星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
「ティアンナ女史からのメッセージ、ですか」
ティナが誠と触れ合ってる様子を優しげに見つめていた朝霧は、フェルが見せたメッセージの内容に目を通して、胃がキリキリと軋むのを感じた。端的に言えば、朝霧一家への招待状とついでに新たに編成されるだろう使節団の催促である。
外交使節団派遣へ向けて各国で調整が進められており、その一環で日本国外交官であり異星人交流の最前線である異星人対策室のメンバーでもある朝霧も、各国を飛び回っているのだ。
国内に不穏な動きもあって、有名になってしまった息子を護るためでもあった。他国の外交官が自国内で事件等に巻き込まれては、外交問題へ発展する。
故に外交官には基本的に手厚い警備が付けられるので、日本に居るより安全な面があるのだ。
その最中に、まさかの自分達への招待状である。これが表面化すれば、日本の立場上些か厄介なことになるのは明白であった。
だが、断るという選択肢は朝霧の中に最初から存在しない。実は異星人対策室長のジョン=ケラーより内々で密かに助言が為されていたのだ。
内容は、ティナの母であるティアンナの要望などは余程の事が無い限り断らないようにとの助言だ。最初朝霧は大使であるティナの母親の心情を悪くすれば、交流に悪影響が出ることを心配しているのかと思った。
だがティナの人柄を考えた時、母親とは言え無茶な要望などを出しても地球側に理解を示す事は、容易に想像できた。
上記の理由から些か心配しすぎではないかと逆に問い掛けたが、ジョンは理由は言えないが深刻な問題が発生するとのみ応えた。
この時点で外交の世界に生きる朝霧は凄まじく嫌な予感がした。国家間の交渉でも、決して触れてはならないタブーがそれぞれの国に存在する。
この外交常識をアード相手にも当て嵌めた場合、アード最大のタブーは何かと考える。すると、極自然に答えへ辿り着く。
どうかこの予測が外れであってほしい!そう考えて真っ青になりつ一縷の望みを懸けてジョンへ視線を向けたら、彼は優しげな笑みを浮かべて最新の胃薬を朝霧に手渡して肩を優しく叩くのだった。
「頑張ろう」とのエールと共に。
「あっ、メッセージを読みましたか?お母さんが無茶なお願いをしてすみません。使節団については気にしなくて良いですから」
ティナは笑顔だったが、朝霧の背中には滝のように汗が流れた。外交使節団の派遣を早める必要は無くなったが、朝霧一家のアード訪問は確定したようなものだ。
「しかしティナさん、これは他国との兼ね合いもありますから」
朝霧は汗を流しながらすがるように問いかけた。そして彼が見たのは、まるで太陽のように明るく晴れやかで無垢な笑みを浮かべたティナであった。
「これは別に政治や外交のお話じゃありませんよ?ティルを助けてくれた人達にお礼をする。それだけなんですから」
繰り返すが外交官であり異星人対策室の重要なメンバーである朝霧と、ティルの騒動で一躍有名になった朝霧少年がアードへ行くのは特級の外交案件である。それに気付いていないのはティナだけだ。いや、この件に関してはアード人の常識に照らし合わせると外交案件にはならない。
善意を受けたならば善意で返す。性善説を大前提とするアード社会では、呼吸をするのと変わらないくらい当たり前の行為なのだから。
「わっ、分かりました。ただ、妻とも話をしなければいけませんからお時間をいただきたく」
「それはもちろんです。そうですね、三日後に旅館やすらぎへ迎えに行きます!」
此処で更に厄介なのは、ティナは断られると微塵も思っていない事である。これは前世の記憶とは違い、アード人の善性が前面に出た結果だ。
そして、諸々の準備期間が僅か三日に限定された瞬間でもある。
「分かりました、何とかしましょう。今日中に日本へ戻れるか直ぐに……あっ」
ここで朝霧は、息子を日本へ連れ帰る危険性に思い至った。だが同時に、アリア経由で朝霧親子の状況を正しく認識しているフェルが助け船を出した。
「ティナ、朝霧さんの準備が終わるまでマコ君を私達が預かるのはどうでしょうか?」
「それは良いね」
「そっ、それは!」
朝霧は慌てるが、それより先にティナが動いた。
「どうかな?マコくん。宇宙に興味はないかな?」
「宇宙!?」
ティナの提案に、普段大人びている誠が年相応に目を輝かせた。父の影響で宇宙に強い関心を持っているのだ。
息子の様子を見て、朝霧も考えを改める。少なくともほとぼりが冷めるまで息子を日本へ連れ帰るのはリスクがある。
そしてティナ達の母艦、つまり銀河一美少女ティリスちゃん号ほど安全な場所は地球に存在しない。
「……直ぐに準備を済ませます。申し訳ありませんが、その時まで息子をお願いしてもよろしいでしょうか?」
苦渋の決断ではあるが、ティナ達の人柄を承知している故に、フェルの提案を受け入れたのだ。
「もちろんです!マコくん、お父さん達の準備が終わるまで宇宙の母艦で待とう?おもてなしするよ!」
「えっと……良いの?」
誠は、不安げに父を見上げる。利発な少年は自分の置かれている立場を正しく認識しているのだ。でなければ、父が仕事で自分を連れ回るのはあり得ない。
「ああ、大丈夫だ。直ぐに母さんを連れてくるよ。それまで宇宙を堪能すると良い。ティナさん達に迷惑を掛けちゃダメだからな?」
不安げな息子に笑顔を浮かべて頭を優しく撫でた。急なことではあるが、少なくとも息子の安全が護られるなら他は些末事に過ぎないと割り切った。
いや、ティナ達を相手にする際はある程度の割り切りが大切なのをよく理解している故か。
「はい!あの、ティナさんフェルさん。お世話になります!」
元気良く頭を下げる誠を見て、ティナとフェルも笑みを浮かべる。
「うん、任されました!大丈夫、何も心配しなくて良いからね。フェル、準備には時間も掛かるだろうから朝霧さんを日本へ送ってくれるかな?それから、マコくんを母艦へ連れていってほしい」
「分かりました。ティナはどうしますか?」
「今日の夜まではここに居るよ。首相さん達にお礼を伝えないといけないし。何かあったら直ぐに連絡するから安心して」
「分かりました。気をつけてくださいね。じゃあ、朝霧さん。今から日本へお連れしますね」
「え?今から?待っ……!」
朝霧が何かを言い掛けたが、既にフェルが腕を掴んでいて、直ぐさま転移してしまう。引き継ぎその他が出来なかったのは言うまでもない。
朝霧の慌てた様子を見たティナは、不安げに誠を見た。
「これ、私悪くないよね?」
ティナの問い掛けに、誠は困ったような笑みを浮かべるのだった。