星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ティルがその旺盛な好奇心をフルに発揮し、まだ教えられてもいない転移魔法を偶然発動させたことに端を発した、後に日本の一番長い夜と唄われる一連の事件は山場を迎えていた。
ティルを無事に保護したとの連絡を受けた椎崎首相であるが、これからが本番であると気を引き締めた。
関係各所に対象が無事に保護されたことを直ぐに共有すると同時に、事件の背後で暗躍した某国工作員や不穏な動きを見せた国内の不穏分子への対処を強く命じた。
特に工作員に関しては今後どのような工作を行うか不透明であり、迅速に対応せねばどのような被害が発生するか分からない。
なにより国内、それも首都である東京の都心で暗躍されたのだ。
国民の安全はもちろん、国家としての面子のためにも速やかに対処しなければならなかった。
意気込む椎崎首相の携帯端末が着信を知らせる。相手は知らない番号であるが、彼女は反射的に通話を始める。
首相として様々な相手との連絡を常に取り続けているのだ。連絡先を登録していない相手からの受信など珍しくもない。
「もしもし?」
『忙しい最中なのにごめんなさいね、美月。私よ』
「ティアンナ?」
友邦を結んだばかりの友人であり事件の当事者であるティアンナからの連絡に、彼女は少しだけ驚く。
既にティルを保護した旨はアリアを通じて連絡しており、万が一に備えて軌道上のプラネット号へ戻るように促している。その要請に従い、ティルはティドルに連れられてプラネット号へ避難した。
また接触した朝霧少年も首相官邸で保護している。
しかし、ティアンナは愛娘と再会した後も地球に残っているようだ。
「てっきりティルちゃん達と一緒に宇宙へ上がったと思っていたわ」
『そのつもりだったのだけれど、ティルに手を出したおバカさん達へのお仕置きをまだ済ませていないことに気付いてね』
「……私達に任せてくれないかしら?アリアや貴女達の協力があれば、後はこっちで対処するから」
椎崎首相からすれば外国工作員の暗躍及び不穏分子の動きは、国民の安全を護るためにも無視できるものではないし、何より国内の問題だ。
ティアンナ達をこれ以上巻き込みたくないとの思いから出された言葉であるが、ティアンナは心底不思議そうに返答した。
『おかしな事を言うわね、美月。私の娘が命を狙われたのよ。親である私が反撃するのは、自然の摂理よね?』
子供を狙った捕食者が、被捕食者の親に反撃を受けて怪我をしたり命を落とす。自然界ではありふれた出来事、まさに摂理である。
「我が国は法治国家であり、国内の法に背いたものは法の裁きを受けるべきだと思わない?」
『私は日本人?じゃないし、地球人でもない。それに、地球の法に従う協定を結んでいるわけでもない。違う?美月』
現在アード人とリーフ人に関しては、完全に治外法権扱いである。地球の法を当てはめるには、生物学的な違いはもちろん、価値観や文化面を考えても不可能に近いのだ。
ついでに言えば相手は、片手間で地球を死の星に変えられる遥かに格上の文明。こっちのルールに従えと強気で主張できる筈もない。
理解があるティナが大使であり、基本的に彼女を尊重するフェル達だからこれまで大きな問題は起きなかった。少なくともパリの事件が起きるまでは。
「それは……」
『大丈夫、私だってそこまで間抜けじゃないわ。貴女達には迷惑を掛けない。法についても心配しなくて良いわ。そんなもの関係がない場所でやるから。
じゃ、また後でね。貴女と一緒に温泉へ入るのを楽しみにしてるんだから』
そこでティアンナは通信を切った。彼女が何らかのアクションが起きることを確信した椎崎首相は、最大限の警戒を敷くように指示を出した。
だが、この警戒は無駄に終わる。ティアンナは有言を実行したのだから。
『レインボーリーダーより各チーム、状況を報告せよ。なにが起きた!?』
『スカウト3よりレインボーリーダー!各チームの反応が消失!スカウトリーダーを含めて他のメンバーとも連絡が取れない!』
『日本の警察の動きは把握している!まさか、他国の諜報機関が動いているのか!?』
『詳細は不明!作戦そのものが失敗に……なんだ?……うわっ!?』
『スカウト3!応答せよ!……くそっ!作戦失敗!繰り返す!作戦は失敗だ!聞こえている者は直ちに撤収せよ!』
指示を飛ばした工作員のリーダーであるが、次の瞬間何かに引っ張られるような感覚と共に視界が暗転。一瞬の浮遊感と共に降り立ったその場所は、どこまでも広がる荒涼とした大地だけである。
「隊長!」
「お前達!」
その先に居たのは、今回の作戦に合わせて某国から潜入した工作員二十名であった。彼らはティリスの制裁から逃れて日本国内に潜んでいた残党及び協力勢力の手引きによって、密入国を果たしていた者達である。
部下達が生きていることに安堵しつつ、周囲を見渡す。何もない大地が広がるその空間は異質であった。
「ここはどこだ?我々は東京に居たはずだが」
「分かりません、あらゆる電波が遮断されて連絡が取れないんです。それに、ご覧ください」
「なっ、なんだと!?」
空を見上げると、そこには二つの月が煌々と輝く夜空が映った。明らかに地球ではない。全員が警戒心を高め、物音を感じて一斉に銃を向ける。
その視線の先には、アード人の伝統衣装を身に纏い神々しさを感じる二対の翼を広げた女性が立っていた。
「異空間創造魔法……まあ、言っても理解は出来ないでしょうけど。ここは何処からも切り離された異次元の空間であると認識してくれれば良いわ」
その女性、ティアンナは口許に笑みを浮かべながらも工作員達を見据える。そして、視線を彼らが持つ銃へ向ける。
「……原始的な銃器ね。けれど、そんなものでもティルに当たればあの子は死んでしまうかもしれない。それを承知の上であなた達はあの娘を撃った」
「誰だ!?」
銃を向けながら鋭く問われた言葉を無視して、ティアンナは両手を広げながらまるで歌うように言葉を続けた。
「あなた達には感謝しているのよ。もしあなた達がもっと穏便なやり方でティルに手を出していれば、面倒な政治が絡んで私が直接手を降すことは出来なかったかもしれない。
でも、あなた達は明確な殺意と共にあの娘をその銃で撃った。つまり、あの娘を殺そうとした」
「撃て!」
ティアンナの異質さを感じたリーダーの言葉で工作員達は一斉に発砲。銃声が異空間に響き渡るが、その結果は無惨なものであった。全ての弾丸がティアンナに当たる遥か手前で、圧縮されるような音と共に潰れ、地面に落ちたのだから。
「ここは私が作り出した異空間、地球の法もアードの法も適用されない。いや、アードの法は適用されるか。まあ、どうでも良いわ。だから、自然の理に従いましょう。
あなた達は私の娘を殺そうとした。だから……」
「ひぃっ!?」
ティアンナから溢れ出す圧倒的な存在感、工作員達は生物的な本能で恐怖を感じ。
「母親である私に殺されても、文句は言えないわよねぇ!?」
地球の人口が二十人減った、ただそれだけである。