星渡りの少女~TS転生したポンコツ美少女天使は故郷と地球の架け橋となる~ 作:イワシロ&マリモ
突如として最高のセキュリティが施された首相官邸の会議室に現れたフェルと朝霧を見て、閣僚や官僚達は固まってしまうが椎崎首相は慣れた様子で笑顔を浮かべた。
「久しぶりね、フェルちゃん。元気にしてた?」
「はい、お陰さまで。今はオセアニアと呼ばれる地域に居ますけど、朝霧さんを日本へ送り届けるようにティナからお願いされたのでお邪魔しました」
「あら、そうなの?わざわざありがとう」
傍目にはスーツを着た女子高生と妖精の少女が、笑顔でお喋りする神秘的な光景である。すぐ側に頭を抱えたブ◯リーが居ることで、ややカオスな空間になってしまっているが。
無理もない。引き継ぎや準備をする暇もなく連れ帰られたのだ。しかも旅館へ行くかと思えば、まさかの首相官邸である。本来窓際族だった朝霧にとって、この場所は途方もないプレッシャーを感じさせるのだ。
「でも、急にどうしたの?朝霧外交官はオセアニアで現地大使館のお仕事をしていた筈なんだけど。何かあった?」
フェルとしても、送り届けたからと直ぐに戻るのは不義理になると考えて、しかも相手は親しい椎崎首相であることもあって詳しく事情を説明した。
途中でティアンナのメッセージも開示して、閣僚達が青い顔をすることになったが、椎崎首相は笑顔のまま話を聞いていた。
「つまり、お礼として朝霧外交官の家族をアードへ招待したいって事ね?」
「はい。ティルちゃんを助けるために皆さんが頑張ってくれたことは、よく分かります。ティナとしては関わった皆さんにお礼をしたいみたいですけど」
フェルの言葉に何人かが青ざめたが。
「その気持ちだけで十分よ。分かったわ、朝霧外交官には帰還するまでの間休暇を与えましょう。また旅館やすらぎについては臨時休業として、その間の補填も政府が出しましょう」
「総理、流石にそれは!」
自分の休暇はまだしも、妻の営む旅館の休業費用まで受け持たれるとは思わず朝霧も声を上げるが。
「これは立派な外交案件よ。だから気にしないように。ただ、あなた達が同行することを他国に知られるわけにはいかない。相応の準備が必要になるけど……フェルちゃん、猶予は?」
「ティナは三日後に迎えに来るつもりですよ?」
「分かったわ。それまでに準備を済ませておきます。ティナちゃん達によろしくね?」
「はい。ではまた、美月さん」
再び握手を交わして、フェルは魔法陣と共に姿を消す。笑顔で見送った椎崎首相は、深々と溜め息を吐いた。
「総理……申し訳ありません」
「謝ることじゃないわ、朝霧さん。ティルちゃんをあなた達が助けた段階でこうなることは予想できたもの。ティアンナの性格を考えたなら、尚更ね」
既に椎崎首相はティル事件の後、この様な事態が発生する事を見越して臨時予算を準備させていたのだ。
その段階では用途不明であったので財務省も難色を示したが、総理は強権を用いて半ば強制的に予算を出させた。
もちろん中身はアード関連予算として、納税者である国民の理解を求めるのも忘れていない。
日本政府が一喜一憂している頃、我らが銀河一美少女ティリスちゃんは何をしていたのかと言えば。
「悪い人には~☆」
「「「お仕置きだーーっ!」」」
「銀河の果てから☆」
「「「こんにちはーーっ!」」」
「銀河の果てまで☆」
「「「ぶっ飛ばせーーっ!」」」
「銀河一美少女☆」
「「「ティリスちゃーーんっ!!!」」」
親衛隊の面々をバックダンサーとして、ノリノリでライブを放送していた。
「流石はティリス様、コメント欄はまるでカオスですな。視聴者の年齢層も非常に幅広い」
「あはっ☆地球人の性癖を開発しちゃったかな?☆ティリスちゃんうっかり☆」
