星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
アードへ戻って数日が経った。結局あの日はそのまま眠ってしまったみたいで目が覚めたら朝だったからビックリした。慌ててフェルに謝ったら笑って許してくれた。相変わらず底無しの優しさだ。
それから数日間、私は皆と一緒に里でのんびり過ごした。宇宙開発局のお仕事についてもアリアが全面的に協力してくれたし、ザッカル局長も本当に大事なお仕事以外は免除してくれた。
皆の優しさに泣きそうになったのは秘密だ。お陰さまで、存分に身体を休められたけどね。
ただ、良い知らせばかりじゃないこともあった。
「君が地球と交流している間に、救難信号を三つ確認している」
「本当ですか!?」
宇宙開発局は拠点を軌道上のステーションへ移して、本格的な調査を再開している。この広い銀河には、まだまだ大勢の、少なくとも億単位のアード人が取り残されている筈だからね。セシルさん達を助けたラーナ星系もその一つだ。
宇宙開発局は、銀河中から発信される救難信号を探知する重要な役目がある。
「どれも本星から比較的近い星系から発信されたものだ。直ちに無人艦を調査のために派遣したが……」
無人艦はコストも安くて何より人命を気にする必要がない軍艦だけど、有人艦に比べて小型で性能面に難がある。なにより臨機応変な対応が難しい。高度なAI技術はあるけど、限界もある。
……ザッカル局長の顔色は優れなかった。それだけで私は結果を察することが出来た。
「二つの星系で発見されたのは無惨に破壊されたコロニーと居住地だ。生存者は居ない。三つ目の星系に関しては、生存者を発見することが出来た」
「えっ!?」
「だが、遅かった。既に一千を越えるセンチネルのスターシップが星系を蹂躙していた。放出されるスターファイターの数など、想像もしたくない。
残念ながら救助は不可能と私が判断し、遠隔操作で無人艦を自爆させゲートを破壊した」
普通のアード人、もちろん私でも一握りの可能性を信じて救援に向かうだろうな。でもザッカル局長は、アード人全体を考えて苦渋の決断を下したんだ。本意じゃないことは悔やむ顔を見れば分かる。私はそんな局長になにも言えなかった……。
「引き続き救難信号の傍受と生存者の捜索を続けていく。センチネルを警戒しながらになるから進捗は遅くなるが、我々の救助を待つ同胞達のためにも手を緩めるわけにはいかん。これも全て君のお陰だ」
「私はただ切っ掛けを作っただけですから」
地球との交流は、間違いなく停滞していたアードの時間を動かしたと思う。
でも私みたいな小娘に出来ることなんて僅かだ。皆の現状を変えていこうとする想いが実った結果だよ。
引き続き私も積極的に参加したいと伝えた。地球との交流も確かに大切だけど、同胞を助けることだって大切だから。
「済まんな、正直助かる。腕の良いパイロットは、一人でも必要なんだ。その時は宜しく頼む」
私はこれまで何度かセンチネルと戦っていて、若手、つまり300歳以下のアード人では最も実戦を経験しているパイロットになってる。
フェルを助けた時やラーナ会戦の時のデータは全軍に共有されているし、私個人の経験も重要視されてる。オーロラ号では、アードへ着くまで四六時中近衛宇宙軍のパイロットの皆さんとシミュレーター訓練に明け暮れた。楽しかったなぁ。
本人は気付いていないがティナの技量は歴戦の古参パイロット達を唖然とさせる程の規格外レベルであり、アナスタシアは出自故に近衛軍へ勧誘できないことを大層悔やんだ。閑話休題。
暗い話は置いておいて、最近フェルがご機嫌だ。具体的には私が女王陛下と謁見したり評議会に参加した日からなんだけど、いつも以上にニコニコしている。
「ティナの側に居て良いと改めて確信できたからですよ」
聞いてみてもこんな感じだ。まあ、フェルの機嫌が良いなら問題ないか。
で、そうやって数日間過ごしていたら衝撃的な話を伝えられた。それはカレンとのメッセージのやり取りの最中だった。
メッセージが届くまでに三日くらい掛かるんだけど、お互いに簡単な近況報告をしてる。私としても初めての地球人のお友達だからね。
『そう言えば、大統領選挙が近いからってパパったらあんまり休んでいないの。あちこち飛び回っているみたいだし、ティナからも休むように伝えてくれない?』
「だっ、大統領選挙!?」
このメッセージを受け取った私は衝撃を受けて、直ぐにばっちゃんに相談した。
「大統領選挙?なにそれ?☆」
うん、知ってた。アードには選挙制度がない。
私も前世は日本人だから大統領選挙の経験なんて無いけど、取り敢えず日本を例にして説明してみた。うろ覚えの知識をアリアが補ってくれた。
「ふぅん、地球人は随分と非効率的なことをするよね。効率にはうるさい種族だと思ったけど」
「そうかな?」
「要は人気者が首長になれる制度だよね。この場合能力は二の次で」
「そんなことはない……と思いたい」
基本的にアードは完全実力社会だ。これが地球ならエリートとそうでない人達の格差やら派閥やらで問題が起きそうだけど、地球人がドン引きするアード人の善性が加わるとどうなるか。
私利私欲なんて概念すら存在せず、民のため、アードのため、女王陛下のために粉骨砕身する人達が爆誕する。
ブラック企業顔負けの激務が待っているけど、善行を為せるわけだから就任した人達は嬉々として働くんだ。
そしてアードの栄養ドリンク剤やら治癒魔法は、前世で社会問題になった過労死をゼロにしてしまう。
「ふぅむ……よし、ティナちゃん。地球へ戻ろっか。選挙についてもう少し詳しく調べるにしても、合衆国の首長がハリソンくんから代わったらアードとしても都合が悪いし。交易品の調達は終わってるよね?」
「うん、準備は出来てるけどさ」
トランクと医療シート、それに異星人対策室を通じて要望が出されたアードの衣類や装飾品等を準備してる。
代わりに私達も食料品以外に今回持ち帰ったコットンなどの生地を使った製品や、絵画なんかの美術品を求めてる。
意外と絨毯も人気がある。だってアード人も屋内じゃ裸足が基本だから、あの足触りの良さは好評だ。
「んじゃ、戻ろっか☆」
「お母さん達と入れ違いになっちゃうかぁ……」
別に寂しくないよ。いや、嘘吐いた。ちょっと寂しい。けど今すぐ戻れば大統領選挙に間に合うはず。ハリソンさんが再選出来るように何かお手伝いしないと!