星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
「あれ?ティナ姉ぇ寝ちゃった?」
「疲れているみたいですから、仕方ないですよ」
フェラルーシアです。ティナが謁見から帰ってきました。ただ、里長のお話を聞く限りアード永久管理機構評議会の定例会に参加していたみたいで疲れ果てたのか、私に抱き付いたまま眠ってしまいました。
起こしてしまうのも勿体ないし、ティナを抱きしめたまま羽根を羽ばたかせてソファまで移動して、所謂膝枕の体勢で休ませてあげることにしました。
一緒にお料理するのを楽しみにしていましたが、ティナの体調が何よりも優先です。この小さな身体に色んなものを抱え込んでしまう私の大切な人。少しでも安らぎを得られると良いのですが。
「フェル姉ぇ、機嫌が良さそう」
遊びに来てくれたフィーレちゃんも反対側に腰掛けて、私の肩に頭を乗せて端末を弄っています。
地球から持ち帰ったデータを弄り回して、何やら色々と試作しているみたいですね。
ティナの頭が痛くなると大変なので内緒にしていますが、いつかバレちゃうと思います。その時はまた支えてあげれば良いかと結論付けました。
技術関係はよく分からないんです。魔法学ならそれなりに自信があるんですけどね。
「ティナが頼ってくれたのが嬉しくて。フィーレちゃん、折角遊びに来てくれたのに、昼食を作ってあげられなくてごめんなさい」
ティナの状態を見るに、随分と疲れていますね。きっと何かがあったんだと思います。記憶を覗いてみることも出来ますが、それは止めておきます。ティナの許しがあるなら例外ですけど。
「栄養スティックがあるから良~よ。味は最悪だけど、片手間で食べられるし」
確かに栄養スティックは最悪です。地球の食べ物を食べてしまった私達にとって、尚更です。
ティナは地球で似たようなものを作って、飢餓の問題を解決しようと動いていますが、味の問題は最優先で解決させるべきでしょう。私達は慣れていますが、無味無臭の食べ物は地球人にとって拷問になるみたいですし。
「だめです。夕食はしっかりした料理を作ってあげますから、食べてくださいね」
「えー」
フィーレちゃんは放っておくと、寝食を蔑ろにして研究に打ち込んでしまう癖があります。特に最近は、地球の色んな技術や着想に出会って夢中になっていますからね。
フィオレちゃんも随分と心配していますし、規則正しい生活を促してあげないといけません。
「フェル姉ぇも意外と強引だよね。おねーちゃんが二人に増えたみたい」
「それも悪くありませんね」
フィーレちゃんを妹のように思っているのは事実ですからね。
さてこのままティナとの時間を堪能したいところなんですが、個人的に気になることを調べるには良い時間でもあります。ティナには知られたくないのですが、活発な彼女はお昼寝をしません。
ならば夜間と考えるかもしれませんが、この場合相手がお休み中である可能性が非常に高いです。
何より私がやろうとしていることは、おそらくアードで最も許されないことです。これ以上の無礼を働くわけにはいきません。
それでも私は知らなければいけない。そしてこの件は、決して他の人に知られてはいけないことなんです。
もし私の推測通りだとしてそれが公になってしまったら、私はもうティナと一緒に旅をすることが出来なくなります。
でも、ケレステス島であの石碑を見てしまったから……知らないフリは、たくさんの人達の犠牲を無駄にしてしまうから出来ません。だから。
「フィーレちゃん、ちょっと出掛けてきますね。ティナを見ていてくれませんか?」
「いーよー」
膝枕をやめて、ティナを優しくソファに寝かせた私は家を出て羽根を広げ、里から離れた空域まで飛びます。そして目を閉じて、マナを練り合わせて。
「転移……ハロン神殿!」
