない。倒れる人、逃げ惑う人々、迫る業火。ワシントンプラザは一瞬にして修羅場となる。