星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
ノーム人のクレアです。ようやく私自身の学習とアリアと呼ばれるAIのお陰で、私はティナさん達と問題なく会話が出来るようになりました。
もちろん完全な翻訳にはまだ少し時間が掛かります。時折分からない言葉が出てきます。これはその言葉や言い回しに該当するノーム語をまだ完全に把握できていないからです。
ただ、この問題も積極的に会話を繰り返すことで解決していくので気にしないことにします。
アード語とリーフ語の大半を読めるようになったので、少しでも彼女達と距離を縮めるため時間があればアード、リーフの文化や歴史などを勉強することにしました。幸いティナさん達も私の意図を察して、アーカイブを自由に観覧できるようにしてくれました。
地球については後回しにします。先ずはこれからお世話になるアード、リーフの事を知らなければいけません。
そして数日が経過しまし、それなりに知識を得られたのですが、アード、リーフの歴史について少し気になる点がありました。
例えばリーフについては、先代女王以前の記録がないんです。混乱によって失われたと記述がありますが、口伝等もあるはずなので完全に失われたとは思えないのですが。何らかの事情があるのでしょうね。
そしてそれはアードについてもです。リーフに比べて失われたような記述はありませんが、何となく違和感を感じました。
今はセレスティナ女王陛下の時代ですが、具体的には女王の治世が始まる二千年以前の記録が曖昧なのです。露骨に隠されているわけでは無さそうですが、第三者に当たる私には意図的にボカされているように思えます。まるで治世が始まった際に文明そのものがリセットされたような……いや、考えすぎですね。
文化についても非常に興味深いものがあります。どちらの種族も自然と深く共存した文明や文化があり、アード人の家屋は基本的に大木を利用して作られたツリーハウスで樹上生活をしているみたいですね。
惑星アードは海洋惑星で陸地が少なく、人工的に空へ浮かばせた浮き島にそれぞれの集落を形成し、それぞれの集落は政府であるアード永久管理機構が任命した里長が管理している社会形態です。
どの里にも石造りの集会場が設置されて、合議制による政治体制が形成されています。意見の対立や腐敗を生みそうなシステムですが、ノーム人の私から見ても異常なアード人の善性な気質が、問題を引き起こさない要因となっています。
食事形態は基本的に無料で支給される栄養スティックですね。私も口にしましたが、あの無味無臭な食べ物は拷問か何かと疑ったくらいです。私達ノーム人は辛いものや濃い味付けを好みますからね。酒精があるなら尚良しです。
そう言えばしばらく飲んでいないな。アードやリーフには、お酒を飲む文化は無さそうなので残念です。
地球には多種多様なお酒があるみたいですし、今度ティナさんにお願いしてみようかな。
対してリーフ人については、その社会構造や文化に謎が多いです。アリアの助言だと、基本的にリーフ人は自分達に割り当てられた里からあまり出てこないのだとか。フェルさん達は社交的ですし、排他的な種族には見えないのですが、なにか事情があるのかもしれませんね。
家屋についてはツリーハウスだったり随分と可愛らしい巨大な花を利用したフラワーハウスだったりと、アード人以上に自然と共生した生活を送っているみたいですね。
両者の服装についてですが、やはりノームと同じくティナさん達の服装は種族として一般的な民族衣装でした。ノーム人としては、あんな薄着考えられません。
まあ、アード人もリーフ人も大地を歩く必要がないから軽い草を編んだサンダルを履いているのでしょう。
鉱山仕事を生業としていた私達ノーム人とは対極の発想ですね。この点だけは理解できそうにありません。
文化についてはまだ調べるとして、セレスティナ女王治世下のアードの歴史を振り返ることにしましょう。
……後に私は、この時の好奇心を後悔することになります。知らなければいけないことですが、少なくとも軽い気持ちで調べることではありませんでした。
ティナ達が地球へ降りたその日の夜、銀河一美少女ティリスちゃん号のアーカイブ室。狭く薄暗い室内には、備え付けられている端末から漏れる灯りに照らされたノーム人の少女が静かに涙を流す。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさいっ!!」
端末にはアードとリーフがセンチネルとの遭遇、その後百年に渡る戦い記録が映し出されていた。そこには、アードとリーフがセンチネルとの生存戦争で受けた夥しい被害の実態が克明に記されていた。
それは目を覆うような惨状であり、星間文明として栄えたアード人の人的被害は数百億を軽く超えて、リーフ人も故郷である母星を死の星に変えられてしまったのだ。
自分が背負った途方もない重荷を改めて自覚させられて、クレアは凄まじい罪悪感と共に涙を流す他無かった。同時に彼女の胸中に現れた感情は、恐怖である。
センチネルを止めることが一族の悲願であることは言うまでもないが、それは同時に自分がこの惨劇を引き起こした男の、唯一の末裔であることが露見するのだ。
まだ短い期間とは言えティナ達と過ごして、親身に接してくれる彼女達の優しさに深い感謝と親愛を抱いていた。
しかし、真実を知った彼女達が自分へ向けるであろう蔑み軽蔑する視線や憎悪を想像してしまい、涙を流しながら震えることしか出来なかった。
無論ティナ達は彼女自身に罪はないと断言するだろう。いや、アード人ならば受け入れて手を貸すだろう。その善性が、彼女がやったわけではないと理解を示すからだ。一部のミドリムシについては不透明であるが。
だがしかし、まだまだ短い期間しか付き合いの無い彼女にはそこまで分からない。なにより、彼女自身も全てを失って一月も経たないのだ。
寝る間も惜しんでアード語の習得に打ち込んだのは、親しくしたいとの想いと全てを失った哀しみから少しでも目を背けるためであったのだ。
心身共に衰弱しきって、ようやく少しずつ立ち直ろうとしたしていた矢先に突き付けられた一族の罪、背負わされた業に押し潰されそうになるのも無理はない。少なくとも今のクレアにそこまでの余裕はない。
結果この出来事によって、クレアがセンチネルの真実を口にするのは先送りとなった。
彼女はこれからしばらく凄まじい罪悪感を抱えながら、必死に抑え込んでティナ達と過ごすこととなる。
だが、果たしてこの決断を責めることが出来るだろうか。責任の放棄と糾弾するのは容易いが、全てを失い衰弱しきった少女が向き合うには余りにも重すぎる重荷。そしてティナ達に嫌われたくないという感情を、誰が責められようか。
彼女もまた、救いを求めている一人の少女なのだから。