星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
日本国。おそらく地球上に存在するどの国家、地域よりもアードに対する関心が強く、また友好的な極東の島国である。これは八百万信仰の影響、元来の高い民度など様々な要因があるものの少なくともアード人、リーフ人にとっては他国より安全な場所である。
極めて限定的で極秘裏ではあるが厳戒態勢の下、月に移住したラーナ星系の生き残りによって構成される開拓団が、地球の物資を手に入れる際に利用されている国なのだから。
もちろん国民には機密であるし、来訪する場所も富士山麓に開設された地球外技術研究センターに限られているが。
さてそんな日本にも反アードを主張する個人や団体が、他国に比べれば極めて少数ではあるが存在する。これは主義主張の自由の範疇であり、日本政府も強く弾圧することはしなかった。むしろガス抜きとして、小規模なデモや集会程度ならば警戒態勢を敷きつつ黙認している。下手に弾圧すれば、より強い反発が起きることを理解しているのだ。
「先日合衆国で行われた大統領選は、世界中の注目を集めました。結果は親アードであるハリソン氏が二期目の再選を勝ち取りましたが、僅差による辛勝と言えるのが現実であります。
この結果は、異星人交流の最前線に立つ合衆国であっても、その姿勢について国内が二分されていることを証明する形となりました。
その後ハリソン大統領による就任演説で行われた地球統一連合設立構想は、人類皆兄弟であるとする我が党の理念に合致しており、党としてもその動向に注視しているところであります。
しかしながら、この提言が為された背景にアードの存在があるのは明白であります。
これはつまり、我々地球人の統合は自発的に行われたのではなく、外部勢力の意思が強く介在していることを示しています。
皆様、果たしてこれが健全な進歩と呼べるでしょうか?少なくとも我が党はこの件に強い疑念を抱いています。外部勢力の介在による人類の統合は言い方を変えれば侵略に他なりません。これは歴史が証明しています。
私は改めて統合案そのものに賛意を示すと共に、アードの介在を許さぬ地球人の自発的な自立と統合案を提言するものであります。
人類の健全なる進歩を護るために、我が党は今後も戦い続けることをここに宣言します」
野党勢力世界融和党による演説は、様々な波紋を呼んだ。アードによる介入は決して大袈裟ではなく、既に合衆国は地球統一連合準備委員会の非公式オブザーバーにアード人を据えることを密かに考えていたし、何より既に数回開かれた会合にティリスが参加して幾つか助言をしているのだ。決して妙な陰謀論の類いでは無い。
普通ならば少数野党の意見であり、黙殺することも難しくはない。
だが、最大野党である共栄党の少なくない数の議員が同調を示しているのだ。更に与党内部にもその動きが見られて、椎崎首相は頭を抱えた。
彼女としてはアード人気を背景とした圧倒的な支持率を背景に衆議院を解散し、今年行われる参議院選挙と合わせて民意を獲得し、地球統一連合参加を迅速に決めるつもりであったのだ。
しかし、世界融和党や最大野党である共栄党の動きに一部メディアが同調。これによって、世論の見通しが怪しくなったのだ。
もっとも、主要なインターネットの民意を覗いてみれば。
『地球連邦キターーーっっ!!』
『遂に宇宙世紀が始まるのか!?』
『俺、セレモニーでテロやって不思議な石碑を手に入れるんだ……』
『それだめだろwww』
『まあ冗談はさておき、地球の状態もヤバいからなぁ』
『それぞれの国で対処できるレベルじゃないしな。統一政体は必須だぞ』
『能天気な奴等だな。宇宙人共の侵略が遂に始まったって事に気付かねぇのか』
『アードが合衆国に指示したからに決まってるだろ。このままじゃ俺達は奴隷になっちまうぞ』
『融和党は俺達を護るために声を挙げたんだ』
『出たな、融和党信者!』
『じゃあ簡単な話だよ。アードに頼らないで、地球の抱えてる問題の解決策を教えてくれよ』
『だな、解決策があるなら無理にアードと仲良くする必要はないんだし』
『そんなのは、皆で手を取り合って対話を重ねながらだ』
『なるほどね。ちなみに俺達地球人はそれを千年以上やってるわけなんだが?』
『人類が滅ぶのが先だな』
『若い奴等は知らないだろうが、昔はガソリンだってリッター百円台だったんだぞ。今じゃ三百円台、しかも値上がり続きで四百円台になるのは目前なんだ。資源不足で物価もバカみたいに上がってるしな。冗談抜きで時間がないぞ』
『マジかよ、昔のガソリンそんなに安かったの!?』
『今じゃ車の旅なんざ金持ちしか出来ない道楽だよなぁ』
ネット上でも議論が加熱していく。
「融和党……余計なことをしてくれたわね」
「世論は加熱しておりますな。むしろ今の情勢下で衆議院解散を断行すれば、世論を敵に回す可能性もあります」
「総理、先ほど公正党より解散選挙については時期尚早ではないかと非公式に提言されましたが」
「日和ったわね、全く」
会議室には閣僚達が集まり、大勢の職員達が慌ただしく行き交い怒号が飛び交っていた。
最大野党である共栄党が融和党と歩調を合わせる動きが見られ、更に連立を組む与党である公正党が日和見に走ったのだ。
「総理、合衆国と同じようにティナさん達の手を借りては?」
「確かに私がお願いしたら、ティナちゃんは手を貸してくれるわ。でも、正直今の日本にあの娘達を近付けたくはない。下手をすればパリの再来よ。そんなことが起きたら最悪だわ」
ティルの騒動で国内に潜む某国の勢力に大打撃を与えられたが、それは同時に他の不穏な勢力の動きを活発化させるに至った。
現に各地で取り締まられないギリギリの規模による集会やデモが頻繁に発生しており、今はまだ警察沙汰に発展していないが、いつ暴発するか分からない情勢にあるのだ。
「とにかく事態の沈静化と、キャンペーンの強化で対処するしかないわ」
「ええ、その意味では宮内庁に感謝ですな」
「禁じ手ではあるけれど」
ティナが皇居にてやんごとなきお方とお会いしたニュースは、国内の親アード世論を強力に後押ししているのだ。決して悲観するような情勢ではない。
今後を見据えて更に具体的な指示を出そうとした瞬間、椎崎首相は何かを感じ取り立ち上がる。
「総理、どうされました?」
閣僚達が声をかけた瞬間、会議室の片隅に突然若草色の綺麗な魔法陣が現れる。そして。
「あっ、美月さん。こんにちは」
椎崎首相を見付けて笑顔で挨拶をするフェルと、色々慌てた様子の朝霧を見て胃が悲鳴をあげるのを確かに感じた。