星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
時は少し遡る。ティルの騒動から一夜が明け、ようやく事態は終息しつつあった。実行犯である某国工作員達はティアンナの逆鱗によって痕跡すら遺さずに消失。
またアリアが収集した情報によって、工作員達の密入国の手引き、及び武器その他必要物資を用意したのは世界融和党の下部団体であることが判明した。政府は直ぐ様糾弾すべく準備を始めたが、相手の動きが早すぎた。
「我々は救いを求める難民の受け入れを積極的に行っています。もちろん国費ではなく、我が党及び賛同してくださる皆様の善意ある寄付によってこの活動は行われています。
残念ながら私達は人の心を完全に理解することは出来ません。或いは、色々と抱え込んでしまい犯罪に走ってしまう人も居るかもしれません。
しかし、それは世界の歪みに原因があり、手を差しのべる行為を否定する理由にはなりません。しかしながら政府は私達の保護した方々の極々一部が犯罪を行ったからと我々を糾弾し、支援の手を止めさせようとしているのです。
その様な暴挙が許されるでしょうか!もちろん我が党は再発防止に全力を以て取り組みますし、更なる手厚い支援によって難民の方々が犯罪に走らないように導いていく所存!
犯罪に走ったからと難民全てを悪と断じるのは余りにも浅はかな行いです!我が党は引き続き活動を続け、政府に対して強く抗議するものであります!」
傘下団体への強制捜査の動きを見せた瞬間、世界融和党は工作員達を引き込んだことを難民問題にすり替え、逆に政府を非難する始末。更に、一部のメディアがこれを好意的に報道して世論を煽ったのである。
外国からの工作員による一連の行動は、国民の不安を煽り混乱を招く可能性が非常に高い。それ故に公開することが出来ない政府の立場を見抜いての事である。
大規模なテロを防げなかったブリテンの混乱を見れば、一目瞭然である。
幸いブリテンは後任者のチャブルが辣腕を振るい、僅か一ヶ月で国内を纏め上げたが。
「私達が同じように出来る保障は何処にもないわね……小賢しい真似をしてくれるわ」
徹夜明けの官邸で椎崎首相は深々と溜め息を吐いた。閣僚達も各方面との調整などで奔走しており、会議室の皆は疲れ果てていた。
「まあ、国内に潜り込んだ工作員を一網打尽に出来たのです。それは喜ばしいことですな」
「完全に他力本願だけれどね、柳田さん。それに、ティアンナから改めて公表するなって釘を刺されたわ。
昨晩はティルちゃんを探し回っただけ、工作員の襲撃は無かった。その方がお互いのため、とね」
「そうですな、理由は理解できますしどんな手を使ったのかは分かりませんが、アード人が地球人を手に掛けたと知られれば反アード勢力の勢いをますだけですからなぁ」
「わざわざ不穏分子に餌をくれてやる趣味はない、そうですな?総理」
「当たり前よ。敵を利する真似をするほど余裕があるわけでもない。昨晩動員された関係者には金一封用意して。頑張ってくれたのは事実なのだから」
「気前の良さを見せれば、口も固くなるでしょうからな。財務省に掛け合いましょう」
「お願い。まだまだ油断は出来ないけど、合衆国、ブリテン、公安、そしてアリアからの情報を統合すると、一息は吐けそうね」
ようやく安堵の空気が流れ、懐刀である柳田官房長官が気だるそうに口を開いた。
「それで、総理。緊急事態でしたので指摘することを後回しにしてしまいましたが」
「言いたいことは分かるわよ、柳田さん」
「それは何よりですな。最初は目を疑いましたが」
そこに居る椎崎 美月首相は、明らかに若返っていた。元々若作りであり、五十歳直前とは思えない若々しさを持っていたが、最早そのレベルではない。
明らかに二十代前半、下手をすれば十代後半に見えるのだ。若さよりも幼さが見え隠れしている。
「それはその、魔法等によくある幻覚の類いでは無いのですか?」
「残念ながら私の身体よ。節々の痛みもなくなったし、何より活力が湧き出ているわ。今すぐ走り回りたいくらいよ」
ティアンナの提供した栄養ドリンクは、椎崎首相の肉体を最適な状態に仕上げてしまう。
つまりは、活力に溢れる若い頃に戻してしまったのだ。
「ティナさんが頭を抱えないか心配ですよ」
唯一この場で同じ境遇である朝霧が、溜め息混じりに言葉を漏らす。
「まあ、ティナちゃんには我慢して貰うしかないわ。それに、若返ったんだから感謝したいくらいよ」
「それはそうですが……メリル女史やカレンさんも外見的な変異はほとんどありませんし、やはり男女で効果が違うのでしょうか」
「若返るなら是非とも我々も飲んでみたいですな」
「ケラー室長のように、毛髪を失う可能性もありますが?」
朝霧の指摘に閣僚達は一様に苦笑いを浮かべた。長い友と書いて髪なのだ。それを失うのは抵抗がある。更に言えば効果はランダムである。服用を躊躇するのも無理はない。
「まあ、貰ったものは最大限利用しないとね。記者会見は予定通り開いて。あまり好き勝手にはさせないわよ」
その日の正午、急遽記者会見を開いた椎崎首相は国民へ向けて昨夜発生した事件について説明を行った。
既に噂などが広まっていたが、結局はアード人の幼子が迷子になって無事に保護されたと言う内容である。様々な憶測が流れていたし、隠し事をしていると断じて追求するつもりだった。
しかし、言ってしまえば迷子が出て保護されただけであり国民の関心は薄かった。むしろ会えなかったことを残念に思う人が続出。
更にティルと接触した人々が驚きながらもネット上で様々な呟きを残したので一気に拡散され、別の意味で話題となった。
更に国民の目を引いたのは。
『いや、総理若くね?』
『前々から年齢の割には若く見えたけど、これ若作りってレベルじゃないよな?』
『学生服が滅茶苦茶似合いそうな総理大臣爆誕』
『いや、本当になにがあった?』
『クローンとか?』
『だとしてもあからさま過ぎないか?口調なんてまさに総理だし』
『遂に若返りの薬が完成したのか!?』
『或いは異星人対策室を騒がせているアードの薬とか?』
『総理、ティナちゃんと仲良しだからなぁ。可能性はあるぞ』
『良いなぁ、羨ましい』
『ただし、ハゲになる可能性あり』
『デメリットデカ過ぎないか?』
椎崎首相は自分自身を晒すことで、ティルの事件から自分へ国民の関心を向けることに成功する。
彼女もまた強かな政治家であった。
もちろん若返っただけではありません(意味深)