星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
女王の系統
地球にて新たな夜明けへ向けた試みが始まっている頃、天の川銀河の反対側に位置する惑星アードにあるドルワの里は朝日に照らされて、新しい一日が始まろうとしていた。
里の中心から少し離れた大木の樹上に、大きなツリーハウスがある。ティナが産まれ育った家であり、彼女が地球へ旅立っている今も両親と妹が暮らしている。
その寝室にて、母であるティアンナが夜明けを感じて目を覚まし、ゆっくりと身体を起こした。その過程で彼女は自身が一糸纏わぬ姿であることに気付き、そして隣にはまるで干からびたミイラのようになってしまった夫ティドルが虫の息で眠っていた。
「はぁ……やっちゃった」
昨晩のことを思い出して、深々と溜め息を吐いた。
昨日はいつも帰りが遅いティドルが普段より早く帰宅したため、地球から持ち帰った冷凍食品(西村冷凍食品株式会社製)を使って簡単な日本食を再現し、三人で食べたのだ。
ティルもお腹いっぱい食べて満足したのか早目に眠り、ティドル、ティアンナ夫妻も地球の料理に舌鼓を打った。
だが、地球の食物はアード人女性の生存本能を強く刺激する作用を持つ。これに関しては現在も研究が進められているが、ティアンナはそれを承知で食べた。
些か落ち着きがない長女は不在、好奇心旺盛な次女は眠ったら中々起きない。特に用事もないし、たまには夫婦のコミュニケーションも悪くない。そう考えたのだ。
とは言え毎度毎度夫に負担を掛けたくないので、いざ事へ及ぶ前に特製の栄養ドリンクを飲ませたのだが。
「私が底無しなのか、食べ物の作用が強すぎるのか……要研究ね」
そのままベッドから降りて、二対の翼を目一杯広げ、両腕を真上に伸ばして伸びをする。その際に豊満な果実が強調されるが、見るべき夫は仮死状態なので残念ながら見る者は居ない。
節々を充分に伸ばした後、朝から水浴びは面倒だと感じた彼女は右手を少し振る。すると浄化魔法が発動し、身を清めてアードの衣服と白衣を纏う普段の姿に早変わりした。
ふと、部屋に置かれたシンプルな作りながら気品のある鏡(椎崎首相が友邦の証として贈ったもの)を見る。
腰まで伸びる自慢の髪が、アード人の基本である煌めく金から、姉や愛娘と同じ白銀に変わっていることに気付いた。
「えっ……はぁ!?」
慌てて鏡のもとへ駆け寄り、何度も自身の髪の色を確認する。だが、どれだけ確認しても白銀色であることに間違いはない。
事態を正しく認識したティアンナは、直ぐに転移魔法を展開して姿を消す。行き先は、当然ながら姉であるセレスティナ女王の下である。
ケレステス島の中心にあるハロン神殿。アードでは珍しい荘厳な石造りの巨大な神殿の最奥にあるセレスティナ女王のプライベートエリア。近衛兵を含めてごく僅かな者しか立ち入りを許されぬアード最大の聖域。その寝室にて、女王セレスティナは静かに夢を見ていた。
寝室内も質素なものであり、用意されたベッドも極めてシンプルな作りである。贅を凝らした物を好まない女王の意向を反映したものであるが、当然ながら使われている素材は全てアード最高峰のものである。
そのベッドは柔らかく弾力性があり、翼を下にしても、つまり仰向けに眠っても全く翼が痛まないものである。
まあ、これに関してはアードの寝具全般に言える特性であるが、彼女が使うものは肌触りにもとことん拘った逸品であるのは言うまでもない。
本来女王は、朝日が顔を出す前に目を覚ますのが習慣である。
しかし昨日は星系全体を覆い隠している大規模隠蔽魔法の定期的なメンテナンスと綻びの修繕のため膨大なマナを消費しており、セレスティナも流石に疲れを感じて長めに休むことにしたのだ。
安らぎの時間を堪能し、日頃の憂鬱な気分を忘れさせてくれる幸せな夢を見ていたが。
「姉様!姉様!起きて!ねえってば!」
直接転移してきた最愛の妹によって、その安らぎの時間は終わりを迎えた。突然の事ではあるが、事前連絡無しで直接寝室へ転移してくるなど前例がない。ただならぬ様子を察して直ぐに身体を起こし、自身に魔法を掛けて意識の覚醒を促した。
余談だが、セレスティナは寝る時はいわゆる全裸派でありそのアード人最高峰の裸体を存分に晒すことになったが、この場には妹しか居ないので問題にならなかった。
「そんなに慌ててどうしたのですか?私の可愛いティアンナ。落ち着いて」
優しく微笑みながら声をかけて、室内の照明を点灯させる。そして妹の姿をはっきりと確認して、目を見開く。
「姉様!どうしよう、髪の色が姉様達と同じになってしまったわ!」
妹の髪が自分やティナと同じ白銀色となっているのを目の当たりにして、彼女が慌てている理由も理解できた。セレスティナは落ち着くように深く息を吐く。
「あの娘の封印の一部が解かれた、ということでしょう」
「どうして急に!?だって、姉様の未来視だとまだ二百年は猶予があった筈よ!?」
「落ち着いてください、ティアンナ。そもそもティナの誕生を私は予見できなかった。その後もあの娘は幾度と無く私の未来視に無い結果を歩んできました」
「あの娘の運命を、姉様でも把握できないってこと!?」
「残念ながら、ティナは生まれそのものがイレギュラーと呼べる存在です。私達では予測も出来ないような運命を辿ることになります。
それに……おそらく外部からもあの娘の封印を解こうとする者がいる筈」
「フェルは気付いているけど、そんなことはしないわ!里長だって!それなら、あのティナが助けたノーム人が!?」
「それもまた運命なのです。あの娘の辿る道を見通すことは難しいのですが、あの娘を取り巻く娘達の運命を見通すことは出来ます。いずれ会うことになるノームの少女は、より良い未来のために重要な意味を持ちます」
姉の言葉を聞いて、ティアンナはベッドに腰かける姉へすがるように抱き付いた。
「あの娘に平穏はないの?封印が、枷が全部外れてしまったらもう、あの娘の正体を隠せなくなるのよ!?」
「ティアンナ……」
「あの娘には、自由に過ごしてもらいたかった。だから強すぎるマナを封印して、里長に……ティリス提督に手を回してもらって、必死に隠してきたのに!」
ティアンナはティナの膨大なマナを封じるために、自らの保有するマナを使用して枷としたのだ。
だが枷の一部が解かれた結果マナが戻り、結果膨大なマナを持つことを意味する白銀の髪へ戻ってしまった。
長きに渡るセレスティナ女王の治世、そこに後継者となる娘が現れればどうなるか。少なくともティナの自由はその瞬間無くなる。
「ティアンナ……これもより良い未来のためです。大丈夫、あの娘は強い。私達よりずっと……」
涙を流す妹を優しく抱き締めながら、セレスティナ女王はままならぬ世の流れに溜め息を漏らした。