星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ティルの失踪から一時間が経過した。日本政府は最大級の緊急事態として、警視庁に可能な限りの動員による大規模な捜索を命じた。だが既に夜になっていたこともあり、捜索態勢は遅々として進まなかった。
同時に椎崎首相の指示により日本テレビの番組内容を把握。日本各地の名所を紹介する番組であったが、幸いにして関東圏の特集であったので捜索範囲をかなり狭めることに成功していた。
「それでもかなり広いですよ」
「紹介された場所が絞り込めただけで充分よ。少なくとも日本全土を探さずに済むのだから。とにかくティルちゃんの保護を最優先に!」
「総理、国民に知らせて情報を集めては?」
閣僚の言葉に椎崎首相は少し悩む。
「それは最終手段よ。公表すれば、アードに対して悪意を持つ人にも知られてしまうことになるわ。なんとしても無事に保護しないと。
我が国だけじゃない、地球の存亡が懸かっていると覚悟を決めて!」
「はい!」
日本政府の迅速な行動は評価すべきであるが、それ故に椎崎首相の危惧した事態も発生していた。
『レインボーリーダーより各チーム、聴け。日本政府に潜入している同志より、宇宙人の幼体が一匹日本関東圏で行方不明となっている。言うまでもないが、これは好機だ。日本政府より先に幼体を確保しろ。
尚、相手は幼子の容姿をしているが化け物だ。人間ではない。多少手荒に扱っても構わん。各チーム、取り掛かれ!』
『レッドチーム、了解。つまりモンスターを狩るわけですな』
『ブルーチーム、俺達が先に確保する』
『イエローチーム、捜査の撹乱を開始する』
先に行われたティリスのアオムシ狩りを生き延びていた某国工作員達は、独裁者の次男坊の密命を受けて増員を獲得し、秘密裏に活動していた。
特に電子ネットワークに長けたチームにより、ネット上には様々なデマを流布。警察の目を混乱させた。
もちろん日本の警察機構も目を光らせているが、全ての企てを防ぐことは非常に困難であった。
しかし、工作員は某国だけではなかった。
『至急大使館を通じて奴らの動きを日本政府へ伝えよ。漏らさずに全てだ。そして全面的な協力を申し出よ』
『宜しいのですか?日本にある情報網の一部を知られてしまいますが』
『構わない。首相閣下曰く、恩の売りどころを間違えるなとのことだ』
『了解、直ちに』
ブリテンの諜報機関MI6よりもたらされた情報は、日本政府に激震を走らせた。ティルの身に危険が迫っているのだ。警察機構に対して捜査網の拡大を指示しつつ各地に人員を派遣して捜索に注力していく。
当事者のティルは、なんと政府の足元とも言える東京の都心に居たのである。これが平時ならばティルは非常に目立つので、通報等によりこの騒動は直ぐに収まっていたであろう。
だがしかし、ここで彼女を目立たなくさせる事態が発生していた。彼女が転移した先の繁華街では大規模な仮装イベント、つまりコスプレイベントが行われていたのである。様々なコスプレをした人々が大勢集まっているのだ。
更に間が悪いことに、最近地球全土で話題の中心となっているアードやリーフのコスプレをしている人が大多数を占めていた。
それもそうだろう。このイベントは、アード人やリーフ人への理解を深めようという政府の方針に従って有志達が開催したものであるからだ。
「わぁあっ……」
ティルは、きらびやかなイルミネーションに彩られた夜の繁華街に目を輝かせていた。周囲を様々なコスプレをした人々が行き交い、アード人やリーフ人の格好をした人も大勢居るのだ。一人である心細さを感じることなく風景を楽しんでいた。
また、コスプレイヤー達のクオリティが極めて高かったことも一因である。ティナ達の映像はもちろん、使節団のジャッキー=ニシムラ(地球標準)が撮影編集したアードの映像から出で立ちを忠実に再現しているのである。閑話休題。
「可愛い~!」
「クオリティ高いなぁ。お母さん達が作ってくれたのかな?」
賑やかで美しい町並みを堪能しているティルに、リーフ人の仮装をした若い女性二人が声をかけた。ティルは見た目からも実に可愛らしく、声をかける行為そのものに不自然さはない。だが、問題があった。
『おねーさんたち、だれ?』
「え?英語?アンタ英語できるでしょ?」
「いや、これ英語じゃないよ。聞いたことない言葉……外国の子かぁ」
幼いティルはデバイスを持っていない。つまり完全なアード語であり、当然ながら日本語を含めた地球の言語を理解できるはずもないし、喋ることも出来ない。これが姉のティナならば問題にはならなかったが。
声を掛けたが相手に言葉が通じないとなれば対応も難しい。ティルが困ったような雰囲気を出していないし、近くに親が居るのだろう。
そう判断した女性二人は、心配させないように笑顔を浮かべてティルの頭を優しく撫で、別れを告げた。
言葉は理解出来なかったが、二人が自分に優しくしてくれたことだけは理解できたティルは笑顔で探検を続けた。
その後も幾人かが声を掛けてきたが、皆が笑顔で優しくティルも嬉しくなって気分は高揚したままである。出来ればお話をしてみたかったが、そこは後で母親にお願いすれば良い。
姉に似て冒険心旺盛なティルは、恐れることなくどんどん町の中を移動していく。それが日本政府による捜索の難易度を跳ね上げていたのだが。
しばらく散策していたティルだが、悪意を感じてメインストリートから逸れた路地裏へ足を踏み入れた。表の華やかさとは裏腹に薄暗く狭い路地裏では、育ちの良さそうな小学生中学年くらいの黒髪の少年が四人の柄の悪そうな男達に囲まれていた。
「なあ、良いだろ?ちょっと金を貸してくれよ」
「その服、金持ちなんだろ?なら貧しい俺達に恵んでも問題ないよなぁ?」
「こっ、困ります!このお金は母から預かった大切なお金なんです!」
「知らねぇよ。ああもう面倒だな!」
治安の良い日本と言えど、このような光景は皆無ではない。ティルは何を言っているか分からなかったが、男の一人が強引に奪おうと少年へ向けて手を振り上げた瞬間、幼いながらにもその身に宿るアード人の善性が身体を動かした。
両手を男達へ向けて、自身の内より湧き出る衝動に従う。
『ダメーーッッッ!!!』
「なんっ……うわぁああっ!?」
それは魔法ではなく、純粋なマナをぶつける衝撃波である。マナに耐性がある存在にはほぼ意味をなさない技だが、そんなものを持たない地球人からすれば堪ったものではない。四人は吹き飛ばされて奥にあるビルの壁に叩きつけられた。
「えっ……っ!こっち!」
非現実的な光景に一瞬唖然とした少年であったが、直ぐに我に返ると自分を助けてくれた少女の手を引いて走り出す。
少し離れた場所まで移動して周囲に誰も居ないことを確認した少年は、手を離して少女と向き合う。
「助けてくれてありがとう。僕は朝霧 誠。君は?」
それは、運命の出会いであった。