星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~   作:イワシロ&マリモ

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悲劇(毛)

 ティナから突如として告げられた爆弾発言に、合衆国政府は上から下まで大騒ぎとなった。移民団の代表が来訪することは予測していたが、まさか来訪した巨大戦艦を率いてきた近衛兵長まで来訪するのは予想外であるからだ。

 アナスタシア近衛兵長は来訪初日の祝砲、某国によるミサイル攻撃からの煽りにより為政者達には怒らせてはいけない人物であると認識されている。

 ティリスから極秘裏にアナスタシアは義妹であり長い付き合いので、極力暴走は抑えるとの言葉が友好的な国に伝えられたが、だからと楽観視するような人間は国を率いる立場に長居は出来ない。

 何よりティリスが地球へ降りずにオーロラ号、より正確に言えばアナスタシアの側を離れていない事実が一筋縄ではいかない人物であることを物語っている。

 

 

 

 合衆国政府が大騒ぎをしている頃、当事者であるアナスタシアは月軌道で待機している戦艦オーロラの司令室で義姉であるティリスと会っていた。来訪後ティリスはアナスタシアのやらかし癖を危惧して傍に居ることを選び、地球へ降りていない。

 

 

 

「セシルについては分かるが、お前まで地球へ降りる必要があるとは思えん。悪い意味でお前は有名人だ」

 

 

 

「だからこそですよ、義姉上。私が地球へ降りて地球有数の首長と会えば、それだけで牽制となります。

 殿下は寛大ですし、義姉上の言葉を借りるならば、我々アード人は本質的に御人好しです。

 このままでは地球人に舐められることになります。それは今後の交流の弊害となりましょう」

 

 

 

「否定するつもりはない。地球人は確かに好戦的だし、他者を蹴落とし貶めることを是とする思想で溢れているのも事実だ。

 しかし、だからと言って威圧的となれば激しい反発を生む。それも事実だ」

 

 

 

「故に、武力を以て威圧するのです。我々が去った後、殿下を蔑ろにする者は居なくなりましょう。更に、威圧された後に殿下の慈悲を賜れば地球人も考えを改めるのではありませんか?」

 

 

 

「博打に近いぞ」

 

 

 

「どちらにせよ我々は数日以内に太陽系を去るのです。地球人としては一時的な威圧に過ぎません。必ずしも悪い方向へ向かうわけでは無いでしょう」

 

 

 

「断言するが、間違いなく殿下を、アード人を危険視する勢力が更に勢いを増すぞ」

 

 

 

「義姉上らしからぬお言葉。そ奴らは潜在的な脅威なのです。今後の交流に必要とは思えません。また、武力を見せ付けることはラーナの民を守ることにもなります」

 

 

 

 アナスタシアの言葉を受けて、ティリスはしばし考えに耽る。

 

 

 

「……悪手になる可能性もあるが、仕方無いか。ただし、地球では無意味に威圧するな」

 

 

 

「無論です。久しぶりに制服を身に纏うつもりですし、近衛の長として品位を欠くような真似はしません。まして、殿下の御前なのですよ」

 

 

 

「罷り間違っても殿下呼びは止めろよ?初っ端からやらかしたんだからな?」

 

 

 

「義姉上の膝カックンは効きましたよ。膝が痛くなり、医療ポッドの世話になりました」

 

 

 

「知らん、お前の自業自得だ。あくまでも主役はセシルだ。その辺りを履き違えるなよ、アナスタシア」

 

 

 

「御意」

 

 

 

 不安しかないティリスであった。とは言え、既にティナを通じて伝えている以上アナスタシア来訪は確定事項。それに、彼女の提案も一理あるのは事実だ。

 今回は自分も同行するから、やらかさないように側で目を光らせれば良い。そう考えて深々とため息を吐いた。

 

 

 

 一方合衆国は直ぐ様この件を世界各国に伝えた。多忙を極める国家のリーダー達を一日で招集するなど不可能である以上、必要ならばオンラインを通じた面談などを準備するためだ。

 相手は月へ移住するアード人の代表と巨大戦艦を率いて来たアナスタシア。各国は関心を寄せるが、積極的に参加を表明する国は少数派であった。面倒事を合衆国へ押し付けたとも言うが。

 しかしながら、何でもかんでも押し付けられては困る合衆国も必死で勧誘した。特に期待できるのは日本の椎崎首相である。

 ハリソン大統領は一縷の望みを賭けたが、残念ながら彼女も多忙でどうしてもスケジュールが組めず訪米は不可能となった。彼女はティナを介して既に祝意のメッセージを送っていたと言う事実もあるのだが。

 

 

 

 さて、そんな最中胃を痛めていたのは我らがジョン=ケラーである。地球人としては唯一ティナの本人も知らない隠された素性を知る者として、今回の件は非常に胃が痛くなる案件である。

 アードを訪問して短期間ではあるがアード人と交流した彼からすれば、フランスの一件は地球を滅ぼされかねない事件であったのだ。アード人の底知れぬ善性に隠されたセレスティナ女王へ向けた桁外れの狂信性は、それだけの決断を彼らにさせてしまうものと確信した。

 幸いティナ本人が報復を一切望まなかったことと、ティリスが裏で奔走しブリテン宰相が上手く立ち回ったことで地球側の混乱は最小限に抑えられた。

 ブリテン宰相の仲介でフランス政府も謝罪を表明し、愛好家達が卒倒するような名産品である高級ワインの数々を提供し、穀物輸出の更なる増加を正式に申し入れたのだ。

 

 

 

 しかし重要なのは、この件についてアード側からの反応が未だに示されていない点である。

 近衛兵長ともなればティナの素性を知っているのは間違いない。

 ティナの意思を尊重してくれているのは、直ぐ様攻撃に移らなかったことから推測できる。

 だからと言って油断は出来ない。これまでの威圧的な行動は間違いなくパリの一件が関係していると確信できた。

 

 

 アナスタシア来訪に合わせてジョンは密かにティリスと連絡を取り合い、個別に面会する時間を得た。地球人を代表して謝罪するためである。

 これは政治ではなく、ティナと言う少女を託されながら護れなかったことへの謝罪であり、彼の人柄が現れている。

 

 

 

 さて、そんな心労は胃に多大な負担を強いたが強化された彼の胃は消耗した側から回復しているので体調面は良好である。だが。

 

 

 

「これはっ!」

「こんなことが!」

「信じられない!」

 

 

 

 夕方、少しでも癒しを得ようと太陽の集いのメンバーが集まる毛髪研究所を訪れたジョンは、日夜研究にハゲむ同志達と交流して日頃のストレスを解消していた。その際折角だからと頭皮の検査を受けたのだが、メンバーが驚愕している様子を見てハゲしい胃痛を感じつつ問いかけた。

 

 

 

「どうかしたのかな?」

 

 

 

「ケラー室長、落ち着いて聞いてください」

 

 

 

「ああ、良いよ」

 

 

 

 ジョンに前置きしたメンバーは深呼吸を繰り返し、自らの臆病心を毛散らして。

 

 

 

「毛根が完全に死滅していることが判明しました。完膚なきまでに毛散らされています」

 

 

 

「そうか(´・ω・)」

 

 

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