星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~   作:イワシロ&マリモ

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欧州の様子

 セシル、アナスタシアの来訪とハリソン大統領との会談は世界中の関心を集めた。これまでの交流はティナ達子供を相手にしていたのだが、遂に成人したアード人が来訪したのである。注目されるのも無理はなかった。大勢の各国メディアが押し掛けて、合衆国もまた内容を公表していた。

 ただ、アナスタシアの来訪は異例の事であり外交を引き継ぐつもりはないこと。またセシルも当分は積極的な交流は行えないと明言。

 

 

 

 この事は、ティナとの交流に試行錯誤している為政者達を落胆させた。相変わらず交渉の窓口はティナだけであり、合衆国と日本が独占している状態である。

 実情は両国関係者の胃に深刻なダメージを与えている負の側面もあるのだが、それが知られることはなかった。

 極東の大国中華を始めとして現状に不満を抱く国は多い。アードとの交流は、遥かに進んだ技術や魔法の産物並びに知見が得られる絶好の機会なのだ。それが独占されている。実態はどうあれ、不満を抱くには充分な理由である。

 

 

 

 特に最近不満を露にしているのは欧州の雄、ドイツである。既に欧州では、イギリスとフランスが来訪地となっているのだ。当然仲間外れにされている現状は面白くもない。

 アードでは食肉の生産が極めて少ない。故に、肉料理の文化及び食肉の輸出は大きな武器となる。

 更にアードには飲酒の文化がないことを聞き付けてビールの普及も目論んでいた。食べ物以外にも優れた工芸品や文化は多数存在する。

 つまり、アードに対する充分なアピールポイントを持っていながら交流する機会を得られていない現状を不満に思うの無理はない。

 在米大使館を通じて強くティナ達の来訪を働きかけているが、反応は芳しくない。最大の理由は……。

 

 

 

「ジャガイモ共の国へ行く?あまりお勧めはせんな。パリの二の舞だよ。いや、下手をすればそれ以上の惨劇が発生する可能性すらある」

 

 

 

 ドイツだけではなく、欧州各国は大量の難民を抱えた民族問題に苦しんでいる。数十年前より続く問題であり、当然ながら各国政府は様々な対策を行使してきた。

 だが、地球環境の悪化によって住む場所を追われた人々は国連の予測をあっさりと越えてしまい、欧州各国へ難民の津波が押し寄せているのが現状である。

 人種、文化、宗教がまるで違う人々が大挙して流れ込めば、社会に少からず混乱が生じるのは必然である。

 文化、宗教等の違いによる衝突、それに刺激されたナショナリズムの台頭、弾圧。それに対する反発。表面上は治安も維持されているが、不安定な状態であることに変わりはない。

 

 

 

 そして最大の問題は、アード人であるティナ達には、現地人と難民の見分けが付かないことである。もちろん難民全てが悪いわけではない。むしろ悪事に手を染めるのは極一部であり、それを利用する現地人の悪人も居るのが実情なのだ。

 パリでの事件は難民によって引き起こされた。様々な偶然が重なった結果であるが、アリアにとっては充分に警戒する理由となる。

 アリアは難民問題について独自に情報を収集、その境遇に一定の理解を示している。が、同時に暴発した際の危険性も正しく認識していた。

 それ故にアリアとしては同じく人種などの問題を抱えながらも確固たる地盤を築けた合衆国、他国に比べればこれらの問題が極めて少ない日本以外への渡航について懐疑的なのだ。

 そこへチャブルが“親切心からの助言”をするものだから、警戒が増すのは当然である。

 

 

 

「ドイツかぁ、行ってみたいなぁ」

 

 

 

『現地の治安に不安があります。当分は合衆国、日本を主軸として交流する事を推奨します』

 

 

 

 ティナとしてはドイツに多少関心がある。前世では酒好きと言うわけではないがビールが好みであり、わざわざドイツ産のビールを購入する程度の拘りがある。

 アードには飲酒の文化もないので、ドイツのビール、そして有名な肉料理、伝統的な工芸品等に興味を示しているのも事実だ。

 このやり取りを聞いていたジョンは直ぐ様動いた。ハリソン大統領に報告し、大使を通じてドイツ政府へ伝えたのである。

 

 

 

 当然ドイツ政府は歓喜したが、同時に伝えられた幾つかの警告に衝撃を受ける。先ず、近々ティナ達はアードへ戻るので訪問は次回来訪時となること。これに関してドイツ政府は問題視しなかった。むしろ歓迎やアピールの準備に時間が得られると喜んだ。

 しかし、次に提示された注意点こそが味噌である。出来る限り努力するが、彼女達の行動を制御することは事実上不可能であること。最悪事前連絡が一切無い状態での来訪があり得ること、更に何処へ出現するか一切分からないこと。

 

 

 

 これらの助言はドイツ政府を大いに困惑させた。ある程度情報は仕入れていたのだが、文字通り地球における外交常識が一切通用しない相手であることを再認識したためである。直近のエジプト訪問は珍しく事前に連絡があったが、それでも一日前なのだ。

 更に隣国フランスでは当日に突然来訪して事件が発生したことを鑑み、そしてドイツの為政者達は漏れ無く胃痛に悩まされる(ようこそ胃痛クラブへ)事になる。

 

 

 

 さて、次回来訪地を掛けた各国の思惑が交差する最中、日本国首相である椎崎 美月は緊張感を保ちつつ専用車にて静かに目的地へ到着する時を待っていた。

 本来ならばアナスタシア、セシル来訪に合わせて渡米し、ティナの晴れ舞台に参加する予定だったのだが、急遽取り止める事態となった。それは昨日正午過ぎのことである。

 

 

 

「面談したい?この忙しい時に、どこの省庁よ?」

 

 

 

 自分が不在の間の準備と指示を飛ばしながら忙しくしていた椎崎首相の下へ、急遽面会したいとの要請が割り込んできたのだ。

 今現在彼女が忙しいのは周知の事実であり周りに居た閣僚達も顔を見合わせている中、報告に来た職員は緊張しつつも言葉を続けた。

 

 

 

「それが、くっ……宮内庁です」

 

 

 

 知らされた名前に一同は固まり。

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 椎崎首相が絞り出した一言が虚しく室内に響いた。

 数分後、宮内庁長官と面談した椎崎首相は激しい胃痛に襲われた。端的に言えば、出来るだけ早い時期にお会いしたいとの、やんごとなきお方からの要望だったのだ。異例中の異例であるが、当然無下には出来ない。急遽訪米の予定をキャンセルし、翌日には皇居へ向かうこととなった。

 アード関連のお話であり、間違いなくティナに強烈な衝撃を与えると確信した椎崎首相は、密かに祈りを捧げた。

 

 

 

「胃薬、新調しようかしら」

 

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