星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~   作:イワシロ&マリモ

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月面基地を巡る思惑

 ティナ達が太陽系を後にして六日が経過した。当初の予定どおりセシル達移民団は月面に建設された居留地に滞在し、新しい環境に一刻も早く馴染むために活動していた。地球側の好意によって提供された土地にはまだまだ余裕があったので、万が一に備えて降ろされていた大量の資材と作業ドローンを用いて居留地の拡大も開始。

 またセシルは交流促進のため、最寄りにある地球の月面基地と居留地を連絡路で繋げてしまおうと提案。月面基地を共同管理する国際連合は、各国の思惑はあるもののこの提案を快諾した。大使館も居留地に建設中であり、月面基地との行き来が容易くなるのは歓迎すべき案件であるからだ。

 同時に月面基地の重要性も跳ね上がり、その管理権についても水面下で政争が繰り広げられた。現在月面基地は名目上国連の管理下にあるのだが、実態は複数の大国による多額の出資によって維持管理されているためだ。

 主な出資国は合衆国、日本、中華、連邦、ブリテン、フランス、そしてドイツである。

 この日、国連本部で上記七ヶ国の国連大使が一堂に集まり非公式の会談を開いていた。

 

 

 

「既にアードとの交流を果たしている貴国等と我々では立場が違う。機会を平等とする必要性があるのは明白である。我が国は更なる融資の用意がある。

 月面にあるアード居留地との連絡路建設に向けて全力で支援するので、我が国に交流の優先権を付与していただきたい」

 

 

 

 先ず口を開いたのは中華の大使である。ティナ個人の前世から来る苦手意識、そして不穏な動きから交流に加われない彼らは居留地建設を機に攻勢を仕掛けた。

 

 

 

「また、アード側の人々も不安があるだろう。次回定期便は我が国が担当しているので、追加で人員を送り込みたい。如何なる状況にも迅速に対応するためだ。

 もちろん、提案したのは我が国であるので人員については我が国が負担するので御安心を」

 

 

 

 もちろん善意などではない。予定されている人員は全て美形の男女であり、大半が工作員なのだ。

 当然各国も中華の思惑は簡単に見抜いているが、相応の資金を出しているのでその発言力は大きい。真正面から断るのは難しい案件である。

 

 

 

「追加の資金については、中華国だけに負担させるわけにはいかない。我が国を含めて各国で分担して供出しようではありませんか。これは地球全体に関わる案件なのですから」

 

 

 

 中華国の独占を避けるために負担の分担を呼び掛けたのは、合衆国大使である。居留地との交流の主導権を中華が握ればどの様な事態が発生するか分かったものではない。

 何より合衆国が危惧しているのは、中華はアードに対する正しい認識を有していないことだ。

 故意に発生させた人為的な事件=地球滅亡を意味することを合衆国は正しく理解しているのだ。

 

 

 

「追加の資金について、断腸の思いではありますが我が国は辞退させていただきます」

 

 

 

 だが、合衆国の提案を真っ先に否定したのはフランスである。先のパリでの事件で世情が不安定となり、一部では暴動が起きているため新たな資金供出の余裕などはない。

 また会談前の秘密会合で中華から密かに資金提供の提案があり、見返りとして合衆国が提案してくるであろう分担案に反対する取り決めがなされていたのだ。

 フランスの反対に合衆国大使は苦々しい想いを抱く。もちろん合衆国とて善意だけではない。このままアードとの交流の主導権を維持しつつ、中華を牽制する狙いがあるのだ。時間が足りず事前の根回しが充分に行えていなかったことを悔やんだ。

 

 

 

「我が国は合衆国の案に賛同させていただく。一国に負担を集中させてしまうのは心苦しいですからな」

 

 

 

 密かに次回来訪地として合衆国から打診されているドイツは、当然ながら合衆国の肩を持つ。

 

 

 

「より良い関係構築がなされるように尽力するだけです。優先すべきは、居留地にいらっしゃるアードの人々が安心できる環境作りです。我々の都合ではなく、あちらの代表であるセシルさんを招いて改めて協議すべきではありませんか?」

 

 

 

 日本大使は穏やかに、そして間接的に釘を刺した。政争をアードとの交流へ持ち込む愚を説いたのだ。

 

 

 

「我が国としては、引き続き国連を通じて運用すべきだと思いますが。追加資金について異論はありませんが、人員はこれまでのように国連の合議で決めるべきであると考えます。我々の政争をアードの方々に晒すような愚は犯したくありませんな」

 

 

 

 皮肉混じりに批判するブリテン大使。そして。

 

 

 

「我が国に意見はありません。必要な資金や人材は幾らでも御用意しましょう。我が国唯一の要望として、間違ってもアード側を刺激しないように留意していただきたい」

 

 

 

 連邦大使によるまさかの中立発言は、皆を驚かせた。ティリスによる報復は大国連邦を極めて慎重にさせたのである。

 ロンドンでの事件で背後に連邦が存在している事をブリテンも把握しているが、チャブル首相より攻撃を止められている。

 

 

 

『あの国は、大統領は賢い。もうバカな真似をする気もないだろう。全く、一人だ。たった一人を使い物にならなくしただけで、あの熊を従わせた。いやはや、強かなお嬢さんを相手にするのは楽しい。故に、我々も紳士として弁えねばな?』

 

 

 

 会談前日に会ったチャブル首相は愛用の葉巻を片手に嗤っていた。その姿を思い出し、ブリテン大使も口を閉じた。

 結局この日の会談では意見が纏まらず、月面基地の運営に関しては数日以内に開催される国連総会の議題として改めて議論を交わすことが確認された。

 

 

 

 そして、翌日。国連大使からの報告を聞いた合衆国のハリソン大統領は、異星人対策室長のジョン=ケラーを呼んで意見を交わしていた。

 既にジョンは、唯一転送ポートを利用できる地球人として何度か月の居留地へ赴いていた。アード訪問時にセシル達と交流する機会を多く持てたこともあり、セシル達としても安心して相談することが出来た。

 利用できる地球人をジョンだけに絞った決断は、別に狙ったわけではなく最も信頼しているからと言う理由なのだが、ティナにしては珍しいファインプレーである。

 

 

 

「当分は問題なしか」

 

 

 

「はい、大統領閣下。セシルさん達も数年分の食料その他物資を蓄えている様子です。ただ、どうやら此方から送った菓子類を子供達が好んでいると。

 これは私個人の意見ですが、土産として甘いものを用意すれば喜ばれるでしょうな」

 

 

 

「甘いものが好きなのは地球人もアード人も変わらないか。分かった。各国の菓子を改めて用意するから、次の訪問時に持っていくと良い」

 

 

 

「ありがとうございます、大統領閣下」

 

 

 

 セシル達が要望したわけではない。むしろ対価も充分に用意できていないのに、素晴らしい食べ物を提供してくれたことに恐縮していた。

 だが、無邪気にチョコレートを食べる子供達の笑顔を見てジョンが自分の独断によるプレゼントという形をとっただけである。無論ハリソンも真意を理解して、彼の提案を採用したのだが。

 ティナ達が太陽系を離れて七日。少しずつ交流の形を整えつつ胃痛も和らいできたその時。

 

 

 

「きっ、緊急報告です!ISSより、直径五キロを越える宇宙船が現れたと!アードを示す信号を送っています!」

 

 

 

 駆け込んだマイケル補佐官の言葉を聞き、ハリソンとジョンは癒えたばかりの胃に再び鋭い痛みを感じたのであった。

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