星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
朝霧少年によってティルが発見されたと同時に、某国工作員による不穏な行動に拍車が掛かった。まさかお膝元と言える都心部に居るとは思わなかった日本政府首脳部は、大いに慌てた。
直ぐ様厳戒態勢を敷くように指示が出されたが、工作員達による悪足掻きが事態を悪化させる。
「マスコミがティルちゃんの件を嗅ぎ付けた!?」
「はい!既に大手各社が緊急速報として流しています!」
「兆候を見逃してしまいました!申し訳ありません!報道規制は最早不可能です!」
「最悪の事態だわっ!工作員はもちろん、国内の不穏分子も動くわよ!」
「総理!世界融和党が緊急党首会談を要請しています!この情報もマスコミにリークされました!」
「この忙しい時にっ!無理だと伝えなさい!」
「しかしっ!政府は国民への説明責任を果たす義務があると拡散しています!」
「こんな時に政治を持ち込むつもり!?優先順位を理解していないのかしら!」
「……手際が良すぎますな。或いは、マスコミにリークしたのは融和党かもしれません」
腹心である柳田官房長官の言葉に閣僚達が顔を強張らせた。
「何処から漏れたの?」
「官邸に居る誰か、或いは警察機関。口止めをしたとしても、秘密を知る人間が増えればリスクも増えます。人の口に戸は立てられぬと申しますからな」
「……あの国との繋がりは?」
「今現在判明しておりません。が、事態は急を要しますな。国内に知れ渡ってしまったのです。
地方の田舎ならばいざ知らず、場所は都内、しかも都心部。
国内最大の人口を誇り、様々な勢力が暗躍する場所であります。万が一のことがあれば、国が滅びますな」
気だるげに話す官房長官の言葉は、別の意味で皆に安心感を与えた。
「手段を選んでいる余裕はないわね。直ぐに記者会見を手配して!国民の皆さんに呼び掛けて、手を貸してもらいます!マスコミに嗅ぎ付けられた以上、不穏分子が動くのは避けられないわ!一刻も早く保護を!」
「共栄党辺りから失策であると追及されるでしょうね……」
「今はティルちゃんの安全が最優先よ!」
政府の苦悩を他所に、事態は急速に動いていた。
「もうちょっとだから!頑張って!」
朝霧少年はティルを抱き抱えて夜の人気の無い道を駆けていく。ティルに抱き付かれてビルの屋上へ飛んだのだが、直ぐさま狙撃されてしまった。
幸い弾は外れたが、見晴らしの良い場所は危険と判断してもう一度地上へ降りてもらったのだ。ここで想定外であったのは、ティルが明らかに疲れきっていたことだ。
小学生とは言え自分より体躯の大きな男の子を抱えて飛ぶ行為は、幼いティルの体力を限界まで奪ってしまったのである。仕方無く朝霧少年は、小柄な彼女を抱き抱えて走る。
幸い彼女はまるで羽根のように軽く、また日頃からスポーツに親しんでいる彼は体力にも自信があり抱えて走る分には問題もなかった。
しかし、体力に自信があろうともそれは子供の体力である。彼らを追跡する工作員達から逃れるには厳しい。
アリアは監視カメラと朝霧少年の端末を探知してその位置を正確に把握しているが、彼女はAI。情報を共有する事は出来ても、物理的に工作員達を排除することは出来ない。まして対象が動き回っているのだ。
朝霧少年達が人通りの多いメインストリートへ出ていれば保護も容易かったのだが、工作員達もそれを阻止するように動いていたので狭い路地を走る羽目になった。
警察の到着は遅れ、更にティアンナ達が転移しようにも複雑に入り組んだ路地裏は障害物が多くて危険が伴う。
全てが悪い方向へ流れていたが、朝霧少年は諦めていなかった。
「居たぞ!」
「当たっても構わん!撃て!」
