星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~   作:イワシロ&マリモ

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パトラウスの憂鬱

 私はアード永久管理機構政務局長のパトラウスである。最近交流を始めた惑星地球にある政治体制を模して言うならば、大統領、或いは首相等の国家元首と呼ばれる地位と同等の地位に当たる。

 非才な身でこの様な重責を負う立場に就いていることは誇らしくもあり、そして胃痛の種でもある。己の才覚でこの地位へ登り詰めたと自惚れるほど愚かではない。間違いなく姉上の偉大なる功績故だろう。

 姉上ご本人は否定されるし、政にも口を出さない。政治を私しては、亡国の道を辿ると良く仰有っているのだ。

 

 

 

 さて、アナスタシアがラーナ星系からの避難民を連れて出立した日から数日が経過した。私は充分に情報を得られたと判断して、地球で発生した事件について女王陛下へご報告することを決意する。あの後も連日に渡り姉上から事件の詳細な情報、そして事件後の殿下のご様子等がメッセージとして届いている。

 本来ならば真っ先にご報告申し上げるのが筋なのだが、不確かな情報を女王陛下へ献上するわけにはいかん。本日を選んだのは、姉上から得られる情報を纏め、事件の詳細が判明したと判断した故だ。

 

 

 

 無論私もアード人の一員として殿下が地球人に傷つけられた件は、非常に腹立たしく憤りを感じている。だが、私は政務局長。私心に惑わされてはいかん。

 ……姉や妻に振り回されている件については、黙秘するが。

 アナスタシアの派遣は我々なりの遺憾の意である。地球の為政者達が正しく真意を理解して、再発防止に努めてくれることを願うばかりだ。

 二度目となれば、近衛やヴァルキリー達を抑えられる自信がない。

 

 

 

「女王陛下へ拝謁賜りたいのだが、謁見は可能だろうか?」

 

 

 

 政務局に連絡員として滞在している近衛兵の一人に声をかける。若い青年であるが、彼は直ぐに端末に目を通した。

 

 

 

「現在女王陛下は、先ほど来訪された王妹殿下とご歓談なされておられます。後程であれば可能かと思われますが」

 

 

 

 ティアンナ様もご一緒か、好都合だ。だが。

 

 

 

「そうであったか。ティル殿下もご一緒だろうか?」

 

 

 

「いえ、本日ティル殿下はご一緒ではありません。ティドル博士がお世話をなさっているのだとか」

 

 

 

 それは良かった。幼い殿下に姉君の悲劇をお伝えするわけにはいかんからな。

 

 

 

「ならば良い。火急の知らせがあるのだ。王妹殿下にもご一緒に報告したい。取り次ぎを願えるか?」

 

 

 

「しばしお待ちを」

 

 

 

 彼ら端末を弄り、内部の近衛兵と連絡を取り合っている。女王陛下のお心次第であるが、おそらく……。

 

 

 

「政務局長殿、謁見の許しが出されました。ただ、謁見の間ではなく花園での謁見となりますが」

 

 

 

 人目を避けるには好都合な場所だ。やはり女王陛下は聡明なお方、私ごときの心中など容易に見通されておられるのだろう。身が引き締まるな。

 ハロン神殿最深部、彩り豊かな草花が咲き誇る空間。正式な名があったが筈だが、今では簡略化されて花園と呼ばれている区画であり女王陛下が好まれている場所だ。

 そこにテーブルと椅子がいくつか用意され、セレスティナ女王陛下とティアンナ王妹殿下がご歓談なされていらっしゃる。私は静かに膝をつき、最敬礼にて口を開く。

 

 

 

「ご歓談の最中、拝謁の栄誉を賜り、誠に……」

 

 

 

「あー、良いから良いから。そう言う堅苦しい前置きは要らないわよ」

 

 

 

 掛けられた御言葉に顔を上げれば、ティアンナ様が右手を左右に振っておられ、女王陛下も慈悲に満ちた笑みを浮かべてられていらっしゃる。

 ふむ、ここは謁見の間ではなく更に大切なお時間を割いていただいているのだ。仰々しい作法は適当では無いか。この程度すら思い至らぬ己の浅はかさを恥じつつ、静かに立ち上がる。

 

 

 

「はっ、ではその様に」

 

 

 

 私が立ち上がるのを見て、お二人は視線を合わせられた。女王陛下が頷かれるのを見て、ティアンナ殿下が御言葉を述べられる。

 

