星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
エジプト観光を切り上げて合衆国の異星人対策室本部へ戻ったティナは、少し身体を休めてハリソン大統領との面会を希望した。
時間は正午過ぎ、ちょうど昼食を挟んで定例会を行っていたハリソン大統領は快諾し、時間を空けて来訪を待つことにした。
「いやはや、あのティナ嬢が事前に連絡するようになったとは」
「あってならない事件だったが、パリの一件で随分と慎重になったみたいですな」
「彼女の成長を微笑ましく思う反面、少し寂しさもありますな」
「遠慮の無さが彼女の良さでしたからなぁ」
政府要人達の会話を聞いてハリソンも表情を和らげる。
「素直に喜ぼうじゃないか。恐らくサプライズの件もあるだろう。皆、しっかり驚くように」
「もちろんですとも、大統領」
「ものによっては素で驚いてしまうかもしれませんがな」
「まあ、アードの品です。また我々では想像も出来ないような逸品が現れるのでしょう」
「うむ。ティナ嬢の事だから、地球にとって有益なものであるのは確かだ。期待しようじゃないか」
しばらく歓談していると、マイケル補佐官からティナの来訪が知らされて皆で出迎えた。
「こんにちは、ハリソンさん!」
「いらっしゃい、ティナ嬢。改めてワシントンプラザでの助力に心から感謝したい。君達のお陰で大勢が救われた。ありがとう」
ハリソンは自ら出迎えてティナと握手を交わし、ワシントンプラザでの一件に改めて感謝を表明した。
「少しでもお役に立てたなら良かったです!」
「ただ、我が国の国民が君に不快な思いをさせてしまったことも事実だ。詳細は聞いているよ。合衆国を代表して、謝罪させてほしい」
「地球には色々と抱え込んでしまっている人が居るのは分かっていますから、大丈夫ですよ」
笑顔を浮かべるティナに申し訳なさを感じるものの、愉快な話題では無いのでハリソンは会議室へ招きながら話題を変えた。
「エジプトはどうだったかな?」
「たくさんの遺跡に圧倒されちゃいましたし、見渡す限りの砂漠や大きなナイル川にビックリしちゃいました!それに、お土産としてコットンまで貰っちゃいました!」
「それは良かった。聞く限りアードには砂漠は存在しないみたいだね。多様な地球環境を楽しんで貰えたようで何よりだ」
「コットンと言えば、エジプト絹ですかな?最高級品ですな。いや、羨ましい」
「彼処は綿の栽培が盛んですからなぁ」
和やかな雰囲気のまま会談は進む。珍しくフェルが同行していないティナに新鮮さを感じつつ、ハリソンはゆっくりと話題を誘導していく。
「羨ましいな。私達にも何かお土産はないかな?」
「あっ、そうでした!実は月で生活することになった人達が珍しいものを持ってきてくれたんです!」
「ほう、珍しいもの?」
ティナはポーチから透明なケースに入れられたラーナフラワーを取り出す。見たこともない氷の花に、集まった人々の視線が一気に集まる。
「それは、氷の花かね?」
「はい!ドライフラワーとかじゃなくて、ちゃんと生きている氷の植物です!花びらから根っこまで全部氷なんですよ!」
「ほほぉ!」
「これは美しい!」
「観賞用としては最高峰のものになりそうだ!」
「全てが氷で出来た花か。しかも芸術品ではなく生きている。宇宙には不思議なものが溢れていますなぁ」
透明なケースに入っているラーナフラワーに皆が釘付けになった。地球では空想の産物と言える氷の花が実在するのだ。興味を惹かれるのも無理はない。
「不思議で大変美しい花だ。これなら大勢の人が魅了されるだろうね」
「ラーナフラワーの特徴は、珍しい見た目じゃないんですよ?この花はアードでも使われている万能薬の大切な材料になるんです」
「「「万能薬!???」」」
ティナの発言に皆が反応を示した。万能薬、地球人類が夢見た秘薬である。
「アードでも一般的に使われている薬で、あらゆる疾病に効果的です。それに製薬過程で魔法を使っていませんから、地球でも作れると思います」
もちろんアード人と地球人では身体の構造が違うので、アードの万能薬をそのまま使えばジョン達のような犠牲者(意味深)を増やしてしまう可能性がある。だからこそティナは材料を提供することにした。
既にアリアがラーナフラワーに含まれる成分を精査して、地球人に有害ではなく地球人用の万能薬を精製できると結論付けている。
「つまり、この花を使えば有史以来我々地球人を悩ませてきた病を克服できる可能性があると。そう言うことかな?ティナ嬢」
「はい!」
アードの手で地球人用の万能薬を開発し、製法その他を完全に秘匿して販売すれば莫大な利益を独占できる。
だがティナは材料を提供して独自開発を促し、地球の技術向上を促そうとしている。その事に思い至ったハリソンは笑みを浮かべた。
「君の好意は決して無下にしない。ありがとう」
「いえ、これでたくさんの人が救われるなら喜んで!ただ、ラーナフラワーにはもう一つ特徴がありまして」
ティナはアリアが纏めた資料を共有しながら、ラーナフラワーの周囲の熱を奪う特性も説明した。その特性に皆が目を光らせたが、ハリソンは悩ましげな表情を浮かべた。
「使い方次第ではあらゆる事に応用出来るが、使い方を誤れば環境を破壊してしまう代物だ。この特性だけは両手を挙げて喜ぶわけにはいかないなぁ」
「はい。だから当面は根っこを切除した物を提供する予定です。生きているラーナフラワーについては、研究用として少しだけ提供しようかなと」
「それが良いだろう。材料としてのラーナフラワーは広く情報を開示して官民合わせた共同研究体制を直ぐに用意するが、生きたラーナフラワーに関しては異星人対策室のみの取り扱いにする。彼処なら流出の危険もないからな」
「それなら私も安心できます……ごめんなさい、もう少し安全なものを提供したかったのですが」
「なに、地球全体の未来のためにしてくれたことだ。感謝しかないよ。それで、ラーナフラワーについてはアード本国ではなく、月に移住される皆さんとの交易品と考えて良いかな?」
「はい、自活する手段を探していたので良ければ是非!」
「もちろんだ。研究以外にも観賞用としても非常に高い価値があるのは間違いない。対価は……地球の貨幣では意味がないか」
「将来的にはレートを合わせたいんですけど、当分はこれまで通り地球の食品とかでお願いします」
「引き受けた。充分な対価を用意させて貰おう。とは言え、当分は生活の安定が優先だろうから可能な限りのバックアップも用意しておくよ」
「ありがとうございます、ハリソンさん!あっ、忘れるところだった。明日、移民団代表のセシルさんと戦艦を率いてきた近衛兵長のアナスタシア様が、地球の皆さんに挨拶しに来ますよ!もちろん地球へ降りてきます!」
「ぐふぅっ!?」
「大統領ーーーッッッ!!!」
「ハリソンさーん!?」
さらっと伝えられた衝撃的な内容にハリソンの胃が悲鳴をあげ、吐血する珍事が発生した。