星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
異星人対策室のジョン=ケラーだ。最近は大統領選挙に向けて異星人対策室も全力で取り組んでおり、エリー湖にある本部とワシントンD.C.にある支部を慌ただしく行き来する毎日だ。全く、去年までは考えられない生活だな。
大変ではあるが、優秀で信頼できる仲間達に支えられながらなんとか業務をこなせているよ。感謝の日々だ。
今回の大統領選挙でも様々な議論が交わされているが、最大の争点は何と言っても対アード政策の是非だ。
ハリソン大統領の政策を是としながらも、弱腰外交と不満を持つ層は少なくない。
まあ、無理もない。近代以後我が国は事実上の覇権国家として君臨しており、格上の存在との交渉などほとんど経験が無い。それは為政者に限らず国民もそうだ。
こればかりはこれまでこの国が歩んできた歴史であるし、今まで問題が発生することは無かった。アードが、ティナが地球へやってくるまでは、ね。
その観点から言えば、ハリソン大統領は実に柔軟性に富んだ人物であり、彼が大統領であったことはこの国最大の幸運であったのは疑う余地もない。
正直に言って、ティナは合衆国よりも日本寄りだ。それはこれまでの言動や活動から明らかだ。椎崎首相との親密な関係性は誰もが知っていることだからね。
それでも交渉の主導権を合衆国が握っているのは、ハリソン大統領と……自惚れとお叱りを受けるのを覚悟して言えば我々異星人対策室の存在が大きいだろう。ティナ自身も我が国の影響力を良く理解しているのもあるが。
これまでティナがもたらした恩恵は大きなものであるし、彼女に救われた人々も大勢居る。
彼女に対して大使としての自覚を持つようにとの意見があるのは承知しているし、私としても無茶は控えて欲しいが、そもそも大使のあり方が地球とアードでは違うように思える。
とは言え、彼女の献身が交流を促進させたのは紛れもない事実だ。
彼女の隠された正体を知る身としては、正直無茶をする度に生きた心地がしない。日本で起きた一件だが、何故か私にだけアリアから潜入していた工作員達の末路が伝えられた。
簡潔に言えば、セレスティナ女王陛下の姪っ子が悪意に晒されて、母親であるティアンナ王妹殿下の逆鱗に触れたということだ。
……うん、事の重大性を正しく理解できる地球人は私だけだろうな。胃薬をグレードアップしなければ。
当然ながら他言することは出来ない。胃痛が止む日が来るのだろうか。
さて、大統領選挙の情勢であるがハリソン大統領がやや劣勢だった。これはティナによる報復に対する危機感が現れたと思われ、我々としても厳しい戦いを覚悟していた。
あの件でティナを非難する?そんな道理はない。彼女の怒りは理解できるし、むしろ優しいあの娘にあんな決断をさせてしまったことに自身の不甲斐なさを感じたよ。
それに、彼女達に地球の法を守る義理など無いのだ。それを理解しない人が思っていたより多くて困惑した。
この情勢でハリソン大統領の追い風となったのが、大西洋で起きた船舶事故、いわゆる大西洋の奇跡だな。また彼女達は見返りを求めずに大勢の命を救ってみせた。
更に乗客には合衆国の有力者やその関係者が大勢含まれていたのも、政権にとって追い風になったな。もちろんティナにそんな意図は無いだろうが。
そして更に背中を押したのは、先ほど急遽行われたティナによる生配信だ。これには世界中が注目したが、まさかスターファイターから配信するとは思わなかった。
壮大な宇宙を舞台とした配信はそれだけで視聴者を魅了してしまう。そして彼女が語った夢。
幼い子供の理想論だとバカにする輩も居るが、大勢の人々の心を掴んだのは間違いない。
ティリス殿と話してティナの政治利用すら覚悟していたが……ふふっ、我々の心配は杞憂だったみたいだ。
ティナは実に彼女らしいやり方で、地球人の心を掴もうとしている。我々が介入しなくても、あの娘の普段の振る舞いを見れば大半の人間は心惹かれるものだ。
……ただ、新しいお友達を連れてきたなら、一言欲しかったかな。お陰で政府やうちに問い合わせが殺到した。
いかん、考えたらまた胃が……胃薬を飲まねば。
そう考えていたら、穏やかな風を感じた。ここは屋内だ。だが、この感覚はもはや慣れたもの。振り向いてみれば、床に若草色に輝く魔法陣が現れた。転移魔法だな。
するとフェルが……困ったような笑顔を浮かべているな。その隣には……見慣れた姿のティナが居た。
確か土下座だったかな?日本の謝罪の姿勢だとか。見慣れたくはないのだが。
「……色々ごめんなさい」
「服が汚れてしまうよ、ティナ。さあ、立ってくれ。色々と君に聞きたいことがあるんだ」
出来るだけ柔らかい口調を意識して……うーむ、立ってくれたが俯いていて翼も下を向いているな。翼は感情を反映しているようだ。実に分かりやすくて有難い。
だが、彼女にこんな姿は似合わない。
「私、また色々やらかしちゃって……たくさん迷惑を……」
「大西洋で大勢の人々を助けてくれたみたいだね、本当にありがとう。君には助けられてばっかりだよ」
言葉を被せるのは礼儀に反するが、ここは敢えて被せた。私の言葉を聞いてティナも顔を上げてくれたよ。
「それと、配信も見たよ。君の夢と気持ちを聞けて良かった。大勢の人に君の願いが届いた」
「そっ、そうですか?」
「ああ、もちろんだ。君が誰よりも一生懸命なのは誰もが知っている。残念ながら否定的な人もいるが、彼等は変わっていく世界が怖いだけなんだ。
これからの交流を通してもっと君達の事を知れば、きっと分かってくれる。私達も全力で応援するよ」
「ジョンさん……」
「それに、忘れていないかい?私と君の約束を。私はその日を楽しみにしているのだから」
一緒に宇宙を冒険する。この歳になってと思わないでもないが、この女の子と一緒に宇宙を見て回れたらどれだけ素晴らしい体験になるか。
「忘れてなんかいません!ジョンさんを連れていきたい場所はたくさんあるんですから!」
「それは楽しみだよ」
よし、笑顔になってくれた。反省して落ち込む姿は似合わない。やっぱりこの娘には笑顔が似合う。やらかした?
子供のやらかしは大人がフォローすれば良い。それに、実害はないのだから。
元気になってくれたし、例の新しい女の子について聞いておかねば。それとカレンを呼ぼう。癒してくれるはずだ。
「あっ、忘れるところでした!ジョンさん!」
「なんだい?」
満面の笑みだ。実に可愛らしいが、同時に嫌な予感がする。
「これまでのお詫びに、これを!世界樹の葉と言って、貴重な薬草なんです!」
ドクター達の目が光ったのは、決して幻視じゃないな……胃が痛い。