ハロン神殿、それもセレスティナ女王陛下のお側に直接転移。ケレステス島にある結界を無理矢理掻い潜る、まさにアードでは最大の罪。
下手をしなくても始末されてしまう罪深い行いです。でも秘密を護るためには、今の私にはこれ以外の方法を思い付けませんでした。
転移の際に強制転移の術式に引っ掛かったのを関知しました。これも突破できますが、敢えて身を委ねました。
転移した先は何処までも広がる漆黒の空間、やっぱり強引に結界を破ろうとする者に対するトラップがありましたね。
「なに?またリーフ人?」
「先日に来たばっかりなのに、まさにミドリムシね」
「待って、まだ子供よ。もしかしたら悪戯半分かもしれないわ」
「そうかも。そこのリーフ人、今すぐに引き返しなさい。一度だけなら失敗を許してあげるわ。二度としちゃダメよ?」
そして現れたのは、金の鎧や装束を身に纏ったアード人のお姉さん達。オーロラ号で接した近衛の皆さんとは違うけど、多分セレスティナ女王陛下をお守りする人達。
……普通にお願いしても、聞いてくれないでしょうね。なら、里長の教えを試してみましょう。交渉の際、場合によっては威圧を含むことで円滑に進むことがあると。
私は身体中のマナを一気に解き放ちました。
「「「っ!!??」」」
すると、お姉さん達が一歩だけ後退りました。自分の桁外れのマナにちょっと引きつつ、慌ててマナを引っ込めて頭を下げました。
「ごめんなさい!お姉さん達を驚かせてしまって!実は、お願いがあるんです!」
「お願い?」
「待って……よく見たらこの娘、髪の色が私達と同じよ」
「羽根も二対……リーフ人達が騒いでいる異端呼ばわりされてる娘じゃない?」
「……いきなり威圧してくるからどうしようかと思ったけれど、良いわ。話してみなさい」
明らかに警戒されちゃってます。仕方無いことですし、私が悪いんです。でも、お話は聞いてくれるみたいなので成功したのかな?
「実は、セレスティナ女王陛下と内々でお話をしたくて」
「それなら正規の手続きを踏みなさい、リーフ人。女王陛下は寛大なお方、願いを叶えてくれるわよ」
「こんな強引なやり方は、感心しないわね?」
「私がとても大それて無礼なことをしているのは、分かっています。でも、私の疑問は……ご相談の内容は誰にも知られちゃいけないんです!お願いします!」
「話にならないわね、出直してきなさい。それでも強引に行くと言うなら全力で阻止するわ」
更に警戒が増したのを肌で感じました。やっぱり無茶でしたか……私にはティナほど無茶を乗り越える力は無いみたいです。お姉さん達を傷付けるつもりもありませんし、ここは素直に諦めて帰るしか……。
『良いのです、通してください』
そう考えていたら、空間に優しげな声が響きました。お姉さん達がひれ伏したので、私も慌てて平伏しました。この声は、覚えがあります。セレスティナ女王陛下です。
「はっ、女王陛下の御意のままに。立ちなさい、リーフ人」
お姉さんの一人が手招きをするので近付くと光輝くゲートが現れました。
「女王陛下がお待ちよ。分かっているとは思うけれど、僅かな粗相も許されないからそのつもりで」
「はい、ありがとうございます。それと、ごめんなさい!」
お姉さん達に感謝と謝罪をしてゲートを潜ると、そこは一面に広がる花畑でした。アード由来のものはもちろん、リーフ由来の花もありますね。綺麗……。
「こうして直接お会いするのは初めてですね、フェラルーシア」
優しげな声に視線を向けるとそこに居たのは。
「……ティナ……?」
ティナと同じアード人ではあり得ない綺麗な銀の髪、神々しさを感じる二対の翼を持つ女性が立っていました。
その目鼻立ちや雰囲気は……私の大切な人によく似ていました。ティナが大人になったらこうなるんだろうなって、自然に思えてしまいました。
「ふふっ、さあこちらへ。貴女が来るのを楽しみにしていたのですから」
リーフ会戦より三百数十年の時を経て、少しずつ運命が動き始めていた。