星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ザッカル局長から衝撃的な事実を聞いたあと、私達はリーフ姉妹を連れてドルワの里へ戻った。鬱蒼と広がる深い森の中にある森の隠れ家のような里は、私にとって生まれ故郷であり前世の男心を擽る最高の場所だ。まあつまり、大好きな古里って事だよ。
ばっちゃんはまだ戻っていないけど、フィオレ達のために用意された家には里の皆が案内してくれた。場所は我が家のすぐ側にある大木だ。それを丁重にくり貫いて作られている。
玄関口や窓の周りにはリーフ由来の植物が植えられていて、精神的な安らぎを得られるように配慮されていた。フィオレは立派な家に恐縮していたけど、フィーレはいつものようにマイペースに家の中へ入っていった。うん、フィオレがいつまでも入ろうとしなかったから、ちょうど良い。
「ただいま~……」
リーフ姉妹と別れた私達も取り敢えず帰宅することにした。何だかんだで長旅だしね。いつもはお母さんかお父さん、そしてティルが居るんだけど家の中は静かだ。前世じゃくたくたになった仕事帰りに毎日見ていた光景だけど、今は寂しさを感じない。だって。
「お帰りなさい、ティナ」
「ただいま、フェル」
後ろから笑顔で声をかけてくれるフェルが居るから、寂しくない。
さて、久しぶりに帰宅したけど何をしようかな。
お母さん達へのお土産は直接渡したいし、交易品の食べ物を詰め込んだ大量のトランクはばっちゃんのお店に運び込むように手配してる。
レポートも提出したし、予算で許される限界までのトランクと医療シートも発注済み。今回はそれ以外に“世界樹の葉っぱ”を地球へ持ち込んでみようと思ってる。
某国民的テレビゲームのアイテムみたいな名前だけど、リーフ人の信仰の対象で転送ポートの起点になる大きくて神秘的な木の葉っぱだ。
世界樹は転送ポートの起点になるだけあって、膨大なマナを宿している。その葉っぱも同じで魔法薬の重要な素材になる。
フィオレが地球の植物と掛け合わせたら面白い反応があるかもって言ってた。それ以外でも世界樹の葉っぱは、前世で飲んだこともある青汁みたいに栄養が豊富な健康飲料にもなるんだよね。
口当たりも良くて甘くて美味しい飲み物で、日頃お世話になってるジョンさん達にプレゼントするつもりだよ。
『更なるデータの蓄積が促進されることが確定しました』
「アリア、何か言った?」
『いえ、素晴らしいお考えかと。成分解析の結果、地球人に害はありません』
それなら良かった。
取り敢えず私とフェルはそれぞれの部屋に戻って荷解きをすることにした。地球から持ち帰った小物、絨毯とかをポーチから取り出して隅に置いておく。模様替えは専用のドロイドに任せれば問題ないからね。
ある程度荷解きが終わった私は、着替えることにした。今日はもう家を出るつもりはないしね。いつもの天使みたいな服じゃなくて、地球でプレゼントされた服をポーチから取り出す。
個人的には色々楽なジャージが良いんだけど、流石にこの姿でジャージは色々台無しになりそうだから我慢する。
んー、まあ後は御飯食べて寝るだけだからネグリジェで良いか。翼を出すために背中をガッツリ開けた特製のネグリジェに着替えようと服を脱いで……。
「ティナ、荷解きは終わりましたか……」
「「あっっ」」
フェルがドアを開けて、時が止まった。
「ごめんなさい、ティナ。ノックを忘れていました。まさか着替えているなんて」
「うん、タイミングが悪かったね……フェル、直ぐに着替えるから、ちょっと待ってて」
ん?フェルは部屋を出ないでドアを閉めた?そして笑顔で……え?
「大丈夫です。そのまま続けてください」
「いや、大丈夫じゃないよ。なに言ってんのさ?」
可愛らしい笑顔でとんでもない事を言い始めた。
「女の子同士ですし、お風呂も一緒に入っているんですからなにも問題はありませんよ。だから大丈夫です」
「フェルが大丈夫でも私が恥ずかしいの!ちょっと待ってて!」
え?なに?フェルに見られながら着替えなきゃいけないの?新手の拷問か何かかな?
渋々部屋を出たフェルを見送って、手早く着替えた。ネグリジェは薄いけど寝る時楽だからなぁ。と言うか、随分とフェルのテンションが高いような気がする。普段のフェルならここまで押しは強くない……まあ、久しぶりに二人きりだからなぁ。
部屋を出てリビングへ向かうと、そこには私と色違いのネグリジェを着たフェルが待っていた。
「お待たせ、フェル。いつの間に着替えたのさ?」
「今ですけど?」
「あっ、はい」
いやまあ、魔法のドレスチェンジがあるから服装を変えるのは簡単なんだけどね。私も使えるけど、ドレスチェンジ程度の魔法でもかなりの負担になるから緊急時以外は使わないけどさ。
フェルと二人でソファーに座った。翼や羽根を痛めない特別製だ。ふかふかしていて心地が良いし、床に敷いている絨毯も足触りが良い。
フェルを受け入れてから、うちは完全に土足禁止になった。リーフ人はとにかく足を圧迫されるのを嫌うし、フェルも同じだ。
で、地球で中東連合の皆さんから贈り物として貰った高級絨毯をリビングに敷いてみたんだよね。お母さん達にも好評だ。
アードには敷物はあんまり無いから、今回もエジプトのコットンと一緒に幾つか絨毯も持ち帰った。後はばっちゃんに任せてるけど、皆気に入るんじゃないかなぁ。新しい交易品になりそう。
「静かですね、ティナ」
「私達しか居ないからね。こんなに静かな家は久しぶりかもしれない」
大抵お母さんが居るし、ちょっと前からは妹のティルも居たからいつも賑やかだった。でも、今はフェルと二人きりだ。
「地球では色々ありましたから、ここではゆっくり出来そうです」
「またたくさん心配を掛けちゃってごめんね、フェル」
「こうして私の隣に居てくれるなら、それだけで私は幸せですよ?でも、もう怪我をしないようにしてくださいね。私も頑張りますから」
「気を付けるよ。それに、私も地球の皆さんの事情を深く考えていなかったから」
幾ら前世の記憶があっても、所詮は平和な日本に居たんだ。海外の人種、移民、宗教、文化の問題に関して実感が湧かなかった。日本にもあるけど、海外に比べれば深刻さがまるで違う。この勘違いが、パリでの事件を引き起こしてしまった。
「私も、我慢するのを止めます。ティナに悪意を向ける人に、ちょっと加減が出来ない自信があります」
「尚更気を付けないとなぁ」
フェルの気持ちを否定したくない。かといってフェルに地球人を傷付けさせたくはない。なら、より一層気を付けて立ち回らないと。
「まあ……色々あるけど、今はゆっくりしよっか」
「はい」
私達は手を繋いで、肩を寄せあってお互いの温もりを感じながら目を閉じた。