星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
銀河一美少女ティリスちゃん号による軌道上からの攻撃から五日後、各国の世論は時間の経過と共に少しずつ沈静化へ向かいつつあった。ティナ達は未だに地球へ降りずに沈黙を保っている。
これを地球側の動向を探っているためであると判断した各国が、事態の沈静化を急いだこともあった。特に某国に強い影響力を持つ中華が、某国へ自省を強く求めた事も沈静化に拍車を掛けた。
一方この大事件の最中であっても、地球最大の大国である合衆国では大統領選挙が継続していた。政権側は世界情勢の緊迫化を理由に選挙の延期を申し出たが、野党側がこれに猛反発。
民主主義の原則の崩壊であると高々に叫び、一部メディアがこれに便乗。この扇動に大衆が動かされ、選挙の継続を余儀無くされた。
「現在我が国、いや地球は異星人との交流と言う前代未聞の事態に直面している。そんな中、ハリソン大統領はそれなりの成果を挙げているのは事実であるし、評価すべき点であるのは間違いない。
しかしながら、だからこそ私は現政権へ物申さなければならない。これまでの交流は、全てアード側へ迎合したものであることは火を見るより明らかであるからだ!
交流の更なる促進は歓迎すべきであるが、同時に我が国の主張すべきところは断固として主張し、譲歩しない姿勢を示さねばならない。何故ならば、我が国は主権国家であり、地球のリーダーであるからだ!
先日発生した攻撃、その背景について様々な情報が流れているのは承知している。それらの情報が全て正しいならば、アードの行動に一定の理解を示そう。
しかし!あの様な武力攻撃を治外法権の名の下に許している現状が、果たして正常であると言えようか!
二度とこの様な事態が発生しないよう、我々は直ちに法整備を進めてアード側の行動を制限し、アードをコントロール下へ置かねばならない!それこそがリーダーたる我が国の成すべき事であると信じている!
私が大統領へ就任した暁には、断固とした姿勢で交流に望み、我が国の主権を護ることをここに誓う!」
各地で演説を繰り返すのは、対抗馬のジョンソン氏である。連邦議会に長年名を連ねた政界の重鎮であり、ハリソン大統領の政策を一部肯定することで彼の支持層の切り崩しを図っているのだ。
「私の対応はアード側への迎合である。手緩いとのご批判があることは充分に承知しています。そしてこれらのご意見は、必ずしも的外れな批判と言えるものではありません。
確かに地球の外交常識から言えば、異例な対応をしているのは事実なのです。しかし、アードは惑星どころか種族さえも違う相手です。文化の違いはもちろん、政治外交の常識さえ違います。
そのような相手に、地球の常識を当てはめるのは大変危険な行為であります。しかも相手は、その気になれば片手間に地球を死の星に変えられるほど隔絶した存在なのです。
こちらの礼節があちらにとっては非礼にあたる。地球でも度々発生する問題を、星間レベルで生じさせるにはあまりにもリスクが高過ぎるのです。
それ故に私は、これまでアード側との交流に際して、誠意を以て対応しました。あちら側の常識を慎重に観察し、地球側の事情を少しずつ伝えながらの交流は、手緩く感じるかもしれません。
しかし、ティナ大使はこちらの誠意に誠意を以て応えてくれました。彼女に命を救われた人々を見てください。これこそが、我々の対応が決して間違いではなかったことの証明となります!
彼女達とは外交ではなく、親しい友人として接することが答えなのです!」
ハリソン大統領も負けじと演説を行うが、情勢が極めて不安定なためホワイトハウスを離れることが中々出来ず、ジョンソン氏のように合衆国各地を回ることは出来なかった。
「今現在の支持率は大統領が優勢ですが、ジョンソン氏による積極的な選挙活動によって世論がどのように変化するか分かりません。アードとの交流に賛成の立場ではあっても、外交姿勢を手緩いと感じている層も取り込んでいます」
マイケル補佐官の報告を聞きながら、ハリソン大統領は深々と溜め息を吐いた。先の攻撃による混乱で選挙活動に割く時間を持てない立場であることを理解し、その上で政権支持層の切り崩しを図るジョンソン氏の強かさを実感している故だ。
「まさに国難だな……ジョンソン氏が当選してより良い未来が開けるならば、私も喜んでこの座を譲り渡すつもりではあるんだが」
視線の先には相談のために呼び出したジャッキー=ニシムラ(常識的な絶対領域)の姿があった。異星人対策室もまた総力を挙げて大統領選挙に臨んでおり、多忙なジョンの代わりに派遣されたのだ。
「アードとの関係悪化、少なくとも此までのような交流は望めないでしょうな。ジョンソン氏の公約の中には、異星人対策室の大規模な再編が含まれています。
我々が掴んだ限りだと、室長を含めた幹部全員を一新する予定だとか」
「……正気か?」
ハリソンは自らの耳を疑った。室長のジョン=ケラーとティナの関係無くして今の交流は成り立たない。それは交流の最前線に立つ者ならば周知の事実だが、そうでない者は知るよしもない。
「既に統合宇宙開発局には内々の話が出ているのだとか。いやはや、気の早いことですな」
「何ですと?ニシムラさん、それを何処で?」
「自ら吹聴している愚か者が居るのですよ。特にマインツ主任は有頂天です」
マインツ主任とは統合宇宙開発局の若手のエリート。ジョンのかつての上司であり、彼の善性を最大限利用していた男。
「異星人対策室を、自身の影響力が及びやすいように再編するつもりか。円滑な運営を考えるなら間違ってはいないが、交流の観点から見れば最悪だな。マインツ主任とやらは関係を進展出来るのか?」
ジョン=ケラーを筆頭に今の異星人対策室のメンバーだからこそ、ティナ達と良好な関係が築けているのだ。
「残念ながら、あの俗物ではティナ嬢達に不信感を持たせるだけでしょうな。
それどころか功績を挙げようと強引な手段に出て、ティリス殿やフェル嬢の逆鱗に触れるかもしれませんな」
ジャッキー=ニシムラ(下着無し)は肩を竦めながら伝え、その言葉にハリソンも青ざめる。
フェルのポテンシャルの高さは言うまでもないが、ティリスの報復ほど恐ろしいものはない。下手をすれば合衆国が崩壊するのだから。
場が沈黙に包まれた時、一人の職員が室内へ飛び込んだ。
「失礼します!アード大使ご一行が地球へ降りました!場所は……大西洋です!」
「たっ、大西洋!?」
「おやおや、ティナ嬢の武勇伝がまた増えそうですな!」
ハリソンは首をかしげ、ジャッキー=ニシムラ(実は人間)は愉悦の笑みを浮かべた。