星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~   作:イワシロ&マリモ

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シリアスが息抜きになる変人が居るらしい……まあ、私ですが(白目)
書いてて悲しくなりましたが、必要なエピソードですからな……


レガシーエピソード 会戦前夜

 これは遥か昔、銀河の反対側にて起きた悲劇的な物語の一部。順調に銀河の開拓を進めていた星間国家アードは未知の敵性勢力センチネルと遭遇し、種族の生存を賭けた壮大な星間戦争を百年に渡って繰り広げていた。

 各地でアード軍は善戦するが、センチネルの圧倒的な物量の前に劣勢を強いられ、数多の犠牲を払い数え切れぬ程の星系を失っていた。

 和平の試みも断たれ、絶望的な戦局の最中、それでも諦めずに抗い続けていた彼等に最悪の知らせが届いた。

 盟友であるリーフ人の本拠地であるリーフ星系が、遂にセンチネルの偵察艦隊によって発見されてしまったのである。

 

 

 

 この凶報を受けたアードは、軍司令官達を集めて作戦会議を開催する。各地の戦局不安定なため全ての司令官が集まることは出来なかったが、それでも主な将官の大半が本星にある参謀本部に参集する。

 そしてその場には、英雄の姿もあった。

 

 

 

「ティリス提督だ!ティリス提督が戻られたぞ!」

「まさか参加なされるとは!」

「あれが数多の同胞を救った救世主!」

 

 

 

 若手達から驚きの声が相次ぐのも無理はない。彼女は長年セレスティナ女王付きの武官として過ごし、センチネルとの遭遇後は自身の部下達を集めて特務艦隊を編成し各地を転戦。

 その類い希な知謀と高い錬度で圧倒的に不利な戦況を幾度も覆し、破局から救ってきたアード最高の英雄として名を轟かせている生きる伝説なのだ。

 今回の会議も多忙ゆえに、参加しないものと思われていたのだが。

 

 

 

「嘆かわしい、参謀本部はその静謐こそ伝統であろうに」

 

 

 

「言うな、アナスタシア。多くの者が逝ったのだ。若者達の活気を好ましく思おう」

 

 

 

「はっ、閣下」

 

 

 

 顔の右半分を真っ黒な眼帯で覆い、翼はボロボロに痛んでいるがそれでも全身から溢れ出る覇気とマナは、周囲の者達を畏怖するのに充分な貫禄を持ち、軍服をまるでマントのように羽織る女傑こそ、アード宇宙軍の英雄ティリス大将である。

 そして彼女に追従するのは、穏和な目元を持つ者が多いアード人には珍しく(アード人はタレ目が多い)ややつり上がって鋭い印象を受ける女性。ティリスの副官にして義妹であるアナスタシア大佐である。

 ティリスの参加は軍全体の士気を上げる効果を得られ、会議も白熱したものとなった。

 

 

 

「女王陛下の御心中を思うと、我らの不甲斐なさをひしひしと感じる」

「盟友を見捨てることは出来ぬ!全軍を以て決戦すべし!」

「如何なる困難が立ち塞がろうと、悠久の大義に往くのだ!」

 

 

 

 将官達が口々に決戦を唱え、熱に浮かされたような会議の最中、ティリス提督が静かに口を開く。

 

 

 

「リーフ人を救うのは良しとして、投入戦力を見るに……まさに決戦を企図しているものと推察するが」

 

 

 

「ええ、閣下。センチネルと雌雄を決する時です!」

 

 

 

「だがこれ程の戦力を集中した場合、他の星系を守る戦力は確実に不足する。

 数多の同胞を危険に晒してまで行う必要があるのか疑問だ。

 聞けば、リーフ側は星を捨てることに難色を示しているとか」

 

 

 

「女王陛下のご友人であり、長年の盟友である彼等を見捨てる道理はありませぬ。万難を排して事態に取り組まねばなりません。これは、大命なのです!」

 

 

 

 その行動や覚悟が、どれだけ女王を哀しませているのか理解しているのか!

 ティリスは喉まで上がってきた言葉を発すること無く飲み込んだ。既に決戦の構えであり、全軍がリーフ星系へ集結しつつある現状で異議をこれ以上唱えては、士気に関わると判断したためだ。

 深々と息を吐いた彼女は覚悟を決める。

 

 

 

「ならば、是非もない。先陣及び殿は我が艦隊が請け負う。

 だが各々方、忘れるな。最優先はリーフ人の脱出を援護することだ。

 悪戯に正面からセンチネルを迎え撃つのは、本作戦の主旨ではない」

 

 

 

 斯くして作戦は決定となった。リーフ人が本星より脱出するまで、我が方の数倍以上の規模を誇るセンチネルの大軍を相手に時間を稼ぐ。恐ろしく危険で困難な作戦であることは明白である。

 その事を考えると内心憂鬱な感情を抱くが、それを表に出さずハロン神殿の廊下を歩く。

 

 

 

「まさに義戦、我が軍の勇名は永久に語られることでしょう」

 

 

 

 隣を歩く義妹であり副官であるアナスタシアは意気軒昂である。彼女は聡明な人物なのだが、武人肌であり些か勇まし過ぎるのが難点である。

 しかし、自分は些か慎重に過ぎる部分があると自覚しているティリスは彼女の勇猛さも必要であると副官を任せているし、幾度もその助言に救われているのも事実である。

 

 

 

「アナスタシア、出撃は明後日の正午だ。それまでは皆を休ませておけ。お前もしばらくパトラウスに会っていないだろう。顔を見せておくんだ」

 

