星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
オセアニア滞在二日目の朝、心地が良い朝日を感じて私はゆっくりと目を開けた。温かい感覚があるから視線を動かしてみれば、隣でフェルが私を抱きしめながら穏やかに眠っていた。ベッドは二人分用意されていたけど、二人きりの時は一緒に眠るのが私達の暗黙の了解なんだよね。
これは助けた当初毎晩のように悪夢にうなされていたフェルを少しでも助けたくて始めた習慣なんだけど、それは今も変わらない。
フェルは今もたまに悪夢を見るみたいだ。本人は隠してるけど、調子が悪そうな日があるからね。そんな時は、朝起きてきた時にちょっと暗い表情をしているから直ぐに分かる。
でも、無理はない。家族や仲間を全て失って一年も経たないんだ。それで平気そうに立ち直れる人は……まあ居るんだろうけど、フェルは色々チートなだけの普通の女の子だから。
さて、思い出したくもないけど昨日なにがあったかと言えば簡単だ。オセアニア政府の紹介で、色々と多様性に富んだ個性的なバラス=ニシムラさんと会った。
この地域の有力者みたいで顔は渋くてダンディなおじさまだ。中身が中途半端な私でもドキドキしてしまうくらいだから、純粋な女の子ならコロッといっちゃいそうなくらいの色気があった。
でもそんな人がやけにリアルなコアラの格好をしていて、ユーカリの葉っぱをむしゃむしゃ食べてたんだ。
ジャッキーさんである程度慣れてた私でも唖然としていたら、膝を突いて私の右手をとって甲にキスなんかされたから思わず悲鳴をあげてしまったんだよね。
で、警備の人達が駆け付けて色々誤解があってバラスさんはそのまま連行されちゃったんだよね。
いや、考えないようにしよう。
「ん……おはようございます、ティナ」
「おはよー、フェル」
ちょっと考え事をしていたらフェルが目を覚ましたみたいだ。
それから二人でちょっとお喋りをして身支度を整えて部屋を出た。午前中はシドニーの街並みを政府の皆さんと一緒に見て回った。
流石に皆さん忙しいだろうから、途中で外交官さん達に代わったけどさ。
私達を乗せた車は大通りを走るから、大通りにはたくさんの人達が集まっていた。個人的には直接皆さんと交流したいけど、車から降りるわけにはいかないし車内から手を振るだけだ。
何事もなく……って!
「危ない!」
途中でビルの外壁工事?をしている人が足場から落下して、命綱だけで宙吊りになる瞬間が見えた私は、車のドアを開けて飛び出した。
運転手さんや周りの皆さんのビックリした顔が見えて申し訳なく思うけど、命には代えられない!
目一杯翼を広げて、力一杯羽ばたかせて加速。
「大丈夫ですか!?直ぐに助けますね!」
「うわっ!?噂の宇宙人のお嬢ちゃん!?」
作業員のおじさんもビックリしていた。あっ、ちょっと血が出てる。
「ティナ!」
「フェル!手伝って!」
「分かりました!」
追い付いたフェルと一緒にゆっくりとおじさんを地上へ下ろしていく。ただ、頭から血が流れてるのが気になる。落ちる時に打ったんだろうね。
「癒しの光よ、彼の生命に再び息吹を……」
私はまた失敗した。怪我が気になって、咄嗟に治癒魔法を使ってしまったんだ。飛んでる最中にマナ欠乏症になったら洒落にならないって直ぐに思い至って青ざめたんだけど……あれ?
「温かい……痛みが消えていくよ。ありがとう、お嬢ちゃん!」
「ティナ?」
「いや、なんでもない。無事で良かったです」
そのまま作業員のおじさんを地上へ降ろしたら、集まった大勢の人達から大歓声で迎えられた。いや、何度経験しても慣れないね。
「一応治癒魔法を使いましたが、なにがあるか分かりません。直ぐに病院へ連れて行ってあげてください」
「お任せを。国民を救ってくれてありがとうございます!」
おじさんは何度も感謝の言葉を掛けてくれて、政府の方が手配してくれた救急車で搬送された。
ただ、人がたくさん集まったから何かあるといけないって事で市内の視察は途中までで中止になった。私が魔法を使ったことをフェルが心配したのもあって、そのままホテルへ戻った。
「大丈夫ですか?ティナ。飛んでいる最中に魔法を使うなんて、ビックリしましたよ」
「ごめんね、フェル。おじさんの怪我が痛々しかったから、つい……」
……いや、確かに魔法を使ったよね?私。それなりの怪我を治癒したはずなんだけど、いつも起きる貧血みたいな症状が現れない。
「アリア」
『簡易バイタルチェック……ティナのバイタルに異常はありません』
魔法を使ったのに?実は見た目よりも小さな怪我でマナの消費が少なかった?
……いやでも、擦り傷を治癒したくらいで立ち眩みがする私が?
……まあいっか、別に困ることじゃないし。あのままマナ欠乏症になってたら二次災害どころの騒ぎじゃなかった。フェルが一緒に居たから何事も無かったんだろうな。うん、そう考えることにしよう。
そしてお昼前。
「お久しぶりです、ティナさんフェルさん」
「こんにちは、朝霧さん」
「ご無沙汰しています、朝霧さん」
私達が滞在してるホテルへ朝霧さんがやって来たから、ホテルの方にお願いしてお部屋を用意して貰いそこで会うことにした。私達の部屋へ招いても良いんだけど、変な噂が立ったら大変だからね。
「朝霧さん……先日は妹がお世話になりました。ティルを助けてくれて、本当にありがとうございます」
挨拶を済ませたら、私は感謝の言葉と一緒に深々と頭を下げた。横を見たらフェルも一緒に頭を下げてる。
「頭を上げてください!私は当然の事をしただけですよ」
朝霧さんはちょっと慌てたけど、直ぐに笑顔を浮かべてくれた。うん、やっぱりいい人だ。そして。
「さあ、誠」
朝霧さんに促されて、小さな男の子が前に出てきた。十歳くらいだって聞いてるから、小学校中学年くらいかな?可愛らしさもあるけど、お父さんに似て良い顔立ちをしてる。将来はイケメン確定だね。
誠くんの前に立って、屈んで視線を合わせる。怖がらせないように笑顔を忘れずに!
「君がマコくんかな?」
「あっ、はい!朝霧 誠です!ティルちゃんの……お姉さん、ですよね?」
「そうだよ。妹を命がけで助けてくれて、本当にありがとう。その後もたくさん遊んでくれたんだよね?」
「あっ……はい。色々と遊んでもらいました」
ちょっと疲れた顔をしたよ。いやまあ、分かるよ。ティルに振り回されて大変だったんだろうなぁって。
「ありがとう。これからもティルと仲良くしてくれるかな?」
「もちろんです!」
あっ、ちょっと赤くなった。可愛い。
ティナに自覚はないが、誠少年からすれば今現在世界で一番有名な人物が目の前に居るのだ。緊張するのは当たり前である。閑話休題。
「朝霧さん、実はこちらを見せたくて」
私がマコくんとお話ししてると、フェルがお母さんのメッセージを朝霧さんに見せた。あっ、胃が痛そうな顔になった。私悪くないよね?