星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
遠い昔、銀河に覇を唱えた巨大な星間国家が存在していました。その名はアプソリュート皇国。
惑星ノームから誕生したノーム人を中心とするこの国家は、数千の星系を支配下に置いて様々な種族を傘下に加えて栄華を極めていました。
拡張路線だけでなく、歴代の皇帝達は民心掌握にも心を砕いて善政を敷いており、人々はノーム人最良の時代と呼ばれる繁栄を謳歌していました。
この栄華に影が射したのは、グラドス帝の時代でした。父であり仁君と名高い前皇帝を暗殺し、更に自分以外の兄弟姉妹も手に掛けて実権を掌握。急激な拡大政策を推し進めたのです。
その結果数多の星間戦争を引き起こし、アプソリュート皇国は急激に疲弊していきました。
繰り返される星間戦争は皇国の民に多大な負担を強いて、国内は荒れて民心も乱れていく暗黒の時代に突入しました。
しかしグラドス帝の専横は更に苛烈となり、遂には自らの娘を中枢に組み込んだ完全自立型の殺戮マシーンを産み出してしまいます。グラドス帝の娘を組み込んだ『マザー』と呼ばれる中枢を中心に、独自の進化を遂げる画期的なこの殺戮マシーンは、自己複製や増殖、進化を可能としていました。
事実、最初は小さなボールサイズの自爆ドローン程度の存在でしたが、数多の戦いを経て学習し、スターシップやスターファイターなどの宇宙兵器、バトルドロイドや巨大な宇宙要塞まで産み出していきます。
その状況に必要なものを自ら産み出し数を増やしていく。まさに機械生命体と呼べる存在でした。
グラドス帝はこの殺戮マシーンを敵対国家だけではなく、自身に反発する者達へも差し向けて凄惨な弾圧が繰り返されることになります。結果アプソリュート皇国では大規模な内戦に発展。
最終的にグラドス帝は討たれますが、死の間際殺戮マシーンの母体である『マザー』に最後の指令を命じます。
「全ての知的生命体を捜索し、排除せよ」と。
暗黒の時代と大規模な内戦で疲弊しきっていたアプソリュート皇国に、解き放たれた殺戮マシーン……アードの呼称を踏襲して以後はセンチネルと呼称しますが、この機械生命体を止めることは出来ませんでした。
数多の犠牲を払い、遂にアプソリュート皇国は崩壊。生き残ったノーム人達は、安息の地を目指して銀河中を放浪することになります。
当初は巨大な船団でしたが、生存戦略に則り幾度も分離し、更にセンチネルの襲撃を受けて数を減らし続けました。
最盛期には兆単位の人口を誇っていたノーム人が、アプソリュート皇国崩壊時には万単位にまで減少したと言えば、その壮絶さが伝わるでしょう。センチネルには一切の慈悲が存在しないのですから。
永く苦しい旅路の最中、ノーム人達はとある星系で自分達以外の知的生命体の痕跡を発見しました。残念ながら放棄された後のコロニーでしたが、この時私達はアード人の存在を知ったのです。
放棄されたコロニーにはほとんど情報が遺されていませんでしたが、それでもアード人が大規模な星間国家であることを証明するには十分ですし、理論体系が違いますが、私達と似たような魔法を使う種族であることも判明しました。
それから更に永い年月が流れて、遂に私達はアード人と交流があるらしいリーフ人と呼ばれる種族の母星へ辿り着きました。
しかし既にリーフ星は死の星となっており、皆を落胆させる結果となってしまいました。
その後もアード人を探すべく銀河を放浪していました。そんな最中、私はこの世に生を受けたのです。
お母様は生まれつき身体が弱く、これまで三度も流産を経験してやっと授かったのが私です。しかし、お母様はその喜びを噛み締めること無く、私を出産した翌日に亡くなってしまいました。
お母様とお会いすることが出来なかったことは寂しいですが、それでもお父様や周りの皆さんに愛されて育てられました。
「ひっ、姫様!わざわざ土仕事をなさらずとも!」
「皆が一致団結しているのに、私だけ偉そうにするなんて出来ないわ!」
まあ、お転婆娘ですね。爺や達の制止を振り切って、農業プラントへ駆け込んで皆と一緒に汗を流す。着飾ったり難しいお勉強をするよりずっと楽しい事です。お父様にはよく叱られてしまいましたが。
