星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
マルス星系はアード星系から見て天の川銀河の反対側、つまり地球側にある星系のひとつ。
小さな赤色矮星を中心に、マルス1からマルス3と呼ばれる三つの惑星から構成されている小規模な星系である。
特別なエネルギー資源が存在するわけではないが、マルス2は海洋惑星であり豊富な水資源が手に入る。
周囲には鉱物資源やエネルギー資源を豊富に産出する星系が幾つも集まっており、マルス星系はこれらを繋ぐハブ星系として宇宙開発全盛期には賑わいを見せていた。
しかし、センチネルとの生存戦争が激化して戦域は銀河全体へ広がり、主要なエネルギーを産出する星系が次々とセンチネルの攻撃に晒され、いつしか忘れ去られた星系となってしまった。
ゲートは存在するもののセンチネルの偵察艦隊が周辺を徘徊するようになり、十分な戦力を持たないマルス星系に取り残されたアード人達は、発見されないよう必死に息を潜めるしかなかった。
今回救難信号を偶然キャッチしたティナ達は、実に数百年ぶりの来訪者と言うことになる。
救助にやって来たティナ達だが、プラネット号は地球へ残しているので戦力は重巡洋艦である銀河一美少女ティリスちゃん号とスターファイター十機のみ。とてもセンチネルの艦隊と戦えるような戦力ではない。それ故に迅速かつ慎重な行動が求められる。
先ずティリスが提唱したのは、星系内にセンチネル艦隊が居た場合は救助や調査を諦めて速やかに撤退、ゲートを爆破すると言うものだ。
『広域探知開始……現在星系内にセンチネルの反応はありません』
「よし、仕事に取り掛かろう。フェル、データはある?」
「はい、ティナ。マルス星系には艦艇の修理補給、乗員の休養を目的とした宇宙ステーションがマルス2の軌道上に存在するだけみたいです。今回の救難信号もこの宇宙ステーションから出されていますね」
ティナの問いかけに答えて、管制席に座るフェルがデータを読み上げた。
「アリア、宇宙ステーションをスキャンして。生存者の有無を確かめたい」
『ティナ、残念ながら外部からのスキャンは行えません。おそらくセンチネルを警戒した隠蔽障壁が展開したままです』
アリアの応答にフィーレが頷く。
「なら、メインの動力はまだ生きてるって事だよね。ロクな資源もないのに、良く耐えられたね?」
「マルス2は海洋惑星だから水が豊富に手に入るでしょ。それでなんとか自給自足したんじゃない?」
「どちらにせよ、外部からスキャンできないなら中へ入るしかないよね。アリア、入港して。直接乗り込んで調べるから」
『畏まりました。これよりステーションへ入港します』
「じゃあ、私も……」
いつものようにフェルも同行しようとするが、それをフィオレが制した。
「私が一緒に行くわ。フェル、貴女荒事が苦手でしょ?」
「それは……まあ」
「ティナの事は任せて。フェルにはバックアップをお願いしたいの。貴女が後ろに居てくれるならこっちも安心出来るから」
「フィオレちゃん……」
「ティナ、それで良いわね?」
フィオレの提案は、極力フェルを危険に晒したくないティナにとっても異存はない。
「そうだね、フェルはバックアップを。フィーレはシステム周り、ばっちゃんは船をお願い」
「ん、了解」
「任せて☆」
「分かりました。フィオレちゃん、ティナをお願いします」
「任せて、ティナの無茶には慣れてるから」
「言い返せない……」
じゃれ合いを挟み、ティナとフィオレの二人は宇宙ステーションへ乗り込む。その様子を確認した銀河一美少女ティリスちゃん号は宇宙ステーションから少し離れる。周囲を警戒するためだ。
ただ、フェルの転移魔法の範囲内から出ないように細心の注意が払われているが。
宇宙ステーション内部。アードの建造物らしく円柱状の中心部と、それを取り囲む円形の区画で構成されている。
中心部は完全な吹き抜けであり、無重力で無くとも空を飛べることを前提に設計されている。
