星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
突如として太陽系へ現れた巨大な宇宙船は、大きさで言えばオーロラ号の二倍以上になる五キロという巨大な船である。直ぐに地球へ向けてアード船籍であることを知らせてくれたので混乱を最小限に留めることは出来たが、それでもオーロラ号に続いて二度目の予告が無い来訪に地球の為政者達は再び凄まじい胃痛に苛まれることとなる。
先ずはパニックを避けるため、秘密裏に接触するようにISSや月面基地へ指示が飛ばされ、更に月面居留地へ問い合わせるべくジョンが準備を始めたまさにその時。
世界中の主要都市の上空に、巨大なティアンナが投影されたのである。言わずもがな、立体ホログラムである。
『地球の皆さん、突然の事で驚いているでしょうけど、先ずはご挨拶をさせてください。私はティアンナ。アード科学省に所属する研究員で、地球で言うところの博士号を持つ者です。
そして私達が乗ってきた宇宙船は、調査船オリンポス号となります。私達の目的は、地球を含めた太陽系惑星の調査となります。場所をお借りする対価として、私達が解析したデータは無償で皆さんに提供することをお約束します』
投影されたティアンナに誰もが驚いた。そして提示された対価は統合宇宙開発局をはじめとした宇宙に携わる人々を狂喜乱舞させたのである。これまでも何度かティナが調査データを提供してくれたが、本格的な調査とデータが手に入るならば文句があるはずも無かった。
だがただ一人、ジョンだけは激しい胃痛に苛まれた。それを裏付けるように、これまで真面目な表情であったティアンナが柔らかい笑みを浮かべる。それは地球の人々がよく目にする少女の面影があった。
『調査とは別に、私個人として地球の皆さんにご挨拶を。いつも娘のティナがお世話になっています。あの娘に良くしてくれて、本当にありがとう。
五日ほど滞在する予定ですが、ホログラムではなく地球へ降りて直接ご挨拶したいと思います。皆さんとお会いするのが今から楽しみです』
「ママさん来ちゃったねー、パパ。ティルも一緒なのかな?」
「胃が痛い……」
カレンはのんびりした感想を述べて、ジョンは胃を痛めた。そしてティアンナの発言はネット上を沸かせた。
『ママキターーーーッッッ!!』
『マジか!マジか!?』
『科学省の博士号を持つって、どんな感じなんだ?』
『資料を見ると……うん、間違いなく超エリートだな』
『やっぱりティナちゃん達はお嬢様だったかー』
『そりゃそうだよなぁ。庶民が銀河の反対側へ来て交流するなんて無理があるし』
『つまり?』
『政府の密命だったのか。或いは』
『或いは?』
『おてんば娘の気紛れ?』
『www』
『ティナちゃん見てると気紛れの可能性が滅茶苦茶高いんだよなぁwww』
『まあ、やらかしの数々を見れば密命を受けたエージェントには見えないし』
『可愛いから良し』
ネットは盛り上がりを見せていたが、次の瞬間最高潮に達した。
『ママ~!』
『わっ!もう、ダメじゃないティル。ママはお仕事中なのよ?ごめんなさいね、このわんぱくな娘はティル。ティナの妹なのよ。地球へ連れていくつもりだから、よろしくお願いしますね?』
突然ティルが現れてティアンナへ飛び付き、慌てて抱き留めて困ったような笑顔を浮かべてティルの頭を撫でるティアンナがそのまま投影されたのだ。
その微笑ましい光景にある者は頬を緩ませ、ネットを守護する一部の紳士淑女は尊死する喜劇が発生した。
だが、それだけで済まないのが地球なのだ。巨大な立体ホログラムによる挨拶は日本時間の正午に行われたが、その日の夕刻。中華国某所にある秘密会議室。
完全にネットワークから遮断され、更にあらゆる電子機器の持ち込みが不可とされているその部屋で、中華国主席黄卓満と中華国幹部達が一堂に集い、一人の若い男性と秘密会談を開いていた。
「これぞ千載一遇の好機!日本や合衆国に潜ませてある同志達を総動員して、必ずやあの宇宙人の幼体を確保して主席閣下に献上致します。
大使の妹を確保すれば、宇宙人は譲歩する。つまり、主導権を貴国が握ることとなるのです!」
この熱に浮かされたように演説する若者は、某国独裁者の次男である。度重なる失敗とアードによる報復によって国内は混乱し、指導者の権威は地に落ちた。
最早失脚は避けられない状態となっている中、二人の息子が後継者争いを始めたのである。悲運があるとするならば、両者ともに融和路線でなく自身の権威の維持だけを目的にしていることである。
もちろん某国にもアードの脅威を正しく認識して融和路線を提言する人物は居たし、合衆国も密かに接触していた。だが、独裁者は自らの失態の責任を彼らに被せて強権を振るう。
結果、融和派の主要人物は消息不明となるか弾劾裁判によって極刑に処されている。
「必ず成功させてみせます!なにより、米帝による宇宙人との交流独占を阻止し、貴国主導によるあるべき姿へ戻すのです。
その時、真に平等で幸福な社会が実現します!」
「ふむ……」
「つきましては、事が成った暁には是非とも閣下のお力添えを頂きたく。あの愚かな兄では人民を率いることなど出来ません。私が国を率い、閣下の手足として父に勝る働きをお約束します!」
戯言を高々に叫ぶ若者を見て、黄卓満は静かに口を開いた。
「君の熱意と忠誠心はよく分かった。だが、あくまでもこれは貴国の問題だ。我が国が手を貸してしまっては、内政干渉になる。
君の熱意には感服するが、相応の成果を見せてもらわねば何も出来ない。君の父上はよく理解していた。もちろん、君も理解してくれると信じているが、どうだね?」
「はっ……はっ!少しだけお時間を頂きます!必ずや成果を挙げてご覧にいれます!」
意気揚々と部屋を出る若者を見送り、黄卓満は深々と息を吐いた。
「閣下、宜しいのですか?」
「私は何も約束していないし、何か指示を与えたわけでもない。これから起きることは、我が国とは無関係だ。違うかね?」
「それはそうですが、万が一成功した場合は?」
「直ちに幼体を保護して奴を主犯としてアードへ突き出す。それだけだ。抜かるなよ」
「はっ」
陰謀渦巻く地球では、また新たな不穏の種が蒔かれた。そして、ロンドンでは。
「あの国のバカ息子が北京に……ふむ、ロクな事ではあるまいな。残念ながら、ティリス嬢の懸念は正解だったようだ。
ハーバーグラム君、期待しているよ」
「はい、閣下。お任せください。必ずや汚名返上を成し遂げます」
「うむ」
チャブル首相が英国情報局秘密情報部、通称MI6に密命を与えていた。