 

 

「はっ。閣下もお越しになりますか?」

 

 

 

「夜に顔を出す」

 

 

 

「畏まりました。では、皆に伝えて参ります」

 

 

 

 ティリスの指示を受けてアナスタシアは翼を広げて飛翔し、空を舞う。

 

 

 

「神殿の敷地内は飛ぶなとあれほど……ん」

 

 

 

 気配を感知して振り向くと、そこには若いアード人の青年が直立不動の姿勢で待っていた。彼は胸に手を添えるアード式敬礼を行い口を開いた。

 

 

 

「閣下、航空隊の準備は万全です。いつでも出撃できます」

 

 

 

「ご苦労、大尉。

 ……少し話そう。こっちだ」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

 ティリスに誘われてやって来た場所は、ハロン神殿の近くにある泉が良く見える高台である。

 

 

 

「美しい、この様な場所があるなんて」

 

 

 

 感激する青年を横目に見つつ、携帯端末を取り出した。

 

 

 

「ここは女王陛下のお気に入りの場所なのだ。何かお悩みがある時、女王陛下はここにお越しになる」

 

 

 

「だから誰も居ないのか。で、こんなところに呼び出してどうしたんだ?母さん」

 

 

 

 青年の名はティダル。特務艦隊航空隊指揮官であり、ティリスの一人息子である。

 

 

 

「これを見ろ」

 

 

 

 ティリスの言葉に従い、自分の端末を見たティダルは目を見開いた。

 

 

 

「教導隊への転属許可証!?」

 

 

 

「長引く大戦によって熟練のパイロットは大半が戦死している現状で、パイロットの育成は急務である。

 しかし、同時に教官足り得る者を集めるのも苦労している。

 特にお前のように腕が立ち、指揮官としても優秀な者はな」

 

 

 

「前線から、艦隊から離れろって言いたいのか?」

 

 

 

「後方で後進の育成に尽力するのも立派な戦いだ。ましてこの消耗戦ではな」

 

 

 

 振り向かずただ湖を見つめる母の後ろ姿を見てティダルは苦笑いを浮かべ、おどけたように言葉を続けた。

 

 

 

「母さんが軍務に私情を挟むなんて珍しいな。父さんが聞いたらビックリするんじゃないか?」

 

 

 

 息子の言葉を聞き、ティリスは深々と息を吐いた。

 

 

 

「結局私も息子の命が惜しい凡人と言うことだ。だが、建前と言うわけではない。

 教導隊より何度も腕利きの転属を請われていたのも事実だ。戦局ゆえに拒否してきたがな」

 

 

 

「それを今になって……じゃあ、次の戦いは……」

 

 

 

「生きては帰れまい。リーフ本星に残るリーフ人を全て救助しようとするならば、膨大な時間が必要になる。その時間を稼ぐために我々が流す血は助け出すリーフ人より遥かに多いだろう」

 

 

 

「だが、母さんなら」

 

 

 

「無理だな、今回は防衛対象が難物であり陽動すら意味をなさない。センチネルはリーフ星を滅ぼすことしか考えていない。

 となれば、小手先の奇策はほとんど意味を成さん。真正面から迎え撃つことになるだろう。そうなれば奴等の物量に飲み込まれるだけだ」

 

 

 

「……それなら、なおさら俺は参加しなきゃいけないな」

 

 

 

「何故だ」

 

 

 

「こんな時に報告するのも変な話だけどさ……リーシャが、妊娠したんだ」

 

 

 

 息子の告白にティリスも振り向いて隻眼を見開いた。リーシャとはティダルの恋人のリーフ人であり、リーフ近衛兵でもある女性である。

 

 

 

「なんと……リーシャは?」

 

 

 

「近衛兵としての務めを果たしたいと。フェルシア女王陛下と共に居るとさ」

 

 

 

「そう……か」

 

 

 

「俺が抜けるわけにはいかない。アイツらを護ってやらないといけないからな。それでさ、母さん。こんな時なんだが……その、リーシャとも話したんだけど、この戦いが終わったら退役してくれないか?」

 

 

 

「私に軍を去れと言うのか?」

 

 

 

「ああ、悪い意味じゃないんだ。母さんはずっとアードのために尽くしてきたんだ。伝説になるくらいにさ。

 でも、無茶もたくさんしてきたんだよな……聞いたんだ。もう、あんまり長くないって」

 

 

 

「……ディータだな」

 

 

 

 ディータ中将。ティリスの夫にしてティリスを総指揮官とする特務艦隊の艦隊司令でもある。

 

 

 

「父さんを責めないでくれ、俺が無理に聞き出したんだ。息子として、母さんには最後くらい穏やかな余生を過ごして貰いたいんだ。その、孫の面倒を見ながらさ」

 

 

 

 息子の言葉にティリスは隻眼を見開き、そして久しぶりに口許に笑みを浮かべた。

 

 

 

「私に孫の世話をしながら余生を過ごせと?」

 

 

 

「ダメかな?」

 

 

 

「良いだろう、孫達の教育は任せろ。どこに出しても恥ずかしくないように鍛えてあげてやろう」

 

 

 

「お手柔らかに頼むよ……」

 

 

 

 

 この戦局で退役など出来るはずもない。しかし、息子の気遣いを理解できないほど暗愚ではない。ならば目の前の息子や若者達のために最後まで命を燃やすだけだ。

 内心決意を新たにしたティリスは、しばし息子と生まれてくる孫について語らうのだった。

 

 

 

 リーフ会戦、五日前の話である。

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