星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ありとあらゆる生命に祝福あれ!異星人対策室主任補佐のジャッキー=ニシムラ(感度3,000%)だ。肩書きが変わった?確かに昇進したが、些細なことだ。引き続きケラー室長の下で働けるならなんでもいい。
先日日本で発生した迷子の事件は、大半の人間にとって微笑ましい出来事として処理された。まあ、確かに幼子が迷子になって無事に保護されただけだ。まさによくある出来事だろう。ミスター朝霧のご子息の活躍は胸が温かくなる。いやはや、良い息子さんをお持ちだ。
しかし、我々異星人対策室からすれば笑えない事件だ。ミスター朝霧から世間で報道されているものではなく、真相を共有されたのだからな。
某国工作員と思われる連中の暗躍、更に日本国内の反アード勢力の不穏な動き。どれも全く笑い事ではない。セレスティナ女王の姪姫が拉致されたり、下手をすれば殺害される危険性があったのだ。まさに地球滅亡の危機だったな。
ん?なぜ私がティル嬢の事を知っているのか?
別に大したことじゃない。私も料理を振る舞う際に、ベール越しではあるがセレスティナ女王と謁見しているのだ。
私の特技である『紳士☆アイ』は、例え隠れていようともその影から人物の性別、身長やスリーサイズ、顔の輪郭をある程度認識できるのだ。幼い頃から退屈しのぎに人間観察を行っていた成果であろう。
で、ベール越しにある程度セレスティナ女王の容姿を把握した私は、ティナ嬢の母親であるティアンナ女史との共通点を幾つも見付けることに成功した。高確率で両者が血縁関係、おそらく姉妹か何かであると確信を抱いた。
もちろんこれは私の経験から来る勘であり、データを用意できるわけではない。だから、誰にも話していない。
無用な混乱を招くような真似は、厳に慎まねばならないからな。
私の考察はこの際捨て置こう。もし、かなり確信はあるが的中すればティナ嬢の正体も判明する。おそらく本人は知らないのだろう。何らかの理由で秘匿されているのだ。
わざわざ部外者である私が暴く必要もあるまい。判明した場合、ケラー室長の胃が祖父の好きだった蓮根なる根菜植物のようになってしまうだろうが。
この考察をもとに考えると、まさに地球滅亡の危機であったのは言うまでもあるまい。日本政府の尽力に心から感謝したい。
そして、未だに愚かな行いを繰り返す連中への対処を急がねばならん。ティナ嬢は優しすぎるのだ。
確かに地球の状態にある程度の理解がある彼女は大使として最適な存在だが、その優しさは地球人から見れば甘さに映る。
そして甘い相手に対して悪意を向けるのが、我々地球人の悲しい性だ。それは歴史が証明している。
世界的に見ても高い民度を誇る父祖の国にも、正直者は馬鹿を見ると言う言葉まであるくらいだ。他の民族や国家ならば尚更だな。
現在合衆国はハリソン大統領を中心とした現政権が引き締めを図っているが、反アード勢力も存在する。何より不味いのは、大統領選挙が近いことだ。
ハリソン大統領は再選を目指しているし、ティナ嬢と良好な関係を築けている現状ならば現政権を維持するべきだ。
しかし、対立候補であるジョンソン氏は反アードとは言わないがアードに対する強硬姿勢を明確にしているのだ。保守層からの根強い支持もあり、決して楽観視できない情勢だ。中間層の支持がどう動くか、リベラル層の動きも怪しい。
「私達異星人対策室は全力でハリソン大統領を応援しよう。もしジョンソン氏が大統領となれば、間違いなくティナに対して高圧的に迫るだろう。
そうなれば、彼女は二度と合衆国へ来なくなる。いや、フェルやティリス殿が近付けないだろう」
ケラー室長の言葉は真実だ。合衆国が交流の主導権を握れているのは、現政権とケラー室長の存在あってこそだ。
ジョンソン氏も愚かではないと信じたいが、支持層からの声を完全には無視できない。
異星人との交流と言う人類史上初めての状況であるため、大統領選挙を延期すべきではないかとの声も政財界を問わずにあるにはあった。
アード側は地球の政治体制を正しく認識していないし、交渉相手が変われば不信感を持つ可能性があると言うのが理由だ。
この認識は間違いではない。ティナ嬢以外に地球の複雑な政治情勢を理解できるアード人は居ないし、極端に言えば理解する必要もない。
尤も、野党を中心に民主主義体制の足場を崩すような真似は許されないとの声が大勢を占めたので、選挙が実現されることになったのだが。
この情勢下で選挙か。正直正気を疑うが、ハリソン大統領によるこれまでの施策やアードとの交流に関して国民に問うと言う意味では、決して悪いことではない。
大統領が再選を果たせば、それはこれまでの政策を国民が支持した事を示す。反対勢力に対する強い牽制となるだろう。
「心配なのは、反対勢力によるプロパガンダですな。あの手この手でネガティブキャンペーンを展開しますぞ。いや、既に一部では始まっています」
「ううむ、悩ましいところだ」
クサーイモン=ニフーターは塀の中だが、反アードの扇動者は彼だけではない。既に動きはあるし、政府を叩くことこそがメディアの本分であると勘違いした一部メディアが批判を展開している。
異星人問題を地球内部のイザゴザと同列に語っている時点で程度が知れているが、そう言った者達ほど声が大きいのが問題だ。
「どうすれば良いと思う?」
「地道にティナちゃん達の功績を広げるべきね。合衆国にも彼女達に助けられた人は大勢居るし、医療シートで命を取り留めた人も少なくない。トランクだって緊急時に大活躍しているのよ。それを異星人対策室が中心になってアピールしていけば良い」
「メリル女史のご意見に賛成します。誰であろうと未知の存在は恐ろしいものですが、既知の存在となれば身近に感じましょうな」
そして既知の存在となり落ち着いて彼女達を見れば、その愛らしい容姿と友好的で献身的な行い、そしてアードから得られる旨味に気付くものが増える。私を含めて人間とは時に単純な生き物だからな。実に効果的だろう。
反対派は未知を利用して不安を煽るのだ。ならば既知にしてしまえば良い。大切なのは、彼女達はSF映画にあるような恐ろしいエイリアンではなく、私達と同じ感情がある存在であることを皆が知ることだ。
「分かった。済まんが、メリルとジャッキーを中心に動いてほしい。必要なら私の名前を使ってくれても構わないし、私自身何処へでも行こう。頼むぞ」
「任せて、兄さん」
「室長のためならば火の中水の中スカートの中ですぞ!」
「頼りにしているよ。ただ、ほどほどにね。じゃあ、良いかな?」
「すっかり常連なんだ。もうちょっとキツく言ってくれ」
「迷惑を掛けるわね。ほら、ジャッキー。帰るわよ」
「我が家へ、ですな!」
ケラー兄妹に連れられてジャッキー=ニシムラ(留置所は別荘みたいなもの)は無事に保釈された。