お母様はアプソリュート皇国直系の皇族であり、一人娘である私は事実上最後の皇族となります。私達の使命はノームの民を導くこと、そして我が種族が解き放った負の遺産であるセンチネルを滅ぼすことです。
センチネルの大本である『マザー』は今も惑星ノームにありますが、その中枢にアクセス出来るのは直系の皇族のみ。
もし私が中枢へ辿り着ければ、直ぐ様自壊プログラムを発動して稼働中の全てのセンチネルを破壊することが出来ます。
ただし惑星ノームは惑星全体が要塞化されているので、流浪の民である私達には接近することも出来ません。それでもいつかは……。
決して豊かとは言えませんが、それでも暖かくて優しい日々が私は大好きでした。
でも、幸せな時間は唐突に終わりを迎えます。私達の船は遂にセンチネルの偵察艦隊に発見されてしまいました。何とか逃れようと手を尽くしましたが、センチネルスターファイターの群れはまるで嬲るように攻撃し、遂にメインエンジンが大破。ほとんど動けなくなった船を破壊するのではなく、スターシップを横付けして来ました。
「バイオウェポンだ!」
「なんだと!?バトルドロイドじゃないのか!」
おぞましい生物兵器であるバイオウェポンを船内へ解き放って来たのです。大木のような形をした紫色の物体から、無数の触手が伸びて私達を蹂躙しました。
黄色い目のようなコアを破壊すれば良いのですが、一度に数十匹を解き放たれたらどうにもなりません。
「これは神罰なのだろうな……大地を捨てて星海へ出た我々に対する罰なのだ。あのおぞましい殺戮マシーンを止められなかった罰なのだ」
年配者の一人が諦めたように膝をつきました。私達ノーム人には大地の精霊と共に歩んできた歴史がありますし、私を含めて精霊術を生まれつき使えます。ただ宇宙へ進出してからは、その信仰を疎かにしていたとか。
……別に精霊達は怒っていないのですが。いや、今それより覚悟を決めよう。短い生だったけど、ノーム人らしく、アプソリュート皇国最後の皇女らしく恥ずかしくない勇敢な最後を!
「お前は逃げるんだ」
「お父様!?」
覚悟を決めていた私へ向けられたお父様の目には、愛と悲しみを感じました。
「お前は死んではならん。今も銀河に潜む同胞達のためにも、そして我らが残した負の遺産を排除する使命がある」
「私だけ逃げろと!?そんなことは出来ません!」
尚も言い募ろうとした私を止めたのは、お父様の優しい抱擁でした。
「済まない、お前には悲しく辛い運命を背負わせてしまう。重責を背負わせ、一緒に死んでやることも出来ない父を恨んでくれ」
「さあ、姫様!お早く!」
「嫌!お父様!皆!」
抵抗する私をお父様達は脱出用の小型ポッドへ無理矢理乗せて、射出しました。
次の瞬間船は大爆発を起こし、爆発に紛れてセンチネルの追撃から逃れることが出来ました。
でも、私は大切なものを全て失ってしまい、一人ポッドの中で泣き続けました。
それからしばらく宇宙をさ迷った後、奇跡的にアード人の宇宙ステーションへ流れ着いたのです。
しかし既に寄生型バイオウェポンに侵食されており、これらから逃れる最中に大事なデバイスも故障してしまいました。
ただ、個人的に解読に成功している範囲でアード語を勉強していたので何とか逃げ込んだ制御室のコンソールを操作して立て籠り、救難信号を発信することに成功しました。
こんなところでは死ねない。お父様達のためにも、この命を無駄には出来ない。
体力を温存するために目を閉じて静かにその時を待ちました。どれだけ待ったのかは分かりません。急に身体を揺さぶられて、目を開けたらそこには綺麗な銀の髪と純白の翼を持つ少女が居ました。
髪の色が特徴と違うみたいですが、それでもアード人であると直ぐに分かりました。精霊達の力を借りて、発音が難しいアード語をなんとか口にしました。
「タス……ケテ……」
「大丈夫!絶対に助けるから!」
頼もしい言葉を聞いて、私は再び目を閉じました。
私の名前はクレア。ノーム人であり、アプソリュート皇国最後の皇女で、土いじりが好きなただの女の子です。