星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
女王姉妹が愛娘へ振り掛かる未来へ想いを馳せている頃、度重なる失敗と釘を刺されたことで大人しくしていたミドリムシ達が、再び蠢き始めた。
そして今回は偶然に偶然が重なり、セレスティナ女王によって事前に察知されることが無かった。
理由としては、セレスティナ女王の消耗である。本来隠蔽結界のメンテナンスは定期的に行われるもので、そこまでマナを消費する作業ではない。
しかし今回はティナ達がこれまでセンチネルと遭遇して奴等の新しいデータを持ち帰ったこと、そしてその中にはセンチネルが隠蔽魔法を探知するように進化しつつあることが判明したため、大規模な隠蔽結界の改良が必要となったのだ。
またメンテナンスの最中補修が必要な場所が複数か所発見されたこともあり、セレスティナ女王はいつもとは比べ物にならない程のマナを消費して疲れ果てて一日休養したのだ。
その日だけは、常に彼女が惑星アード全域に張り巡らせている探知魔法を維持出来なかった。
当然ながらリーフ人はそんなことを知る術は無いのだが、ミドリムシ達の密談も偶然その日に行われたのだ。
リーフの里にある地下会議室。族長であるフリーストや彼の一派、または過激派が密談を行う際に使う部屋である。隠蔽魔法を展開しているが、普段はそれを上回る探知魔法でセレスティナ女王には筒抜けなのだが、この日だけは上記の理由で内容が知られることはなかった。
「あの異端を一刻も早く始末せねば、我々の立場が危うい」
「まさか末娘が生き延びて、女王の孫娘を産んでいたとは」
「首尾よくセンチネルに襲撃されて末娘や近衛の生き残りも全滅した。それは良かったのだが」
「あのアードの小娘が助け出した」
「余計なことを」
忌々しげに語るのは、老境を迎えた五人のリーフ人である。彼等はフェルシア女王治世の時代に元老院に属しており、フリースト等を引き込んで一連の陰謀を企てた者達の一部だ。
彼等の計画はリーフ会戦によって為し遂げられて一族の実権を握ったが、ティナがフェラルーシアを助け出して連れ帰ったことで大いに危機感を抱いている。
「しかし、あの異端相手に手出しをすることは許さぬとアードの女王が明言したのであろう?」
「ふん、内政干渉だ。大局を見ることも出来ぬ愚物を女王に頂くなど、アード人に同情する」
「全くだ」
アード人が聞けば問答無用で処刑されるであろう事を平然と口にする。
「だがどうする?表立って事を起こすのはリスクが高すぎる。女王暗殺の大義を遂行するために立ち上がった三賢者も戻らぬままだ」
「それについてだが、先の御前会議で面白い話を聞けた」
「なんだ?」
「あの小娘、いや大使殿か。奴が次に帰還する際地球人の幼体を連れてくるとの事だ」
「ああ、未だに同族で殺し合うような、野蛮で未開な下等生物か」
「何の利があるか、理解不能だな」
「それは良いのだ。重要なのは、この下等生物の幼体に何かあれば大使殿のメンツは丸潰れ。その立場を大きく失墜することになるだろう。いや、それどころか外交問題に出来る」
ここまで話して、彼等は一様に邪悪な笑みを浮かべる。
「あの異端を庇う最大の後ろ楯は大使殿だ。外交関係にまで発展すれば、女王も失望しよう。アードの社会でそれは死を意味する」
「これまでの交流を台無しにするのだからな。しかも女王が交流を公認している以上、失敗は女王の顔に泥を塗ることになる。大使殿は即日処刑されるであろうな」
「あの小娘さえ居なければ、こちらのものだ。あとはゆっくりとあの異端を始末すれば良い」
ミドリムシ達は、ティナ達の頑張りを躊躇無く陰謀として利用することを企む。
まあ、例え何があろうとティナが処刑されることは無く女王が失望することもないのだが。
「我々は新しい夜明けを迎えたのだ。旧態依然とした遺物は全て取り除かねば後世に禍根を遺す。これは一族の更なる躍進のために必要な崇高なる行いである」
「具体的にどうするのだ?」
「何人かに声をかけた。大使殿の不手際に見せかけて下等生物の幼体を始末することは容易い」
陰謀を企みながらも自分達の手は汚さない。リーフ会戦の頃からミドリムシの常套手段である。だからこそティリスが嫌悪するのだが。
「フリーストには?」
「もちろん声を掛けた。奴は以前開かれた御前会議から腑抜けている。今回も賛否を表明しなかったな」
「つまり、静観か。奴には最近鋭さが無いな」
「仕方あるまい、まだ若いのだ。その分我々年寄りが見本を見せて導いていかねばならん」
フリーストが慎重になったのは、セレスティナ女王の姿を見てしまいティナとの関係を危惧したからである。そして彼は、それを自分の後ろ楯である老人達に敢えて伝えていない。
彼にとっても、なにかと口を挟む老人達は邪魔なのだ。だからこそ静観して暴走させ、アード人に始末させようと目論む。結局同じ穴の狢なのだ。
「では、我々は勇士達が少しでも仕事をし易くするために動くか」
「事がなったらどうする?」
「勇士達は殉教者としてその魂を一族のために捧げる。当然ではないか」
「我らが関与していると疑われまいな?」
「少々迂遠な手を使っている。尋問で口を割らぬように仕込みもしてある」
「一族のために死ねるのだ。彼等も本望であろう」
彼等は邪悪な笑みを更に深めた。
「懸念事項があるとするならば、大使殿の側に居るティリス提督だな」
「忌々しいものだ。リーフ会戦で英雄としての死に場所を与えてやったのに、まだのうのうと生きているのだからな」
「全く、恩を仇で返されるとはこの事だな」
ティリスが聞けば直ぐ様跡形もなく吹き飛ばすような発言を繰り返し、嘲笑する。
「まあ良い、奴については追々考えることにしよう。下等生物の幼体を始末することが先決であるし、マナも持たぬ生物を始末するなど容易いからな」
「さて、長居は無用だ。今後は他言してはならぬぞ」
「分かっている。全ては我が一族の栄光と繁栄のために」
「我々ほどの働き者は存在しないだろうな。全く、苦労が絶えんよ」
「それももう少しだ。では、朗報を静かに待とうではないか」
老人達は人目を避けて解散する。ティナ達は帰還と同時にアードを舞台とした陰謀の渦へ飛び込むこととなる。だが、それもまた彼女に課された試練なのかもしれない。