星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
私達はオセアニア共同体のシドニーで動物園の見学とオペラハウスでオーケストラを鑑賞して、フェルがお礼として歌を披露してくれた。いつ聞いても不思議な歌で、内容は分からないけど疲れが取れるんだよね。
ただ、私がオーストラリアへ来た理由は朝霧さん達と会うためでもあったし、時間も夕方だったから少し休みたいと申し出てみた。すると首相さんは私のお願いを聞いてくれて、私達はそのまま政府が用意してくれたホテルへ向かった。
到着したのは滅茶苦茶高そうな高級ホテルで、周りの警備も凄いことになってる。だって装甲車はもちろん、戦車まであるんだよ。個人的にはあんまり好きじゃないけど、こればっかりは仕方ない。
誰だってパリの一件を起こしたくないし、私も気を付けないと。私が怪我したら色んな意味で大変なことになるのは身を以て体験したしね。
ホテルの最上階にあるスウィートルームへ案内された私達は、そこで、ようやく気を抜くことが出来た。
「ああー……疲れたぁ」
「お疲れ様でした、ティナ」
ふかふかのベッドへお行儀悪く飛び込んだ。フェルは近くの椅子に座って早くもサンダルを脱いでる。床にもふかふかの絨毯が敷かれてるから別に良いけどさ。
「やっぱり慣れないことをするのは疲れるなぁ」
「勝手が違いますからね」
ハリソンさんや美月さんなら何度も会って交流してるから気軽だけど、新しい国へ来て首脳陣の皆さんと会うのは緊張する。それはあちらもそうなんだろうけどさ。
「けれど、良かったんですか?お昼のお誘いを断っちゃいましたし」
「流石に疲れちゃったからなぁ」
首相さん達からは昼食のお誘いがあったんだけど、会食になると肩が凝るし断らせてもらった。外交的には無礼なことになるんだろうけど、ばっちゃんに確認したら問題ないと言われたので甘えることにした。首相さんは残念そうにしていたけど、理解してくれたから有り難かった。
それからしばらくふかふかのベッドを堪能しつつフェルとお喋りをしていたら、ブレスレット型の端末が着信を知らせてくれた。
『ティナ、マスター朝霧から着信があります。接続しますか?』
「うん、お願い」
ちなみに朝霧さんにもアードの通信端末を渡してる。もちろん悪用されないように、朝霧さんにしか使えないようにしてるし、盗まれた瞬間消滅するように仕込んである。悪い人に使われたら大変だからね。
回線を繋げると、ブレスレットの上に小さな朝霧さんの立体映像が浮かび上がる。
「こんばんは、朝霧さん」
『お久しぶりです、ティナさん。まさかオセアニア共同体へ来訪されるとは思いませんでした』
「朝霧さん達に会うためですけど、折角だからお邪魔しました」
私は前世の感覚でオーストラリアって呼んでるけど、実際にはオセアニア共同体オーストラリア大陸が正式名称らしい。ちょっとややこしいけど、前世であったEUをより発展させたような枠組みだ。
『ええ、椎崎総理からお話は伺っています。わざわざ会いに来て下さるなんて、恐縮ですよ』
「やっぱり直接お礼を言いたくて。今から会えませんか?」
朝霧さん達の予定を見るに、日本へ戻るのはまだまだ先だ。その予定日より早く私達もアードへ戻ることになるからなぁ。
『ティナさん達は今シドニーでしたね。残念ながら私は旧首都であるキャンベラに居るんです。こちらで現地大使達との会合があるので、本日は遅くなってしまいます』
まあ、朝霧さんのお仕事を邪魔しちゃ悪いよね。
「それなら明日はどうですか?」
『そう仰ると思って、明日の昼を空けておきましたよ』
「流石は朝霧さん。じゃあ明日、お昼を一緒に食べませんか?」
朝霧さんとは異星人対策室で何度も一緒に食べてるし、気楽だね。
『分かりました。場所はこちらで手配しておきましょう。ただ、本当に息子も同席させて良いのですか?』
「もちろんですよ。妹を命がけで護ってくれたヒーローに会わせてください」
『分かりました。ではまた明日ご連絡します。オセアニア政府には大使館を通じて連絡しておきますので、ご安心を』
「はーい、また明日です!」
「お話は纏まりましたか?ティナ」
私が通信を切ると、いつの間にか私が寝っ転がってるベッドにフェルが座っていた。
「うん、明日会うことになったよ。まあ、助かったかな?」
「そうですね、私達にも予定が出来ちゃいましたから」
実は朝霧さんと連絡する前に、オセアニア政府から有力者の一人と会ってほしいって要望が届いたんだよね。
あんまり得意じゃないけど、会食のお誘いを断っちゃってるし、流石に我が儘過ぎるのも悪い。まあ一人ならって了承したんだよね。
で、夜になって有力者さんと会うために私達はホテルにある植物園にやって来た。いや、屋内に森があるんだけど。流石は最高級ホテルだね。
フェルとのんびり通路を歩きながら地球の自然を満喫していると。
「ティナ、昼間に見たコアラが此処にも居ますよ」
「え?まさか放し飼いかな?お金掛けてるなぁ……やっぱり高級ホテルは……うん?」
フェルが指差した先には、ヤシの木に張り付いているコアラが居たんだけど……何だか大きいな……いや違う!あれは!
「コアラじゃないよ!地球人だよ!?」
ティナが衝撃を受けた瞬間、全身コアラのコスプレ(無駄にリアル)をしたバラス=ニシムラはヤシの木から飛び上がる。空中で回転しつつ、無駄に芸術的な曲芸を披露して彼女達の前に着地する。
まるで怪異を見るようなティナの視線に内心大きなエクスタシーを感じつつ、彼はあくまでも紳士的に深々と一礼。
その際頭部の見事なパイナップルヘアとリアル路線なのに何故か可愛らしい耳飾りを揺らし、ティナの表情は宇宙猫へ至り。
「僭越ながら、宇宙の旅人達にご挨拶申し上げる。ようこそ、我が祖国、我が楽園へ。
私はバラス=ニシムラ。我が祖国隆盛を支えるべく奔走する凡夫の一人である。
此度は政府首脳陣に在籍する友人に無理を言って、このような場を整えていただいた。
先ずは、快諾していただけたことに心からの感謝を捧げたい。
星海の旅人よ、親愛なる友よ。我が祖国はあなた方の来訪を心より祝福する。いや、こう表現すべきであろうか。マイスターと!」
膝をつき、まるで中世の騎士のように礼を尽くしながらユーカリを食べる中年のオセアニア系の巨漢を前にして、フェラルーシアは後に語る。
「彼処までドン引きしたティナは初めて見ました」
と。