星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
異星人対策室のジョン=ケラーだ。ティアンナ王妹殿下の電撃訪問は世界中に衝撃を与えた。なにより先日来訪した戦艦より更に巨大な宇宙船でやって来たのだ。その反響は凄まじいものがある。
巨大なホログラムを使用した挨拶が行われて数時間、異星人対策室でも可能な限りの情報収集が行われているが、我が国の世論は概ね好意的だ。
やはり突然乱入したティルの存在が大きいだろうな。子供相手となれば批判するのも難しい。狙ったわけでは無いだろうが、悪くない状況だ。
まあ、中には調査船の目的を聞いて将来地球が得られる筈の資源を奪われると騒いでいる者が居る。今現在手に入らない資源を求めてどうするのか。
それにアード側が好意的にデータまで融通してくれるのだし、共同の宇宙開発も視野に入れているのだ。これらの批判は、些か道理から外れているように感じるのは私だけだろうか。
さて、情報収集は引き続き進めているが私は後をジャッキー達に任せて月の居留地へ向かうことにした。
統合宇宙開発局の話では、既にオリンポス号と呼ばれる調査船は地球軌道を離れて火星付近に留まっているらしい。早速調査を開始したのだろう。仕事が早いことだ。
ただ、セシルさんからの連絡ではティナの家族は月の居留地に滞在しているらしい。
早速挨拶に向かわねばならないが、転送ポートを使える地球人は私だけ。ティナの信頼は嬉しいが、凄まじい責任に胃が悲鳴を上げている。
ついでに言えば、隠された身分を知っている地球人も私だけだ。儘ならないものだな。
異星人対策室本部にある転送ポートを使い居留地へやって来たが、毎度毎度風景の変化に驚かされる。最初は金属の無機質な部屋であったのに、今では周囲の壁が取り除かれて鬱蒼とした森の中に佇んでいる。正確には、森を構成する地球では滅多に見られない大木の一つに作られた足場の上なのだが。
アードを訪問して確信したが、アード人は樹上生活を好む。大木そのものをくり貫いたり、その幹に作られたツリーハウスが彼らの主な家だ。彼らは必ず樹上に集落を形成する。この居留地も同じだ。極寒の惑星であるラーナで生まれ育ったと聞いたが、居住区内部にわざわざ森を作っている。そう言えばティナ達の宇宙船にも植物園があったな。
集落全体に蔓と木材で作られた橋が張り巡らされており、集落の中心には特に大きな大木が鎮座している。集会所だな。
ドルワの里もそうだったが、アード人の集落は集会所を中心に広がるように形成される。実に興味深いな。
「あらジョンさん、こんにちは」
「おじちゃんこんにちはー!」
「やあ、こんにちは」
橋を歩いていると、若い女性と女の子が並んで空を飛んでいたので挨拶を交わす。里全体を見ても間だ昼間のようで大人の女性達は忙しく作業をしており、子供達は無邪気に遊んでいる。平和な光景だ。間違っても地球の問題をここへ持ち込んではならない。
「いらっしゃいませ、ケラーさん」
「セシルさん、こんにちは。急な訪問で申し訳ない」
その後も里の人々と言葉を交わしながら集会所へ赴けば、セシルさんが待っていてくれた。事前に連絡したので、予定を空けてくれたのだろう。忙しいだろうに、申し訳ないな。
直ぐに私は石造りの集会所内にある一室へ案内され、そこで穏やかな笑みを浮かべた青年が出迎えてくれた。見た目はまさに若者だが、彼こそ私がアードで友誼を交わした男性でありティナの父親であるティドルさんだ。
アードを率いるセレスティナ女王陛下の妹であるティアンナ王妹殿下の夫であるが、特別な地位はなくまた本人も関心がないのでアード有数の魔道師として名高い人物だ。極めて温厚で思慮深い方だな。その優しさは、やはりティナの父親であると思わせてくれるものがある。
「ケラーさん、お久しぶりです」
「こちらこそ、ティドルさん。ようこそ、太陽系へ。私達は貴方達を歓迎しますよ。もちろん、私も友人として貴方を地球へ招くことが出来る事を嬉しく思っています」
私達は再会の握手を交わした。アードにはあまり手を握る文化は無かったが、地球の流儀に合わせてくれたようだ。
「ありがとうございます、ケラーさん。何の連絡も無しに来てしまいましたから、ご迷惑でなければ良いのですが……」
「とんでもない。我々はいつでも皆さんを歓迎しますよ。それに、銀河の両端に位置しているのです。相互の連絡も簡単では無いでしょう」
アリアによれば、ゲートを介した星間通信システムを使っても数日掛かるらしい。
「すみません、妻の行動力は常に私の上を行きますから……」
苦労されているようだ。まあ、無理もない。だが、私は地球人として、何より友として……最初にやらねばならないことがある。
「ケラーさん?」
頭を下げた私にティドルさんが戸惑いながら声をかけてきた。
「地球で発生してしまった痛ましい事件について、地球人の一人として心から謝罪させてください。大切な娘さんをお預かりしていながら、この体たらく。誠に申し訳ない……」
私は、深々と頭を下げて謝罪した。
「待ってください、なぜ貴方が謝罪を……?」
「私ごときが地球人を代表するなど烏滸がましい限りですが、ティナが信頼してくれる身でありながら、あの娘を護れなかった」
物理的な問題ではないのだ。私はもっとあの娘に注意を促すべきだったのだ。パリの事件は、まさに双方の価値観の相違によって発生した事件だ。
ティナの行動は地球人からすれば短絡的、配慮が足りない。自業自得等と批判する声があるのも事実だし、そこを完全には否定できない。
しかしアード人からすればあの行動は、それこそ挨拶をするレベルの常識なのだ。
私はティナに地球の素晴らしいところばかりではなく、危険な面もしっかりと教え諭すべきだったのだ。あの娘はパリの一件を教訓に危機感を持った。
だが、私が諭していればあの娘は痛い想いを、怖い想いをせずに済んだのだ。誰が何を言おうと、これは私の罪だ。
「……ありがとうございます、ケラーさん。貴方の謝罪を受け入れます。どうか、顔を上げてください」
「ティドルさん」
彼の表情は穏やかだ。あの事件の後会ったティナとよく似た表情だ。
「貴方に心からの感謝を捧げます。地球でティナが怪我を負わされたと聞いたとき、私も父親として思うところはありました。
ですが、あの娘の意思でしたし……なにより、貴方のようにあの娘のことをこんなにも想ってくれる素晴らしい方が居ることが嬉しいのです。
ケラーさん、どうかこれからもティナのことを。いや、娘達の事をよろしくお願いします」
「微力を尽くさせて頂きます」
私達は再び固い握手を交わした。ティドルさんも想うところがあるだろうに……私の謝罪を受け入れてくれた。彼の信頼を裏切らないようにこれからも励もう。地球人とアード人が共に笑顔で過ごせる世界のために。
「大変です!ティアンナさんがティルちゃんを連れて地球へ向かいました!」
飛び込んできたセシルさんの言葉を聞き、私は胃薬を、ティドルさんは栄養ドリンクをイッキ飲みするのだった。よし、次の問題に取り掛かろう。