 

 

「で、何かしら?火急の知らせだと聞いたけど?」

 

 

 

「はっ、地球へ向かった我が姉ティリスより火急の知らせがあり奏上申し上げるべく参りました」

 

 

 

「里長から?」

 

 

 

 お二人は互いにお顔を合わせて首をかしげられた。無理もない。

 

 

 

「畏れながら、奏上奉ります」

 

 

 

 私は自らの感情を抜き、地球のパリと呼ばれる都市で発生した痛ましい事件について詳細にご報告申し上げた。また同時にお二人の端末にもデータを献上させていただく。

 ご報告を進めると、ティアンナ殿下は少し俯きお顔を伺えない。女王陛下は悲しげなお顔だ。

 

 

 

「詳細を調査するためとは言え奏上が遅れましたこと、誠に申し訳ございません。ティリスが戻り次第改めてご報告申し上げますが、此度の件は全て政務局長足る私の責任でございます。如何なる処罰も甘んじてお受け致します」

 

 

 

 私ごときならば幾らでも代わりは居るが、姉上はこれからのアードに欠かせぬお方。お咎めが無いように立ち回らねば。

 すると、急にティアンナ殿下が立ち上がった。そして御言葉を口にされようとした瞬間、女王陛下が割って入るように玉音を漏らされた。

 

 

 

「それで、ティナは?」

 

 

 

「ティナ殿下は一切の報復を望まず、またご自身の至らなさ故の事なので地球人を咎めて欲しくはないと」

 

 

 

「そうですか……ティナの容態は?」

 

 

 

「迅速な治療により快方なされ、交流に励まれていると」

 

 

 

「それは良かった……ティアンナ」

 

 

 

 女王陛下がお声をかけると、殿下もゆっくりと腰を降ろされた。

 正直、危なかった。殿下が立ち上がった瞬間、遠巻きにしている近衛兵達が殺気立ったからな。あのままお怒りを口にされていたら、近衛兵達を止められなかっただろう。故に女王陛下が御発言なされたのだ。

 ティアンナ殿下は理知的な方であるが、同時に激情家と言う面もあるのだ。それは先のティドル博士の事件からも明らかだ。殿下もそれを自覚なされているから、政から距離をとっておられるのだが。

 

 

 

「ティナの意思はわかったわ。でも、里長が側に居ながらこんなことが起きるなんてね?」

 

 

 

「はっ、誠に申し訳……」

 

 

 

「謝罪は良いから。要は、地球人は知将と謡われた里長の予測を越える行動をとった。そう言うことよね?」

 

 

 

「はっ……」

 

 

 

 無論姉上とて完璧ではない。常々ご自身で慢心せぬよう戒めているのだ。此度の件はまさに姉上にとって痛恨の極みだろう。

 

 

 

 

「興味深いわね。よし決めた、地球へ行ってみよう」

 

 

 

「なっ、なんと仰せに!?」

 

 

 

 まるで夕食を決めるような気軽さがあったぞ!?

 

 

 

「いやね、科学省でも地球の産物について活発に議論されているのよ。アリアがデータを持ち帰ってくるけど、やっぱり実物には及ばない。近々調査チームを派遣しようって話になってるの」

 

 

 

 表向きティアンナ殿下は科学省に属する科学者だ。学者達が騒ぐのわかるが。いや、そうじゃない!

 

 

 

「しかし殿下、それは……」

 

 

 

「それに、ジョンさんが言うには地球にもティナがお世話になっている地球人が何人も居るみたいだし。娘達がお世話になっているんだから、母親である私がお礼に行くのは当たり前の事よね?」

 

 

 

「で、ではティル殿下は!?」

 

 

 

「当然連れていくわよ。もちろんティドルもね」

 

 

 

「ならば、殿下が戻り次第次の地球行きに同行なされるのですね?」

 

 

 

「科学省の調査船を使うに決まってるじゃない。今日中に出発するわ。地球と星系内の調査で……まあ数日あれば終わるわね。姉様、ちょっと行ってくる。半月くらいで戻るわ」

 

 

 

「気を付けてくださいね、ティアンナ」

 

 

 

 その軽すぎるフットワークにパトラウスが猛烈な胃痛を感じ、そして唯一正体を知るジョンにオメガ弾級の胃痛が襲来することが確定した瞬間である。

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