つまり、昇降用のエレベーターは存在するが地球では昇降に不可欠な階段が無い。階層の移動は基本的に空を飛んで行う。
「取り敢えず生命維持システムは生きてるみたいね」
「うん、フィーレが言うように動力は生きているんだと思う。アリア、これで良い?」
薄暗いステーション内部は環境適応魔法が無くとも過ごせる状態であり、ティナは近くの壁に備えられた端末にブレスレットを近付ける。
『アクセス中……メインシステムへのアクセスに成功しました』
「救難信号の発信源は分かる?」
『確認中……上層にある第八制御室から発信されています。マップを更新中……ナビゲーションを開始します』
二人の前に非実体画面が現れて現在地と目的地までの順路を表示する。
「ありがとう。映像とかは無理かな?」
ティナとしては以前救助に赴いた宇宙ステーションで間に合わなかった苦い経験があるので、慎重になる。
『残念ですが、システムの大半がダウンしています。映像、音声ともに不可。各センサー類も使用できません。仮に復旧する場合、数日の時間を要します』
「そんなに長時間寄り道は出来ないわね……どうする?ティナ」
「うーん……生命維持システムが生きているってことは、生存者が居る可能もある。それに第八制御室はそこまで遠くないし……アリア、他には?」
『第八制御室付近の隔壁が全て下ろされて厳重にロックされています。操作履歴を検索……内側からです』
「誰かが立て籠った……?」
「可能性は高そうね」
「フィオレ、第八制御室を調べよう。そこが空振りだったら素直に諦める。長居をしてセンチネルに見付かったら……」
話の途中で大きな音が通路内に響き渡る。それは隔壁が開かれたような重厚さを感じさせた。
『……!?ティナ!動的反応多数!こちらへ向かってきます!』
「見えてるよ!」
「なによあれ!?」
「「「ヴァアアアアアアアーーーッッッッ!!!!!!!!」」」
二人の視線の先に現れたのは、醜く変異してしまった老若男女を問わぬアード人の群れであった。寄生型バイオウェポンによって変異した生物、通称バイオミュータントである。
「バイオウェポン!それも寄生型!?」
「嘘でしょ!?走るわよ!」
駆け足で迫るバイオミュータントの群れから逃れるため、二人は通路を走るが。
「「って!!違ぁーーうっ!」」
二人揃って翼と羽根を広げて飛翔する。
バイオミュータントの群れは飛び上がったティナ達を見上げながら蠢いていた。
何故かは不明だが、バイオミュータントは飛行能力を失っている。逃れる術は、空を飛ぶことだ。飛べるだけの空間があればだが。
「危なかった!バイオミュータントが山ほど居るよ!」
「じゃあこのステーションは壊滅してるってこと!?」
フィオレの問い掛けにティナは表情を引き締める。
「いや、まだ分からない。バイオミュータントが発生した場所で生存者が居た事例も少なくない。空を飛べば避けられるし、このまま第八制御室へ行こう。アリア、ナビゲーションをお願い」
『畏まりました。バイオミュータントの反応を可能な限り避けるルートを設定します。しかし、ステーション内部のセンサー類が使用できないので、精度には限度があります』
「大丈夫、フィオレも居るし魔法もあるから何とか……危ない!!!!!!!!」
突如ティナが隣を飛ぶフィオレにタックルする。急なことで制御も出来ず二人はそのまま壁にぶつかる。
「痛っ!ちょっとティナ!急に……は?」
抗議しようとしたフィオレは、ティナが普段は見せない鋭い表情を浮かべていることに気付き、更に今まで二人が滞空していた場所を赤いビームが通りすぎるのを目撃して唖然とした。
そしてティナが見据える先には。
バイオミュータントの群れに紛れ込むように佇む数体の人型ロボット。徹底的に簡略化されており武骨な金属製のボディを持ち、手には簡易型ビームガンを持つそれは唯一出されている指示を忠実に実行すべく、無機質な機械音声を発する。
『一定以上の知性を確認、知的生命体と断定。駆除する。駆除する』
センチネルバトルドロイドの群れであった。