「なんの、真理を悟った賢者が増えただけです。引き続き広報活動に尽力して参りますので、いつでも招集を掛けてください!」
「ん、ごくろーさま☆」
かつて某国の工作員だったティリスちゃん親衛隊は、日本政府に保護されて親アードキャンペーンの広報活動に従事。更にティリスが気紛れで開催するライブのバックダンサーとして人生を謳歌していた。
親衛隊と別れたティリスは数回の転移を行いつつある場所へ向かった。行き先はモスクワにあるクレムリン。合衆国に比肩する大国連邦の中枢部である。
その最奥にある大統領執務室で、連邦を率いるブレンチョフ大統領は一人で政務に励んでいた。そこへ。
「こんばんは、ティリスちゃんだよ☆」
「……そろそろ来る頃だと思っていた」
「あれれ?☆驚かないんだ?☆」
突如として現れたティリスを前にしても、ブレンチョフ大統領は動揺すること無く鷹のように鋭い目を向けた。
「色々と暗躍しているのは貴公だろう。最近の合衆国、日本、そしてブリテンの動きは明らかに連動している。裏に仲介している者が居ることは、この世界に身を置くものなら分かる」
「どうしてそれが私だと思うのかな?☆」
「先ず第一に、ティナ大使に政治的外交的なセンスは皆無だ。
次に彼女の側を離れないリーフ人の少女フェラルーシアには理性を感じるが、彼女は大使のためならば外交的、政治的な判断よりも実力行使で我々を黙らせる道を選ぶだろう。
次にリーフ人の姉妹だが、妹は幼すぎて技術開発や供与に夢中、姉の方は口より先に手が出るタイプだろう。
となれば、大使の妹を名乗る割に表へあまり出て来ない貴公が裏で動いていると判断しただけだ」
淡々と語るブレンチョフを見て、ティリスも笑みを深めた。
「ふぅん……流石は大きな地域を治めるだけはあるね☆イワン君は元気かな?☆」
「お陰さまで、毎日アードの布教活動に邁進しているよ。あの男は有能であり、特に情報戦のエキスパートだ。
我々がなにもしなくても、国内の親アード派が勢力を増している。実に有難い限りだ」
腹心を洗脳された件について皮肉で返せば、ティリスは愉快げに笑う。
「あははっ☆どういたしまして☆」
「それで、なにかご用かな?イワンのように操るか?」
「そんなことはしないよ。ハリソン君が提唱したアレをどう思う?」
「統一連合か?必要性そのものについては理解するが、我が国として易々と合衆国の下へ降るわけにもいかんのだ」
「面子?それとも中華への義理?」
「面子だ。中華に関しては、先日の攻撃に感謝する。イワンの件から手を切ることを決めていたが、あれが良い材料になった。国内の親中勢力については、既に処理を終えている」
「あははっ☆仕事が早いね。じゃあ、ブレンチョフ君にはしばらく中立の立場を貫いてほしいかな。連邦が動きを見せなかったら、それを勝手に解釈するアオムシが現れるだろうし」
「それを一網打尽にすると。我が国を餌にするとは、豪胆なことだ」
「だって私は銀河一美少女ティリスちゃんだからね☆
こんな小さな星でおままごとをするより、星の海へ飛び出すほうが何倍も楽しいよ。その時が来たら、手を借りるからね☆」
「断れば、膨れ上がった親アード派を扇動して私を引きずり降ろし、君達にとって都合が良い後任が据えられるのだろう?
私もそこまで愚かではない。安易な同調はしないが、最終的な協力はこの場で約束する。国を滅ぼされては堪らんからな」
「んふふっ☆君みたいな判断を下せる人は嫌いじゃないよ☆大丈夫、頑張ってくれる人にはちゃんと御褒美もあるし、悪いようにはしないって約束するよ☆」
斯くしてブレンチョフ大統領は、ティリスによって国内を掻き回される事態を避けるため、国益のために最終的な協力を約束することとなる。
以後、連邦は引き続き中立の立場を取りながら不気味な沈黙を続け、様々な憶測が流れるようになる。