サプレッサーで極限まで抑えられた銃声は、メインストリートの喧騒によって掻き消された。耳元を掠める銃弾に恐怖するのは当たり前である。
だが、それでも少年は足を止めない。歯を食い縛り、少女を抱き抱えたまま夜の路地を走る。
しかし、限界が訪れるのは間近であると自覚もあった。物陰に身を隠しながらも、徐々に逃げ道を塞がれていることも理解していた。先ほどから同じ場所をグルグルと回っているのだ。
朝霧少年はそっとティルを下ろして、視線を合わせた。
「僕が囮になるから、君だけでも逃げて!分かるね!」
だからせめてこの異星人の少女だけでも助けようと、その場で囮になろうと覚悟を決めた。本来ならば、僅か十歳の少年に抱かせる覚悟ではない。
言葉は通じなくても、彼がなにかをしようとしていることを何となく察したティルは、涙目で首を横に振った。ここで別れたら、二度と会えないような予感がしたのだ。
幼い二人の想いを踏みにじるように、前後に複数の大人が姿を現した。皆日本の警官の制服を身に纏っているが、一様に銃を構えていることから自分達を助けに来たわけではないことは子供でも理解できた。
或いはティルが本気を出せば切り抜けられるかもしれない。しかし、それはアード人が地球人を傷つけることと同義である。
父親を通じて大使であるティナが例え怪我を負わされても、地球人を傷つけないよう細心の注意を払っていることは知っている。
既にティルは、自分を助けるために数人の地球人を吹き飛ばしているのだ。これ以上は問題になる。そしてなにより、ついさっき会ったばかりの少女を護りたい。
幼い朝霧少年にその感情の正体はまだわからない。だが、彼は決意を胸にティルを背に隠して両手を広げて立ち塞がった。
工作員達は少年の行動に舌打ちを漏らし、無慈悲に引き金に掛けた指に力を込めた。しかし、幸運はこの勇敢な少年に微笑むことになる。
「ホーリーライト!!!」
突如として薄暗い路地裏が聖なる光に満たされ、目映い光は工作員達の視界を奪う。
「うっ!?」
「フラッシュバンか!?」
光に目を背け、その僅かな隙に飛び込んだ二つの影が子供達を抱き抱えて跳躍。その場から逃れたのだ。
「ーっ……父さん……?」
恐る恐る目を開けた朝霧少年は、自分を優しく抱き留める父を見上げた。
「怪我は無いか!?誠!」
ビルを飛び越える跳躍の最中、朝霧は息子を案じた。何とか間に合った。具体的な位置を突き止めることが出来たのは、偶然路地裏に設置されていた監視カメラに朝霧少年とティルが映り、それをアリアが発見したためである。
「うん、大丈夫……」
朝霧は僅かに震える息子を出来るだけ強く抱きしめた。
「すまない、遅くなってしまった。怖かったな、本当にすまない……」
銃を向けられ、更に撃たれたのだ。恐怖を感じないわけがない。だが、息子は直ぐにハッとして周りを見渡した。
「あの娘は!?」
「彼女なら無事だよ」
朝霧が指した先には、翼を羽ばたかせて一緒に空を飛ぶティドルと、彼に抱き抱えられたティルがいた。
「良かった……」
「朝霧 誠君、だったね。娘を護ってくれて、本当にありがとう。感謝してもしきれないよ。お父上に似てとても勇敢だ」
「ありがとー!」
朝霧少年はティドルの言葉に恐縮しながらも、元気に手を振るティルを見て、言葉が通じていることに気付いた。
「こちらこそ、助けてくれてありがとう!僕は誠、君のは名前は!?」
「ティルだよ~!マコー!ありがとー!」
「あはは、まことだよー!」
笑いながら言葉を交わす子供達を見て、父親達は優しげな笑みを浮かべた。ここに日本の一番長い夜は終わり、星の異なる幼い少年少女の短くも濃密な冒険も終わったのである。
……色々と将来を考えた朝霧の胃に鋭い痛みが走ったのはご愛敬である。